リモートワークのマネジメント方法は? キャリアや働き方どう変化する?
2018年から連載を開始した「Web系キャリア探訪」。さまざまな人のキャリアや人材育成についてのインタビューを通して、組織の枠を越えたロールモデルを探ってきた。今回は、第6回に登場いただいたインフォバーン 取締役でマーケターキャリア協会の代表理事でもある 田中準也氏をゲストに迎え、インタビュアーの森田雄氏、林真理子氏とともに、コロナ禍の職場環境の変化やこれからのキャリアについて、参加者の質問を交えながらトークを繰り広げた。
リモートワークは継続中? 家で仕事をする難しさも明らかに
最初のトピックは「コロナ対応のこれまでとこれから」。緊急事態宣言で多くの企業がリモートワークを取り入れ、働き方が大きく変化することになった。緊急事態宣言が明けて、通常出勤に戻った会社、リモートワークと出勤を組み合わせている会社、リモートワークを継続している会社など、対応はさまざまだ。
イベント参加者にアンケート調査を行ったところ、4-9月はなんと60%が「基本テレワーク」と回答、10月以降も44%だった。一方で、「基本出勤」は4−9月は10%未満、10月以降は12%となった。Web系の担当者が多く、比較的リモートワークでも対応しやすい業務が多いためか、多くの人がリモートワークを経験・継続している、と考えられる。
田中氏は、「在宅勤務が続いているのはIT系が中心。その他の業界は、通常出勤に戻っていることが多い」という。また、地方では大都市よりも感染リスクが低いこともあり、通勤している場合も多い。
リモートワークを実施して多くの人が実感したことの一つがオフィス環境の働きやすさだ。当然のようにWi-Fiが使えて、仕事に適した机や椅子が整えられ、空調も管理され、会議室も用意されている。同僚、上司、部下もそばにいるので、話をしやすい。田中氏の会社でも「会社のほうが仕事がはかどるので出社したい」という人もいる。出社は各自2割に抑え、密にならない環境で仕事ができるようにしているという。
家が仕事をする前提の間取りになっていない場合に、「家庭内で働くことで、仕事のパフォーマンスに影響があった人もいる」と森田氏は指摘する。異なる会社に勤める夫婦が、同時にオンライン会議をやると、音声が重なったり、ネットワーク回線が遅くなったりという問題だけでなく、子どももオンライン授業になっていてさらに状況が錯綜するなど、家族全員がストレスを感じるケースもある。
田中氏も、小さい子どもがいるため、子どもを叱ることが増えてしまい、いたたまれない思いをしたことも多かったそうだ。「コロナ禍で、リモートワークをすることになり、働き方だけでなく、生き方そのものも変えられた」というほどに、大きな影響があった。
家の環境を整えるために、通信や机、椅子などの費用を補助する会社もあれば、在宅勤務手当をつける会社もあるが、生活環境は家庭ごとに異なるため、正解がないのが実情だ。
リモートワークでのマネジメントはどうする? 何を評価すればいい?
リモートワークになって、マネジメントする側、される側双方に苦労があると、林氏は議題を挙げる。
リモートで仕事を教える、教わるのは、どちらの立場でも難しい面がある。上司は若手の悩みや不調に気づきづらい。頑張り過ぎてしまう人もいれば、なまけてしまう人もいて、一つのルールを適用しにくい。上司部下が異なる環境で仕事をしているがゆえにプロセスを評価しづらく、成果物での評価にならざるを得ない。そんな声が聞かれます(林氏)
マネージャー層のマネジメントをする田中氏は、この課題に対して共感する。田中氏が所属するインフォバーンでは、リモートワークになったときに、全社員にオンライン会議で経営陣からのメッセージとして「健康が一番」を伝えたという。
出勤するタイミングが合わないと、長期間会わないこともある。出勤していれば声をかけられるが、リモートワークだとそうはいかない。ちょっとした不調に気づきづらい環境だと思う。さぼっているかという点に関しては、社員を信じるしかない(田中氏)
クリエイティブ系の仕事に関しては、働いていることをチェックするような監視系ツールはマッチしないが、勤怠管理はせざるを得ない。経営者の責任として安全配慮義務に加え、働き方改革関連法により労働時間管理が以前よりも厳格になったからだ。
プロセスで仕事を評価するのは、そもそもどの仕事でも難しく、従前から課題だった。『頑張っている/いない』というように雰囲気で評価していたところでさえ、リモートワークによって雰囲気すらわからなくなったともいえる(森田氏)
田中氏は、ミーティングの時間に遅れない、相手を思いやるメールなどの当たり前の行動が評価されるようになったと指摘する。加えて、アウトプットの量と質の両方を評価しないといけないという。
丁寧に仕事をすれば、仕事の質が上がり対価も上がり、ビジネスがうまくいく。成功を因数分解して、ちゃんと仕事をしていることを評価すればいいのではないか。経営者、社員双方で効率的に仕事をするために業務フローを分解して評価する仕組みを合意できればいい(田中氏)
一方森田氏は、社員同士を評価する360度評価をやってみてもいいのではないかと指摘する。
直接見えないリモートワークだからこそ、一緒に働いている人が働きやすいような環境にしているかは評価しても良いだろう。Slackでいつまでも返事がないことがストレスであるというような話は、社員同士での評価としたほうが合理的では(森田氏)
マネジメントの問題としては、1on1でもオンライン環境になると、伝わること伝わらないことがある。
今年はトライアンドエラーの年。本来なら、今後3年かけて、徐々に働き方を変えていくべきところが1カ月で激変した。しかもビジネスを継続して、収益を上げながら、新しい働き方に対応しなければいけなくなった。ちょっと先の未来が急にきたから、マネジメントする側も経験ゼロの状態なので、プロセスを分解して何をKPIにして評価するか、メンバーと一緒に考えていかなければいけない(田中氏)
森田氏はあえて今年は給与に影響する評価はせずに、据え置きにするのも一つの選択肢だという。収益の上げ方やビジネスそのものが変わる可能性もあり、今まで通りの評価が難しいからだ。ただし、その場合は早めにその決定を従業員に周知する必要がある。
各社でも試行錯誤している中、これまでうまくいかなかった手法がマッチすることもあると森田氏は指摘し、全社でリモートワークを実施している企業には、1年後くらいにその成果やノウハウを共有してほしいと期待を込めた。
参加者からの質問にお答え! リモートワークでの社内コミュニケーションは? 後半は、事前に参加者の皆さんから寄せられた質問を林氏が紹介し、森田氏、田中氏が回答するような形で進められた。
質問①
新卒・中途入社の社員と既存社員のコミュニケーションが課題。オンライン飲み会を開催しているものの、効果がない。どうすればいい?
大人数でオンライン飲み会をやっても特定の人しか話さないので、Zoomのブレイクアウトルーム※のような仕組みで、少人数のグループでコミュニケーションをとってもらう方法はどうだろうか。
また、飲み会という方法だけでなく、一つのテーマを設けて皆で議論をしたり、経費で好きなものをデリバリーしてランチ会をしたりするほうが参加しやすいかもしれない。 質問内容が、『仕事上でのコミュニケーションを解決したいのか』『社員同士を仲良くさせたいのか』で対処も変わってくる。仕事上の問題は、交流会では解決できないので、業務的なブレストを実施したほうがいい(森田氏)
※ブレイクアウトルーム:Zoomミーティングを最大で50の別々のセッションに分割できる機能。ミーティングのホストが、参加者を手動、または自動で別々のセッションに切り替えられる。
個人的には、緊急事態宣言当初、物珍しさもあいまってオンライン飲み会をやっていたが、今はやっていない。リアルのものをオンラインで代替する、という取り組みは難しいのでやめたほうがいい。
インフォバーンでも、新卒、中途含め4月入社した人と会えなかったが、9月下期のキックオフでは、管掌部門のうち60人が一斉に集まる場を設けた。ソーシャルディスタンスをとりながらだったが、新入社員が『安心した』と言っていた。すでに仕事はやっていたが3−4人のチームで動いていたので、実際に60人と面と向かって会うことで、仲間がたくさんいると実感したのだと思う。
仕事上のコミュニケーションを増やしたければコミュニケーションのきっかけを作ることだ。無駄な作業になるかもしれないが、例えば、企画書をそれぞれで作ってもらって、その企画案を元に皆で議論するなど、仕事のフローの中でコミュニケーションを増やすのがおすすめ(田中氏)
コロナ禍のキャリア、会社選びはどうしたらいい?
続いて、働き方やキャリアの質問に移っていった。質問に回答する前に林氏は、仕事に求める価値観や、企業と社員の関係性が変化している可能性を指摘した。それがこれからの仕事の選び方、会社の選び方に影響し、キャリア形成において個人の自由と責任が増すのでは、と議題を挙げた。
ウェブ業界に限れば、働き方は変わったが業務は変わっていない。現状、『変化』を感じているのであれば、それは『働く目的や意義』の価値観が変わった可能性が高い。
マーケティング界隈では、パーパスドリブン(Purpose=大義、存在意義)といったキーワードが今年に入ってからさらに話題になっている。働き手と企業のパーパスがあっているほうがいいし、コロナ禍においての経営者の発言、振る舞いに違和感を覚えたなら、別の仕事を選択することもありだと思う(田中氏)
業務のポートフォリオが変わらないのに悩むようになったのは、考える時間が増えたからでは(森田氏)
質問②
休みなく働くようなウェブ業界は、転換期を迎えているのでは?
自分の価値観と会社の価値観が異なってきたら、キャリアチェンジのタイミングか?
仲の良い仲間と前向きに仕事をしたいという理由は転職理由になる?
価値観が違うなら、合う会社が見つかるまで、業種関係なく転職してみたらどうだろうか。休みなく働くという会社は20年前にはあったが、現在はそういう会社は少なく、その環境が珍しいので、他の会社を探したほうがいい。転職理由はなんでもいい(森田氏)
ズレを感じたなら行動を起こしたほうがいい。会社の外に出るのも行動だが、経営者に改善を訴えて戦うのも選択肢。『創業者がどういう思いで会社を作ったのか』を見直してみると、その会社でできることが見つかるかもしれない(田中氏)
質問③
小売からECプラットフォーマーに転職したが、自分のやりたいことはどっちなのか、どっちが安定するのか悩んでいる。
外的要因でキャリアを選ばないほうがいい。自分の岐路はコントロールできるが、外的要因はコントロールできないから。年齢的にもあと20−30年は働くのだから、どんな経験を積みたいかを考えて選択するほうが良い。自分の能力や給料、やりたいことから選んでみてはどうだろうか(森田氏)
業界の安定というよりも、自分の安定を求めているのでは? 判断基準は給料の安定、精神的な安定、なんでもよいが自分中心に考えるほうが良い。安定のために、人脈、スキルなどを増やすために転職してもいいし、事業を起こしてもいい。また心の安定のためには、自分の仕事、日々の活動が誰の役に立っているのかを考えるとよいだろう(田中氏)
質問④
副業、複業はやったほうがいいのか?
今後、副業、複業をする人は増えるのか?
副業、複業OKの会社でも制約条件があるので、現実的には難しいのではないか。パラレルキャリアができる人はセルフブランディングができる一握りの人。複業ができる環境が整っていて、自分を見つける旅としてスキルアップのためにやるのならいいと思うが、お金のためにやるのは難しい(田中氏)
現行の労働基準法は、通算された労働時間で管理されるので、超過勤務になったとき、どの会社が割増賃金を払うか、という問題が出てくる。そのため契約各社同士で労働時間の把握をすり合わせる必要があり、そこがネックになる場合もある※。何を目的にするかだが、スキルに厚みをもたせるためであるのなら、他社で働くよりも、自社内で複数の部署や役割を掛け持ちする、あるいは子会社に出向するなど、やれることがあるのではないだろうか(森田氏)
※厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン(2020年9月1日改訂版)」では、副業・複業の開始前に契約各社の労働時間を上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内としてそれぞれで割増賃金を払うようにする代わりに、労働時間の通算を意識しなくてもよくなる管理モデルを提起している。しかしこのモデルでも、現契約会社での労働時間を減らす雇用の再契約が必要で、労働者自らの意思のみで副業・複業を追加できるわけではないし、単純計算で収入が増えるわけでもない。
質問 ⑤
Web制作アシスタントのアルバイトで新規プロジェクトの立ち上げに携わっているが、精神的な疲労がたまっている。
立ち上げが終わるまで続けたほうがよいだろうか? 数年間はアルバイトを続けながら独学でスキルを身につけるべきか……?
責任感が強い人だと思うが、精神的な疲労がたまっているなら辞めたほうがいい。私が、家族、親戚からこの相談をされたらすぐに『辞めろ』というレベル。自分の代わりはいると思ったほうがいい。家族、パートナーなど近い存在を大事にするべき(田中氏)
ここで相談するくらい参っているなら辞めたほうがいい。技術を身につけるのに数年かけるのは、時間をかけすぎなので、半年実家に帰って半年で好きなスキルを身につけるくらいの規模感が良いのでは(森田氏)
ここで時間いっぱいとなり、イベントは終了となった。
多くの企業が手探りでニューノーマル時代の働き方の最適解を探しているが、まだトライアンドエラーの最中だ。一般的に転職には厳しいタイミングだと言われているが、登壇者が皆自分のタイミング、価値観を大切にキャリアを選ぶべき、という意見だったのが印象的だった。
キャリア探訪でもさまざまな人のキャリアの決断を紹介しているので、それらを参考にしつつ、自分のキャリアを考えてほしい。
ライブ配信した動画はこちら
Web界隈の「私たちの働き方」コロナでどう変わった? どう変わる?
ソーシャルもやってます!