企業ホームページ運営の心得

Amazonが送料無料を止めた真相、書店を潰したのはだれだ

Amazonの全品配送無料の廃止にある背景とは
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

九州の震災、犠牲者に哀悼の意を表し、被災者の一日も早い復興を祈念しております。

また、できることはあまりないかも知れませんが、お力になれることでしたら、最大限の協力を惜しみません。本サイト及び、弊社サイトよりお声かけくださいませ。

それから被災地、及び周辺のWeb担当者のみなさん、東日本大震災当時の拙稿が、些少でもお役に立てましたら幸いです。

心得其の452

無料廃止の衝撃

tashka2000/iStock/Thinkstock

ネット通販のAmazonが通常配送料の有料化を発表し、Web界隈が騒然としました。さまざまな憶測が飛び交い、年会費を支払うことで無料が継続される「プライム会員」への移行を促進し、国内ネット通販市場を支配した後に、値上げを目論んでいるという「陰謀論」まで飛び出します。

「ユーザーを囲い込んでから会員費を値上げするに違いない」と、プライム会員費が当初の約2倍になっているアメリカを論拠に持ち出しますが、Web関係者におなじみの「視野狭窄」です。Web周辺の情報だけで判断しない習性を身につけることで、こうした「もっともらしい嘘」に惑わされなくなります。

まず、市場を支配するには圧倒的なシェアの確保が不可欠です。Amazonが米証券取引委員会に提出した2015年の年次報告書から、日本市場の売り上げは「約1兆円」だと、姉妹サイト「ネットショップ担当者フォーラム」で紹介されていますが、そのシェアはどれほどのものでしょうか。

楽天はアマゾンの3倍

経済産業省がまとめた「平成26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によれば、「消費者向け電子商取引(BtoC)」の市場規模は12.8兆円。

これを母数とすれば、Amazonの日本シェアは7%。かなりの高さだといえますが、類する「楽天市場」の国内流通総額は2.7兆円で、Amazonの3倍の21%のシェアを誇ります。集計方法の違いから、単純比較には無理があるとはいえ、どちらのサービスも「企業間電子商取引(BtoB)」の側面を持ち、こちらの市場規模は196兆円。するとそれぞれ0.47%と1.29%。現時点はおろか近未来的にも、価格決定権を握るほどのシェアはないと見るべきでしょう。

そもそもシェアの拡大を目指すなら「値上げ」は厳禁。わずか3%の増税がアベノミクスを破壊したように、値上げは市場を縮小させます。値上げの果てに市場支配を目論むという陰謀論は、そもそも論レベルの論外です。

書店のライバルとは

有料化した理由はもっと単純なものです。先の「ネットショップ担当者フォーラム」の記事は、北米以外の事業で9,100万ドルの営業損失をだしていたことも紹介しています。

一般的な企業経営の視点でみれば、今回の無料廃止は、収益性の改善を期待しての施策に過ぎません。プライム会員への誘導も「定期収入」を得るためで、直近でも「あわせ買い」を導入するなど、もともとAmazonは配送料をこまめに改訂する企業です。

陰謀論が生まれた背景には、Amazonがその母国、アメリカで「書店潰し」として名を馳せていることもあるのでしょう。日本でも書店数は激減しており、20世紀末からの15年間で、店舗数が4割減ったという報告もあります。しかし、書店の減少にAmazonの影は差しますが、もっとも書店を潰しているのは「コンビニ」です。

情報泥棒を量産するコンビニ

書店の収益を支えていたのは「雑誌」でした。売り上げが不安定な書籍と違い、雑誌は毎週、毎月、一定数が必ず売れます。一冊当たりの利益は少なくても、確実な収益を期待できたのです。これがコンビニに奪われます。しかも、圧倒的な店舗数を誇り、24時間営業をされては、雑誌を求めて書店に足を運ぶ方が困難というものです。さらにコンビニによる「立ち読み」の常態化が、書店にとどめを刺します。

端的に言えば「本」の商品価値とは「情報」であり、「立ち読み」とは商品価値の「窃盗」で、かつて昭和時代の「本屋」では、店主が咳払いで威嚇し、ハタキで店を追われたものです。ところがコンビニでの立ち読みは常態化し、なかば権利と錯覚している人が増えました。

立ち読みしている人の隙間から、購入のために週刊誌に手を伸ばした私を、「ちっ邪魔だなあ。俺の読書スペースを取るなよ」と言わんばかりの表情で睨みつける一流企業の社員もいるものです。

コンビニが破壊するもの

日本の書籍、雑誌の大半は、一定期間経過すると「返本」できる制度になっています。つまり、立ち読みで情報が盗まれても、本が汚れても返品すれば、小売店は損をしません。コンビニは雑誌を、より利益率の高い、お弁当などを購入させるため、つまりは来店機会を増やすための「客寄せパンダ」にしているとは、あるコンビニ業界関係者の証言です。

書店でも返品は可能です。しかし、書店の多くは「本」しか収益機会がありません。情報を盗まれれば、売るものがなくなります。八百屋の店先から盗まれたネギが、八百屋に利益を落とすことはありません。

乗降客数の多いベッドタウンの駅前にある書店の店主は、以前は通勤、通学のお客をターゲットに、朝は8時ごろから営業していましたが、「いまは立ち読みばかりで買っていかない」といい、現在は午前10時からしかシャッターを開けません。

売れない営業時間は、人件費と光熱費を無駄にするだけでなく、購入する「お客さま」に、購入する「お客さま」に立ち読みで傷んだ雑誌を手渡すことになりかねません。

世界は1つじゃない

編集部ごと出版社を移籍して新雑誌を発刊するなど、出版業界を騒がせている名物編集長、花田紀凱(はなだ かずよし)氏が、2016年4月16日の産経新聞で触れているように、出版社からすれば「コンビニ」は有力な「販路」です。だから文句をいいません。そして書店の絶滅が加速します。

国内において「書店潰し」の主犯はコンビニです。アメリカにおけるAmazonの印象を日本に当てはめるのは「濡れ衣」。そして、すでに見たように「シェア」からすれば、その実現への道のりは遠いのです。

Web界隈の議論は、往々にして「グローバル」という1つの世界が存在するかと錯覚しがちです。また、その世界がアメリカを指すこともしばしば。これが「もっともらしい嘘」の火種。

リアルはそれぞれの国で異なります。すっかり認知された「忘れられる権利」は欧州から生まれ、狭い国土に狂気の物流網が整備されている我が国では、Amazonよりも便利(コンビニエンス)なコンビニが存在します。

Web担当者は情報に接し「地域差」を意識しなければなりません。新年度、心得シリーズの第3弾でした。

今回のポイント

陰謀論は「そもそも論」で洗い直す

Web以外の要素を視野に入れないと見誤る

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