Web担当者は情報で武装せよ! 見積もりの悪意をあぶり出す
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の451
情弱ビジネスの仕組み
テレビ通販の雄「ジャパネットたかた」を「情報弱者相手のビジネス」と言い捨てたのは、かつて六本木ヒルズの雄と持てはやされたホリエモンこと堀江貴文氏。「よく言うよ」と呆れたのは、堀江氏がメルマガやDVD販売などを通じ「情報」を売り物とするビジネスを展開しているから。「情報」を商品とする商売は、売り手と買い手の情報の「差」が「飯の種」であって、必然的に「情報弱者=情弱」がターゲットとなるからです。
ただし、「情弱は損をする」が、ホリエモン流の自虐的な指摘としてなら頷けます。特にBtoBでは、契約を交わしてから「知らなかった」は通用しません。
新年度のWeb担当者向け「心得」の第2弾は、情報弱者であったために300万円損しかけた会社の実話。リアル店舗の話を軸にしますが、Web制作でもそのまま通じます。
12万円の価格差は小さなこと
行列ができる店と評判のS。毎週のようにオファーがくるテレビ取材を断る理由を「これ以上、忙しくなりたくない」と広言してはばかりません。もっとも、Sの忙しさは半端ではなく、開店準備は朝の3時に始まり、閉店後の片付けは夜の9時までかかります。平日はろくに食事をする時間もありません。
そのため情報に触れる機会がなく、情弱に陥っています。企業勤めのWeb担当者の方には実感がないかもしれませんが、リアルのビジネスが多忙のため、情報収集に手が回らないことはよくあります。そんなSから、人を通じてオファーがありました。ある業者に依頼した、店舗改装の見積もりについて、その妥当性を検証してほしいというものです。
いまどきの店舗の壁や天井は、クロスの貼り替えが主流。クロスは色やデザインはもちろん、防炎、防湿、防臭などの付加機能によって、素材の単価が違ってきます。単価は1平米で計算し、天井と壁は同程度の面積が必要なため、天井が60平米なら合計は約120平米です。素材の単価が千円違えば12万円の価格差になります。当然、見積もりではどのクロスを使用するかが重要ですが、その記述はありません。
受発注の利益相反
床材にはフロアタイル、重歩行用長尺シート、クッションフロアなどがあり、滑りにくさが求められる表面加工には、塗料やコーティングの他に、凹凸をつけた「エンボス」加工がありますが、見積書にこうした情報は書かれていません。蛍光灯からLEDへの電気工事では、取り付け予定の器具のメーカーどころか、交換後の明るさの説明もありません。情弱の客には説明は不要と言わんばかりの見積もりです。
欠席裁判になるので子細は割愛しますが、「端材(はざい)」と呼ばれる余った資材や、メーカーが在庫整理で放出した特価品を使えば、原価を低く抑えることができます。ある内装業者は告白します。
文句を言わない客はこれで十分
文句を言うには、一定の知識で武装することが必用。原価を抑えることは、すなわち業者の利益を意味し、その誘惑を実現してくれるのが情弱の客です。
情報弱者つながる
一方で、業者も「情弱」でした。まず、「ネットで検索」してすぐに見つかるエンボス加工の床材そのものを知らなかったのです。そのため、数分の「ネットで検索」で「ぼったくり」がバレる危険性に気がついていません。
なお、「見積もりに詳細情報を掲載すると、ネットで安い部材や業者を簡単に探せ、それを嫌ったのでは?
」と疑問を持つ読者もいるでしょう。確かに安い資材をネットで見つけ、それで工事を求める客はいます。資材分は安くなりますが、こうした依頼に工務店や内装業者は「工賃を上乗せする」と笑顔で答えます。馴染みのない資材に対応する「手間賃」と理論武装して。
実は見積もりをもとに、とあるルートで「適正価格」を教えてもらっていましたが、詳細な金額については「オフレコ」と念を押されています(「(仁義として)他の会社の商売の邪魔はできない」とのこと)。
店舗改装の見積もりの内訳は、最終的に資材価格と人件費に集約されます。また、横のつながりの強い業界では、過当競争を避けるための不文律があるといいます。つまり、ネット上で公開されている価格の大半は公開できる「業界相場」だということ。それと比較して「ぼったくり」なのですから、つくづく「情弱」から搾取していたことになります。
お付き合いで発注
さらに業者が「情弱」である理由は、加工物へのロゴの刷り込みについて、「データをイラストレーターで提供すればいいですか?」という質問を「絵描き」と勘違いしたこと。土木の現場でもITと無縁ではいられない時代に、どうやらコンピュータ全般に疎いようです。もちろん、ここでいう「イラストレーター」とは、アドビのグラフィックデザインソフトのこと。
これらを踏まえて「ぼったくり」だと進言するも、Sの社長は「これまでの付き合いがあるから」と、その業者に発注を決めます。情弱には「人」を信じる義理難いタイプが多く、「カモ」にする連中はここにつけ込みます。「情弱は、より情弱を探してぼったくる」とは過言ではなく、事実です。
それでも、何とか適正価格へと近づけ総額から10万円単位で値引きさせます。その後、同じ業者に発注予定だった、より高価な機材の入れ替えは「要検討」とし、総額300万円の無駄な支出を回避させたので、使命は果たせたと自負しております。この手のご相談はミヤワキまで(笑)。
冗談はともかく、このエピソードは、そのままWeb制作に通じます。
精査はWeb担当者の重要な仕事
何度もサイトを作り直す会社は少なく、また作り直す度に制作業者を変えることも珍しく、なにより相場を調べないWeb担当者が少なくないからです。決まったカタチのないWeb制作の相場は、見えづらいのが事実、かつて本サイトで実験的に挑戦していましたが、追随者がいないところ見ると、いろいろと難しい企画だったのでしょう。
あくまで参考程度ですが、これらの項目が見積もりにあったなら、何をするかを必ず業者に確認してください。
- SEO対策費
- テンプレート使用料
- 写真加工賃
- プログラミング料
- レンサバの複数年契約
価格は単純な高安できまるものではありませんが、プロに任せたのだから、ちゃんとやってくれるだろうとは思いこみ。Sの事例で見てきたように、業者の利益と発注者の利益は相反します。
今回のポイント
業者は業者の利益のために動く
見積もりは、内容の「精査」は忘れずに
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