リコーのWeb戦略チームが語る、強いWeb担当部門の作り方
企業Webサイトが単なる情報発信手段からマーケティングにおける重要な1ツールに変化してきており、Web担当部門の役割も年々増えている。もはやWebサイトを制作して公開し、更新するだけという単なるWeb管理部門ではなく、マーケティング担当部門との連携が必須となっている。そこでリコーは、既存のWeb戦略チームの役割を見直した。
「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」において、リコーの伊藤恵美子氏が「強いWeb担当部門の作り方」と題して、リコーグループ内でのWeb担当部門の変遷を交えながら人材育成について解説した。
“個”、“部門”、“チーム”の強化
リコーでは、80以上あるWebサイトを6人からなるWeb戦略チームで統括している。伊藤氏がWeb運用にかかわって10年以上たつが、最近はWebサイトを使って顧客エンゲージメントを図るオンライン施策が増え、各部門からの相談が増えているという。定型業務はほとんどなくなり、多くは非定型業務だ。
Webサイトの役割や事業部門からの期待が変化したことで、Web担当部門の仕事は増えている。しかし、人的リソースは6人前後と変わらず、これからも大きく増えることはありそうにない。また、1995年にコーポレートサイトを立ち上げた当初から、広報・宣伝の一環としてコミュニケーション部門が主管してきたが、Webサイトの役割や期待の変化に対応するには、コミュニケーション部門だけでは難しくなっている。これを解決するために、リコーは三段階の取り組みを行った。
①“個”の強化
Web戦略チームが目指すのは、「Webのスペシャリストとして社内コンサルタントになる」ことだ。そのためには、チームメンバーがスキルアップして多様な知識を持つことが求められる。具体的な取り組みは以下の3つだ。
- 教育
Web戦略チームの仕事の1/3は、各部門からのオンライン施策の相談であり、社内のあらゆる相談事に答えられるように知識を習得しなければならない。そこで、以下のような取り組みを行っている。
- ネットマーケティング検定受験(全メンバー)
テキストには、広く浅くではあるが、昨今のWeb運用に必要な知識が網羅されている。理解度を測るために試験を利用し、総合的知識を習得してもらうとともに、自分に足りていない知識は何かを知ることにも役立つ。
- 異業種交流会への積極参加
多様な知識を得るには、さまざまな人と会話することが望ましい。リコーは、「企業研究会Webマネジメントフォーラム」と「Web広告研究会」という2つの異業種交流会に参加している。
- 専門分野強化
例えばアクセス解析を担当するなど、個別の専門分野があるメンバー向けには、外部講座受講や外部講師によるセミナーを開催している。他部門にアドバイスするためにログ解析の知識が大切だとわかったので、Web解析士資格を取得したというメンバーもいる。
- ネットマーケティング検定受験(全メンバー)
- 役割分担
部門戦略目標が毎年立てられるので、それに連携した施策(テーマ)による役割分担と、通常の運用業務の役割分担を行う。分担には、3つのことを心がけている。
- 得意分野と不得意分野を混在させる
国内関連会社担当に海外とのコミュニケーションが必須の業務を割り当てるなど
- 個人の今後のキャリアに役立つ経験をさせる
部門・会社横断のプロジェクトを必ず担当してもらい、人脈と実績作りをする
- 属人的な仕事を極力作らない
当該業務に慣れているメンバーと、未経験メンバーの組み合わせで担当を割り当てる
- 得意分野と不得意分野を混在させる
- 目標設定と評価
目標面談を、年に2回行っている。リコーの人事評価は、成果達成度だけでなく、達成プロセスも評価する仕組みになっている。
②“部門”の強化
なんでも相談してもらえる「頼れるWeb担当部門」としての認知を得るために、2つのことをしている。
- 存在と役割の理解醸成
各社・各部門のコンテンツオーナーを集めたWeb全体会議の開催(年2回)で、Webサイトの活用状況やアクセス状況などを共有
- 共同運営部門、制作担当との連携
週次ミーティングでの情報共有によるコンテンツオーナー部門の施策把握・実施支援
③“チーム”の強化
ここまでは、Web担当部門内の強化だが、大きなプロジェクトでは、複数部門が集まった“チーム”として強化する必要がある。
リコーグループのWebサイトは、立ち上げ当初は会社案内のみだったが、1997年頃から製品カタログ・ショールーミングが始まり、2003年頃からグローバル共通ルール化が始まっている。昨今では売りにつながるWebサイトということで、マーケティング活動のツールのひとつとして使うようになっている。
そこで、Webサイトの目的として、以下の3つを挙げている。
- ユーザーの満足度向上
- マーケティング機会創出
- リコーブランドの価値向上
これを目指すには、Webサイト運営に
- マーケティングトレンドに関する知識
- お客様に関する知識
- データを読み解き、活用する能力
- セールスとの連携
が必要となるため、マーケティング部門との連係が不可欠である。それ以外にも、プロジェクトによってさまざまな部署との連係が必要になる。
チームで行ったプロジェクトの具体例
チームで行ったプロジェクトの具体例が2つ紹介された。
①国内Webサイトの再編成
2013年に、国内Webサイトを再編成した。それまでは、コーポレートサイトに企業情報も主力事業のサービスも全部入っていて、これをコーポレートコミュニケーション部門が中心となって運用していた。しかしWebサイトをもっとマーケティングに活かすには、マーケティングに近い部署で運用すべきではないかということで、ターゲット顧客ごとにサイトを分ける作業をした。
Webサイトを3つに再編成した結果、運用体制も変わった。
商品・ソリューションサイトのサイトオーナーは、リコー本社ではなくリコージャパンとの共同運営となった。施策をやりたい部署とサイトオーナーが近くなったことで、施策の展開が早くなったという効果が出ている。
また、本社のWeb戦略チームにとっては、各コンテンツオーナーにどのような知識が足りていないかなどを把握できるため、サイト活用のための啓蒙活動も効果的に行える。これにより、Webサイトの存在感の増大や活性化が実現している。
②グローバルWebガイドラインの改定
こちらは、外部の協力者を入れたプロジェクトの例である。大きなプロジェクトでは、社内で足りないスキルを外部協力者で補う場合もある。この時重要なのは、プロジェクトの推進力となるパートナーの選定だ。
グローバルWebガイドラインを改定するに当たっては、US、EMEA、APC、JPNの4極ぞれぞれのマーケティング部門とコミュニケーション部門が話し合いながら進めた。
しかし、各地域でWebサイトをマーケティングに利用している進度が違い、思いがばらばらで収集がつかない状態だった。また、海外では個別にサイト運用の外部コンサルタントを利用しているケースがあり、彼らから出てきたレポートや意見に、本社のグローバルマーケティング部門やコミュニケーション部門だけでは対応できないことも出てきた。
そこで、外部の協力者の知見を得ることで、グローバルマーケティング部門、コミュニケーション部門、外部協力会社の三位一体の体制を作った。
主な役割分担は、以下のようになった。
最適な協力者を選定するには、まずそのプロジェクトの目的をきちんと把握し、自社内で不足しているスキルは何かを棚卸しする。この時、個の強化で個々人のスキルや足りない部分を把握できていれば、不足しているスキルはすぐにわかる。また、プロジェクトにもよるが、できれば短期よりも長期で付き合える会社の方がいい。グローバルWebガイドラインの場合は、一度作ったらおしまいではなく、改定し続けるので、同じチームのメンバーとしてプロジェクトを推進し続けてくれるパートナーを選ぶ必要があった。
そのためには、予算の都合もあるので、最適な体制を持っているところを選ぶ、もしくは作ってもらう必要がある。大規模なリニューアルプロジェクトでは、協力会社側も大規模の体制を組んでくる場合がある。しかし、本当にそれほどの規模が必要か考えなければならない。選定の時に参考になるのは、Web担当者間のネットワークだ。交流会などには積極的に参加して、人脈を築いておくのが望ましい。
まとめると、外部パートナーを選ぶポイントは以下の4点だ。
- そのプロジェクトで不足しているスキル・知識を洗い出す
- 短期よりは長期で付き合えるパートナーを選ぶ
- 最適な規模感・体制
- Web担当者間ネットワークの活用
Webサイト運用はコアとフレキシビリティ
伊藤氏は、これからのWebサイト運用のキーワードは、「コアとフレキシビリティ」と言う。企業にとってのWebサイトの位置づけはどんどん変わっていき、求められる知識やスキルも刻々と変わっていく。それらすべてに自分たちだけで対応するのは難しい。そこでまず、自分たちの軸をはっきりさせ、それはぶれないようにする。そして、自分たちにしかできないコアの部分以外は、プロジェクトやWebの役割の変化に応じて、柔軟に協力者と連係することが重要だ。考え方のポイントとなるのは以下の点である。
- サイトの目的/位置づけの把握
- Web統括部門でしかできないことの見極め
- 協力者の積極的な巻き込み
また、個人のスキルが非常に大事になるが、スキルを磨くためには社内外を問わず積極的に出て行って、コミュニケーションすることがお勧めだ。さまざまな人と会話することで自分の知見を貯めることができ、自分の強みもわかるようになるだろう。
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