必要なのは媒体を並べることではなく「媒体の役割」を定義すること
必要なのは媒体を並べることではなく「媒体の役割」を定義すること
冒頭で挙げた一般的なカスタマージャーニーマップでは、4つのフェーズの下の方に媒体名が書いてある。これで施策化したような気がするが、実はどうするかは書かれていない。このフェーズでこの媒体を使うというのは、当たり前のことで、カスタマージャーニーでは「このフェーズで、この媒体で、どのような情報を提供するか」を書かなければ意味がない。
また、書かれている媒体は、「現状やっていることなのか」それとも「やるべき希望なのか」を混同していることがあるが、これはしっかり分けて考える必要がある。媒体戦略として描くなら、媒体の種類だけでなく少なくとも次のような内容が必要だ。
- 媒体の直接効果、費用対効果、ターゲット/シーン適性
- 媒体間導線の効果、媒体間遷移の規模、遷移確率
カスタマージャーニーではこれに加えて、各媒体がどのような役割を果たしたのか、今後どのような役割を担うべきなのかという、媒体ごとの目標設定を行うべきである。
媒体の役割を定義することで、「どの媒体や顧客接点でどのような体験をしたから、後の行動がこう変化した」という学びを得て、「だから、購買行動やパーセプションをこう変化させるために、この顧客接点でこうすべき」というストーリーにつながる。
先ほどの一眼レフカメラの例で、人を動かすために媒体でやらなければいけないことを模式化したのが次の図だ。
先ほどの図よりも、ブレークダウンがひとつ細かくなっている。
もともとの状態の左上では、「デジタル一眼レフカメラは初心者お断り感があって、興味はあるが抵抗がある」という人がいる。そのような人が「初心者でも使えるカメラはどんなものがあるか知りたい」と思って検索するのはどのようなときか(子どもが生まれた、Webで記事を見た、友人から聞いた……)。
また、「初心者 カメラ」で検索した人には、どのようなコンテンツを提供すればいいのか(利用者の体験談、専門家の解説、機能の具体的な検証……)。
「どの媒体に」だけでなく、「どのタイミングで」「どのような情報を」提供するかまでを設計するのが、カスタマージャーニーの優れた使い方だ。まとめると、ポイントは次の3点だ。
- 媒体は所詮媒体で、媒体が人を動かすのではない
- 顧客接点ごとに「役割」を定義して、どんな情報を、どんな切り口で伝えれば消費者が変化するのかをきちんと捉える
- どこで情報を欲するかに合わせて、媒体は後で決めればよい
カスタマージャーニーは現状と理想の2つ作る
カスタマージャーニーマップでポストイットに書き込むときには、現状の消費者を描こうとしているのか、ブランドが理想とする消費者を描こうとしているのか、どちらか意識していないと後で役に立たない。
どちらが良いというわけではなく、たとえば現状に課題があるなら現状を把握してどこをケアするか考えるべきだし、まったくの新製品なら理想の消費者像を書くしかない。
ただし、これを混同するとうまくいかない。解決策は、「いついかなる時でも、カスタマージャーニーは2つ作るべき」だと村山氏は言う。
ひとつは現状の消費者の状態(As is)のカスタマージャーニーマップで、もうひとつは本来こうなってほしい(To be)という理想のカスタマージャーニーだ。次の図は、菓子を題材にしている。
さらに、2つのカスタマージャーニーを並べ、ギャップを埋めていく。これがマーケティング戦略になる。現状と理想を、施策で埋めていくのだ。
マーケターの仕事は、カスタマージャーニーマップを作ることではなく、カスタマージャーニーを使って消費者の変化を設計し実現することだ。そのためのポイントとして、次の2点がある。
- 「消費者の現状」と「ブランドの理想」を混同しない
- 2本のカスタマージャーニーで変化を設計する
最後に村山氏は、次のような目的別のチェックポイントを紹介した。
- コンテンツマーケティングにカスタマージャーニーを使う場合
→ どんな情報を与えて、消費者をどう育てるかを設計する
- Webサイト(オウンドメディア)に使う場合
→ コンテンツマーケティングと同様。サイトで与える情報によって、消費者のどんな変化を狙って起こすのかを設計する
- リアル媒体との組み合わせ
→ 狙う消費者変化を実現するための、デジタル媒体・リアル媒体の役割を明確にする
- 顧客育成(ナーチャリング)にカスタマージャーニーを使う場合
→ 育成計画全体は「集約」で見て、各段階の育成施策は「個票」から具体施策を作る
マーケターの仕事は、消費者を知ることではなく、消費者を動かすこと。カスタマージャーニーも、知るためではなく動かすために作り、活用しなければならない。
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