[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

「自社の商品やサービスにしかない強み・売り=USP」の構築に必要なものは何か、マーケターの視点から考える

マーケターのリレーコラム、今回はエイチームフィナジー・稲垣昌輝氏。「ミクロな改善のみでは、USPは確立できないのはなぜか」ついて。
エイチームフィナジー 稲垣昌輝氏

こんにちは。株式会社エイチームフィナジーの稲垣です。

今回のコラムでは、「ミクロな改善のみでは、USPは確立できない」という話をします。

USPとは、Unique Selling Proposition(ユニーク・セリング・プロポジション)の略で、「自社の商品やサービスにしかない強み・売り」「顧客に対して自社だけが約束できる利益」を意味します。

私自身、エイチームに入社してからさまざまなWebメディア運営に携わってきましたが、振り返ってみると反省すべき点が多々あります。

運営メディアの利益を増加させることに意識を向け、すぐに手を動かせるSEO施策を追い求め、検索結果上での独自性と優位性を築こうとしてきました。これらの動きが、結果的にUSPとして機能すると信じていたからです。

しかし、数年間を振り返ってみると、アフィリエイトメディアで十分な収益を上げてきた自負はあるものの、現在まで機能している施策は非常に少なく、これといったUSPが見当たりません。その時々で短期的に機能しただけの使い捨て施策に過ぎなかったのです。

USPとして機能する資産を後継者に残すことが叶わなかった失敗を顧みて、今回、「USPを構築するために、マーケターができることは何か?」について、コラムを書いてみることにしました。

私が担当してきたメディアのビジネスモデル上、無形商材を扱うBtoBtoC(アフィリエイトモデル)から見た観点を軸に、USPについて私の考えを述べたいと思います。

なぜUSPに辿り着けないのか

私は2021年から、コンテンツマーケティング部のマネージャーを務めています。

役割上、各メディア担当者と1on1をする機会や、各グループ会社のリーダーと今後についての戦略MTGをする機会があるのですが、往々にして「競合サービスとの違いづくりに関する悩み」がテーマになります。

しかし、テキストコンテンツの質や挿絵のクオリティ、便利な機能開発についての議論はなされるものの、残念ながら具体的で納得感のあるUSPにはなかなか辿り着けません。行き詰まるポイントとしては、「競合の追随を許してしまう可能性が高い」や「そもそもUSPではない案がほとんど」です。

「USP定義の解像度が粗いこと」も答えに辿り着けない原因のひとつであるため、その場合、USPを分解して考え、問題意識を共有することが必要だと思い至りました。

ミクロUSPとマクロUSP

まずはUSPを、ミクロUSPとマクロUSPの2つに分けてみます。「ミクロUSP」はミクロな改善により成立するUSP、「マクロUSP」はマクロな改革・仕組み構築により成立するUSPです。

私が携わってきたWebメディアの場合、掲載情報や便利な機能はUSPになりにくく、言ってしまえば、コモディティの典型とも言えるかもしれません。コモディティの対極にあるのはブランドです。マクロUSPとミクロUSPを読み解くために、コモディティとブランドを掛け合わせた「4象限マトリクス」を用意しました。

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Y軸が「コモディティ」と「ブランド」、X軸が「ミクロUSP」と「マクロUSP」です。Y軸のマイナス方向(コモディティ)に向かうほど、商品・サービスの価値が競合と同質化していくことを意味し、Y軸のプラス方向(ブランド)に向かうほど、商品・サービスに独自の価値があることを意味します。

X軸のマイナス方向(ミクロUSP)に向かうほど、日々手を動かせる施策レベルで構築するUSPになり、反対にX軸プラス方向(マクロUSP)に向かうほど、企業単位の取り組み・仕組み・方針によって構築するUSPとなります。

業務レベルに落とすと、ミクロUSPは手を動かす施策実行メンバーの部分最適の仕事になっていることが多く、マクロUSPは経営層に近い方々の全体最適の仕事になっていることが多いかと思います。

つまり、ミクロUSPは限りなくHowに近い発想なため、そのUSPは競合の模倣・追随により、すぐにUSPではなくなる恐れがあります。私が自分の携わった業務でUSPを残せなかったのは、ミクロUSPを追求してきたことが大きな理由であると考えています。

一方でマクロUSPは、「他社・他者との特別な関係性の構築」や「エコシステム化」、「企業の歴史・文化・価値観」など、短期間ではとうてい模倣や追随ができない独自性を持ちます。

決して、ミクロUSPが不要だと主張するつもりはありません。ただ、ミクロUSPにだけフォーカスしてしまうと、競争から逃れることができず、社員の疲弊を生み、「自社の商品やサービスにしかない強み・売り」を掴めない状態であり続けることになります。

つまり、顧客から見れば「その会社の商品を買う(サービスを利用する)」意味がないだけでなく、他と大差ない印象で終わります。

役割・役職関係なく、マクロUSPへのアプローチはできる!

前の項で「マクロUSPは一般的に経営層に近い方々の仕事だ」と言いました。しかし、本当にマクロUSPの構築を経営層だけに任せきることが正しいと言えるでしょうか?

もちろん、経営層は経営の専門家です。任された事業で成果を挙げたり、新しい事業を成功させたりしているはずですが、マクロUSPという重要な要素を経営に携わるメンバーのある意味偏った思考・視点だけで決めるべきでしょうか。いや、決めることができるでしょうか。

私は、マーケターもマクロUSPの決定や構築にコミットすべきであると考えています。

マーケターだけではありません。理想論になりますが、お客様と直接会話をするCS(カスタマーサポート)担当者、クライアント企業と密にコミュニケーションを取る営業担当者、サービス満足度を高めユーザー体験の質を上げるデザイナーやエンジニア、これらすべてのメンバーの視点や意見、提案の積み重ねから解像度と精度を高めてマクロUSPへのアプローチを行う必要があると考えています。

それぞれの業務範囲の枠にとらわれずに、「マクロUSP構築に役立ちそうな、抜本的な改善改革のヒントを経営層に伝えていく」ことも各職能の仕事のひとつだと認識すべきです。

また、経営層側からは、各担当者がミクロな改善のみにとらわれ過ぎないように、マクロな改革によるマクロUSP構築の重要性を定期的に発信しておきたいところです。同時に、マクロUSP構築につながる現場の意見のキャッチアップは、欠かせません。しかし、「明確な意見や代案のない、あるいは実体なきモノへの責任転嫁」「自らのモヤモヤを解消したいだけの感情のシェア」は厳しく取り締まるべきです。

例えば、「日本は○○がダメですよね」「アメリカは○○」という解像度の低い責任転嫁。他には、「会社が現場を全然理解しようとしていないよね」「理不尽なところに納得感がない」「今のやり方は、本質的じゃない」という何かを言っているようで結局何も言っていない子ども思考。そして、「強ドメインが検索結果上で上位表示しているから何も打ち手がない」「Googleの方針は変わらないから、自分たちのすべきことはずっと何も変わらない」という思考停止的発想などがあります。

最後に

ビジネスモデルや市場、企業によって、当てはまらない例もあると思いますが、今回は無形商材のBtoBtoCモデルに携わっている1人のマーケターから見えていることを書いてみました。

もちろん、会社の経営にとっては、マクロな改革とミクロな改善の両方が必要不可欠です。ただ、マクロな改革なしに、部分最適であるミクロな改善のみに依存してしまうと、「自社の商品やサービスにしかない強み・売り」「顧客に対して自社だけが約束できる利益」であるマクロUSPを生み出すことができないだけでなく、社員の慢性的な疲弊と長期的な目標未達から抜け出せなくなる恐れがあります。

ユーザーが抱いている/今後抱くであろうミクロな課題に対して、ミクロな改善を実施することはもちろんのこと、マクロな改革を実施し、マクロUSPの構築に貢献できるマーケターの市場価値は今後さらに高まっていくと考えています。

そして、社歴・職種・役割・役職関係なく、各個人がミクロな改善もマクロな改革も自らの仕事だと認識することがゆるぎないマクロUSP確立への第一歩だと思っています。

マクロUSPを構想するときには、1人のマーケターという枠を超えて、「自分は何をすべきか?」を問うてみてください。「難しいな」「実現できるわけないか」そう思えたものがひとつでもあれば、それこそがあなたが次に挑戦すべき目標かもしれません。

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