漫画村の裏サイトで表示されていた広告。広告費を不正にかすめ取る「裏広告」の実態
この記事は、書籍『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているもの。
広告業界をむしばむ「アドフラウド」
巨大海賊版サイト・漫画村を追跡してきた私たちが目の当たりにしたのは※、インターネットの成長とともに急激に拡大してきたネット広告市場を狙い、分け前を不正にかすめ取ろうとする「裏広告」という手法だった。
それは「アドフラウド」と呼ばれるネット広告の深い闇の一端だった。そこには、海賊版サイトの閲覧者はもちろん、広告主や広告配信事業者ですら気づかない、巧妙な仕掛けが施されていた。
アドフラウドの一般的な定義は、次のようになっている。
国内の主要なネット広告配信事業者や広告代理店など270社余りが加盟するネット広告の業界団体、一般社団法人・日本インタラクティブ広告協会(JIAA)。
同団体が2017年に発表した「アドフラウドに対するJIAAステートメント」では、アドフラウドを「自動化プログラム(Bot)を利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、インプレッションやクリックを稼ぎ、不正に広告収入を得る悪質な手法」として、「広告費を欺瞞的に詐取する」行為と位置付けている。
それだけでなく、本来ならば、きちんとした媒体社に支払われる広告費を、不当に横取りする行為だと指摘し、「業界の健全性を保ち、会員各社が持続的成長を遂げるために、『アドフラウド』対策を推し進める必要がある」として、対策が急務であると呼びかけている。
※ 本書第2章に記載。本連載では記載しない。
人々が寝静まったころに活動する「ボット」
JIAAのステートメントの中で指摘されている「Bot(ボット)」とは、どのようなものなのか。
ネット広告の1つ、インプレッション課金型広告は、配信されたタイミングで広告費が発生し、配信数に応じて広告費が支払われる。仮に人が見ていなくても、何らかの方法でネット広告の配信数を水増しし、それが実績としてカウントされれば、相応の広告費が支払われる。
たとえばもし、ウェブサイトの運営者が「ページビュー(PV)」の数を増やそうと考え、自分自身で何度もページの再読み込みを手動で行えば、そのたびにネット広告が配信されるので、その分が実績としてカウントされ得る。さすがにそこまで単純な手法は配信事業者も想定しており、このような再読み込みを考慮しないような対応を取っている。
「ボット」と呼ばれる自動プログラムはこれと同じ発想で、機械的に閲覧数を水増しする。ボットはパソコンなどの端末を自動的に特定のウェブサイトに訪問させて、そのサイトのアクセス数を意図的に増やす。
人ではなく「ロボット」がアクセスするので、ボットと名付けられている。このボットを使えば、サイトの運営者は、たいしたコンテンツを掲載しなくてもアクセス数を稼げて、より多くの広告費を得ることができる。実際に広告を見ているのは人ではなく、ロボット。広告費を支払い、出稿している広告主はたまったものではない。
ボットの実態はわからないことが多いが、その活動の様子を示す、興味深い動画がある。アメリカ・ニューヨークに本社のあるネット広告の効果検証/調査会社であるインテグラル アド サイエンス(IAS)が作ったものだ。
この会社は広告主から依頼を受け、広告がどのようなユーザーに配信されたのか、24時間計測を行っている。広告が閲覧された時刻や、閲覧端末がパソコンかスマートフォンか、OSのバージョン、IPアドレスなど、さまざまな情報を集めている。
アクセスされる時間、場所、クリックされるタイミングやマウスの動きなど、過去の膨大な計測データからIASでは独自にボット特有の動きを見分けることが可能だ。
動画は、そのボットがアメリカのどこからアクセスしてきたか、活動の頻度を地図上に色の濃淡で示し、1週間のボットの活動状況を時間経過とともに可視化するものだ。
これを見ると、日中はボットの活動が鈍く、暗い色で表示されていた地図が、人々が寝静まる深夜になると明るくなり、ボットの活動がとたんに活発になることがわかる。
人の活動しないタイミングでボットが活発に特定のサイトへのアクセスを行い、広告の閲覧数を水増ししているのだ。そして、人々が活動を始める朝になると、再びボットの活動は静まり、地図全体が暗くなる。
私たちはIASの本社を訪ね、話を聞いた。担当者によれば、ボットは、人々が普段使っているパソコンやスマートフォンの中にアプリなどを装って入り込んでおり、人々の活動しない時間帯を狙って活発に活動するようプログラムされているのだという。
ボットによるアクセス数水増しの不正が行われるのは、表示されただけで広告費が発生するインプレッション課金型に多いが、最近は自動的にクリックしたり、資料請求やアプリのダウンロードまでしたりするボットもあると言われ、クリック課金型、成果報酬型の広告でもボットの被害が確認されている。こうした技術は日々新たに作り出されるため、調査会社もすべてのボットを検知することは現段階では難しいという。
この記事は、書籍『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているもの。Web担サイトでは書籍の以下ページを3回に分けて特別公開。
- 第1回:明らかになった「ネット広告の“闇”」 広告費はどこに消え、誰が儲けているのか?(P3~P6)
- 第2回:漫画村の裏サイトで表示されていた広告。広告費を不正にかすめ取る「裏広告」の実態(P124~P128)
- 第3回:ネット広告に広がる(P188~P199)
特別公開に許諾いただいたNHK出版には感謝申し上げるとともに、インターネットを利用するすべての人に読んでもらいたい1冊。
暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴
インターネットを利用するすべての人が読むべき1冊
急成長を遂げ、年間売上1兆8000億円に迫ろうとするネット広告市場。近いうちに地上波テレビを追い抜き、「広告の王者」になると目されている。
しかしその巨大市場の奥底で、ネット広告特有の複雑な仕組みを逆手に取って、不正に金儲けを行う者が存在する。
NHKクローズアップ現代+「追跡! 脅威の“海賊版”漫画サイト」「追跡! ネット広告の“闇”」「追跡! “フェイク”ネット広告の闇」を放送し、大きな反響を集めた「クローズアップ現代+」取材班が、現在のネットビジネスが抱える問題点を徹底追跡。
目次
- はじめに
- 第1章 肥大化するネット広告──ニセ広告が作られるわけ
- 第2章 巨大海賊版サイトとネット広告
- 第3章 あなたの税金も狙われている
- 第4章 闇に消える広告費 ──儲けているのは誰だ!?
- 第5章 ネット広告不正をなくすために
- おわりに
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