総務省が広告主に初のガイダンス提示:「経営層の関与」と「情報開示」を求める、企業はどうすべき?
総務省は「デジタル広告の適正化、効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」(以下、「広告主等向けガイダンス」)を策定し、2025年6月9日に発表した。今回の発表に際してJAAが主催したセミナーに総務省の吉田企画官が登壇し、本ガイダンス策定の背景や概要を説明した。
本記事では、セミナー内容を参考にしながら、企業の担当者が本ガイダンスで知っておくべきポイントを紹介する。

「広告主等向けガイダンス」策定のきっかけ
日本では、デジタル広告費が総広告費の約半分を占め、年々拡大し続けている。デジタル広告は、低コストで、誰もが簡単に出稿できる仕組みだ。
一方で、デジタル広告の配信の仕組みは複雑なため、広告主は意図せずして偽情報や違法コンテンツに広告が表示され、ブランド毀損や広告費の詐取といったリスクに直面する可能性がある。これは、自らの広告がどの媒体、どのコンテンツに表示されているかを把握できないものがあることが原因である。
上記のようなリスクに対応するため、総務省として初めて広告主等向けのガイダンスを策定するに至ったという。
「不健全なエコシステムに加担するリスク」を指摘
ガイダンスのなかで「デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク」が記載された点は広告主も認識すべきだろう。
広告主等が考慮すべきリスク・課題として、以下の点が挙げられている:
ブランドイメージの毀損:意図しない媒体に配信されることで、ブランドセーフティやブランド保護の観点からイメージを損なうリスク。
アドフラウド:無効なトラフィックにより、広告費用が無駄になったり、効果が得られなかったり、あるいは犯罪行為によって収益が吸い取られたりするリスク。
デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク:偽情報・誤情報、違法アップロードコンテンツの拡散を助長するリスク。
この「不健全なエコシステムに加担するリスク」は、健全性確保の在り方に関する検討会での議論を踏まえたもの。偽情報の発信者や違法アップロード(海賊版ドラマや漫画など)を拡散する人々に、広告主が意図せずして広告収入を渡してしまう(=活動するための資金援助をする)可能性があるというリスクを指摘している。
経営層の関与の必要性
またガイダンスでは、「広告担当者だけでなく、経営層が対策に関与することの必要性」も記載されている。
現場の広告担当者がデジタル広告の課題を認識しても、経営層の理解がなければ対策は思うように進まない。そのため、経営層もデジタル広告の流通を巡るリスクに対し、リテラシーを向上させ、主体的な体制を推進すべきと明示されている。
2019年に日本アドバタイザーズ協会(JAA)が実施した調査では、ブランドセーフティに関する広告担当者の認識率は5割近くであるのに対し、経営層の認識率は15%を下回っていた※1。
2017年、大手動画共有プラットフォームにおいて国際的なテロ組織の動画に多くの企業の広告が表示されていたという事態が、海外メディアによって報じられた事例もある※2。このような事態になると、社会的責任やコンプライアンスリスクが問われるわけだ。
広告主が実施することが望ましい取り組み
広告主が実施することが望ましい具体的な取り組みとして、「体制構築・目標設定」「具体的取組」「配信状況確認」の3点が挙げられている。「体制構築・目標設定」において、「情報の開示」まで記載されている点は、注目すべきポイントだろう。
体制構築:デジタル広告に関する全社的な情報集約体制の整備、経営層にデジタル広告担務者の配置、広告配信の方針や指針の策定、組織内の協力やトレーニングの推進。広告に関するリスクとその影響について、会社全体で問題意識を把握・共有することが望ましい。
広告配信の目的及び指標の設定: 短期的な効果指標だけでなく、長期的な影響も考慮した効果指標を選択し、成果の指標と品質の指標のバランスを取ることが望ましい。
情報の開示:経営層に十分な情報を伝え、会社全体で取り組むために、年次報告書への記載やWebサイト上で公表することが望ましい。これにより、企業が適切に取り組んでいることが可視化され、株主や市場、メディアなどからの指摘にも対応しやすくなる。
契約段階での取り組み:デジタル広告取扱事業者の選定や効果的な配信選択ができるよう、想定されるリスクやその対処のための取り組み、懸念事項などを調達要件に含めること。
品質認証事業者との取引: JICDAQ認証事業者と取引すること。
技術的対策:広告配信状況を確認し、不正トラフィックなどを検知し、排除できるアドベリフィケーションツールの活用や、信頼性を保証する技術の活用を進めること。
広告プラットフォーム機能の活用:広告プラットフォームが提供する機能(特定のキーワードの除外、サイトの除外など)を適切に利用すること。
配信先の選択:ブロックリストやセーフリスト、PMP(プライベートマーケットプレイス)の利用など、配信先の選択を進めること。
配信状況の確認:配信状況を踏まえて、対策の継続的な見直しを実施すること。
その他参考資料
25ページにわたる「広告主等向けガイダンス」はわかりにくい部分もある。体制整備に向けたフローチャート、配信状況の確認手順、情報開示方法の具体例は、付録資料として記載されているので、ぜひ参考にしてほしい。
なお、本ガイダンスは、配信するデジタル広告の内容は健全であるが、意図せず偽情報・誤情報や違法アップロードコンテンツを含む媒体に表示されてしまう状況を対象範囲としている。なりすまし型偽広告など法令違反に該当する広告や配信先の媒体に関しては、広告プラットフォーマーによる対応や各種法令で引き続き対応していく。
デジタル広告のメリットだけでなく、リスクも把握したうえで活用してくことが大事である。本ガイダンスの内容は、デジタル広告の健全化を推進している企業にとっては「当たり前」と感じる部分もあるかもしれない。すでに取り組みをしている広告主にとっては、自己確認の機会とし、これから対策を始める広告主にとっては、本ガイダンスを参考に進めて行ってほしい。
デジタル広告を取り巻く環境は常に変化しているため、ガイダンスは市場動向を踏まえて適宜見直しが行われるという。総務省としても、本ガイダンスの普及と支援を進めていく考えを示していた。
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