成果を出すWebサイトへ、「要件定義」プロセスを4ステップで解説
新型コロナウイルス問題を契機に、デジタルシフトの勢いはますます加速している。特にWebサイトは、あらゆるサービスの起点となるだけに、より見やすく、使いやすくなるよう、リニューアル計画を立てている企業も多いはずだ。
では、リニューアルをトラブルなく、かつ“成果”を上げられるサイトへと進化させるためには何が必要なのだろう? 「Web担当者Forum ミーティング 2020 秋」のセッションで、NECマネジメントパートナーの山方理佳子氏がノウハウを解説した。
ニューノーマル時代のWebサイトへリニューアルするために必要なこと
NECマネジメントパートナーは、企業経営に関するさまざまなサービスをワンストップで提供する企業だ。事業領域はコンサルティングにはじまり、クリエイティブ、そしてデジタルマーケティングに至るまで幅広いが、山方氏らの部門では「Webサイトリニューアル」を専門的に手がけている。
Webサイトの在り方は、時代とともに進化・変化してきたが、新型コロナウイルス問題を契機にまた新たな局面を見せている。新しい生活様式が生まれ、テレワークの需要が高まったことで、Webサイトの利用シーンはますます増えている。
ビジネスの現場においても新型コロナ問題の影響は大きい。リアルな展示会・見本市の相次ぐ中止、接触抑止の観点から訪問営業ができないなど、売上減に直結するような事態が頻発した。そして新型コロナ問題は半年~1年程度では収束せず、長期化の様相を見せている。
このような局面において、自社運営サイトをリニューアルする場合、どんな点に注意すべきだろうか?
目先の指標よりも「成果」を意識すること
サイトリニューアルプロジェクトをスムーズに完遂させるためのテクニック論は重要だ。しかし山方氏は、リニューアル後のサイトにおいて、ビジネス的な“成果”をきちんと出せるだけの準備・運営体制作りという視点が、より重要と指摘する。
「商談が増える」「企業や製品、サービスを知ってもらう」「求人の応募者が増える」など、成果はサイト開設目的や運営元企業の立ち位置によって少しずつ異なるが、注意したいのは、目先の指標を追いすぎないことだという。
Web担当者からすると、サイトリニューアルで検索上位になりたい、直帰率を下げたいといったことを目標にしがち。ただPVなどは成果を上げるための指標に過ぎない。指標の一段上にある成果こそ、重視すべき(山方氏)
また、Webサイト担当者が理想とするWebサイト像と、サイト来訪者がよいと思うWebサイト像は必ずしも同一ではない。
Webサイト担当者は「買ってほしい」「応募してほしい」「うちの会社をよく思ってほしい」といった願いを込めてサイトを作っている。しかし来訪者は「知りたい情報がすぐ見つかる」「競合製品との差がわかりやすい」などの基準でサイトの使い勝手を判断する。
このようなギャップがある状態では、企業にとっての成果は上がっていかない。「来訪者に響く価値を再発見し、伝えること」もまた、Webサイトに求められる。「会社にとって見てもらいたい・言いたいことだけが書かれたサイトは、来訪者にとってよいサイトではない」と、山方氏は警告する。
「要件定義」の4ステップ
Webサイトに求められる情報や機能を言語化し、リニューアル関係者の間でしっかり共有するための手段として重要なのが、本講演のメインテーマにもなっている「要件定義」だ。要件定義とはつまり会社にとってのWeb戦略を決めることである。
サイトリニューアルのプロセスを段階的に示したのが以下の図である。全10工程のうちの前半4ステップが、要件定義に相当する。後半6ステップは「サイト構築」のフェーズとなり、実際のサイト設計やコーディングなどが含まれる。
サイトリニューアルにありがちな「やっぱりデザインを変えたい」「今からこのコンテンツを入れられないか」といった“ちゃぶ台返し”が頻発してしまうのは、要件定義があいまいなままプロジェクトを進行させた結果であることが多い。ステップが進むほど、後に戻ってやり直すのは費用も時間もかかってしまう。その意味でも要件定義で手を抜くことはできない。
ここからは要件定義の全4ステップについて、詳細に見ていこう。
ステップ①課題整理
山方氏がすでに述べているように、Webサイトリニューアルは、PV向上やSEO改善だけを目的としたものではない。全社の事業戦略や経営課題などをまず意識し、逆算的に細かな改善案を導きだすのが理想だ。
NECマネジメントパートナーがリニューアルプロジェクトに携わる場合は、まず経営トップ層を対象にヒアリングを行う。続いてマーケティング部門・営業部門、そして最終的にWeb担当部門という順番で課題を聞いていく。
一方で、アクセスログ分析を実施し、人気コンテンツの洗い出し、コンバージョン(サイトによって異なるが、BtoBサイトであればおもに資料ダウンロードや問い合わせフォームの利用など)に至るページ移動の傾向などを把握。Webにおける直接の課題をハッキリさせておく。また競合他社のサイトの比較調査も、非常に有効だという。
こうした作業を経ると、莫大な数の個別課題が出てくるので、Excelなどを用いてリスト化し、対応優先度、顧客ニーズと担当者ニーズの差などを漏れなく管理する。
ステップ②戦略策定
このステップでは、課題から具体的な施策への落とし込みを実施する。たとえば「製品スペック解説ばかりで初心者が何を選んでいいかわからない」という課題があるとする。そこから「初心者向けコンテンツが少ないのではないか」「だから新規引き合いが少ないのではないか」という仮説が成り立つ。そこで初めて「初心者向けコンテンツを作る」「サイト動線を改善する」という施策が立案できる。
数値目標も重要になってくる。サイトリニューアルによって売上を増やすというのは多くの企業にとって共通の目標ではあろうが、では、全社売上の何%をWebから得たいという目標値は果たして設定されているのだろうか。
目標値があれば、月○○○円の売上を達成するためには、平均客単価を考慮すると月○○件の問い合わせが必要……といったことが逆算でき、たとえばどれくらいのインフラ投資が必要になってくるかも把握できる。
とはいえ施策は、日程や予算規模によってはそのすべてを実現できるとは限らない。施策の優先度もまた、成果の出やすさや重要度、開発難易度などに応じて決めることになる。
施策については、ぜひ「リニューアル後に実施すること」も入れてほしい。たとえば運用体制であれば各事業部に運用者と承認者を1人ずつおく、最終承認は広報、3か月に一度はログ分析報告会を行うといったことになる。作りっぱなしで終わらないようにしたい(山方氏)
ステップ③合意形成
リニューアル方針を固めていくと同時に、ワークショップを開催して、社内での合意形成を進めていく。参加者が1か所に集まり、ホワイトボードや付箋を使って議論するのが理想ではあるが、現在はコロナ対応で開催が難しいのが実情だ。
ワークショップは多くのアイデアを一度に集められる、いわゆる“自分ゴト”として考えてもらいやすいなど、多くのメリットがある。NECマネジメントパートナーでは、コロナ禍でも省略せず、オンライン形式であっても実施を推奨しているという。
オンラインワークショップは、場所を問わないため参加しやすい、付箋への手書きではなくキーボード入力で意見をまとめられていいなど、意外な好反応もあった。ただ、表情などのリアクションを大きくしないと他者に伝わりづらかったり、長時間参加も難しかったりする 。工夫は必要だが、活発な意見交換はワークショップの醍醐味であり、その後のモチベーションにも繋がるので、効果的に取り入れるべき(山方氏)
ステップ④要件定義(書)
ここまでのステップでまとめられた内容を、「要件定義書」というかたちで1つの文書にまとめる。
要件定義書は、リニューアル全10工程の後半「サイト設計」フェーズを進める上での基盤となる、重要文書である。結論はもちろんそこに至るまでの経緯を盛り込み、かつオーナー(投資判断者・決裁者)の承認を得る目的でも使われる。作成した要件定義書は、原則として内容の変更は行わない。
以上が成果を出すWebサイトにつながる4つの「要件定義」プロセスとなる。
NECマネジメントパートナーでは、サイトリニューアルに関するあらゆる相談を受け付けているという。リニューアルプロジェクトの実施・立案はもちろん、要件定義のさらに前段階、「まずどうしたらいい?」というレベルから支援もできると山方氏はアピールし、講演を締めくくった。
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