吉野家×東急ハンズ×AbemaTVに学ぶ「Twitter、Instagram、TikTok」の最新活用事例
ソーシャルメディアを使い分け、企業とユーザーが積極的にコミュニケーションをとることが増えている。TwitterやInstagramなどで話題を作り出した、企業アカウント運用者たちはどのようにブームを作り出しているのか。
LINEが主催するマーケター向けのオフ会「LINE Marketers Meetup Ⅱ」第4部は、吉野家(@yoshinoyagyudon)の田中安人氏、サイバーエージェント(@AbemaTV)の玉田理沙氏、東急ハンズ(@TokyuHands)の本田浩一氏の3人がパネリストとして登壇し、モデレーターはLINEトラベルjpの高木翔太氏が務め、各社のソーシャル活用の事例を語った。
競合他社を巻き込んでブレイク! 外食戦隊ニクレンジャー
高木氏(以下、高木): 最初に、活用事例からお聞きしていきたいと思います。まずは、Twitterで話題になった吉野家さんの「ニクレンジャー」*1の誕生秘話などを教えてください。
*1:ニクレンジャーは、吉野家のよびかけに応じたガスト、ケンタッキー、モス、松屋が、Twitter上でコラボした「外食戦隊ニクレンジャー」のこと。
\外食戦隊 #ニクレンジャー/
— 吉野家 (@yoshinoyagyudon) 2018年7月12日
全員集合!!!
ボツ企画からTwitterを通じてこんなコラボができるなんて思ってもいなかった(゚Д゚;)
ニクレンジャーのみんなに感謝だし、フォロワーさんたちも盛り上がってくれて嬉しかったよ(●´ω`●)
これからもよろしくお願いします😊🎶 pic.twitter.com/xtOELm3hHO
田中氏(以下、田中): 外食戦隊ニクレンジャーオレンジの田中です(笑)。実はこの企画、ボツになった企画なんです(ぼくがボツにする企画はブレイクするっていう…)。いったんボツにはしましたが、Twitterで「ボツ企画」としてつぶやいたところ、ガストさんがのってきてくれて、最終的には競合である松屋さんものってきてくれたんです。ここまで拡散された要因としては、3つあると思っています。
- 競合企業である松屋さんも参加してくれたこと(アルバイトの女性がイエローレンジャーを描いたようです)
- AKBの音楽制作をされている方が、ニクレンジャーに音楽作ってくれたこと
- 俳優の山田孝之さんが、ニクレンジャーについてつぶやいてくれたこと
外食産業のなかで我々は、日々しのぎを削っています。しかし、お客様からするといろんなところで、食事をしますよね。つまり、お客様の「食の時間」を、たくさんの外食ブランドとシェアしているわけです。
そういった経緯から、2018年11月29日の「いい肉」の日に、「ニクレンジャーオールスターズ」というのを作ったんです。
#ニクレンジャーオールスターズ
— 吉野家 (@yoshinoyagyudon) 2018年11月29日
✨✨ 全員集合✨✨ pic.twitter.com/RExvcdLOmo
ライザップさんのような肉の外食とは全然関係ない企業も参加してくれました。そうした流れのなかから、リアルに落とし込んだ施策が「吉野家、ガスト、はなまるの3社合同定期券」です。
300円で定期券を購入すると、3社で使える割引券として利用でき、有効期限内であれば、何回でも利用可能なものです。バーチャルだった関係をリアルにもってきた好事例だと思います。
余談ですが、ニクレンジャーへの参加は、弊社以外、社長に黙ってやったことらしいです(笑)。
高木: え、社長に黙ってやってしまって怒られないんでしょうか?
田中: 松屋さん、モスさんも当初は、役員が否定的だったそうですが、ブレイクしたので予算がついたらしいです。失敗しても社長は気が付きませんから。マーケターは臆することなくやった方がいいと思います!(笑)。
ファンかどうかで、TwitterとInstagramを使い分ける!
高木: 次に玉田さんのから過去の事例を紹介していただけますか?
玉田氏(以下、玉田): 私はサイバーエージェントが運営するインターネットテレビ局AbemaTVの宣伝担当をしています。AbemaTV自体は10代、20代をはじめとした若年層をメインターゲットとしたサービスですが、私が担当している「恋愛リアリティーショー」は高校生の視聴者が多いコンテンツです。いろいろなSNSを使っていますが、戦略によって使い分けを考えて運用しています。
Twitterは、ライトファン向けを意識して運用しています。拡散されたときに、番組を知らなかった人がみて、「その番組をおもしろそう、と思ってもらえるかどうか」をかなり意識して投稿しています。
「恋愛リアリティーショー」は、「テラスハウス」や「あいのり」のような、作られていないリアルな恋愛を描いていることが売りです。そこで、恋愛リアリティーショーの「恋する♥週末ホームステイ」という番組のTwitterでは、「今回の“恋ステ”は、男女の身長30cm差」「史上ナンバーワンせつない」といったリアルでかつ番組が気になるような投稿を意識しています。
一方でInstagramでは、コメント欄がにぎわいやすい傾向があるので、コアファン向けの運用をしています。たとえば、「今回の放送では、こういう意見がありました」といったように、番組の楽しみ方を提示してあげることでコメントしやすい環境作りを意識しています。
さらに、番組内で喧嘩が起きた際に、その喧嘩したことをくみ取って喧嘩したカップルを応援するような投稿をしたところ、210件のコメントがつきました。「TwitterよりもInstagramの方が、コアファンが多い」、そんな区分けになっています。
高木: Instagramの方がユーザーとのコミュニケーションができるんですね。
玉田: コメント欄でユーザー同士が意見を交わしたり、アカウントを運用する“公式さん”に意見を訴えかけていたり、距離が視聴者と近いですね。
会話が可視化され「拡張された接客」に!
高木: 本田さん、東急ハンズさんの事例をお願いします。
本田氏(以下、本田): 私は「東急ハンズ」のTwitterアカウントを運用していますが、Twitterの中の人になってもうすぐ10年くらいになります。だいぶ前のことですが、「Twitterの企業アカウントを運営しているなかで、気をつけていることをまとめてほしい」と言われて、10個にまとめました。
SNSはデジタル上でやり取りしているので、デジタルマーケティング的な捉え方をしがちだったんですが、長いこと運用していて最近感じることは、結局、人と人とのコミュニケーションであって、すごくアナログなやりとりが好まれる、ということです。それで改めて、「この10カ条、いいこと言ってるやん」と思っています(笑)。
うちは小売業なので、社員は基本的に店頭での接客経験があります。「SNSでどうやってユーザーとコミュニケーションすればいいですか?」と聞かれたときには、「店頭の接客と一緒ですよ」と答えています。ただ、店頭での接客だと1対1なので、その声が聞こえても半径2mくらいですが、Twitter上でユーザーさんとやりとりすると、それが可視化されてほかの人にもみえる。そこが違うところだと思っています。
ぼくが作ったものでなくて恐縮なんですが、「会話が可視化され「拡張された接客」に」というのが実感としてあります。
去年、東京で大雪が降ったときがありました。昼ごろから大雪が降って、どんどん積もり、仕事帰りに電車が止まるという、大雪警報が出て大きな被害が出た日です。そのときにTwitterをみていたら、他社の公式アカウントでは「気を付けてお越しください」という投稿が目立ちました。
個人的には「そんなこと言っても来るわけないやん」と思って、その気持ちをそのまま「東急ハンズに来てる場合じゃない」とツイートしたら、けっこう話題にしていただいて、70件くらいリプライをもらいました。
それがたまたまテレビ局の人の目にとまって、朝の番組で「東京ハンズさんは何て言ったでしょう?」というクイズにもなりました。これが接客の可視化ですよね。Twitterでも普通の接客をすると、一周まわっておもしろがってもらえるんだなあと実感しました。
ブームを作りやすいTikTok
高木: 先ほど、玉田さんからソーシャルメディアの使い分けの話がありましたが、TikTokも使われているんですよね。ユーザーとのコミュニケーションをとる内容とか、聞かせてもらえますか。
玉田: 「なぜTikTokを使おうと思ったんですか?」という質問をよくいただきますが、一言でいうと、視聴者の方をはじめまだ番組を見ていない方も“熱狂させる”のに一番いいツールだと思ったからです。InstagramやTwitterで瞬間的な視聴は作れていましたが、さらに話題にしてもらったり、番組を見ていない人にも伝えるには、TikTokが使えると感じたんです。
高校生と話していると、Instagramは「見るメディア」になっている印象があります。というのも、Instagramにアップするものが多くはないんですよね。お昼もお母さんの作ってくれたお弁当食べていたりと、毎日インスタ映えするランチではないわけですし。一方、TikTokはお題が与えられているので、投稿へのハードルがかなり低いようです。
そこで、「今日、好きになりました」という番組でブームを作りたいと、高校生の出演者たちと一緒に考えて、TikTokで「#今日好きダンス」*3を始めました。
TikTok内で流行らせた後に一番力を入れたのは、その現象をさらに世の中に広げていく、ということです。番組に出てくれる高校生がTwitterで紹介してくれたり、そのダンスが流行っている現象をテレビやウェブニュースなどで取り上げていただいたりと、広げることを意識してやったことが良い結果につながったと思います。
企業アカウントでの炎上対策
高木: 本田さんは東急ハンズさんのアカウントを運用して10年ということですが、炎上したことはありますか?
本田: 自分の投稿が直接炎上したことは幸いにしてほとんどないですが、会社の別のアカウントが炎上したことはあります。そういった経験や他社の炎上案件を見るに、「炎上しやすいネタ」というのがあると思っています。
高木: どんなものでしょうか?
本田: 個人的に5Sって呼んでいるんですけれど、「政治・宗教・差別・スポーツ・セクシャル」の5つのネタです。要は意見が2つに分かれて喧嘩になるネタは炎上しやすいですね。
高まるInstagramの影響力
高木: 吉野家さんはInstagramへの取り組みについてはいかがでしょう?
田中: 実はこっそり開設しています(笑)。写真が茶色くて全然美味しそうじゃないから悩んでいたんです。それでも最近わかったことがあって、自然光で撮った、ワンチャンスの本当に美味しそうな写真をのせると反応がいいんです。茶色一色であっても(笑)、自然光で美味しそうになる写真にチャレンジしています。
今後のソーシャル活用
高木: 今後のソーシャル活用について、何か考えていることはありますか?
玉田: 今後はAbemaTVでも注力しているオリジナルドラマをソーシャルを活用して流行らせたいと思っています。「恋愛リアリティーショー」では、「高校生の話題になる」ことを意識して色々な仕掛けをしていくということにチャレンジして、手ごたえはあったなと思います。ドラマとなると高校生だけじゃなくて、さまざまな年齢層のマスに響く話題性も必要になると思うので、そのためのソーシャル活用をもっとしていきたいと思っています。
本田: ソーシャルをフックにして集まったファンの人に、リアルな情報で楽しんでもらえる、そういう仕組みなのか、場なのかを作っていけたらと思っています。そこにチャレンジしたいと思います。
田中: できたらその方程式をぼくにも教えてよ。
本田: わかりました! ぜひ参加していただくということで。
田中: いいですね!
高木: あっという間にお時間ということで。今日はありがとうございました!
最後に
このセッションをきっかけに、SNSを通じた異業種間でのコラボが生まれるかもしれない。そんな予感のする和気あいあいとしたトークセッションだった。
第1部~第4部まで、さまざまな視点からのトークセッションが展開されたが、どれも「失敗を恐れずに、自分がやりたい施策をやった方がいい!」と、背中を押してくれる内容だったことが印象的だ。そして、「結局は人と人とのアナログのつきあい」が、施策を成功に導いていくことを実感させてくれたオフ会だった。
ソーシャルもやってます!