インタビュー

オンラインイベント白熱のカギは“本番前の交流”にあり! 「noteフェス」に学ぶプロセスエコノミーとは

「noteフェス」を盛り上げるのは、選ばれた60人のレポーターたち。イベント前からユーザーの熱量を高める施策を行ったnoteに話を伺った。

オンラインイベントが活況な昨今。しかしリアルイベントと異なり、オンラインは盛り上がりづらく、参加者とのつながりも希薄で、どうすればいいのか頭を悩ませている担当者も多いのではないだろうか?

2021年10月15日~17日に開催された「note CREATOR FESTIVAL(以下、noteフェス)」では、事前に選ばれた60人ものレポーターが、フェス開催前から運営側と一緒に盛り上げた。「#noteフェス」の関連発信は、Twitterでは1,464ツイート、noteは426件もあったという。レポーターを巻き込んだフェス作りの秘訣について、noteのPRチームでユーザーコミュニケーションを担当する金子智美氏と関矢瑞季氏に話を伺った。

(左)note株式会社 PRチーム ユーザーコミュニケーション 金子智美氏
(右)プロダクトPR メディアリレーション 関矢瑞季氏

noteフェスをレポートすることを、創作のきっかけにしてほしい

――昨年に続き、2度目の開催となったnoteフェス。そもそも、なぜフェスを開催しているのでしょうか?

金子氏(以下、敬称略): 「note」は、文章や音声、動画などを投稿できるメディアプラットフォームです。ブログのように好きなことをつづったり、投稿した作品を記事単位で有料公開したり、月額会費制でコミュニティ運営ができたりと、利用方法はさまざまです。近年は個人ユーザーのみならず、企業のオウンドメディアとしても使われています。

noteのミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」ことです。創作を続けるにあたり、人とのつながりは大切な要素のひとつです。人との会話や、その道のプロの話を聞いて、自分の思いを発信したり、新たな創作意欲がわいたりする。そんな循環を生み出すために、ほぼ毎日イベントを実施しています。noteフェスは、年1回の創作の祭典という位置づけで開催をしていて、コンセプトは「つくると、つながる!」です。さまざまな分野で活躍するクリエイターさんに、創作活動のヒントとなるトークセッションをくり広げてもらいました。

――なぜ、フェスを応援してくれるレポーターを募集したのですか?

関矢氏(以下、敬称略): noteでは、見たり聞いたり、体験したことを、自分の言葉で発信するのも創作の1つだと考えています。そこで、「noteフェスをレポートする創作活動をしてみませんか?」と募集し、今年は60人のレポーターが集まりました。募集枠の内訳はnote34人、Twitter10人、グラレコ6人、Podcast(音声配信)10人で、それぞれの手法で発信してもらいました。

金子: 昨年は、フェスを一緒に盛り上げる“サポーター”を100人募集したのですが、「一緒に楽しみましょう」という広い内容だったため、一部のサポーターから「何をしたらいいのかわからなかった」といった声をいただきました。そこで改善策として、今年は「noteフェスをレポートしてほしい」と、役割を明確にしました。ただあまり細かく決めすぎると楽しくなくなるので、興味ある発信方法を選んでもらってレポートするという大枠だけを用意しました。

▲noteフェスレポーターには特典として、noteオリジナルグッズがプレゼントされた

――集まったレポーターは、どんな方々だったのでしょうか?

金子: 年代も性別もバラバラです。ただ、ほとんどが「最近noteを始めたばかり」「発信したい気持ちはあるけど、何をしたらいいのかわからない」といった方でした。noteフェスは創作を始めるきっかけにもしてほしい施策なので、募集していた層と一致していました。うれしいことに、学習意欲が高く、積極的な方ばかりだったので、みんなのお手本となるような楽しみ方を発信してくれました。

レポーターたちがつながって共同創作に発展

――とはいえ、レポートは難しそうです。誰でもレポートできるものでしょうか?

金子: レポーターだけでなく誰でも無料で参加できる、発信ノウハウ講座を企画しました。たとえば、声で届ける「#音声配信の届け方」勉強会などです。勉強会にはたくさんのレポーターに参加してもらえました。

一方で、「本番まで何をしたらいいのかわからない」というレポーターからの声も聞こえてきたので、急遽Zoomを使ってレポーター同士の顔合わせ会を実施しました。急だったものの、半数以上の人が参加し、自己紹介後はレポーター同士で自然と盛り上がっていました。

実はこの会に、VTuberのアバターで参加されていた方がいました。それを見た別のレポーターの方も後日アバターを作ったようで、意気投合。「せっかくVTuberが2人そろったから、ラジオっぽいことしよう」と、noteフェスの話をするYouTube動画を作って、発信されていました。こちらが思ってもみないような企画が生まれました。

▲noteフェスレポーターの顔合わせ会から、共同創作に発展

――まさに「つくると、つながる!」を、レポーターの方が体現されていますね。

金子: そうなんです。また昨年サポーターとして参加してくれた方々とも、noteの“サークル機能”を使って交流できるようにしました。その方たちの「昨年はこんなことをやったから、今年はこんなことをするといいかもね」といったアドバイスをきっかけに、今年のレポーターが動き出した感じがありました。まさに大学のサークルの先輩・後輩のような関係でした。

――サークル機能とは、どんな機能なのでしょうか?

関矢: いわゆる月額会員制のコミュニティ運営機能で、課金している人だけが閲覧・コメントできます。今回は無料で、noteフェスレポーターだけが閲覧できる掲示板を作りました。「noteフェス(本番)のレポート書いたよ・話したよ報告」「相談・雑談なんでもスレ」などのスレッドは金子が作成。そのスレのコメント欄に、レポーターが自由に投稿、返信ができます。

金子: レポーターとは、すべてサークル内でやりとりをしました。週2回ほど新しいスレを立てていましたが、フェスの開催が近づくにつれ、スレ数が増えていきましたね。プライベートなやりとりは少なく、noteフェスにかかわる内容が多かったです。

細かなルールは設けず、運営側はユーザーを見守るのがコツ

――ちなみに、レポーターの投稿は事前確認したのでしょうか?

金子: 事前確認はせず、自由に書いてもらいました。投稿ルールは、ハッシュタグ「#noteフェス」をつけるだけ。ただ事前に注意事項として、

  • 登壇者の発言は正しく書きましょう
  • 自分の感想なのか、登壇者の発言なのかわかるように書きましょう
  • 登壇者の名前を間違えないようにしましょう

など、レポートでありがちなミスを伝えていました。せっかくいいものを書いていても、登壇者の名前が間違っているとご本人に失礼ですし、公式アカウントでもとり上げられません。明らかに事実と異なることを書かれていたり、登壇者から修正の要望が入ったりした場合は「個別に連絡するかもしれません」と伝えていたため、本番中トラブルになることはありませんでした。

――実際、noteやTwitterでの発信数はどのくらいあったのでしょうか?

金子: 本番前(8/31~10/17)の数も含めると、Twitterでは1,464ツイート、noteは426件の投稿がありました。グラレコとPodcastもそのカウントに含まれていますが、数字自体は昨年より下回ります。その原因として、昨年はコロナ禍になったばかりで、オンラインイベントに追い風となったことが挙げられると思います。ただ今年はその分、投稿1件ずつの熱量が増えたと感じています。

▲Twitterを使ってグラレコで発信するnoteフェスレポーターも

――noteフェス終了後、レポーターからどのような感想をいただきましたか?

金子: 本番終了直後、再びZoomでレポーターと交流会を開きました。「インプットとアウトプットの合宿のようで成長できた」「ハッカソンならぬ“ノートソン”でいい汗かいた」「仲間との関係が深まった」など、熱い感想を多数いただきました。レポーター同士の共同創作は、noteフェス終了後も続いているようです。一番うれしいことですね。

――お話をお伺いしていると、noteはユーザーとのコミュニケーションがとても近いと感じました。ユーザーとの距離の近さについて、noteの考えを教えてください。

金子: ユーザーと距離が近いのは、メリットだらけです! やはり直接会うのが最強のコミュニケーションですが、オンラインでもリアルのような距離の近さを追求できれば、ユーザーの繊細な機微を感じ取れ、1人1人に合わせたコミュニケーションをとることができます。これは距離が遠いままだと、絶対に実現できません。一方で、デメリットを上げるとしたら、担当者の気持ちの機微も伝わってしまうことかもしれません。とはいえ、誰でも簡単につながれる時代だからこそ、距離の近さは貴重です。

――普段から距離が近いからこそ、noteフェスレポーターの試みが受け入れられたのですね。では最後に、今後ユーザー参加型のオンラインイベントを実施する企業に向け、アドバイスをお願いします。

金子: ポイントは、運営側が立ち入りすぎないこと。ユーザーが自由にできる余白を残しておくことが大切です。主催していると、どうしても何でもお手伝いしたくなる気持ちになりますが、そこをぐっと堪えました。たとえば、サークル機能でレポーターから発信方法について相談があったときも、運営側が正解を提示すると、それ以外の創造性が生まれづらくなってしまうので回答しませんでした。そのおかげで、昨年のサポーターの方々が答えてくれ、リーダーシップをとってくれました。ユーザーの満足度も強まったと思います。

――ユーザーの自主性を尊重し、あくまで補助として振る舞うということですね。そのほかに、オンラインフェスに参加しやすくするよう実践した工夫はありますか?

金子: ユーザーのライフスタイルは多様化しているので、noteフェスは金曜~日曜開催にして、平日と休日を混ぜました。また本番のセッションでは、トークテーマに幅を持たせ、「トレーニング」「料理」「マイクラ」などの体験プログラムも用意しました。幅広い層に、何かしら興味関心を持ってもらえたのではないでしょうか。noteは今後も、いろんな方の創作の後押しをしていきたいです。

プロセスを共有するマーケティング手法「プロセスエコノミー」

起業家で有名なけんすう氏は2020年末、自身のnoteで「プロセスエコノミー」を提唱した。これは「今後はプロセスを共有するところがお金を稼ぐメインになる」という概念を表した彼の造語である。というのも、今はどの製品・サービスもレベルが高く、差別化がしづらい。

そうした中で、たとえばクリエイターが作品を作る過程をオンラインで公開することで、それを見た人がクリエイターや製品、サービスに感情移入し、課金する流れが生まれてきているというのだ。IT批評家の尾原和啓氏も着目し、著書『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(幻冬舎)を2021年7月に出版している。

noteに興味はあるけど、何を発信したらいいのかわからない。そんなユーザーとフェス本番前からつながり、一緒に盛り上げようとするnoteフェスレポーターの試みも、プロセスエコノミーの1つと言えるのではないだろうか。今後、注目しておきたいマーケティング手法だろう。

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