旅行業界のWeb担当者さんに聞いた「デジタルマーケティングで勝つ手法 」とは?

「検索ユーザーが本当に欲しい情報を掘り下げて提供する」阪急交通社が成功している理由

スマホでサクッと旅行を予約することが当たり前になった時代だからこそ、ユーザーが本当に欲しい情報を網羅して「勝つ」Web集客の手法とは?

(左から)株式会社阪急交通社 宇和川 匠 氏、中西 彩 氏、植田 雄太 氏

近年デジタル化が進む旅行業界。バウチャー、航空券、旅程表の発行などまだまだアナログ作業が発生するものの、Webサイトからの予約のシェアは確実に増えているという。旅行業界としてもデジタルを意識したマーケティング施策の強化がマストだ。

そんな中、阪急交通社は2018年上半期、旅行取扱額で前年比106%を記録した。ウェブ推進部・宇和川匠氏、植田雄太氏、中西彩氏は「ユーザーの検索ニーズ」を掘り下げたコンテンツを自社制作することでWeb集客の成果を上げている。現在の施策と「これから」について聞いた(以下、発話は敬称略)。

スマホひとつで予約することが当たり前になったから

――インハウスでのデジタルマーケティングに力を入れるようになったきっかけは?

宇和川:阪急交通社はここ数年で、Webサイトからの予約が大幅に増えたことが大きいと思います。以前はWebで海外旅行を予約するなんて考えられなかったのですが、最近はスマホですぐに予約できるサイトも多いので、Webサイトからすぐ予約できる環境に慣れている今後の顧客層への対応を強化するべきだと考えています。

株式会社阪急交通社 宇和川 匠 氏

宇和川:旅行業界は、ほかの業界に比べてデジタルにシフトしていくスピードが遅いと感じます。今まではWebサイト=商品を掲載するページの役割のみでしたが、これからはユーザーが本当に欲しい情報を汲んで、自社のサービスと照らし合わせて提供していくことが大事だと考えています。

弊社もそれまではSEO施策の会社にコンサルを頼んでいたものの、ちょうどオウンドメディアを立ち上げるタイミングでもあり、「質問して回答を待つぐらいなら自分でやったほうが早い」と、Web集客施策に自社内でも出来うる範囲で取り組むことにしたのです。

――デジタルマーケティングを進めるにあたり、どういうことを重視していますか?

植田:海外旅行は特に、パスポート番号の入力などもあるので、スマホの画面で予約ボタンひとつで簡単に予約するのは、旅慣れた方じゃないと難しいと思います。そこで阪急交通社では、サイトにログインシステムを設けて、予約までに必要な情報を提供し、デバイスを変えてもスムーズに予約できるようなUI/UXを推進しています。

中西:業界の流れとして、旅行の選び方もスマホでの検索から始まるように変わってきています。ユーザーはInstagramやFacebookで観光地やグルメの写真を見て、「ここどこ?」とまずは検索して調べる時代。ですから、Webサイト上で情報を詳しく調べて、納得したうえで旅行をしたい人に向けて、「商品掲載ページにどんな情報が網羅されているべきか」を考えていくことは大事だと思います。

これは各旅行会社で基準が違うと思うのですが、私たちは、「”ボタン1個で簡単に旅行の予約ができる時代”に向けて、いかに入口を広げるか」を重要視したいと考えています。

必要な情報を網羅して「よりスムーズに」予約をしてもらうことを大切に

――そういった「今後の顧客層への対応」のひとつとしてWebサイトの改修を行われたとのことですが、具体的には何から始めましたか?

宇和川:Webサイトの改修にあたり、ユーザーニーズを正確に把握しなければならない。そのためのツールとしてSEOプラットフォームのMIERUCA(以下ミエルカ)を使いました。Webサイト制作に携わっていたコンサル会社やデザイン会社が同ツールを使っていたので、ユーザーの検索意図や聞きたいことを社外の制作チームに質問していたのですが、「回答を待つ間に自分で調べれば時間も短縮できる」と思い、自社内でも導入を決めました。

植田:新しいコンテンツを作成するときに、まずはお客様の声を知る必要があると思うんです。すでに自社に来てくださったお客様から感想を集めることはできても、広く一般の人のニーズまで把握するのは難しい。その点、ユーザーの検索目的など見えないところをツールで調べられるのは大変助かります。

株式会社阪急交通社 植田 雄太 氏

ユーザーの検索意図を調べて「何度もユーザーに検索させない」サイトに

――ミエルカをどのように使っているのでしょうか?

中西: 主に特集ページを新しく作るときや既存のページを改修するときのヒントを得るために使っています。前回よりいいページにするにはユーザーがどういう情報を求めているのか、どんなことに関心を持っていて、どのような情報を与えることができればスムーズに商品を購入してくれるのかなど「旅行する“前”にお客様が求めていること」を知る必要があると感じました。そこでユーザーの検索意図を分析して、より疑問や関心に応えたページを作るための「助け声」を得ることにしました。

ポイントは「ユーザーに何度も検索させないこと」。ユーザーによって感覚は異なると思いますが、いまは旅行ブログなどの情報サイトもたくさんあります。それらを調べてから予約サイトへ行き、不明点があればまた検索結果画面に戻って情報サイトを調べる……と行き来して面倒になることがあります。

そこで、ユーザーの手間を少しでも省くために「予約サイト内で詳しい情報を入れてはどうか?情報検索から予約までスムーズに完結できれば、いい流れができるな」という話になりました。

株式会社阪急交通社 中西 彩 氏

服装からオーロラの色まで「あればいいな」という情報をきちんと掲載する

――実際に「助け声」を得て作ったページはどういうものがありますか?

中西:はい、2つ例を挙げます。1つ目は「立山黒部アルペンルート」の特集ページのリニューアルです。まずはミエルカで「アルペンルート」というキーワードで検索したとき、上位のサイトやQAサイトではどんなテーマ・トピックがよく出てきているかを分析しました。検索エンジンが評価しているということはつまり、「ユーザーが知りたがっていること」です。

「アルペンルート」で検索した際、検索上位サイトやQAサイトでよく言及されるテーマやトピックを、名詞と動詞でそれぞれ抽出

中西:「立山黒部アルペンルート」を分析したところ、「服装」の中でも「トレッキングシューズ」に対する関心が高いことがわかったんです。「アルペンルートへ行くのにスニーカーで大丈夫なの?」 とか「気温は何度ぐらい?」とか、実際に現地へ行くとなるとよりリアルな情報が欲しいですよね。そこで特集ページに季節ごとの服装に加え、靴の目安を「理想の足元」として追加で掲載しました。

季節ごとの服装の目安など、実際に現地へ訪れるユーザーが欲しい情報も掲載している

また、「車でのアクセスルート」がテーマとして挙がっていたことからヒントを得て、アクセス情報ページには駐車場の情報を入れたり、アルペンルート周辺だけでなく、車でのアクセスが便利な金沢の観光ガイドを入れたりしました。 ここから、ユーザーの「旅行先での行動」までを想像してコンテンツを作ることを心掛けるようになりました。

――「予約をしたら終わり」ではなく、ユーザーの旅行そのものをお手伝いするページが、まさに実現されていますね。

中西:ありがとうございます。2つ目は「オーロラツアー」の特集ページのリニューアルです。

「オーロラ ツアー」と検索したユーザーが何を知りたがっているかを読み解くため、サジェストキーワードを検索意図ごとに分類した図。「ナイアガラの滝観光もできるオーロラツアーは?」などのニーズが分析できる。

オーロラの特集ページは昨年まで、弊社の商品造成・販売時期との関係から6月上旬~2月下旬までの期間で掲載していました。しかし、全国にある弊社の一部拠点によっては従来よりも旅行商品の造成・販売時期が前倒しになったこと、「オーロラ ツアー」に関する検索が年間を通して一定数あったことを受けて、常時掲載するようにしました。

「オーロラ いつ/どこ/国名/違い」などで検索したユーザーニーズに応えたコンテンツを用意

また、「オーロラツアー」の関連キーワードを見てみると、「オーロラツアー 料金」「オーロラツアー 値段」など「費用」に関する検索ワードが通年で一定数あることもわかったので、新たにシステムを構築し、旅行費用の目安もユーザーの検索条件に合わせて表示できるようにしました。これはユーザーが検討中の出発月と行き先(国)を選択することで、選択した内容でのツアー料金の最安値~最高値の料金幅を価格表へ反映しています。

ユーザーが何も選択しなかった場合は、2ヵ月後の価格を自動取得し、旅行費用の目安として表示。

昨年この特集ページを作ったときには、「費用」のクエリが一定数あることを把握していなかったので掲載していなかったのですが、ユーザーが「オーロラを観にいきたい」と思った時にはまず、参考となる予算を知りたいのだと気づいて掲載しました。実は価格を表示するための条件を決めることや、新たなシステム構築も大変だったのですが、ご好評いただいています。

――オーロラってほぼ通年で観られるのですね(*)たしかに、「オーロラ 費用」で検索すると、最上位に阪急交通社のページがヒットしていますね。(2018年12月現在)

観測率が高いイエローナイフでは年間240日観測が可能とされている。

中西:価格表のほかにも、ざっくり「オーロラを観たい」というキーワードの検索も多いことがわかったので、オーロラを観られる場所だけでなく、どの国や地域に行けばどんな色や形のオーロラが観られるのかという情報も入れました。漠然とオーロラを観たいと考えていたユーザーも、自分はどの国または地域にオーロラを観に行くべきかといった選択要素を提供できるよう工夫しました。

そのほかに、「写真撮影」のキーワードから「こんな観測スポットがありますよ」という情報だけでなく、オーロラの写真をうまく撮るコツなど「知っているだけで得するような情報」を掲載することで、ユーザーに喜んでもらえて、最終的にはサイトの評価も上げられたらいいなと思います。

オウンドメディアの立ち上げにユーザーの「検索意図」を反映

――新しいコンテンツを作成した際にもミエルカを役立てたと聞きましたが?

宇和川:はい、阪急交通社のサイトから独立しているオウンドメディア「たびこふれ」のサイトを立ち上げる際にも使いました。

旅行のプロや現地に精通したライターが中心となり、魅力的な旅行情報を発信しているオウンドメディア「たびこふれ」

以前は阪急交通社のサイト内で旅行ブログのようなページがあったのですが、「より綺麗なUIで読みやすいコンテンツを提供したい」という想いがあり、いまは「『この場所どこだろう?』と何気なく検索した潜在ユーザーでも旅行したくなるような記事を掲載する」というテーマで運営しています。

たびこふれは阪急交通社の予約サイトへの導線というよりは、「旅行する前のアイディアが欲しい」という新規ユーザーへ間口を広げるために作られています。

――たしかに、サイトは写真をメインにした構成で「旅行したい!」という欲に駆られますね。サイトを立ち上げてからの反響はどうでしょうか?

宇和川:このサイトは2017年7月にオープンしてから月間100万UUを目指していますが、1年ちょっと経ったいまでは、月間80万万UUを超えるくらいまで伸びてきています。

ユーザーの検索意図から新規コンテンツを生成する

――たびこふれで新規コンテンツを作成する際に心掛けていることはありますか?

宇和川:はい。私はたびこふれではライターもやっているのですが、新規記事を投稿するための取材の前にはミエルカでユーザーの検索意図を調べるようにしています。たとえば北海道の「氷瀑まつり」について書いた記事は、事前にユーザーがどんな情報を知りたがっているか、検索意図を把握してから取材に行きました。

関連キーワード紐づけ図。ミエルカの「インテンショングルーピング」機能を使って、「氷瀑祭り」を調べたユーザーの検索意図を自動で分類・可視化した例。意味の近いトピックはカタマリになって表れる

――ユーザーの検索意図からコンテンツを新しく作成する、理想の形ではありますが、いざ実践するのは難しそうですね…

宇和川:ゆくゆくは記事を執筆する担当者が添乗などに行く前に、現地に関連するキーワードを調べて、ついでに取材もしてきてほしいと考えています。

また、既存の記事コンテンツも「投稿したら終わり」ではなく、移り行くユーザーの検索意図を反映させて記事をリライトしていくこともあります。

「アナログとデジタルをうまく組み合わせていきたい」

――これからWeb集客を進めていくうえでの課題はどういったものでしょうか?

植田:従来私たちがやっていた新聞広告での旅行商品掲載の場合、お客様は受け身の状態で旅行商品についての情報を得ています。いわばプッシュ型の情報発信ですね。この場合どうしても「このツアーのここがお得ですよ!」とか、お客様にとってメリットとなるところをいくつも出したインパクト重要の訴求にしなければなりません。一方で、サイトを見て旅行商品を予約するお客様への情報はプル型、もともとその旅行商品に興味があって能動的に情報を収集してサイトを見てくれているので、知りたいことに合わせて情報を提供する必要があります。

予約サイトもかつては「旅行商品を掲載するだけ」のページでよかったのですが、Googleのアルゴリズムがユーザーファーストにどんどんなってきていることもあるので、ユーザーが欲しい情報を知り、分析していくことは本当に必要だと思います。現状まだ追いついていないのですが、今後は旅行から帰ってきたユーザーがどのような感想を持ったかをヒアリングして、ユーザーの声を解析したいと考えています。

中西: 旅行は本来、行く前から情報収集を始めて、無事に帰ってくるまでが「旅行」だと思うんです。それなら私たちは計画するところから、家に帰るまでの行程をサポートしていければと考えています。

既存のページをただ更新するだけでなく、ミエルカでデータを見て「こういう情報ニーズがある」という発見と、自分が顧客目線で欲しいと思った情報との「答え合わせ」をしていくことも大事だと思います。

――デジタルマーケティングで勝つための施策を始めて、社内の温度感は変わりましたか?

宇和川:Webサイトでのお客様の問い合わせも増えてきたので、商品企画チームでも「Webに関する知識も入れていこう」と意識が変わってきていますね。

現状はまだ既存商品ありきのWebサイトという構造なのですが、ユーザーの検索ニーズやWebサイトへの問い合わせ内容を全社にフィードバックするなど、Webサイトでのトレンドを意識して商品を企画するという流れができればいいなと思います。

――ありがとうございました。

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