外国人の消費額が10兆円突破、ニーズが加速する「Webサイトの多言語化」ノウハウと5つの重点領域
訪日外国人旅行者は3,000万人、在留外国人が270万人を超えている。また、日本国内における外国人の消費額は約10兆円に達しており、外国人に関わる市場が成長を遂げている。一方、日本のサイトの多言語対応は後れをとっている。
SaaS形式のWebサイト多言語化ツール「WOVN.io」を手がけるWovn Technologiesの上森久之氏が、「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇。多言語対応の課題やノウハウを解説した。
国内における外国人の消費額は10兆円
上森氏はまず、外国人に関わる市場成長について触れた。
訪日外国人旅行者は3,000万人、在留外国人が270万人を超えている。LCC(格安航空会社)の普及などにより「2018年には全人類の約20%が海外旅行をしており、日本国内における外国人の消費額は約10兆円に達している」と説明。その10兆円の内訳は「インバウンドの消費額が約4.5兆円、在留外国人の消費額が約4.9兆円」であるという。
市場規模が拡大しているにも関わらず、日本では、多言語化対応が後れているという。その原因として、「話しコトバと読みコトバの違いの難しさがある」と上森氏は指摘する。
英語はアルファベット26文字であるのに対し、日本語は一般的な日本人が使う漢字で2,000文字以上の文字数がある。日本語を“話せる”人でも、日本語を“読む”のに苦労している人は多い。
MX(Multilingual Experience)が重要
さらに、在留外国人が270万人もいるということは、さまざまな業種で、外国人が仕事に従事している状況だといえる。
これまで、企業にとってのCX(顧客体験)やEX(従業員体験)は日本人に向けた、日本語での体験が対象だった。これからは外国人の多言語体験である、MX(Multilingual Experience)も含めて高めていく必要がある(上森氏)
また、在留外国人の母国は、中国、韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなどが多い。多言語化というと英語や中国語対応と捉えられがちだが、今後はこれらの国の母国語に対応していく必要がある。
Web多言語化の3つの段階
Webサイトを多言語化するには、一般的に3つの段階があると上森氏は説明する。
① 言葉の変換(Transfer)
1つ目は、「言葉の変換」(Transfer)だ。デザインルール、言語ルールに基づいて機械的、絶対的な翻訳を行う段階だ。多言語化の第一歩ともいえる。しかし、サイトの文章をそのまま機械的に翻訳するため、サイトのレイアウトが崩れたり、翻訳文の意味がおかしかったりするため「ズレが起こりやすい」という。
② 適応(Adaptation)
2つ目は「適応」(Adaptation)である。一般的に、カルチャライゼーション(対象地域の文化に合わせて、コンテンツを改変すること)と呼ばれる段階だ。たとえば、「仮面ライダー」をストレートに翻訳すると「Masked Rider」となるが、ヨーロッパでは「Kamen Rider」と表記する。このように地域や相手、法律などに応じて相対的に変更することが「適応」の段階である。
③ 最適化(Optimization)
そして、3つ目が「最適化」(Optimization)だ。適応を一歩進め、データや戦略に基づいて最適化を行う段階となる。
Webサイト多言語化の「5つの重要領域」
次に上森氏は、Webサイトの多言語化で必要となる領域について説明をした。「多言語化を進める」というと、「翻訳」だけすれば良いと考える人も多いだろう。しかしWebサイトの多言語化において、翻訳は一つの要素に過ぎないという。
具体的には、次の5つの要素で対応していく必要がある。
- 翻訳(Translation):人工知能(AI)やMTPE(Machine Translation Post Editing:機械翻訳後、ポストエディットすることで翻訳品質を上げること)、専門翻訳などを適材適所で使い、パーソナライズされた用語集を作る
- UI/UX:フォントやレイアウト、ブラウザーや端末、画像などを、言語ごとに切り替え、自動調整する
- 通信(Data com):越境ECなどにおいては、外国からサーバーのある日本への通信が遅くなる。CDNによるグローバル通信や、クラウドインフラのオートチューニングなどが必要
- データ(Marketing):多言語SEOや多言語の広告など、データのマーケティングへの活用
- 運用(Operation):Web、アプリ、オフラインなどでの運用の一元管理や、RPA(Robotic Process Automation)、BPA(Business Process Automation)などを用いた運用の自動化
運用面ではガバナンスが重要
上森氏は、このほかのポイントとして、運用面での「ガバナンス」の重要性を示した。「用語集の改善サイクルが、ガバナンス強化につながる」として、ホールディングスやグループ会社などで言語の資産化を図っていくことが大切だという。
また、SNSや検索エンジンは各国で異なる。ツールやサービスによってユーザーを制約するものがあったり、GDPR(EU一般データ保護規則)など各国の法規制があったりする。これらにも十分留意する必要がある。
さらに、翻訳については機械翻訳と人力翻訳には精度に差があると述べ、「翻訳箇所をどこにするか」「翻訳方法と精度の定義」「商品やブランドの英語表記の定義と統一」「運用責任者、担当者の体制決め」などに気をつけてほしいとアドバイスした。
MX最適化ツール「WOVN.io」
上森氏が紹介するSaaS形式のWebサイト多言語化ツール「WOVN.io」は、「一言でいうと、Webサイトやアプリのローカライズを高精度で行えるツール」である。Wovn Technologiesがこれまでに支援した15,000以上のサイト多言語化のノウハウを活かし、エンジニアや翻訳者がいなくても最高のMXを提供できるという。
これまでサイトの多言語化といえば、SI事業者が1社1社のシステムを個別受注で作っていた。WOVN.ioは、個社ごとの開発が不要なSaaS形式で提供されている。
「WOVN.io」の基本操作とフロー
上森氏はデモを通じて「WOVN.io」の基本操作とフローを下記のように説明した。
- まず、対象となるWebサイトをシステムに登録すると、ページのリンクが一覧化される
- 次に、サイトの中から単語を抽出し、商品名などの「揺らぎ」を統一する用語集を作成する。これは、ブランドなどの表記のための、対訳のマスターデータとなる
- 機械翻訳でサイト全体を変換し、その後、テキストやタグ、リンク、画像、CSSといったサイト要素を編集し、公開する。
「WOVN.io」の特長
「WOVN.io」の特長は、多言語化の豊富なノウハウが蓄積されている点だ。日本語ページから、テキストやUI/UXをそのまま多言語に入れ替えることができる。静的ページだけでなく動的ページにも対応し、テキストやデザイン、サイトの動きなど、従来の翻訳ソフトではカバーできない領域にも対応する。
「たとえば、Google翻訳で機械翻訳をかけると、一般のWebサイトでは、誤訳があったり、レイアウト崩れが生じたりする。一方、『WOVN.io』では対象の言語に最適化される」(上森氏)。さらに「日本語での検索をかけられるようにするため」に、英語(アルファベット)だけでなく漢字を残す配慮まで行うという。
「WOVN.io」の導入例
「WOVN.io」はすでに多くの企業での導入例がある。たとえば、メガバンクでは、外国人の口座開設ニーズが高まるなかで、国内に数百店舗における窓口対応に限界を感じていたという。
開設手続き前の説明を聞くために来店する外国人客が多いことがわかったため、中国、タイ、ベトナムなど5カ国語で、口座開設のための説明ページを多言語化。事前説明はWebでセルフサービス化し、有人の窓口では、開設手続きに注力できるようにした(上森氏)
また、これまで日本語のみだった大手クレジットカード会社のWebサイトも、「WOVN.io」によって在留外国人向けにローカライズ。その結果、機会損失を回避することができたと上森氏は説明する。
このほかにも、10カ国以上の海外ファンに情報伝達を行う大手玩具メーカーの事例や、海外取引先、従業員向けの情報提供として多言語化に取り組む大手カー用品チェーン会社、あるいはアジアなどから若い女性が多数来店する商業施設の事例などが紹介された。
最後に上森氏は、次のように述べ、セッションを締めくくった。
今後、多言語化の運用は人力から自動化へ変化していく。外国人の多言語体験を最適化したいと考える企業は、ぜひ気軽に相談してほしい(上森氏)
また、記事の内容をより詳細に知りたい場合は、上森氏が執筆する「Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化」(日経BP社)が参考になるだろう。
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