Marketing Native特選記事

才流・栗原氏の大いなる野望「これからの時代のマーケターを動かす思想を作りたい」

BtoBマーケティングの第一人者、才流代表取締役社長の栗原康太氏が見据える未来とは?

Marketing Innovator : 01

BtoBマーケティングの世界で新進気鋭の切れ者として注目されている人物――それが、株式会社才流(サイル)代表取締役社長・栗原康太さんです。

栗原さんは、マーケティング施策に対する考え方、行動に関するフレームワークなどをTwitterやnoteに投稿し、マーケターの琴線に触れる発言を盛んに行っていることで知られています。

そうした情報発信の背景には、BtoBマーケティングの領域で成果を上げるという目標をはるかに超越し、「ビジネス新時代の思想を構築する」という、才流としての壮大な野望がありました。

Marketing Native Special Interview、今回はBtoBマーケティングのキーパーソンである、栗原さんのインタビューをお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部、撮影:稲垣純也)

 

マーケティング領域で抜け落ちていた戦略部分のサービス

――まずは、才流で提案されているマーケティング施策について、他社には見られない戦略上のポイントなどを教えてください。

他社で提供されているサービスと当社のサービスの決定的な違いは、クライアントとの関わり方にあります。私たちが支援しているのは、BtoB企業のマーケティング戦略/施策の立案や体制づくりの部分です。

広告や展示会、SEO、MAなど、マーケティング領域における施策やツールは、高度化・複雑化・多様化しています。

しかし、その施策やツールを「どのような目的と順番で実装していくのか」「どう連携させれば良いのか」「PDCAをどのように回すのか」といった、根幹の部分が抜け落ちていて、成果がうまく出ないケースがしばしば見受けられます。

画像提供:株式会社才流

マーケティングの領域において、施策やツールといった周辺部分のサービス提供は充実しているのに、中心となる戦略や体制づくりに関する部分が抜け落ちている状態を、私たちは「ドーナツ化現象」と呼んでいます。

当社がマーケティング全体の戦略設計を担うことにより、クライアントは課題解決のための最適なソリューションをいち早く把握できるため、余計な施策を行わずに済みます。

当社のようにマーケティング全体の戦略部分を支援するサービスを提供している企業は、ほとんど存在しません。

ちなみに、SEOやLP制作、MA導入といった基本運用の部分についても関わっていきますが、当社が主体的に担ってコントロールするのは戦略や体制構築の部分で、運用に関する日々のアウトプットレベルのやり取りは、当社コンサルタントが窓口となって連携を取りつつ外部のプロにお願いしています。

――クライアントにとって最適な施策をいち早く見つける方法や、提案する際のポイントには何がありますか?

これまで数多くの企業を見てきた経験や、体系化したセオリーなどに基づいて提案をしています。例えば、「BtoB製品/サービスのマーケティング強化ポイント」を描き出したイメージ図では、下記のようにファネルに順番を振っています。

1番の部分から改善すべき施策を特定し、バケツの穴をふさぐ(=サービスの提供価値を高める)のが最優先です。


画像提供:株式会社才流


画像提供:株式会社才流

クライアントへ提案する際は、施策によって成果が跳ねやすかったり、成功率が低かったりと性質が異なるので、「施策全体で見て、成功率は3割くらいです」などと前提を伝えておくことが大切です。

もちろん、成功率を3割と考えるのには根拠がありますし、そのための対策も取ります。実装した施策の成果があまり出なければ、すぐに次の施策を提案します。

マーケター特有のスキルや技術に答えを求めないほうがいい

――日頃、マーケティングやマーケターについて感じている課題点はありますか?

企業とマーケターのどちらにも感じているのは、「マーケティングはこう」「マーケターはこうすべき」とカテゴライズするのが良くないのではないかということです。

そもそも、私はビジネスにおいて最も重要なのは、ベーシックな仕事力であると考えています。

ベーシックな仕事力というのは、例えば、遅刻をしない、レスをすぐに返す、ゴールから逆算するなどの全ビジネスパーソン共通で必要なスキルのことです。社内のマーケターであれば、営業部門と調整する、経営のゴールから逆算して施策を検討するといったスキルです。

「青い鳥症候群」のように理想を追い求めて現実逃避をしてしまうと、マーケター特有のスキルや技術に答えを求めがちですが、青い鳥を捕まえられないのと同じで答えは見つかりません。

マーケターは成果を出すための存在であることを忘れず、企業への価値提供に脳のリソースをフルで使うのが良いと思います。

「売り上げを伸ばす」「集客数を上げる」など、目標は企業によって異なりますが、一ビジネスパーソンとしてゴールから逆算して考えることが、マーケティングに関する課題の本質的な解決策ではないでしょうか。

――優れたマーケターの特徴を挙げるとしたら、何でしょうか?

優れたマーケターの特徴の一つが、「行動量が人より3倍多い」という点です。これは優れたビジネスパーソンのキーポイントとしても当てはまると思います。

私が提唱している法則に、成果を出すためには自分が考えている3倍くらいの手を打ったほうが良いとする「行動量(アウトプット)3倍の法則」があります。

試行回数が多いほど成果が出るのはもちろんですが、Microsoftが2009年に発表した1万件程度のA/Bテストにおいても、成果が出たのは3分の1で、残り3分の1は数値が変わらず、さらに3分の1はマイナスに作用したというデータが出ています。

いわゆる「マーケティング上手」と言われるクライアント企業の人たちは、やはり行動量が多いという印象があります。

それに加えて、レスポンスと意思決定が早いのも、共通した特徴です。レスを返すのが5分後か28時間後か……こうした行動の積み重ねによって行動量に3倍以上の差が出ているのだと思います。

――では、行動が遅い人はどのように改善すれば良いでしょうか。

「迷う」という行為は人間にとって負荷がかかるので、自分の中でルール化することが重要です。レスを早くしたいのであれば、「メッセージを見たら返す」「返信をためない」といった形でルールを設けます。

「レスを早く返す」「あとで返す」という選択肢を持っていると、レスをいつ返すのかを決めることに脳のリソースを大量に割くため、負荷がかかります。

しかし、「メッセージを見たらレスを返す」一択であれば迷う必要がなくなるので、早く行動できるようになりますし、成果を出したり、価値を提供したりといった部分に脳のリソースを割けるようになるわけです。

このように、ルールを設けて行動することが、人間にとって最も優しいと思います。

――「行動量(アウトプット)3倍の法則」に挙げられるように、栗原さんは実行することの重要さを説いている印象があります。実行できない組織はどのように改善すれば良いでしょうか。

前職で100~200社のクライアントのマーケティングプロジェクトに携わってきた経験から、施策が同じでも成功するか否かの違いは、それを実行できたか否かであることに気付きました。実行していなければ、当然成果は出ません。

実行できない組織は、達成しないことが当たり前になっている傾向があります。「100件訪問しよう」と決めて、80件しか訪問できなくても、「まあいいか」と受け入れてしまいます。

実行すべき目標を立てたら、「達成しない」という選択肢を与えないことが大切です。

進捗が遅れることを許容せず、遅れていたらすぐに指摘します。そして、「次には進捗が遅れないためにどうすればいいか」を考えます。遅れないようにフォローアップすることが大切です。

ビジネスパーソンにとって不可欠となる思想をつくりたい

――才流の「思想を流通させる」というミッションに考えが至った経緯を教えてください。

過去の経験から、会社が上場したり、拡大したりしてからミッションをつくり直して浸透させるのは、人や制度を変える必要があり、難しいと感じていました。そのため、会社を立ち上げるときに考えたのが、現在のミッションです。

どのような事業をやるべきか、なぜ働くのか、なぜ生きているのかといったことを考えたときに、どうせ会社を経営するなら「一番意味のあることをやりたい」と思いました。

「意味のあること」というのは、「自分の中で納得度の高いこと」です。

「人類に貢献できる最高の手段は何か」と考えたときに、影響力の高いものとして、水やガス、電気などのインフラの次に、聖書のような思想が思い浮かびました。インフラは日本ではすでに整っているのに対し、思想に関してはしばらくアップデートされていない感覚があります。

例えば、経営の世界ではピーター・ドラッカー(1909年~2005年)がコアに活躍した時代から社会環境も変わっているのに、新しい思想家のような人が出ていないと思ったのです。

スタートアップ企業を立ち上げるときに、ツールやメディアをつくる人は多くいますが、「思想をつくりたい」という人はあまりいません。そのため、競争が少なくて良いなと感じたこともあって、「才能を流通させる」を当社のミッションに設定しました。

――栗原さん個人としては、「変化のスピードが速い現代における思考のフレームワークをつくりたい」という目標も掲げていますが、達成するために実行していることはありますか?

当社で提供している「サイル式メソッド」というコンテンツを日々開発することです。私自身が実践している行動を体系化するのではなく、成功している人たち/プロジェクトの共通パターンを引き出して、メソッドに落とし込んでいます。

一緒に仕事をした人にお願いして、その人のノウハウを反映させてもらうこともあります。

また、「サイル式メソッド」をベースに、ほかにも思考のフレームワークやパターンを随時開発したり、お客さんと共有するための資料をつくったりもしています。

資料の多くを無料で公開しているのは、数千~数万単位で拡散する可能性があるからです。仮に月額10万円でコンテンツを提供したら、500社程度しか購入してくれないかもしれません。

メソッドの流通こそ最強であると思っています。

――これから栗原さんが才流のビジネスを通じて実現したいことや、目標としていることを教えてください。

大きな目標としては、「サイル式メソッド」を数十年スパンで世界的に広めたいです。これからの時代のビジネスパーソンが生産性を上げたり、成果を出しやすくなったり、より楽しく働けるようになったりするためのメソッド群を完成させたいと考えています。

「サイル式メソッド」はまだ完成していません。

何十冊もあるドラッカーの著書のように、「サイル式メソッド」も本がずらっと並ぶくらい拡充させていきたいです。そして、全ビジネスパーソンが「サイル式メソッド」で言われていることを当たり前のように知っている状態を目指します。

また、直近の目標としては、今後1年半くらいで、BtoBマーケティングについてすべて体系化したいという思いを抱いています。

マーケティングにも絶対に何らかのパターンが存在しているはずなのに、そのパターンを探索するのに人類がリソースを割いていないのが現状です。そのため、「マーケターは顧客を好きになりましょう」といった概念的な話が多く、具体的にどうすれば良いのかがわからないので、成果を出せる確率がなかなか向上しません。

だからこそ、私自身が大量にリソースを割いて、BtoBマーケティングについて体系化したいと考えています。

思考や行動が体系化されれば、迷う必要がなくなり、ゆくゆくはボタン一つで意思決定できるような時代が訪れるでしょう。

例えば「顧客を理解するための行動」をすべて洗い出すと、考えられる行動は50パターンもないと思います。その50パターンの中から、状況や業界に応じて取捨選択できるようにしたい、ということです。

――今後、企業において、マーケティングはどのような役割を担うと思いますか?

マーケティングを「売れる仕組み」と位置づけるなら、マーケティング部門は企業の重要基幹部門になるのではないでしょうか。端的に述べると、売り上げを上げるための主要部門になると思います。

私自身も昔は営業に行くと「弊社はBtoB企業なので…」といった理由でマーケティング投資を断られたものですが、現在は「BtoBマーケティングに注力したい」という企業が増えていて、変化を実感しています。

かつて、企業において売り上げを上げる役割を担っていたのは営業部門です。

BtoBの領域では少し前まで、展示会で名刺を獲得して飛び込み営業をしたり、テレアポをしたりといったセールス手法が主流でした。しかし現在は、顧客とのタッチポイントが増え、認知から購買へとつなげるマーケティングファネルをつくる活動が重要になっています。

これまでのBtoB企業は、売り上げをつくっている営業部門の地位が高く、出世するのも営業部門の人がほとんどでした。マーケティング部門がない企業もあったくらいです。

しかし、今はマーケティングが売り上げをつくっていく時代になってきているので、今後はマーケティング部門の地位が上がるのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

栗原康太(くりはら・こうた)
株式会社才流 代表取締役社長。東京大学社会心理学専修課程卒業後、株式会社ガイアックスに入社。大学1年次より、BtoB企業に特化したインバウンドマーケティング支援事業の立ち上げに参画した経験を持つ。2016年より新規事業開発を担当し、同年7月に事業譲渡を受け、株式会社才流を設立する。

株式会社才流
BtoBマーケティングの代行サービスやコンサルティングを提供。
所在地:東京都千代田区
https://sairu.co.jp/aboutus/

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちら「これからの時代のマーケターを動かす思想をつくりたい」株式会社才流 栗原康太さんインタビュー

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