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noteプロデューサー/ブロガー・徳力基彦が語る「コロナ禍で問われたメディアの本質的な価値とは?」

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう2020年。ウイルスと共存する時代に求められるメディア、コンテンツの在り方と可能性について話を聞いた。

2020年は何という激動の年なのでしょうか。

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、外出自粛を余儀なくされる中で、人々の生活や生き方、働き方は、有形無形、規模の大小を問わず、何らかの形で影響を受けています。

三密回避、マスクを手放せない生活、それに伴う事業への影響、有名人の突然の死と、わずか数カ月前には想像もできなかった急激な変化に直面し、今年後半以降、どんな事態が待ち受けているのかと不安を覚えている人も少なくないでしょう。

そのような状況をメディアやコンテンツ制作に携わる人たちはどう捉え、これからどのように行動を改善していくべきでしょうか。

今回はnote株式会社でnoteプロデューサー/ブロガーを務める徳力基彦さんに、ウイルスと共存する時代に求められるメディア、コンテンツの在り方と可能性について話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:豊田 哲也)

「会いに行く文化」の終焉とデジタルシフト

――緊急事態宣言の解除から1カ月半が経過し、人々の生活、考え方、働き方において変化したところ、元に戻ったところと、それぞれの形がおぼろげに見えてきました。「ニューノーマル」という言葉もよく目にしますが、ここまでの流れをどのように見ていますか。

現在進行系なので総括的な話をするのは難しいですが、何かが変わってしまったのは間違いないところです。

人と対面で話をしたり、握手をしたりすることが、誰かの命を危険にさらすリスクのある行為となってしまった現実は、意識するしないにかかわらず、多くの人の精神面に少なからぬ影響を与えていると思います。では、ワクチンや治療薬が開発されれば完全に元の生活に戻れるかというと、そうではなく、ビジネスを営む我々はもう元には戻らない前提で考えておく必要があります。

――具体的にはどのような変化が起きるとお考えですか。

誤解を恐れずにひと言でまとめると、「デジタル」というキーワードに総括されます。テクノロジーの進化によって、今、リアルとは別の世界がデジタル上に存在しています。

日本は国土が狭く、交通網が発達していますので、これまではデジタル技術を使わなくても、消費行動に大きな支障は生じていませんでした。ビジネスシーンにおいても、直接会って打ち合わせをするのが一般的で、例えば「東京―大阪」間を新幹線で日帰り出張することに何の疑問も感じなかった人は多かったと思います。

私はもともとNTTでテレビ電話システムの法人営業をしていたのですが、「会いに行く文化」の日本では、絶対に流行らないだろうと当時、考えていました。現在でも、コロナが流行する直前までは、ビデオ会議システム自体は進化しているのに、多くの人たちが出張で日本中を往来していました。それがWebサービスのセールスであったとしても、クライアントから「一度弊社まで説明しに来てください」と対面でのコミュニケーションを求められてきたわけです。とにかく詳しいことは会ってから話しましょう、会うまでは信頼できませんというのが、日本のビジネスで慣習になっていて、そこに問題意識を持つ人はそれほど多くなかったと思います。

そのため、技術自体はビジネスコミュニケーションに十分耐え得るレベルまで進化していたにもかかわらず、デジタル化の進捗は企業の規模を問わず、遅れている状態でした。企業だけでなく、学校も同様です。

ところが、コロナ禍の到来で、デジタル化を事前にどこまで進めていたかが、企業の明暗を分ける1つのポイントになりました。もちろん、業種や職種にもよりますが、デジタル化を進めていた企業の多くはそれほど決定的なダメージを受けていないし、中には業績を大きく向上させたところもあります。

私はここにヒントがあると思います。インターネットの普及から約30年が経ち、人類の叡智としてデジタルの世界を成立させる技術や手段をすでに手にしていたにもかかわらず、これまではリアルの世界に依存しすぎていました。このまま元の生活に早く戻ることを期待し、変わることなく手をこまねいていると、気がついたときには取り返しのつかないことになっているおそれがあります。

一方で、デジタルをフル活用すれば、リアルにかなり近いレベルのコミュニケーションやビジネスができますし、飲み会だって成立します。コロナウイルスに対する有効な治療薬が出てくるまで、リアルで会うのは、いわば「究極の贅沢」になるでしょう。

今、日本企業、日本人全体がデジタルシフトに本気で取り組むべきタイミングだと思います。そして、デジタル上でコミュニケーションを完結させても会社が成長することを示し、コロナ禍というネガティブインパクトをポジティブに変える努力をすべきです。

これを半年前に言っていたら鼻で笑われたに違いありません。今、それくらい急激な変化に直面しているということです。

リアル同様の臨場感を実現するデジタルの可能性

――コンテンツの在り方についても、コロナ禍で変化が見られました。

コンテンツに関しては大きく2つの話があると考えています。1つ目はいわゆるZoomエンタメ、リモートエンタメと呼ばれる世界の活性化です。

象徴的だったのは映画『カメラを止めるな!』のスタッフや出演者が、『カメラを止めるな!リモート大作戦!』という短編映画を作ってYouTubeに公開したことです。配信日は5月1日と動きが非常にスピーディでした。

また、「劇団ノーミーツ」は2時間半にも及ぶ長編の生演劇をZoomで行い、2500円のチケットで約5000人の動員に成功しています。これは演劇界に衝撃が走りました。会場代を支払わずにこれだけのお客さまに見ていただけるのなら、Zoom演劇のほうが利益を上げられるのではないかというわけです。劇場まで足を運ばなくても自宅で見られますから、普段演劇に興味のない人や地方在住の人も気軽に視聴できる点が大きかったでしょう。工夫次第でエンタメやコンテンツの可能性をさまざまな角度で広げることができるとわかったのは良いニュースでした。

今後、ライブハウスや映画館、劇場など三密状態が避けられない箱型のエンタメが、チケット代を高額にして、体温検査をパスした人しか入れないようなプレミアムコンテンツ化するのであれば、もう1つの手段として先ほどのビジネスの話と同様、デジタルシフトで利益を上げる方法を模索すべきだと思います。

――ビジネスはわかるのですが、エンタメやスポーツの場合、デジタルでリアルのような臨場感や迫力、感動を味わえるのでしょうか。

「フォートナイト」というサバイバル系のアクションゲームをご存じですか?建築物やマップなどを作りながら、敵味方に分かれて銃で戦うゲームで、クラフト的な要素は昔のセカンドライフを思わせる仕組みです。

そこにトラヴィス・スコットという有名なアーティストがステージを作ってバーチャルコンサートを行いました。フォートナイトには世界中に多くのプレイヤーがいるのですが、通常はシューティングゲームをしている世界で、自分のアバターを使って聴衆となり、コンサートを楽しむんです。

これが今、リアルとは別に存在するデジタルの世界で起きていることであり、こうした技術を応用することでバーチャルでありながら生身に近い体験をデジタルの中でできるかもしれません。さらにVRゴーグルなどを組み合わせることで、三密を回避しながら、三密の頃に匹敵する本物の体験に近い感覚を味わうことさえ可能になっていくでしょう。

求められるビジネスの価値と存在意義の再定義

――それはすごいですね。デジタル化によって明るい未来が見えてきた気がします。2つ目のポイントは何でしょうか。

2つ目のポイントは、コンテンツ制作に携わっている人たちの考え方についてです。自分たちのコンテンツが誰に向けて何を提供しているのか、あらためて真剣に考えるべきだと思います。

わかりやすく伝えるために、飲食店を例に挙げます。例えば、唐揚げ屋さんが「自分たちは、唐揚げをお店に食べに来てもらうビジネス」と定義すると、三密の呪縛からは逃れられません。しかし、「美味しい唐揚げを食べてもらうビジネス」だと捉えると、お客さまの自宅にデリバリーしても、通販で販売してもいいし、唐揚げの作り方を教えてもいいわけです。

「自分の店を持つのが夢だった」という気持ちはわかります。しかし、それではコロナ禍が長期化したり第二波が来たりしたときに、ビジネスが終わってしまいかねません。

アパレルにしても、我々はお店で服を売るビジネスだと考えるのか、お客さまがファッションを楽しむための仕事だと定義するかで、店舗の位置づけやポートフォリオの組み方を変えられるはずです。

スポーツでも、観戦のためにスタジアムに足を運んでもらうビジネスと考えてしまうと、コロナ禍が収束するまで無観客でしのぐという発想にとらわれてしまいがちですが、スポーツで人々を感動させるビジネスだと捉えれば、もっといろいろな手段があると思います。

最近「ブランドパーパス」という言葉を目にしますが、自分たちのビジネスはそもそも何を提供しているのかを一度俯瞰して考えることが大切です。

コロナ禍で向上した既存メディアの信頼性

――納得感が強いです。次に、これはコロナ以前から指摘されていることですが、SNSなどを通して個人の情報発信が盛んになる一方で、既存メディアがSNSに後れを取るケースが目立つようになりました。コロナ関連の情報も専門家らのTwitterやnoteで知ったという人は多かったと思います。そんな中で、これから既存メディアの存在価値はどうなっていくとお考えですか。

私は逆にコロナ禍によって、商業メディアの存在価値は上がっていると考えています。それは「信頼」という言葉で表現できるでしょう。

SNSによって個人が手軽に情報発信できるようになった結果、メディアビジネスの希少性が薄れたのは確かです。しかし、「エデルマン・トラストバロメーター」(※)が5月14日に公表した調査を見ても、パンデミックの状況下においてトラディショナルメディアの信頼度が2018年以来初めて検索エンジンを上回ったという結果が公表されています。

【出典】
※「2020 エデルマン・トラストバロメーター 中間レポート(5月版):信頼とCOVID-19パンデミック」(エデルマン・ジャパン株式会社)
https://bit.ly/3g8H1yM

個人がそれぞれの立場で意見を発信するのも価値のある行為ですが、専門家会議でさえ意見が分かれるコロナ禍のような事態が起きてしまうと、それによって真偽不明な情報が飛び交う傾向が見られます。

そのような状況下だからこそ、専門家やトレーニングを積んだ記者のフィルターを通して、より正確な情報を出そうと努める商業メディアの価値が見直されています。商業メディアはこのポイントをずらしてはいけないと思います。

また、新聞記者がよくハマる罠ですが、自分の取材と記事が商業メディアにおける価値だと捉えている方がたくさんいらっしゃいます。そうではなく、商業メディアの価値は「編集」にあるというのが私の考えです。どの情報を掲載して、何を載せないか。どのニュースを強調して、何を小さく扱うか。それによって、重要度の高低を読者に伝えるわけです。それは紙媒体でもWebメディアでも同じ。情報の取捨選択や強弱を編集という形で表現する重要性が私は上がっていると思います。

もちろん、その一方でビジネスモデルをどうするかという点は別問題です。

不毛なPV獲得競争から抜け出す取り組みを

――おっしゃるとおり、ビジネスモデルについては試行錯誤しているメディアが多いと思います。

1つ注目しているのは、「コレスポンデント」(De Correspondent)というオランダ発祥のWebメディアです。コレスポンデントは特派員という意味ですが、クラウドファンディングで立ち上がったメディアで、ニュース速報を流さず、特定のテーマを掘り下げていく「スロー・ジャーナリズム」を掲げています。

今のインターネットメディアはどうしても広告収入に頼ることが多いので、ページビューを増やすために速報性や「バズ」に意識が向きがちです。その結果、より扇情的な見出しを話題のトピックにかぶせて読者を釣る形になっているケースがしばしば見られます。

一方、コレスポンデントは、クラウドファンディングによって成り立っていることもあり、読者が何を求めているかを聞いてから、自分たちが読者の代わりに取材して、深掘りした結果を長文の記事にまとめるスタイルです。

これは表層的な情報が大量かつ瞬時に消費されていくソーシャルメディアで実行するのは難しいでしょう。私は「広いメディア」と「深いメディア」という言い方をするのですが、広いメディアはポータルサイトやソーシャルメディアが引き続きカバーしていくはず。これからはコレスポンデントのようなアプローチの深いメディアの価値が見直されていくと考えています。それによって、ひと口に「メディア」と呼ばれるものの中で、役割分担やビジネスモデル、存在価値などによる組み分けがこれから生じてくるのではないでしょうか。

その際に大事なことは、そのメディアの記事がお金を払ってでも読みたいと思われるレベルであることです。購読料の対価として十分な価値を提供できるかどうか。それがネットメディアの抱えるページビュー獲得競争のつらいサイクルから抜け出す1つのポイントになるでしょう。

――コレスポンデントの取り組みは興味深いですね。

実はもう1つ注目すべき点があります。

サブスクリプション型のクローズドなメディアでありながら、コレスポンデントは、会員である私がTwitterでシェアをすると、会員でない人もツイートのリンク経由で記事を読めるんです。クラウドファンディングとサブスクで運用費用を賄えていることがその仕組みを可能にしています。

一般的には有料メディアの記事をシェアしても、購読していない人は読むことができません。そうすると、有料メディアの記事を語りたくても語りにくいので、次第にシェアしなくなります。その結果、話題に上る機会も自然と減少していきます。

一方、コレスポンデントは会員がシェアをすると、誰でも記事を読めますので、内容が話題になりやすく、メディア側としては宣伝になります。つまり、お金を払った会員が無料で宣伝している形になるんです。お金を払った側は優越感を味わえ、シェアされた側は「なんだ、有料記事か」と不快にならない上、メディア側は無料で会員に宣伝してもらえるわけですからWin-Win-Winの関係を築けていると言えます。

そのような形で、インターネットメディアは広告収入だけでなく、課金と広告を組み合わせたポートフォリオを模索する必要があると思います。会費だけにすると、会員獲得に必死になるうちにシュリンクする方向へ向かいがちですが、会費に加えて広告をボーナスにできると、メディアとしては強くなります。

※後編はこちら

Profile
徳力 基彦(とくりき・もとひこ)
note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー。
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー。
1972年生まれ。NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。
note株式会社では、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。
個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載など、幅広く活動。著書は『顧客視点の企業戦略』『アルファブロガー』など。

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちらnoteプロデューサー/ブロガー・徳力基彦が語る「コロナ禍で問われたメディアの本質的な価値とは?」

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