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Yahoo! JAPAN MARKETING SUMMIT 2019 セッションレポート

マーケティングの常識を疑え。人気マーケター・クリエイターの新しい挑戦!

Yahoo! JAPANのマーケティングサミットが、5月17日(金)、ザ・プリンスパークタワー東京で行われた。テーマは「そのマーケティングを疑え」。

赤で統一された壇上では、「クリエイティブ」「メディア」「プランニング」という3つの視点からのセッションを展開。マーケティング分野で活躍されているさまざまな企業の登壇者が語った、ポイントをご紹介する。

セッション1  DOUBT! THE CREATIVE

DOUBT! THE CREATIVE、そのクリエイティブを疑えという視点からのセッションは、次のメンバーで行われた。

左から、モデレーターの井上大輔氏(ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長)、明石ガクト氏(ワンメディア 代表取締役)、鈴木瑛氏(ByteDance Head of X Design Center)、朴正義氏(バスキュール 代表取締役)、渡辺裕介氏(CHOCOLATE 代表取締役)

なぜ広告は嫌われたのか?

まずは、平成に入って嫌われものになってしまった広告の話から。「昭和では、新聞広告、テレビCMが皆の共通言語になっていて、楽しみにされていた時代だ」とヤフーの井上大輔氏(以下、井上氏)は話す。

たとえば1990年代前半に話題となった栄養ドリンクのテレビCM“ダッダーン!ボヨヨンボヨヨン”が放映された翌日には、さっそく学校で真似ていたという。ところが平成に入り、「一部の広告、特にデジタル広告は嫌われもの」になっていく。事実、スマホアプリ「アドブロッカー」が人気アプリランキングで常に上位にあることが顕著な例だ。

では、平成になって、広告はなぜ嫌われてしまったのだろうか? 各登壇者はその理由を次のように語る。

  • 多くの動画コンテンツをてがけているワンメディアの明石ガクト氏(以下、明石氏):平成になって、マーケティングが確立されていくとともにパターン化されて、広告らしい広告が増えてしまったからではないか。
  • 企業のコミュニケーション活動支援やオリジナルサービスを提供しているバスキュールの朴正義氏(以下、朴氏):(昭和では)情報が限られていた。すべてが貴重だったが、ネットのおかげで現在では情報量が圧倒的に増えたため、全体の割合として広告の価値が薄まっていっていると感じている。
  • 動画アプリTikTokを提供しているByteDanceの鈴木瑛氏(以下、鈴木氏):広告が嫌われているというよりも、役に立たない、興味のないものとしてパスされているだけではないか。昔は、情報も物も満ち足りていなかったため、ニーズやウォンツを探してメッセージを出し、それを満たす商品を紹介していた。だから広告は役立つものだったが、現在は満ち足りているから難しい。
  • 漫画、ゲーム、映画などさまざまなエンターテイメントコンテンツを提供しているCHOCOLATの渡辺裕介氏(以下、渡辺氏):現在の広告はユーザーに寄り添い、その立場になって考えるべきなのに、今でも一方通行のままだから嫌われているのではないか。マスが成立していた時代は、企業ブランドの世界観やメッセージを入れ込んだ映像を作り、それを一方通行で流しても、消費者とのコミュニケーションは成立していた。現在はユーザーに寄り添わないとダメ。

消費者の文脈はハイレゾでいくべき!

続いて、双方向にもつながることとして、ローレゾ(ローレゾリューション)とハイレゾ(ハイレゾリューション)の話に。レゾリューションを単純に解像度という意味ではなく、クォリティという意味で考えた場合、「多様化する消費者の文脈(コンテクスト)を細かく分析し、粒度の細かい文脈をコンテンツに織り込めたものが成功している。

一方その意味で粗いと嫌われてしまう」という方向に話が進んだ。単純に解像度という意味では、モバイルの登場でテレビよりも解像度は低くなった。しかし、消費者の文脈はローレゾでは嫌われる。逆に、ハイレゾであれば好かれるコンテンツにつながるわけだ。

令和に好かれるコンテンツとは? そこに「業」はあるのか?

「令和に好かれる広告、好かれるコンテンツの秘訣は何か?」とのトークが展開されるなかで、作り手の“熱量”や“業”がヒットを生むのではないかという話で盛り上がっていった。

  • 渡辺氏:好かれるコンテンツとして大事なのは“熱量”であり、作り手の“業”だ。たとえば映画『ボヘミアンラプソディ』は映画自体にものすごい熱量があり、その熱量が見た人を感化してヒットに通じたが、マーケティング発想だとあそこまでヒットするとは思わないだろう。
  • 明石氏:ネットフリックスの『ハウス・オブ・カード』は、データ分析の結果、デヴィッド・フィンチャーが監督、ケヴィン・スペイシーが主演で政治モノをやると当たるらしいということで作られた。でも、デヴィッド・フィンチャー監督がものすごく頑張らずにやる気がなかったなら、ヒットしなかっただろう。
  • 鈴木氏:執着や業から始まるというよりも、データ分析から始まることの方が正しいと思う。何か制約があって、その制約を解決しながらおもしろいものを作ることは、広告でクライアントさんたちの伝えたいメッセージを伝えながら、視聴者にとっておもしろいものを作ることに近いと思う。

この鈴木氏の話を受けて、渡辺氏は、「広告は基本的には合議制で作るけれど、その作り方でオリジナルコンテンツを作ると跳ねるものができづらい」と語る。CHOCOLATEでは、企画書という形ではなく、作り手が良いと思うものをまず形にすることで、「キャラクターのタッチやアニメーションでの動き方に作り手の“業”がうつって、すごくおもしろいことになるのだ」という。

鈴木氏は「業は出そうと思って出すものではなくて、その人が作ったから自然と出てくるもので、メディアやライターのもっている業と制約は矛盾するものではないんじゃないかと思う」と語った。

コンテンツ作りを作り手の業から始めるべきか、データ分析から始めるべきか、制約と業、あなたはどのように考えるだろうか? 

セッション2 DOUBT! THE MEDIA 

DOUBT! THE MEDIA、そのメディアを疑えという視点からのセッションは、次のメンバーで行われた。

左から、モデレーターの徳力基彦氏(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役CMO)、青木耕平氏(クラシコム 代表取締役)、堀江裕介氏(dely 代表取締役)、渡辺将基氏(新R25 編集長)

非常識になってしまった「マーケティングの常識」

メディアを疑うセッションでは、「非常識になってしまったこれまでのマーケティングの常識を1つ選ぶとしたら何か?」という徳力氏からの問いで始まった。

  • ECサイトの北欧、暮らしの道具店を展開するクラシコムの青木耕平氏(以下、青木氏):ユーザーを定量的なデータから理解できると思っている人が多いが、我々は無理だと思っている。自分を掘るしかない。
  • レシピ動画で人気のkurashiru(クラシル)を展開しているdelyの堀江裕介氏(以下、堀江氏):「PV」や「リーチ」の単位は単一でいいのか、と考えている。同じ1PV、1MAUでもメディアによって重みが違う。
  • 若い世代に向けた自己投資応援メディアである新R25の渡辺将基氏(以下、渡辺(将)氏):記事コンテンツの大量生産は非常識になったと思う。

新しい常識作りでチャレンジしていること

では、新しい常識を作るために挑戦していることは何だろうか? 

  • 青木氏: 80年代は作り手が発信力を持った時代、90年代はキュレーターが発信力を持った時代、2000年代は読モというプロの消費者が発言権をもつ時代。いまはインフルエンサーの時代で、自分で自分の商品を発信する人たちが影響力をもっている。だから(自社では)、全員が元お客さんでありお客さんと同じ目線を持つスタッフたちが顔と名前を出して、自分たちで自分たちの好きなものを仕入れたり作ったりしているということを伝えるコミュニケーションをとっている。コロニーが細分化されている現在、ただ儲かるからと外からの感覚でコミュニケーションを取ればすぐにばれる。あくまでそのコロニーの人たちがコンテンツを作ることが大切になる。
  • 堀江氏:レシピ動画を安く大量に作って、facebookなどのSNSで広告配信すれば、多くの人にリーチできて売り上げが伸びるだろうという話になりがちだが、それは違う。安易に広告出稿しても、購買意欲に直結するとは限らない。売上に貢献するにはどのメディア、すなわち誰が言ったかが重要。たとえば、kurashiruのヒットレシピに「豆苗の肉巻きレシピ」があるが、2017年には豆苗の出荷量が昨年比160%になった。こうした、kurashiruによってマーケットが動く事例が出てきている。
  • 渡辺(将)氏:コンテンツでおもしろいもの、心動かしているものは、ほぼ人が出ているものになっている。そこに立脚して、誰に出てもらうかがすごく大事だと思う。タイアップでも、そうあるべきだと思っている。たとえば堀江さん(ホリエモン)にイヤホンを紹介してもらったが、すごく反響があった。メディアの常識で1つ壊せたらと思っているのは、どうしても全体のPVの規模でみてしまうところ。全体の規模は小さくても1個1個の記事はものすごくインパクトがあるという状態を作りたいと思う。

自社のマーケティングで挑戦していること

DOUBT! THE MEDIAの最後に、アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏(以下、徳力氏)から「自社のマーケティングで挑戦していることは何か?」が問われた。

  • 堀江氏:テレビ、YouTube、オフラインの店舗など、あらゆるところで接点を作って、能動的に来てくれる顧客を作るチャレンジをしている。モノが買われるのはオフライン比率の方が高いので、オフラインをもっと深くネット企業が考えなくてはいけない時代になってきたと思う。
  • 青木氏:オリジナルドラマを制作して、YouTube上で展開している。単にお客さんとのタッチポイントを増やすだけでなく、コミュニケーションの深さを出していくために、物語という心を揺らす要素を加えたかった。西田尚美さん(主演)が着ている洋服や使っている雑貨などの中には、我々の商品もあります。お客さんが、自分が買った商品を肯定できるドラマを作りたかった。すでに335万回くらい再生され、2020年には映画化されることも決定している。
  • 渡辺(将)氏:新R25というブランドを浸透させるために、何回も見れば記憶に残るような、新R25らしい記事のフォーマットを作っている。若い人の学びのプラットフォームとして、新しいフォーマットでコンテンツの拡充をやっていきたい。

モデレーターの徳力氏は最後に、「今回のセッションテーマだと、マスとネットの比較になるかと思ったらぜんぜん違っていました。でも、たしかにPV信仰を疑ってみることが重要な一歩かもしれません」と語った。そして、「データ分析ですべてがわかると思うことが、ネット広告を嫌わせる原因になったのかな、と感じました」としめた。

セッション3 DOUBT! THE PLANNING

DOUBT! THE PLANNING、そのマーケティングを疑えという視点からのセッションは、次のメンバーで行われた。

左から、モデレーターの井上大輔氏(ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長)、足立光氏(ナイアンティック アジアパシフィック シニアディレクター)、鈴木健氏(ニューバランス ジャパン DTC&マーケティングディレクター)、村田雅行氏(メルカリ CMO)

違和感、ひっかかり、既視感がない、が話題につながる!?

まずは話題になる、という話から。昨年の12月、フリーマーケットアプリを運営するメルカリが「徒歩0分!スマホの中でオープン!」と大きくうたった折り込みチラシを新聞に差し込んで話題となったが、メルカリの村田雅行氏(以下、村田氏)は、「Twitterなどで言いたくなるという意味で、違和感を大切にしている」という。

マクドナルドの再建後、ポケモンGOを運営するナイアンティックにうつり、その成長を支えている足立光氏(以下、足立氏)は、たくさんある広告のなかで「なにかしら、ひっかかるように作っている」と話す。

そして、スポーツシューズメーカーのニューバランス ジャパンの鈴木健氏は、「話題になるというと、芸能人に使ってもらうとかこれまでに既視感のあるものを出しがちだが、いままで考えたこともなかったことを考えることが話題になる」と語る。

競合はみない!

競合をみるか?という話では、鈴木健氏も足立氏も、みないという。

  • 鈴木健氏:扱っている商品はスポーツシューズ。より機能性の高い商品を作るところからスタートし、他社よりもここが良い、という優位性だけを言いたがることになりがちだが、ベネフィットはお客さんが考えていることからみなくてはいけない。競合ではなく、顧客のコンテクストをみる。たとえば、どういう生活のなかで走りたいのかという文脈、何を求めて走っているのかといったところから考えないと違和感が出てこない。
  • 足立氏:ひっかかりという意味では競合はみない。ただし、ほかの業界でやっていることをみることは大事。ポケモンGOではじめて新聞広告をやったが、参考にしたのはメルカリさん。ネットをしないユーザーにリーチする方法としていいなあと思った。

フレームワークは使う? 使わない!

ヤフーの井上氏から、STPのようなフレームワークを使うか?といった質問に対して、フレームワークから始めることにはお三方とも否定的。

  • 村田氏:メルカリではSTP戦略については1回も出てきたことがない。
  • 足立氏:フレームワークから始めると誰でも同じになってしまうことが多い。まずはアイデアからスタートする方がよい。「宣伝ではどんなことをしたら響くのだろう?」というアイデアを考えることが大事。そして響く理由は何かというところから、戦略にもってくる。

CRM、みんなやってるの?

次に井上氏から、「コアファンを育てて、ブランドロイヤリティを育てることでライフタイムバリューを最大化することをCRMと呼ぶと、CRMはどんなものだろうか?」との質問が出された。

  • 村田氏:ポイントの付与、キャンペーンなどはやってますが、ロイヤリティプログラムのような特別な何かはしていない。
  • 鈴木健氏:コアファンを育てるためのアプロ―チはやってはいるが、ジレンマがある。市場のランクが低いブランドは、ロイヤリティを育てる活動をしても市場の成長や自社の成長に寄与しない。新しいところに向かわないと成長しない。CRMを全部否定するわけではないが、やりたいことを見極めないといけない。
  • 足立氏:CRMの定義はほぼない。それだけで差別化するのは無理。たとえばポイント付与がきいたとしても、既存顧客に対してしかきいていない。

これを受けて鈴木健氏も、「日本ではAmazonもポイント付与をやっているけれど、競合がやっているから使っているだけで、差別化のためじゃない」と足立氏の意見に賛成していた。

ブランド哲学でモノは売れない?

続いてブランド哲学の話になった。

  • 村田氏:メルカリにはバリューがあります。3つのバリュー、Go Bold、All for One、 Be Professionalがあり、サービスを作る上で大事にしている。
  • 鈴木健氏:ミッションは、レスポンシブルリーダーシップ(責任あるリーダーシップ)。抽象的に聞こえるが、大きな会社は地元にも還元なくてはいけないし、ちゃんとしたことをしましょうよというのがレスポンシブル。そこから商品を作りましょうということではない。
  • 足立氏:ブランド哲学をもっていることが大切なのはリクルーティング。ナイアンティックの哲学は、“人を部屋から外に出して、世の中をもっと健康にしよう”というもの。この会社の哲学に共鳴して入社した人はすごく働いてくれる。

「ブランド哲学と売上の関係性をどう捉える?」との井上氏の質問には、鈴木氏も足立氏も売れないと答えた。

  • 足立氏:ブランド哲学だけでは売れない。でも一貫性がないとそもそもブランドにならない。一貫性を保つためのガイドラインとして、これをやる、やらないを決めるブランド哲学はある方がいい。

以上、ヤフーのマーケティングサミットのセッションで語られた内容を、ポイントを絞ってご紹介した。Webの世界では、数年前に常識だったことは、すでに非常識になっていることが多い。伸び続けるためには、今やっていることを疑う姿勢が必要なのかもしれない。
 

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