ニーズの高まる「Webサイト多言語化」~課題解決に必要な5つの重点領域とは
2020年以降を見据え、インバウンド(訪日外国人旅行)や企業の海外進出、越境ECなどが増加し、外国人にリアルタイムに情報を発信したいと考える企業が増えている。
しかし、Web多言語化にはシステム開発や運用面などの課題があり、日本企業は海外に比べ後れをとっている現状がある。「Web担当者Forum ミーティング 2019 春」では、15,000以上のサイト多言語化を支援してきたWovn Technologiesの山下氏が、Web多言語化の課題解決に必要な「5つの重点領域」を示した。
訪日・在日外国人の増加で高まる「Web多言語化」ニーズ
山下氏はまず、「Web多言語化」に関するニーズの高まりの証左として、4つの数字を紹介した。
- 訪日外国人数
- 世界の越境EC市場規模
- (国内における)在留外国人数
- (国内における)外資系企業数
訪日外国人数は3000万人を超え、2020年に向けて大きな成長を続けている。また、在留外国人は270万人を突破、2022年には370万人以上が見込まれるなど今後も増加傾向にあり、越境EC、外資系企業数とも増加傾向にある(山下氏)
日本政府の目標として、訪日外国人による消費額は、2030年には約15兆円が見込まれ、企業にとって大きなビジネスチャンスとなっているというのだ。
また、日本には「労働力人口の減少」という課題があり、その解決のために、在留外国人の受け入れが今後さらに進んでいくことは間違いない。
Web多言語化を阻む「システム開発」「翻訳」の壁
こうした状況下で、外国人への情報提供は社会課題の一つとして認知されている。たとえば、災害時に鉄道の遅延、運休などの情報をどのようにリアルタイムに、正確に届けるかという課題だ。
一方で、「Web多言語化」は単にWebサイトの言語を翻訳すれば完了するものではない。「ローカライズ」という言葉は「ある国を対象に作られたものを、ほかの国でも使用できるよう対応させること」を意味する。翻訳だけでなく、慣習や文化、法律なども考慮しながら最適なUIを検討していく必要があるのだ。
たとえば、ビジネスチャットツールの「Slack」が日本語版を公開した際には、サイトテキストの翻訳だけでなく、日本人になじみのある「送信ボタン」を設置した(山下氏)
しかしながら、Web多言語対応には大きな2つの“壁”がある。
1つは、「システム開発の問題」だ。英語や中国語、韓国語というように、言語ごとにシステム開発のコストがかかるため、開発費が倍々ゲームにふくれあがってしまうのだ。システム運用の問題や、上述したようなUI/UXの課題も挙げられる。
2つめは、「翻訳の運用」だ。多言語化に欠かせない翻訳スタッフを自社で抱えるか、クラウドソーシングなどでスポットで対応してもらうかという問題があるし、リアルタイム性を高めたければ翻訳コストは高くなる。翻訳品質をどのように保つかといった問題とあわせ、ビジネス課題にあった翻訳体制、運用が求められているのだ。
課題解決に向け考慮すべき「5つのポイント」
では、これらの課題をどのように解決し、Web多言語化を進めていけばよいか。山下氏は課題を5つの領域に整理することが有効だと説明した。
- 翻訳(Translation)
- デザイン(UI/UX)
- 運用(Operation)
- データ(Marketing)
- 通信(Data com)
ポイント①:翻訳
山下氏は、翻訳において考慮すべきポイントとして下記を示した。
- 翻訳方法の選択
- 専門用語集(辞書)の整備
- 動的ページ対応
翻訳そのものにおいては、「機械翻訳」「MTPE(Machine Translation Post-Editing:機械翻訳+ポストエディティング)」「専門翻訳」という選択肢がある。
機械翻訳については、ここ数年、特に長文の翻訳精度が高まっているものの、性質上、短文や固有名詞に弱点がある。カレンダーの曜日の「火」を「Fire」と訳すなど、予測できない翻訳をすることがあるため、誤訳があった際のリスクを検討することが大事だ(山下氏)
また、翻訳データベースの整備も重要なポイントだ。言語ごとにデータベースを整備し、コーポレートサイト、メディア、EC、モバイルアプリというように複数のチャネルに活用できるような「翻訳データの資産化」が必要になってくる。
ポイント②:UI/UXデザイン
UI/UXデザインについては、下記のポイントがある。
- フォント・レイアウト
- ブラウザ・端末
- 画像
- 言語自動切り替え
よくある事例として、翻訳による「レイアウト崩れ」の問題がある。日本語サイトを単純にGoogle翻訳などで変換すると、誤訳や意図しない改行、画像消滅といったレイアウト崩れが起こる場合がある。
ポイント③:運用
運用では、下記のような一元管理や運用自動化によって、運用負荷を軽減していくことが重要なポイントとなる。
- 日本語サイトと多言語サイトをリアルタイムに同期
- サイト企画、設計・制作、実装、運用・保守といった各フローにおいて、言語ごとに個別のWeb制作を必要としない
- 運用の自動化
- 翻訳資産の一元管理
ポイント④:データ
「データ」の領域で考慮すべきことは、多言語化コンテンツのSEO対策だ。「特に、海外では国ごとによく利用される検索エンジンが異なる場合がある」と山下氏は述べる。どの言語で検索しても、自社のサイトが見つかりやすくなるよう、検索エンジン対策を進めておく必要がある。
ポイント⑤:通信
サイトのパフォーマンスも考慮すべきポイントだ。通信速度を損なうことなく海外からサイトにアクセス可能にするため、CDN(Content Delivery Network)を利用するなど、インフラ面を整備することが重要だ。
15,000サイト以上に導入されたWeb多言語化サービス
こうした5つの領域をすべて統合したWeb多言語化ソリューションが、Wovn Technologiesの提供する「WOVN.io」だ。SaaS形式で提供され、顧客企業のサーバーと「WOVN.io」のサーバーが同期。適切な翻訳方法を選択することで、即時の情報提供や、高品質に翻訳されたページを、多言語で来訪者に配信している。
年間50以上の新機能をリリース、海外SEOにも対応しており、大企業を中心に、15,000サイト以上の導入実績がある。最近では、外国人向けにリアルタイムな情報発信のニーズが高まっていることから、鉄道業界における導入事例も増えているという。
その特長は、「SaaS形式で提供されるサービスサイト」「EC・メディア」「コーポレートサイト」といったサイト属性、「訪日外国人」「在留外国人」「在外外国人」「日本人(日本に進出する海外企業)」といったサイト対象者ごとにビジネスシナリオが対応している点だ。
例えば、「SHIBUYA109」では、ファッションショッピングモールとして、「システム開発費の増大」「商品点数が膨大でPV数も多く改修が容易ではない」といった課題を抱えていた。
これに対し、「WOVN.io」を導入、自動翻訳アルゴリズムが理解できるようなページ動線、構造とし、アパレル特有の固有名詞を用語集に登録するなどの施策を実行した結果、1000万円以上見込まれた初期コストを半分以下に抑制したという。
さらに、用語集の活用で多言語化サイトの自動運用を実現し、海外アクセスの直帰率は半分以下に減少。店舗での外国人接客ツールとしても活用される副次効果が得られた(山下氏)
Wovn Technologiesのミッションは「Localize the Internet」だ。これは「日本だけにとどまらず、世界中のソフトウェアとインターネット空間に流れるデータをローカライズする、世界的な黒子企業になること」だという。
山下氏は「Webサイト多言語化に課題を持つ企業はぜひご相談いただきたい」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。
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