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「圧倒的な成果を生み出す」マーケターに必要なコト 足立光氏 × 舛田淳氏

「マーケティングで圧倒的な成果を生み出すために必要なコトは?」LINE主催の「LINE Marketers Meetup Ⅱ」セミナーレポートをお届けする。

マーケティングによって、圧倒的な成果を生み出すにはどうすればいいか?

LINEが主催するマーケター向けのオフ会「LINE Marketers Meetup」の第3部は、マクドナルドV字回復の立役者で現在はナイアンティックのシニアディレクターを務める足立光氏と、LINEを生み、育ててきたLINE社のCSMO舛田淳氏、モデレーター役でLINE Clovaマーケティングチームの豊田隆久氏が登壇し、マーケターにとって大事なポイントを熱く語った。

LINE Clovaマーケティングチームの豊田隆久氏、ナイアンティックの足立光氏、LINE社の舛田淳氏

まっすぐ帰るなんて、もったいないことはしない

豊田氏(以下、豊田): まずは、足立さんの著書やさまざまなインタビューから、ぼくの琴線に響いた言葉をピックアップさせていただきました。たとえば、「まっすぐ帰るなんて、もったいないことはしない」という言葉です。

豊田氏がピックアップした足立氏の言葉

足立氏(以下、足立): 会社が終わり家に帰り、ご飯を食べてテレビを見て寝るのだとしたら、時間の無駄だと思います。その時間、いろんな方にお会いできますから。マクドナルドに3年間いましたが、まっすぐ家に帰ったのは3回しかないです。その3回も、風邪をひいていたからです。

豊田: 仕事終わりは、どのあたりにいらっしゃるんでしょう?

足立: 相手の方に合わせていろいろですが、最終的に行き着くのは六本木か西麻布ですね。だいたい一晩に2軒、3軒と移動していくので、一晩に3組くらいにはお会いします。

舛田氏(以下、舛田): マーケティングプランを考えたときに、自分のなかにどういうカードがあるか、ナレッジがあるかが大事だと思います。「あー、この人となら実現できるのに」と思うことがあったとしても、つながりがないと考えつかないし、考えついたとしても誰かを経由しなくちゃいけない。ところがすでに出会っていれば、すぐに連絡できて話が早い。

たとえば、LINEのCM出演で復帰されたベッキーさんですが、私から直接連絡しました。間に人が入っていると、タイミングがずれてしまうんですよね。ほかにやられてしまうかもしれないので、すべてスピードが大事です。どうやって自分のなかにカードを増やしていくのかを考えると、人との出会いは非常に大事です。とりあえず、プライベートでも、人に会うスケジュールで埋めることが大切だと私個人としては思っています。会って損することはないですから。

足立: 僕も今後2か月半は、夜の予定が詰まっています。埋めてしまうと、いやでも人に会いますからね(笑)。

マーケティングの和訳は「商売」

元マクドナルドCMOで現ナイアンティック アジアパシフィック プロダクトマーケティングのシニアディレクター足立光氏

豊田: マーケティングの和訳はずばり「商売」という言葉もあります。

足立: 「セールス」には「営業」という和訳がありますけど、マーケティングには和訳がありません。そして、小学生向けのお仕事図鑑には、営業、セールスマンはありますが、マーケターという職種はありません。つまり、日本ではマーケティングという職業は存在していないわけです。

ではなぜマーケティングが商売かというと、最終的に「マーケティングの目的は、全体の利益を出し続けて、継続的にビジネスを成功させること」だからです。ふつうの商売と変わらない。マーケティングは、コミュニケーションだけでもないし、プロモーションだけでもないし、全部ですから。

豊田: 舛田さんのマーケティングの解釈はいかがでしょうか?

舛田: 大学で「マーケティングとは企業活動そのものだ」と教わりましたが、その時は「何言ってんだ」と思っていました。ただ、マーケティングの仕事をやればやるほど、まさにその通りだし、それにたどり着いていないと結果として課題解決はできないだろうと思います。

私はLINEで、全体の戦略とマーケティングの両方を受け持っています。一般的には分かれているものですが、日本のマーケティング環境で分割すると、マーケティングがプロモーションに寄っていってしまう。だから私は両方を兼務しています。マーケティングは経営そのもので、それを生っぽい言葉で言えば「商い=商売」になるかと思います。

豊田: ぼくは舛田の部下ですが、舛田の考え方として、「PRも明確にマーケティングの一部に組み込んで統合的にやっていこう」という意志を強く感じます。その点に関して、足立さんはどう思われますか?

足立: PRも立派なマーケティングの一部だと思います。広報活動によって伝えられる情報は、第三者の視点が入るので、広告よりも信頼性が高い。全く同じメッセージを伝えるなら、広告よりも広報を通じた情報の方が、圧倒的に効果があります。

豊田: 舛田さんがLINEでみられている部署は「マーケティングコミュニケーションセンター」と言いますが、ここに込められている意図は何でしょう?

舛田: 圧倒的な成果というのは、世論が動かないと達成できません。単なるプロモーションで刈り取り精度を高めていっても、世は動きません。市場が大きくても小さくても、世を動かすために一番わかりやすい手法は、「話題化させること」、さらに、ターゲットに対し「得するかも」「乗り遅れるかも」「自分だけ損をしてしまうかも」という流れや空気をつくることです。そしてそれらは、「PRベースのマーケティングコミュニケーション」というものに、そなわっています。

足立: 最適化するために、改善をしていくのは立派なマーケティングの一部です。ですが、それで効率がアップしてコストが下がっても、たぶん大きな話題にはならないし、バカ売れはしないです。なので、世の中を動かすことも大事になります。

圧倒的な成果とは?

LINE社のCSMOを務める舛田淳氏

豊田: 「圧倒的な成果」についても、解釈が分かれそうだという気がします。圧倒的な成果ってどういうもので、そのために必要なことって何でしょう?

足立: 皆さんはいろんな会社のなかで、役割もそれぞれ違うと思います。「その役割のなかで3年以内に誰にも負けないと皆から思われるような成果を出すこと」が圧倒的な成果です。マーケティングの責任者、CMOは世界中にいっぱいいますが、たぶん皆さん30代後半か40代前半です。このレイヤーに上がるためには、3年に1回は昇進していかないと間に合わない。なので、3年に1回、結果を出すんだという気合が必要だと思います。

豊田: 舛田さんはいかがでしょう?

舛田: そのステージによって圧倒的な成果は違うと思いますが、すべてをまるめていうと「ブランド人」という言葉になると思います。ただ、ブランド人といっても成果よりも前に自分の名前が出ちゃうと違うと個人的には思っていて、成果に対して「これってあの人がやってるんだよね」って言われてはじめて、マーケターとして本懐をとげていることになる。大きいことでも小さいことでも、社外でも社内でもいい。「これって舛田の仕事だよね、だから次も舛田にお願いしよう、舛田にお願いしたら何か解決する気がする」、それが圧倒的な成果になると思います。

豊田: ぼくとかがこうしてトークする場に舛田さんを引っ張り出していますが、舛田さん自身は、表に出ず、陰のフィクサー的ポジションが理想なんですよね。

舛田: 自分の成果とは違うところで自分の名前が出ていくことは、自分のスタイルに合わないですね。本当に成果を出すと、「その後ろにいるのは誰だ?」と探してくれて、たどり着いてくれるんです。小さい成果でも積み上げていくとそうなると思います。「次もまたオファーしてもらうようにしよう」と、20代のころから意識してきました。

権限の範囲で勝手に進める

豊田: すぐに結果を出す上での「技」はあるでしょうか? たとえば、ぼくが足立さんから教わって使っているのが、「権限の範囲で勝手に進める」なんです。

足立: 皆さんは何かしら権限をお持ちだと思います。権限があるということは、「その権限のなかでは、誰の承認もなく勝手にやっていい」というのと同義なんですね。なのに、新しいことをしようとすると、だいたい上の方の承認をとろうとします。そして上の人にあれこれ言われてできなくなったり、曲がったりするんです。なら、権限のなかでどんどんやっちゃえばいい。会社の規程のなかだから問題ないですしね。

 

舛田: 日本はルールが書かれていると、ルールよりもちょっと幅広にルールをとらえるんですね。書かれていないことでも、「これはきっと、だめという意味であろう」と思うんです。ところが韓国の同僚たちは、「書かれていないことはすべて自由だ」と言うわけです。この違いは圧倒的にスピードに差を生みます。「書かれていない」と言われれば、怒っていた上司も「そうだよね」ってなるんです。

リスクヘッジという観点では日本的な考えの方が良いですが、目まぐるしく変わっているときに、石橋を叩きまくっていてもしかたがない。いまの時代に合っているのは、書かれていないことは自由だと思う方でしょうね。権限を渡されていることは自由だと思った方がいいです。

足立: 最近は、ソーシャルやデジタルの施策が多いと思うんですけれど、どちらもそんなにお金がかからないですし、かつ失敗するってことは誰も気付いていないことでもあるんでもみ消すのは簡単。どんどんやっちゃうといいですよ。成功したら「成功したよ」と言えばいいし、失敗したら黙っていれば誰も気が付かないです。

舛田: ソーシャルとかPR、デジマも、チューニングの繰り返しです。10割バッターなんているわけがないですし、私も3割か4割だと思います。やらないよりも、やった方がいいです。足立さんが言われたように、だいたいみんな(小さな失敗には)興味がないから、施策を繰り返して、道をみつけた方がいいです。

豊田: 初期のマクドナルドの施策は何割くらいでしょう?

足立: 3割くらいですね。1年目には失敗がけっこうありました。世間の認識としては、キャンペーンがすべて話題になっていたという記憶に塗り替えらえていますね(笑)。

舛田: メルカリの山田進太朗氏も同じことを言っていて、生み出してつぶしたWebサービスはたくさんあるけれど「誰も覚えていない」と。先の失敗はときがたてばたつほど忘れられていく。チャレンジをしかけないのは損だと思います。

ターゲットを憑依させる、あるいはイタコになる

モデレーター・LINE Clovaマーケティングチームの豊田隆久氏

豊田: 次に「ターゲットを憑依させる」ってことについてですが、お二人とも同じことを別の言葉で話されていたと思います。

足立: ターゲットは20代女性かもしれないし、40代主婦かもしれませんが、ターゲットになりきって憑依して考えるしかないと思うんですね。そのために20代の女の子が読んでいるような雑誌とかメディアを読み、アプリを使い、なんとかその人になろうとがんばってやってみる。そうすると、広告代理店からこんなレンジでやりましょうと言われたときに、知っているから判断がつく。だからできるだけ、ターゲットになりきるためになんでもやってみた方がいいと思います。

アテント(大人用おむつ)の担当になったのは24歳だったんですが、最初にやったことが「アテントを履いて寝てみる」ことでした。やってみないと、わからないんです。

豊田: 舛田さんは、憑依を別の言葉で表現していましたね。

舛田: 私は「イタコ」って呼んでいます。ホントかウソかは別ですが、恐山にイタコっていう霊を降ろす人たちがいます。マーケターは自分の感覚でものを考えてはダメで、自分はこうだからという考えをどこまで捨てられるかがキモだと思うんですね。まさにイタコのようにいろんな人格を自分に降ろしていく…たとえば今日は60歳のリストラされたおじさん、今日は中学に入学したばかりの女の子、というふうに降ろしていく。なぜかというと、世界は自分以外でできているからです。自分以外の人たちを相手にするのがマーケッターなので、自分の感覚でモノを進めてしまっては失敗します

たとえば女子高生を降ろして、その気分になっていたときに娘と喋っていたら、ものすごく気持ち悪い扱いをされました(笑)。それぐらい入れ込まないと感覚が出てこない。そのためにもいろんな人に会ったり話したりが、ほんとに大事で、これができるかどうかはマーケターの入口としてもとても大事なことです。

豊田: あと1時間しゃべれそうですが、時間がきてしまいました。本日は、ありがとうございました!

「圧倒的な成果を生み出す心・技・体」とのテーマで進められた今回のセッション。なかなか聞けない「マーケターの心の持ち方」についての話に、多くの方が耳を傾けていた。今後のマーケッターとしてのキャリアについても、再度考える時間になったのではないだろうか。

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