【レポート】デジタルマーケターズサミット2022 Summer

なぜネット炎上が起こるのか? 原因とそのメカニズムを解説

インターネットとSNSの普及により、企業の炎上リスクが高まっている。その件数も増加傾向にあり、炎上件数が2年で1.5倍に増加した現状では、対策は必須だ。この記事では、最近のネット炎上の特徴や問題点を明らかにし、効果的な対応策や信頼を維持する方法を紹介する。さらに、炎上対策の専門家が最新動向とリスク防止のポイント、そして万一の時の対処法についても詳しく解説する。

SNSやネットに端を発する「炎上」は、今や日常茶飯事だ。ネット炎上対策などを手がけるシエンプレの桑江令(りょう)氏によれば、動画SNSの普及やコロナ禍によって、事情はより複雑化しているという。

デジタルマーケターズサミット 2022 Summer」に登壇した桑江氏は、「炎上リスクを最小限に抑えるにはどうするのか」「炎上した場合、どのように事態を落ち着かせればよいのか」を、炎上発生のメカニズムとともに解説した。

シエンプレ株式会社 WEBソリューション事業部 WEBコンサルタントシニアマネージャー桑江令氏

「炎上」は1日平均4.8件、求められるデジタルクライシス対策

炎上は、ここ数年の間に大きなターニングポイントを迎えた。2019年に多発した“バイトテロ”、そして2020年から今なお続くコロナ禍によるSNS利用時間の増加、増大するストレスによって事態が複雑化していると桑江氏。

SNSの浸透による弊害というべきか、SNSによって“不寛容社会の可視化”がなされてしまった(桑江氏)

シエンプレの調べによると、2019年は1,228件、2020年は1,415件、2021年は1,766件、1日平均4.8件のネット炎上が起きており、炎上件数は増加傾向にある。Webサイト運用やデジタルサービス運営において、企業と顧客間に一定のコミュニケーションリスクが存在するのは従来と変わらない。しかし炎上の増加ペースなどを鑑みれば、これはもうリスクを通り越してクライシスの域に達しているというのが桑江氏の主張だ。

2019年~2021年の炎上発生件数。炎上件数は増加傾向にある

炎上発生のメカニズム「消費者の情報発信状況」と「多角的な拡散の流れ」

「消費者の情報発信状況」の変化

では、なぜ近年ネット炎上が多発しているのか。理由の1つに挙げられるのが、消費者による情報発信スタイルの変化である。日本人の3人に1人は、SNSなどなんらかの技術を用いてネット上で情報を発信している。そして、やはり日本人の8割がスマートフォンを所有しており、情報の発信および取得が誰でも・いつでも・どこでも可能な状況が醸成されている。

「炎上に至るまでの多角的な拡散の流れ」の確立

そしてもう1つ、炎上がSNSやネットの世界だけに留まることなく、マスメディアなども含めて多角的に“拡散”するようになったことも大きい。起点となる、ソーシャルメディア上での問題投稿のそれ単体では、閲覧者数は数十人程度に過ぎない。しかし、「炎上の仕掛け人」によってこれがSNSで拡散されれば数千人、掲示板やまとめサイトで取り上げられると数万人規模の目に触れることになる。その上で、Webメディアで記事化されれば数十万人、ポータルサイトへの記事転載で100万人規模へと広がる。

さらに、炎上案件がテレビなどのマスメディアに取り上げられると、拡散範囲は1,000万人規模に達する。桑江氏は「いくらネット社会とはいえ、テレビで取り上げられるインパクトは大きい。最近だと、Webメディアに取り上げられるよりも前の、掲示板やまとめサイトに掲載された段階でワイドショーに取り上げられる例も増えている」と補足。投稿から24時間で100万人以上に拡散する例は珍しくないという。

「炎上」トレンドに影響を与える「身近になった動画投稿」と「社会不安」

身近になった動画投稿

SNSで動画投稿が身近になったことは、炎上のトレンドに影響を与えている。Instagramのストーリー機能、TikTokなどでの動画は、文字や写真の投稿と比べて情報量が多く、結果として閲覧者に大きなインパクトを与える。投稿に問題があったり、議論を呼ぶ内容であったりすると、それだけでも炎上しやすく、影響範囲が広くなるのが実情だ。

動画投稿は文字や画像に比べて情報量が多く、インパクトも大きく、
バイトテロなどに発展しやすくなった

ユーザーの「正義感」「社会不安」

ユーザー(閲覧者)側の反応・感情もまた過敏になってきている。広告における画像やキャッチフレーズなどの各種クリエイティブが、意図しないかたちでジェンダー、ヘイト、労働問題などに結びついて批判や議論を呼び、最終的には企業叩きや不買運動にまで発展する例もある。「炎上仕掛け人」「ネット自警団」と呼ばれる人々による“煽り”行為もあり、これまでの常識や感覚では到底想像し得なかった炎上も起きている。

最近では、ターゲットになった企業やユーザーに対して、“正義感”を盾にして過剰な行動を取ることがある。自分は悪くない、もっといえば、自分は良いことをしているという自覚のもとでターゲットを叩くので、対応が難しい。今年になって侮辱罪の厳罰化も進んだ。だが自分は悪くないとそもそも思っているので、厳罰化だけでは事態の正常化は実現しないとの指摘もある(桑江氏)

また桑江氏は、コロナ禍という存在そのものも炎上に影響を与えていると説明する。社会不安によってユーザーの生活や心情が悪化した結果、社会的な地位を持つ企業や著名人の発言を「上から目線」と捉える層が増加し、平時であれば問題なかった投稿が炎上してしまう。

社会不安と炎上の関係については、シエンプレで追跡調査を実施した。「コロナ」というキーワードが含まれたSNS投稿をポジティブな内容か、ネガティブな内容かに分類し、その数を調査したところ、2020年1月から8月までの間で最もネガティブな投稿が多かったのは3月30日。これはお笑い芸人の志村けんさんがコロナ感染にともなって逝去された直後、さらには1回目の緊急事態宣言が発出される直前だった。

そして翌4月は、シエンプレの調査では最も炎上案件の多い月であった。結果として、社会不安と炎上の発生数は密接に関係しているというのが桑江氏の分析である。

これ以外の調査でも、コロナ禍ではSNS利用時間が40%増加していた。また、炎上事案が放送・記事化された割合は2020年で75.0%、2021年には91.0%と急増している。

「炎上」が記事になって規模拡大、うち48.0%が「24時間以内」

事案が発生してから炎上に至るまでの時間は短くなっている。2019年の段階では、放送・記事化されるまでの時間で最も多かったのは「24時間以上48時間未満」で32.1%だったが、これが2020年には「24時間未満」が48.0%。つまり事案の2つに1つは、24時間以内に記事になってしまっている。

炎上記事は、大小さまざまなメディアで取り上げられ、一般ユーザーの目に触れることになる。また、各種の口コミ系サイトなどでも拡散していく。

事案発生と炎上、そして拡大までの24時間(一般例)

記事をはじめとした情報は拡散が早く、ネット上に半永久的に残る。従来の社内体制では対策が追いつかない場合も多い。そのため、「いかに事前にクライシス発生のリスクを抑えられるのか、発生時にどれだけ迅速な対応ができるのかが、現代型炎上の対策の鍵になるだろう」と桑江氏は語る。

炎上にまつわる情勢が厳しさを増す中で、救いとなる調査結果もあった。シエンプレが実施した5,000人規模のアンケート調査では、50%以上の人がSNSやテレビで毎週炎上を認知し、そのうち30%以上が情報の深掘りをし、60%近くが何らかのネガティブな影響を受けていた。だがそれと同時に、70%近くの回答者はその後の対応についても確認しており、40%近くは、その対応に納得すれば逆に良い印象をもつことがわかったのだ。

起きてしまったことはある意味しようがないのだが、しっかり対応すればポジティブに変わるチャンスがあるということ。これは本当に救いだと感じている(桑江氏)

企業アカウントの炎上につながる事象、トピック

「炎上対象となる事象」と「炎上リスクの高いトピック」

炎上リスクを抑えるには、炎上の形態・事例について知っておくことが重要だ。桑江氏によれば、自身に原因があるのか、あるいは外からの攻撃によるものか、という視点によって、炎上事例は次の2つのパターンに分けられるという。

  • 問題となる投稿や行為によるもの
  • 論争的な話題に触れたことによるもの

そして、炎上対象となる事象、炎上リスクの高いトピックは、いずれも9つに分類できる。これを示したのが以下の表だ。

炎上対象となる事象と炎上リスクの高いトピック

代表的な炎上対象は、暴言・暴挙、悪ノリ・嘲笑、論争的なテーマへの言及などが挙げられる。炎上リスクが高いのは政治・外交、歴史・宗教などだ。直近では「コロナ(ワクチン)」「男女(ジェンダー)」の話題が、炎上に繋がりやすい傾向にある。桑江氏は「これらの話題については、企業として明確な指針を示せない限りは、触れない方がベターだ」とアドバイスする。

炎上させる側のモチベーション

反対に、炎上させる側のモチベーションはどうなのだろうか。「不満・怒り」「嫉妬」「マウンティング」「便乗・祭り」「義憤」の5つが例示されたが、なかでもやや性格が異なるものが「義憤」である。ユーザーがそれぞれの正義感をもって、間違っているものを批判するのはある意味日常的な風景であって、必ずしもすべてが悪ではない。十分な正当性をもった言論もあり得る。

よって、炎上に対処する側には、寄せられた投稿・意見をきちんと読んで、問題の所在を切り分ける作業が必要になってくる。なかには、「1つの投稿のうち、前段は聞くべき批判で、後段で茶化したりバカにしたりしている」というような複雑なものも存在するので、投稿する人のモチベーションは何かをきちんと分類して対応することが重要だという。

炎上させる側のモチベーション

「迅速な初期対応」「拡散防止」が炎上を防ぐポイント

では、実際問題として、企業が炎上を防ぐための手段はあるのか。SNS時代のステークホルダー対応の三大要素として、「迅速さ」「正直さ」「慎重さ」を桑江氏は挙げた。そして、炎上を防ぐためのポイントが次の2つだ。

  • 迅速な初期対応
  • 二次被害=情報拡散の防止

ネットを常に監視し、炎上の芽を探し、早い段階でお詫びコメントの投稿や公式発表を行うことが大切だ。その際、SNS時代ならではの“情報拡散のメカニズム”を把握し、適切な順序で適切な対応をとる。この2つのポイントを意識することで炎上被害は軽減される可能性が高い。

なお、ネットにおける情報拡散のスピードは凄まじい。企業としても、そのスピードを考慮した対応をせねばならない。具体的には、Webメディアで記事化される前、事案発生からおおむね6時間以内に、企業としてなんらかの公式発表(リリース)を行うのが理想だ。

その後も、もし誤った情報が拡散していれば、それを訂正する発表の実施も検討すべきだ。なお、元となる投稿などを削除したくても、多くの場合はネット上にデータが残っており、そのすべてを短期間で削除するのも非現実的だ。仮に実行しても、隠蔽工作と捉えられ、さらなる反感を買う可能性が高い。

皆で一丸となって真摯に対応していく覚悟をもつ

炎上対応の記者会見において、関係者の発言がさらなる炎上を呼び起こすケースもよく見られる。この失敗の原因とみられるのが、「法務」の視点でしか対応していないことだ。適法かどうかだけで物事を語ってしまい、それが世間に受け入れられるか、世間がなぜ怒っているのかが二の次になってしまう。「法務だけでなく、広報の視点もまた同じく重要だ」と桑江氏は指摘する。

このように、炎上はもはや社内の1つの部署だけで対応しきれる問題ではない。桑江氏も「炎上時に最も重要なのは、会社の皆が一丸となって真摯に対応していく覚悟をもつことだ」と述べている。現場レベルで少しでも気になることがあれば、社内で共有し、必要に応じて上長の判断を仰ぐ。ネット上の論調把握はしっかり行い、対応もしっかり吟味しなければならない。なお、論調の把握については「トレンドワード+炎上」で検索しておくと、世の中で話題になっている炎上事例などを把握でき、効果的だという。

避けた方がよいイベントやキーワードに注意

桑江氏からは、SNSでの投稿にあたって考慮すべきイベントや避けた方がよいキーワードなどの一覧が公開された。例えば、鎮魂の日にそれを逆撫でする投稿を控える等、SNS運用で考えるべきことは多い。国によって歴史的背景・宗教観などが大きく異なる以上、日本で問題のなかった投稿が外国で問題になるケースもある。

リスクカレンダーを意識することが重要になる

企業アカウントで留意すべき7つのポイントとコミュニケーションのコツ

ネット炎上の最新動向を考慮した上で、企業アカウントで留意すべきポイントとして、桑江氏は次の7つを挙げた。

  1. 絶対にプライベート端末を使わない。会社としてしっかりと環境を整える
  2. 公私混同をしない。「企業アカウント」という前提をわきまえる
  3. リアクションは慎重に行う。メンション、RT(リツイート)、いいね等すべてのリアクションが見られていることを意識する
  4. 乗るべきか、乗るべきでないか、時流を見極める
  5. あえて触れないことも選択する。事件やイベントなど、世間で話題になっていても、“触れない勇気”をもつ
  6. 常にアンテナを張っておく。SNSの潮流はすぐに変わってしまう。自身が「SNS愛用者」でないと置いていかれてしまう
  7. 社内でチェック体制を作る。投稿内容をしっかりと複数で確認する

そして、SNSコミュニケーションのコツとして、「チームで事にあたる」「リアルタイムを意識する」「失敗したら素直に謝る」の3つをアドバイス。最後に、「コロナ禍でSNSの利用が加速した現在、SNSを正しく恐れて、使いこなしていくことが重要だ」と訴え、講演の結びとした。

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