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SmartHRマーケティング責任者・岡本剛典に聞く「成長を加速する組織作り」と「マーケティングのポイント」

SmartHR急成長の背景には、マーケティングへの積極的な投資が挙げられる。マーケティング責任者を務める岡本剛典氏に“次の一手”を聞いた。
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「SmartHR」の快進撃が続いています。SmartHRは人事・労務管理をペーパーレスで完結できるクラウドソフトで、2015年のサービス開始から登録社数は2万社を超えました。

急成長の背景にはプロダクトの秀逸さに加えて、マーケティングへの積極的な投資が挙げられます。そのマーケティング部門で責任者を務めるのが執行役員の岡本剛典さんです。

さらなる急成長を実現すべく、岡本さんはこれからどのような施策を考えているのでしょうか。

今回はSmartHRでマーケティング責任者を務める岡本剛典さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)

    

成果の最大化に必要な組織設計の重要性

――SmartHRのマーケティング責任者とは、どのような仕事ですか。

シンプルに言うと、マーケティングの4Pのうちプロモーションの役割が中心です。人事労務系SaaSの業界はこれから市場を切り開いていく必要がありますので、顕在化している見込み客に対する自社サービス、プロダクトのプロモーションと同時に、潜在層を開拓して市場全体の拡充に努めることがミッションと言えます。

――岡本さんがSmartHRに参画したのが2018年10月。この1年半弱の間にどんなことに取り組みましたか。

大きくは2つあります。1つは組織設計です。以前は1つの分野に1人ずつプロフェッショナルがいる状態で、組織として十分に機能しているとは言えませんでした。それぞれが全力疾走するのはいいですが、属人的なところも見受けられ、パフォーマンスを最大化するには全体の力を効果的に結集させる必要がありました。

会社をスケールさせるには、コミュニケーションの活性化へ向けた適切な組織設計がとても大切です。そのため、現在はマーケティングだけでなく、組織設計に注力しています。

――組織設計のポイントは何でしょうか。

数年先を見据えて、今のうちに整備しておくべき諸課題を発見し、現場に落とし込むことです。

これまで人事労務系クラウドソフトウェアの中ではSmartHRが一人勝ちの状態でした。しかし、複数の類似サービスも登場しています。まだ競合優位性はありますが、プロダクトの機能だけに依存していると、いずれコモディティ化すると思います。それを防ぎ、優位性を確保し続けるためには、ブランディング活動がこれから重要になると考え、その点でパフォーマンスを発揮できる組織へと作り変えているところです。

――もう1つは何でしょうか。

もう1つは、デジタル広告への投資促進です。入社当時、出稿箇所はたくさんあるのに、デジタル広告への投資が十分に行われていないと感じました。そこで、昨年一年間、徹底的に投資して出稿範囲を広げる作業を行いました。現状はある程度、手を広げきりましたので、リードの整備をしている段階です。

――具体的にはどんなことをしているのでしょうか。

リードはたくさん獲得できているのですが、全てをセールスに渡せているわけではなく、マーケティングの部署で持ったままになっているものもあります。ここは改善が必要です。そのため、マーケティングオートメーションを活用したり、セミナーなどを開いたりしてリードを温め直すナーチャリングのメカニズムを整備しているところです。

また、売り上げとのつなぎ込みが不十分な点も改善の余地があります。売り上げや最終的な受注データからさかのぼって、どういう広告を経由すると一番売り上げにつながるのかをもっと精度高く解明するために、アトリビューションを分析する体制の構築にも注力しています。

SmartHRのオフィスの様子(画像提供:SmartHR)

イベントへの積極参加でオフラインのコミュニケーションを強化

――リードをたくさん獲得できているのは、デジタル投資の成果とプロダクトに対する評価の高さの現れという認識でしょうか。

獲得しているリードの数はかなり多いと思います。それはプロダクトの優位性やデジタル投資に限らず、マーケティングの重要性を会社がきちんと理解していて、リターンさえ合えば、マーケティングへの投資を惜しまないという考え方が定着しているからです。ですから、躊躇することなくいろいろなチャレンジができますし、チャレンジするからより良い手法を見つけられるという良い流れができています。

――マーケティングへの投資とはどんなことですか。

例えば、イベントや展示会、セミナーなどオフラインのコミュニケーションです。BtoBといっても、基本は人と人。オンラインだけではプロダクトの優れた点を十分に伝えられるとは思えません。プロダクトの価値を的確に伝えるには、オフラインのリアルなコミュニケーションでわかりやすく説明する必要があります。

――イベントマーケティングがその1つですね。どれくらいのペースで開催しているんですか。

昨年一年間で大小合わせて50くらいを開催しました。我々は市場を積極的に開拓する必要がありますので、働き方改革などがテーマに掲げられたイベントにはなるべく参加するようにしています。その上で効果測定し、成果が出たところと、そうでないところを精査して、今後の方針を策定しています。PDCAではなく、「Do」が先で、その後に「Check」→「Action」→「Planning」と続く「DCAP」で取り組んでいます。

――現状、デジタルとオフラインでどちらのほうがリード獲得に貢献していますか。

実績ベースで言うと、デジタルとオフラインが半々か、まだ少しデジタルが多い状態です。そのため、オフラインの強化に力を入れています。

圧倒的勝利に必要なBtoBtoEマーケティング

――そうしたマーケティング施策の成果によって、顕在層についてはある程度、獲得できていると聞きました。SmartHRの成長をさらに加速させるべく、潜在層を掘り起こし、市場を拡充することが重要とのことですが、その辺はどのように進めていますか。

冒頭で申し上げたように、市場ニーズの開拓やイメージ作りをミッションとするブランドマーケティングの実践のため、パフォーマンスを発揮しやすい組織設計に取り組んでいるところです。その上で、機能訴求をわかりやすく行う従来のコミュニケーションに加えて、マーケティングやブランドコミュニケーションの観点でメッセージを出せるようにしたいと考えています。

――例えば、どういうことでしょうか。

まだ細かく詰められているわけではありませんが、我々のプロダクトはBtoBでありつつ、エンドユーザーというか、SmartHRを利用する人事労務担当者さまのみならず、その先で使用する従業員までを見据えた「BtoBtoE」のコミュニケーションを取るべきだと考えています。UGCが生まれる起点が増えることで、世の中の話題になりやすく、情報も拡散しやすいのではないかと思います。

――「BtoBtoE」の「E」は人事労務の社員という意味ではなく…。

一般の従業員を意味しています。人事労務だけでなく、各種の労務手続きや年末調整の書類作成をお願いしたり、申請したりする従業員もユーザビリティやUI・UXを直接体感しています。BtoBマーケティングと考えると、相手企業の認知をどのように獲得して導入につなげるかに思考が向きがちですが、私はその枠を広げたい。確かに高めの目標ではありますが、SmartHRといえば「働いている全ての人たちにとって良いプロダクトであり、働く環境を改善してくれるサービスなんだ」という想起を取れれば、圧倒的な勝利を獲得できるはずです。

――「E」まで広げる手段として、どのようなことを考えていますか。

テレビCMやOOH(Out of Home)の平面広告、交通広告をはじめとするマスのコミュニケーションのほか、オウンドメディア、SNS、noteなどいろいろなメディア、サービスを使ってうまく広げていきたいです。ほかには書籍の出版もやってみたいですね。

――SmartHRは以前からテレビCMを流していますが、効果はどうですか。

SmartHRがブレイクスルーするきっかけの1つにCMがあったのは間違いありません。ただ、リード獲得や受注という点で大きな投資対効果があったかというと、判断が難しいところです。もちろん、シンボリックなCMを放映することで、従業員満足度の向上や採用面には効果的ですし、商談のフェーズが進んだところもあると思います。その辺は計測できていませんが、トータルとしてプラスの意味合いは大きいと捉えています。

ブレイクスルーのきっかけになったターゲットの転換

――CMに関連したブレイクスルーのきっかけとして、マーケティング方針の転換があったと聞きました。具体的にはどういうことでしょうか。

マーケティングのターゲットを中小のIT企業から飲食・小売り業界に変えたことです。飲食・小売り業界は従業員にアルバイトが多く、入退社の頻度が高い上に、店舗が分散していることが多いため、書類の手続きや郵送・回収など、人事労務の手続きが煩雑になりがちです。そのような業界で活用してもらえれば、SmartHRの価値が最大化できると考えました。

――飲食・小売り業界の次に考えているターゲットはございますか。

飲食・小売り業界で良い評価が得られた結果、ピボットする形で近しい業界から引き合いが増えています。いずれも入退社が多かったり、拠点が分散していたりする業界が中心になると思います。

もう1つ、昨年大阪に関西支社を設立しましたので、これまで関東・首都圏にとどまっていたビジネスの拠点を広げられるようになりました。これから関西圏での事業展開も積極的に進めていきます。

――継続利用率が99.5%とすごく高いですよね。バックオフィス系のツールとして一旦業務フローに組み込まれると、手間暇かけてリプレースする必要性を感じにくい点はメリットだと思います。ほかに高い継続利用率の背景として行っている施策はございますか。

継続利用率の高さはマーケティングだけの成果ではないですね。マーケティング、セールス、カスタマーサクセスと、それぞれのメンバーがSaaSビジネスのポイントとして継続を前提とした商談受注の重要性をきちんと理解しています。どこの部署が特にすごいということではなく、全員のパフォーマンスを結集した総合力の高さでビジネスできていることが大きいと思います。

マーケティングの部署においては、売り切り型の発想ではなく、継続利用していただくべく、誇大広告や過剰な表現で期待値を煽りすぎないよう、誠実なコミュニケーションを全員が心掛けて業務にあたっています。

デジタル担当者の採用が急務の課題

――お話を伺っていると、急成長中の会社らしく、いろいろなところを強化していて、その分、相当忙しいのではないかと感じます。人員的には足りていますか。

全然足りていないので、全部門で大募集しています(笑)。マーケティングではデジタル担当者の採用が急務です。リード獲得、リードジェネレーション、リードナーチャリングとさまざまな業務がありますが、ビジネスのフェーズが進んできているので、業務内容の難易度が高くなっています。そのため、経験値の高い人が必要です。

――ということは、デジタルマーケティングをかじったレベルでは通用しないと…。

通用しないですね。わかりやすく言うと、これまでは「インターネット広告代理店でトレーディングデスクをしていました」でもOKでしたが、今はレベル的に厳しいかもしれません。求めているのは、事業会社のマーケターとして、自社のビジネスを成長させた実績のある人です。

SmartHRのオフィスの様子(画像提供:SmartHR)

高い実績を上げる秘訣はゴールポイントの設定

――わかりました。次に、キャリアに関する質問です。岡本さんのキャリアをあらためて教えてください。

SmartHRは4社目です。テレマーケティング、教育系ベンチャーを経て、3社目にGMOクリック証券に転職しました。そこに9年間在籍して、最終的にはマーケティング責任者を務めています。

GMOクリック証券ではコールセンター業務から始まって、デリバティブの部署でシステムトレードの企画、設計などを担当した後、マーケティングの部署に移り、金融商品の企画開発に携わりました。そこではバイナリーオプションの立ち上げのほか、CFDという金融商品のテコ入れを行い、売り上げや取引人数をほぼ倍増させることに成功しています。その実績を買われたのか、マーケティング責任者に抜擢されて、広告プロモーションやブランディングなどを手掛けていました。

――どういうきっかけでSmartHRに入社したのでしょうか。

金融商品のマーケティングに違和感を覚えたため、今度は自分が心から人に勧めたくなるサービスのマーケティングに携わりたいと思い、SmartHRを選びました。

――現在の役職はマーケティング部門の責任者ですよね?最初からこの役職で入社したのですか。

はい、前職の実績を評価していただきました。ありがたく思っています。

――これまでのキャリアで、岡本さんが他の人より優れていたこと、あるいは力を入れて取り組んできたことは何ですか。

ゴールポイントをかなり遠くに置いていることが他の人との違いだと思います。例えば、バイナリーオプションの立ち上げに携わったときも、私はマーケティングではなくデリバティブの部署に所属していました。金融商品に詳しい私とマーケティングの担当者が連携してプロダクトを作るという立て付けだったのですが、マーケティングの仕事がしたいのになかなかさせてもらえなかった私にとって、絶好のチャンスだと感じました。

まずは自分の実力をアピールしようと考えてスタートしたのですが、最終的にはプロジェクトの進行を全て私が担当することになり、プライシングだけでなく、UI設計、プロモーションなど全部を組み立ててリリースしました。その結果、社内で扱っている株やFXなどさまざまな金融サービスの中で2番目の売り上げを立てられるプロダクトに成長させることができました。

その成果を認められてマーケティングの部署に異動になったのですが、それはただ成果を上げればいいと考えていたのではなく、ゴールポイントを遠くに置き、どうすれば社内有数のプロダクトへと成長させられるかまでを見据えて取り組んだ結果だと思います。

――なるほど。相手の期待値よりも遠くにゴールポイントを置いて、求められているレベルよりも大きな成果を出したことが評価されたわけですね。

成果を出すためには、どんな努力も惜しまなかったですね。

――それは時間も質もですか。

そうですね。自分はスペシャルな人間ではなく、凡庸ですから、人と同じことをしていたら絶対に人より上には行けないし、人より優れたアウトプットを出せないとわかっていました。量の積み重ねが質に転化するといいますが、私もとにかく量だけは誰にも負けないようにしようと思って努力してきたのが良かったと思います。

新しいことに積極的に取り組んで次々成果を出していくと、仕事を依頼する側にも「この人にお願いすれば、期待以上のアウトプットを出してくれるに違いない」と思ってもらえるので、必然的にやりがいのある仕事が回ってきます。

――マーケティングについてはどのように勉強しましたか。

マーケティングに限らず、未知の領域については納得感を得られるまで研究するようにしています。方法としては、その仕事に取り組む上で重要なキーワードを見つけて検索し、著者が異なる本を数冊読みます。そうすると、著者全員が同じ内容を説いているパートについては、絶対に押さえておくべき基本であるとわかります。一方、著者によって見解の異なる差分を身に付けると他の人と差がつけられますので、どこを選択するかを慎重に見極めた上で、実際のビジネスで試行錯誤しながらセオリーを見つけるようにしています。

また、ある程度知識が身に付いて仕事で使えるようになってきたら、自分より詳しい人に相談して壁打ちをしています。その際、注意したいのは自分が一定のレベルに成長してから相談することです。ほぼ白紙の状態で「教えてください」と言っても良いコミュニケーションにはならないでしょう。

貴重な経験を積めるマーケティング責任者の魅力

――最後の質問です。岡本さん自身のこれからのテーマ、目標を教えてください。

そこは正直、少し悩むときもあります。このまま経験値を高めてマーケティングという山を登り続けるか、それともビジネス全体にコミットすべく経営者サイドにチャレンジするべきか――。

もちろん、当面はSmartHRの成長を加速させることに全力で取り組みますが、「その先をどう生きるか」という思いが時折、頭をよぎることはあります。

そう考えるもう1つの理由は、自分のポストをしかるべきタイミングで若い人に譲るべきだという認識を持っているからです。マーケティング責任者のポジションは、キャリアを構築する上でとても良い経験になります。例えば、数十億円の広告予算を任されて、それをどう投資してリターンを得るかを考え、実行するのは、ハードですが、ビジネスパーソンとしてかけがえのない経験となるでしょう。私も成長途上ではありますが、もっと若いメンバーにもそういう役割を経験させて成長を促したいという思いもあります。

――本日はありがとうございました。

Profile
岡本 剛典(おかもと・たかのり)
株式会社SmartHR執行役員/VP of Marketing。
GMOクリック証券でのプロダクトマーケティング職、マーケティング責任者を経て、2018年10月からSmartHRに参画。現在マーケティング・PR部門の責任者のほか、インサイドセールス、ビジネス領域のデザイン組織を管轄。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして30年のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちらSmartHRマーケティング責任者・岡本剛典に聞く、成長を加速する組織作りとマーケティングのポイント

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