森田雄&林真理子が聴く「Web系キャリア探訪」

自分の適性を模索した20代。「ものづくり」で切り開かれたキャリア

取締役になっても「ものづくり側の人間でありたい」と考える理由とは? トラストバンク和田正弘氏の経歴に迫る。
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トラストバンク 和田氏

若い頃は、自分に何ができるかわからずに短期間で転職をくり返した。しかし短い就業期間の中でも自身の適性を見いだし、聞き手の森田氏が当時取締役を務めていたビジネス・アーキテクツに入社。プロジェクトマネージャーとして経験を積んだ。その後、地域活性化のためにできることを考えて、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクへ。現在は、取締役として組織づくりに注力している、株式会社トラストバンク 和田正弘氏に話を聞いた。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

自分に向いていることがわからず、紆余曲折を経た20代前半

株式会社トラストバンク 取締役 兼 ふるさとチョイス事業本部長 和田正弘氏

林: Webに触れたきっかけから教えてください。

和田: 僕は音楽が好きで、大学生の頃は「輸入盤レコードを扱うレコード屋の店長とかやってゆっくり暮らしたい」と考えて、レコード屋に就職の内定が決まっていました。しかし2001年にiPodが登場したことで、音楽の聞き方や扱い方が変わりつつあり、大学生ながらに「このままいくとレコードやCDはなくなり、レコード屋では食べていけなくなるのでは?」という脅威を感じるようになりました。

そこからレコード屋の内定は辞退して、「これからは半導体ビジネスの時代だ!」とひらめき、半導体を扱う商社に営業職として新卒入社しました。しかし、自分にはあまり向かなかったですね…。というのも、「どこかから仕入れてきて、どこかに売る」仕事は、相手があることなので、自分の裁量が限られています。たとえば、仕入れ先から「納期が間に合わない」と言われたら、自分ではどうしようもできないので、客先か仕入先に頭を下げにいくしかないんですよね。

森田: Webに触れたきっかけが見えてきませんが…(笑)。

和田: もう少しお待ちください、このあと出てきますから(笑)。当時、プライベートな時間を使って、ライブイベントをやっていました。それでイベントのフライヤーなどを作ってくれる美大生やデザイナーと知り合って、「モノを作るほうが楽しそうだな」と思うように。商社を辞めて、職業訓練校でDTPを習おうと考えました。しかしDTPのコースはなく、代わりにWebデザインのコースがあったので、「似たようなものだろう」と思って3か月通いました。調べ物などでWebは使っていましたが、それが作り手としてWebに触れた最初のきっかけですね。そこでHTML、CSS、CGIに加えて、Photoshopなどのツールの使い方も習いました。

林: 1社目の商社は、1年5か月で辞められたんですね。これが2003年頃のこと。職業訓練校の後は、すぐWeb系の仕事に就けたのですか?

和田: 求人サイトで見つけたパンフレットなどの制作会社に入社しました。ただ入社して1か月経った頃、連休明けに会社に行ったら、扉が閉まっていて開かないんです。倒産したのか、夜逃げしたのか…。雇用契約などをよく理解しておらず、手続きをしていなかったこともあって、給料をもらえずに終わりました。

森田: え!? 1か月タダ働きですか? それでどうしたのですか?

和田: そうなんです…。そこから再び求人サイト経由で、今度はWeb制作会社にデザイナー兼ディレクターとして入りました。実際働いてみたら、デザイナーになるのは修羅の道で、「自分には無理だ」と思い知らされました。一方で、ゴールに向かってタスクを整理して人を動かすことは向いていると気がつきました。ガントチャートを見ると、気持ちが上がるんです。結局、その会社には9か月だけ在籍して、転職活動をすることに。同僚からの勧めもあって、ビジネス・アーキテクツ(以下BA)に応募しました。

森田: 2005年でしたっけ。僕が取締役になったばかりの頃ですね。

林: 私もその頃にBAの存在を知りましたが、勃興するWeb業界で強烈な存在感を放っていて、猛者の集まるプロフェッショナル集団という印象をもっていました。

和田: 実は、BAの前評判はあまり知らずに入社しました。入社後に「BAは怖い」という話を聞いてびっくりしましたが(笑)。

過去のプロジェクトの資料を総ざらい。自力で身につけたプロジェクトマネジメント力

林真理子氏(聞き手)

林: BAには、どういう役割で入ったのですか?

和田: プロジェクトマネージャーですね。未経験でした。

林: 未経験から、仕事はどうやって学ばれましたか?

和田: 入社して2か月は、仕事をほとんど割り当てられませんでした。席も人事部の中にあったので、他の人からは人事部の新入社員だと思われていたのではないでしょうか。

森田: 当時のBAは「周りの仕事を見て覚えていく」のがカルチャーだったので、未経験だから教えるということはなかったですね。

和田: ただBAは、過去のプロジェクトの提案書や進行管理表、メールなどがすべてオープンになっていて、イントラから見られました。「どうやって案件を回していたのか」「どんなスケジュールを組んだのか」など資料を見て把握していきました。入社して3か月目に突然、案件を振られましたが、資料を読み込んでいたおかげで「このパターンだな」とわかって、プロジェクトを進められました。

森田: イントラの中すべての資料を閲覧できるように整備したのは僕だったりするんですが、ちゃんと活用してくれていたんですね。それでノウハウを身につけてくれたのはよかったです。

林: 「観察学習」は実務スキル習得において重要なアプローチの1つですよね。資料を見て学んだとはいえ、入社が間もないうちは経験が浅くて苦労したり、失敗してしまったりということはありませんでしたか?

和田: 意外と大きな失敗はしていないですね。提案が通らないことはありましたが、トラブルになることはありませんでした。ミッションが難しい大企業の案件が多かったですが、メンバーは優秀な人ばかりだったので、その人たちに仕事を割り振ってプロジェクトを組み立てていくことにやりがいを感じました。〆切を守らない人がいるので、そのときに行うスケジュールの組み立て直しが、仕事の醍醐味でしたね。

森田: 和田さんは僕のチームにいて、いろいろな案件のプロジェクトマネージャーを担っていました。なかでも、ある程度安定している案件をグロースさせていくことに適していましたね。大手クライアントの長期間案件が主流だったBAの中では、僕のチームは非主流派のようなところがあって。たとえば新規クライアントの単発案件や地方企業の中小規模案件、新規事業系とか。少し変わった案件が多くて、鍛錬には向いていたかなと思います。

親会社ができて役員に昇進。役割として求められたのは新しいビジネス

森田雄氏(聞き手)

森田: 僕が辞めたあと、BAで役員になったんですよね?

和田: はい、制作部門の役員になりました。そのころ、広告制作会社のAOI.Incが親会社になり、社内体制が変わりました。今までのやり方を一新させようということで、非主流派の僕に役員の役割が回ってきたのだと思います(笑)。子会社化して従業員が70人ほどから150人程度に増え、親会社から来た人が部下になる状況でした。

林: 役員になると、それまでとは期待されることも大きく変わったのでは?

和田: そうですね。現場にいた頃は、ものづくりに主眼を置いていましたが、役員になってからは作ったものを運用していくビジネス、客先に常駐して保守していくような新しいビジネスを創り出すことが求められるようになりました。

林: 役員の仕事というのは、どんなふうに学ばれたんですか?

和田: 古典に学ぶことが多いです。マネジメントならドラッカーや渋沢栄一、松下幸之助、稲盛和夫など。課題感を持ちながら本を読むので、少し読んでは考えこんでしまって、なかなかページが進みません。

森田: 僕は読んでいる途中に、本に答えとおぼしきことが書いてあったら、「これを実践するぞ!」と決めて、そこで読むのをやめてしまうタイプなので、考え込んで進まないということはあまりないですね。読みかけの本だらけですけども(笑)。

林: 読む本は、どうやって決めているのですか?

和田: 手当たり次第ですね。Amazonのレコメンドを参考にすることもありますし、買ったけど、読まない本もあります。あとは、僕は好きなアーティストの系譜をたどって音楽を知っていくことが多いのですが、本も同じです。作者に影響を与えている人の本を読んでいくことが多く、そうすると体系的かつ、深掘りした知識が得られるんです。すると、おのずと共通する考えがみえてきて、それが仕事に役立つエッセンスになるんです。

「ふるさとチョイス」ならではのサイト設計で、人生で一番苦労することに

思い出話で盛り上がる皆さん

林: BAには何年いたのですか?

和田: 11年ですね。その後、地域系の仕事をしたいと思って、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクに入りました。

森田: 地域系の仕事に興味をもったきっかけがあるんですか?

和田: 実は、2004年の新潟県中越地震で実家が被災しました。震災後は、他の地域に引っ越しをする住民が増えて、町が一気に衰退するような感覚がありましたね。自分の実家は農家でしたが、その後、田んぼを売ってしまいました。ショベルカーが田んぼを掘って更地にするところを見て、「これは日本の縮図なんだな…」と感じました。

震災当時の自分は無力でしたが、それから10年近く経ち、自分には何ができるんだろうと考えたとき、「地方に住む人たちが、WebやITを使ってビジネスできる仕組みを用意すること」ではないかと思ったんです。地域活性をするには、そこに仕事があることが大事ですし、その仕事は、そこに住んでいて地域に思い入れがある人がやったほうがいいとも思っています。じゃあ自分は、それをビジネスとしてスケールさせるような仕事ができたらと、そういう視点で転職先を探しました。そのときには2011年の東日本大震災も経験していましたし、2004年と比べてみてネットの可能性を強く感じていたのもあります。

森田: トラストバンクに入社した当時、会社の規模はどれくらいでしたか?

和田: 弊社の創業は2012年で、私が入社したのがその5年後の2017年です。社員は40人ほどでしたが、プラットフォームを通した流通金額はすでに2000億円に達していました。2000億円が都市部から地方に動いている、しかも国ではなく個人が集まって動かしていることに勢いや可能性を感じました。

林: どういった役割で入社されたのですか?

和田: 統括ディレクターです。入社したときは、「ふるさとチョイス」のサイトのリニューアル中でした。最初は、リニューアルのプロジェクトには携わらなくていいと言われたのですが、案件の状況を確認すると、「このままだと間に合わない可能性が高い」と感じ、プロジェクトのリーダーをやることになりました。BAでさまざまな案件を経験してきましたが、その中でも一番大変でした。案件の規模と複雑さもそうですが、自分の会社の事業だと思うとプレッシャーが全然違いました。でも、それがすごくいい経験になりました。

森田: 制作会社ではない立場でやってみて、何か新しい発見や、成長を実感できたことはありますか?

和田: 「ふるさとチョイス」は、すべて内製で、通常のECサイトであればありえないような仕様なんです。というのも、ふるさと納税をする人は、目的がバラバラです。たとえば「地元に寄付したい人」「被災地支援をしたい人」「肉や魚などのお礼の品が欲しい人」「やらなきゃ損と考える人」「控除額の範囲で選びたい人」など。だから自治体やお礼の品のカテゴリ、寄付金額などから探せるように、あえてモードレスのサイト設計(ユーザーが自由に操作できるUI)になっています。

あと、ユーザーインタビューで知ったのですが、「こんなことで返礼品をもらっていいのか」と、ふるさと納税をすることに罪悪感を覚える人がいるんです。寄付をしているのに悪いことをしているように感じるのは、ユーザー体験としては最悪ですから、「あなたが寄付したお金がどう使われたか」を知らせるのは大事なことです。そのため、いわゆる入力フォームの最適化施策とは逆行するのですが、決済画面に進むまでに、ふるさと納税の使い道を選択する画面をあえて入れています。リニューアルに携わることで、「ふるさとチョイス」はECサイトとはまったく違う、寄付行為の場なんだと改めて思いました。

得意な仕組みづくりを活かして、現在は組織づくり、カルチャーづくりに注力

林: こうした実務の中で、サービスの思想を深く理解するところもあるんですね。一見、ご自身が経験を積んできたECサイトのようでありながら、実態は大いに異なるサイトのリニューアルは大変だったと思いますが、持ち前のプロジェクトマネジメント力で成功させられたのでしょうか?

和田: 工程の優先度つけや、切り分けは経験値が高いので活かせましたが、今までにない仕様を理解することに手間取りました。でも無事にリリースできました。

森田: 現在は取締役ということですが、どういう経緯でなられたのですか?

和田: トラストバンクにも親会社ができ、2020年1月に創業社長が会長になりました。それで、今年2021年に取締役に就任して、僕が「ふるさとチョイス」の統括を引き継ぐことになりました。課題は地方にあるので、自治体向けソリューションを担当している人が役員をやるのが筋だという思いもありましたが、事業はWebサービスだから、IT方面を知っている人が就くのも一理ありかなと考えました。

林: 若い世代の育成なども手がけられるんですか?

和田: 事業部のメンバーは約200人いますが、その上に部長クラスのマネージャーが10人います。自分は彼らとの会話を通してメンバーの様子を把握していますが、直接1on1などでマネジメントできるわけではないので、今は組織づくりに力を入れています。トラストバンクのいいところは、「社会貢献がしたい」と考えて入社する人が多いことです。しかしその解像度はバラバラで、「具体的にこうしたい」という人もいれば、「社会性の高いことをやりたい」と漠然と考えている人もいるので、その解像度をすりあわせていくことが大切です。そこで、コミュニケーションを取りながら、組織としての目標設定や、カルチャーづくりを地道にやっているところです。

森田: 役員だと現場からは離れるところもあると思いますが、役員にしかできないことがあり、視界も違ってきたんじゃないでしょうか?

和田: はい。現場にいた頃は、自分の思うようにはできないと感じることもありました。しかし役員になれば、ある程度は自分のやりたいようにやれます。自分の出自はものづくりなので、まずはものづくりをする人が働きやすい環境を作りたいですね。

林: 今、オフィスはシェアオフィスの「WeWork」をご利用ですが、今後もリモートワークを継続させるのですか?

和田: はい。現在スタッフは全部で300人ほどいますが、本社があるWeWork内の専用オフィスには40人分くらいしか席がありません。「ふるさとチョイス」という事業柄、東京にいる必要はなく、現在は地方に住みながら働いているスタッフもいます。リモートワークで業務はうまくいっていますが、リアル対面時にはあった雑談など偶然のコミュニケーションがどうしても減ってしまうため、そこをどう解決するか模索中です。

森田: 今後のキャリアはどう考えていますか?

和田: ものづくり側の人間でありたいです。将来について考えるとき、「どうなりたい派」と「どうありたい派」という2つの流派があると思っています。どうなりたい派は、5年後のキャリアや具体的な数値目標をたてる流派で、どうありたい派は具体的な未来を描くよりも、今日1日を含めてどうありたいかを考える流派です。僕はどうありたい派です。入社の面接でも「どうなりたいか」はよく聞かれる質問ですが、「どうありたいか」を考えるほうが、アジリティがあっていろんな状況にも対応できると思っています。

二人の帰り道

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デザイナーではなくディレクター。PMから取締役へ。制作会社から事業会社に。地方でビジネスするのではなく、地方のビジネスをスケールさせる役割を。和田さんのキャリアをたどっていくと、社会の動き、なかでも自分が強く心動かされた点と点を結びつけて自身のターニングポイントに昇華し、自分の立ち位置を変えてこられたことがうかがえて大変刺激的でした。ポイントポイントで、自分をどこにどう配役したら自分の仕事をより意味深くできるか再定義して居場所を変え、選んだ場所で自分の役割を丁寧に果たしていく中で確かな実務能力も鍛え上げてこられた。「同じ業種・同じ職種でキャリアを積みあげる」といった既成概念の枠組みにとらわれず、自分の指針に基づいて、白いキャンバスに絵を描くような自由さがあって、キャリアの転機に感じられる思い切りの良さと、日々の実直な経験の積み重ねがうまく交じり合っている感じがしました。1年半ぶりのリアル取材が叶い、とっても楽しく刺激的でした!

森田

和田さんは僕の前職時代の後輩というだけでなく、隣の席でもあって、仕事から雑談まであらゆる話を四六時中していたような関係性でもあったので、思わず懐かしい話に花を咲かせてしまいました。もちろん和田さん的にもBAに所属していた期間はキャリアにおいて大きな転機にもなったようですから、話に熱が入るのも当然だともいえますが、取材時間の後半になってもまだBA入社したてだったのでこのままでは現職のトラストバンクまで到達しないのではという緊迫したインタビューとなりました(笑)。実際に同僚だったので和田さんの仕事ぶりはよく知っているのですが、丁寧にひとつずつ詰めていく姿勢がベースで、あと、メンバーの面倒見がいいというか、ちょっとお母さんっぽいんですよね。そういう丁寧さと面倒見の良さが現職でも社内で親しまれている所以なのでしょう。今後もずっとものづくり側の人間であって欲しいと思います。僕もものづくり側にいると思いますので、またいつか、一緒に仕事しましょう!

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