企業ホームページ運営の心得

ポケモンGOに蘇る伝説の技術者のDNA

任天堂の伝説的技術者の横井軍平氏は、「枯れた技術の水平思考」という哲学を持っていました
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の465

進撃のポケモン

mario900/iStock/Thinkstock

全米を熱狂させている「ポケモンGO」。スマホの位置情報機能とカメラを組み合わせ、リアルの公園などでモンスターの「ポケモン」を入手し、育成し対戦できるアプリです。2016年7月22日に日本でも配信と熱狂が始まります。

日本の「IT史」に刻まれる栄光と賛美します。かつて「任天堂の倒し方、知っているよ」との発言が噂されたGREEが、米国に進出するも無様に討ち死にしたように、日本のIT企業の「海外進出」は、電子商取引も含めたほとんどのカテゴリで惨敗しているからです。

ポケモンGOは「純国産」ではなく、任天堂子会社のポケモンと米国Niantic(ナイアンティック)との共同作業ですが、そこに「運命」を感じてしまいます。

アベノミクスよりポケモノミクス

たかがスマホアプリと侮るなかれ。ポケモンGOをリリースしてから10日と待たずに、任天堂の株価は倍になりました。開発を手がけるナイアンティック社に出資していた「フジテレビ」の株価も一時ストップ高をつけるなど、今後の収益性に熱い期待が注がれ「ポケモノミクス」と呼ばれています。

ポケモンは、1996年にゲームボーイ用ソフト「ポケットモンスター 赤・緑」として登場して以来、毎年のように新作が登場し、この秋には「サン」と「ムーン」の最新作が予定されています。いまさら説明は不要な「子供向けゲーム」で、海外でも人気を博しています。

国内のポケモン環境

ポケモンGOは、位置情報と拡張現実(AR)が組み合わされて生まれたゲームですが、ゲームを支える技術の実用化では日本が先行していました。

日本における「位置ゲー」の始まりは、2000年に配信が始まったJ-PHONE(現在のソフトバンク)の位置情報サービス「ステーション」が提供したコンテンツです。GPSが主流ではない時代は、基地局との通信を位置情報に利用します。

位置ゲーの代名詞とも言われた「コロニーな生活」が登場したのが2003年。観光地とのコラボで、土産物屋で買い物をするとゲームの特典が手に入るなど、位置ゲーにリアル世界のマーケティング要素が加わりはじめます。

リアルタイムで風景上にポケモンを描く技術は「仮想現実(VR:Virtual Reality)」や「拡張現実(AR:Augmented Reality)」と呼ばれるものですが、2009年に「セカイカメラ」が商業ベースで配信しています。

また、「外にでる」「リアルを舞台にする」という発想は、2005年に発売された、ニンテンドーDSソフト「nintendogs」の「すれちがい通信」で実装されました。そして、2009年発売の「ドラゴンクエストIX」で大ブレイクします。

つまり、ポケモンGOが生まれる環境はすべて日本国内にそろっていたのです。

成熟した技術から革新へ

独立前のナイアンティックがGoogleの社内ベンチャーとして、リアルを舞台に敵と味方に分かれて陣取りする「Ingress(イングレス)」を発表したのは2012年。

さらに、GoogleがポケモンGOの原点となるジョーク映像「ポケモンマスター採用」を公開したのが2014年のエイプリルフール。

そして、2015年8月にナイアンティックが独立すると、その翌月にポケモンGOの開発が発表されました。

時系列で並べたときに注目すべきは、イングレスから4年、ジョークからサービスインまでわずか2年という「スピード感」ではありません。

「位置情報」「VR」「AR」「リアル空間」を利用したゲームという技術や発想が、みな一定の年月を経過しています。何よりポケモンはシリーズを重ねるごとに売り上げが鈍化し、一部では「オワコン」と揶揄する声もありました。

決して新しいモノではない、この組み合わせが生み出したヒットに「運命」を感じずにはいられないのです。

枯れた技術の水平思考

任天堂の伝説的技術者の横井軍平氏(故人)は、商品開発に対して「枯れた技術の水平思考」という哲学を持っていました。

「枯れた技術」とは、すでに研究し尽くされた技術を指します。長所も短所も明らかなことから制御しやすく、大量生産されているものが多いためコスト削減も期待できます。「古い=悪い」ではないのです。Webにもそのまま通じる教訓です。

ポケモンの母胎となった「ゲームボーイ(本体)」もこの哲学の下に生み出されました。そして、ポケモンGOも既存の技術と、市販のスマホで遊ばれています。まるで横井軍平氏が21世紀に蘇ったかのようです。

対する日本のIT、Web業界は「新しい」が大好き。最新型、新開発、次世代(型)に一喜一憂。最新技術を次々と開発しつつ、時代遅れを「オワコン」と侮蔑しているあいだに、他国に出し抜かれていきます。「iPhone」の起点となった「iPod」も、既存の部品の組み合わせです。

国民性の違いとマーケティング

「マーケティング」という視点でみたとき、ポケモンGOの成功はやはり「純国産」では難しかったと溜息が漏れます。

日本人にとって「ポケモン」は「子供向け」であり、一定の年齢になると「卒業」するコンテンツ。対する米国はどうかというと、大の大人が映画館で「スーパーマン」に喝采するお国柄。米国で先行配信することによって「大人も楽しめる」という印象を世界中に発信したのです。

さらに、ポケモンの出現場所はGPSの位置情報と連動します。ならば、追悼施設や立ち入り禁止区域といった物議を醸すエリアにポケモンが現れるのは、運営側の狙いか、それとも単にデータとしか見ていないのか……。「話題作り」を意図した「炎上マーケティング」の可能性を否定できません。

それがそのまま「日本」へと流れ込みます。とりわけマスコミとIT業界は「米国で大流行」という切り口が大好物。速報こそでませんでしたが、ポケモン配信が始まった7月22日の午前10時以降、新聞各社のWebサイトは一報を報じ、ニュース番組は重大事件レベルに扱い、タイムラインはポケモンだらけ。マーケターの思うつぼです。

かく言う私も早速ダウンロードしてプレイ。気になったのは「歩きスマホ」そのものを禁じるメッセージが表示されないこと。悪いニュアンスでの「社会問題」にならないことを願っています。

今回のポイント

古い=悪いではない

安易な「オワコン」認定の落とし穴

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