キーワードは”横断”―アドビのSEOチームが取り組む公式コンテンツ発信の戦略
動画やグラフィックのクリエイティブツール「Adobe Creative Cloud」でクリエイティブ業界をリードするアドビは、ここ2年で日本独自のコンテンツマーケティングやSEO戦略に注力し、サイト訪問数が24倍、SEOからのコンバージョン数が13倍という大きな成果につなげた。
「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」では、アドビの松谷昌俊氏と加納宏徳氏が、コンテンツマーケの施策支援を行うFaber Companyの村尾佳祐氏と対談し、具体的なSEO施策内容と、コンテンツマーケティング成功の秘訣について語った。
2年で大きな成果を上げたアドビのSEO戦略
アドビは、「Creative for All」(すべての人に「つくる力」を)というメッセージを掲げ、クリエイティブ領域の「Adobe Creative Cloud」、ドキュメント領域の「Adobe Document Cloud」、顧客体験管理・DX領域の「Adobe Experience Cloud」の3領域において製品群を展開している。「Adobe Photoshop」や「Adobe Acrobat」などの有名ソフトウェアを提供し、クリエイティブ業界では知らないものがいない存在だが、松谷氏や加納氏が入社した2022年6月の時点では、意外にも日本国内でのSEOやコンテンツマーケティングのローカライズがそこまで進んでいなかった。
2022年の入社当時は、米国本社から届くコンテンツを翻訳するだけで、日本独自に作成することは多くありませんでした。内容的にも日本語では違和感があるものもあり、リーチも十分ではありませんでした(松谷氏)
技術革新のスピードが速い業界でもあり、毎月のように新機能や製品の仕様変更があるため、スピード重視だったことも大きかったと思います(加納氏)
そこから約2年間、両氏を中心に本格的にコンテンツマーケティング施策に取り組んだ結果、コンテンツを通じたサイトへの訪問数は24倍、SEOからのコンバージョン数は13倍と飛躍的に伸びた。さらに、日本で実施した施策が社内で表彰され、グローバルに展開されることにもなったという。いったいどのような施策を実施し、成果へとつなげることができたのか。
日本独自のコンテンツ作成へと方針転換
コンテンツマーケティングに取り組むにあたり、松谷氏と加納氏はまず、日本独自のコンテンツ作成への方針転換を社内に働きかけた。その際に実施した施策は大きく次の3点だ。ひとつずつ見ていこう。
- 施策① ユーザージャーニーの見直し
- 施策② 部門横断のプロジェクトを増やす
- 施策③ 製品横断のプロジェクトを増やす
施策① ユーザージャーニーの見直し
コンテンツマーケティングはSEOチームだけで完結するものではない。広報、営業、キャンペーン、SNS、YouTubeなど担当が細かく分かれ、関係部門が多いことから、まずは「目線を一致させること」を目的に、代理店も巻き込み、部門横断でユーザージャーニーの見直しを実施した。
具体的には、まず関係者全員が集まってゼロから議論し、ポストイットなどを用いて大まかなジャーニーマップを作成。それぞれのステップで行われるユーザー行動や検索キーワードを洗い出したのちに、実際に検索して現状を検証した。その後、部門に分かれて、担当部分を実行できる施策へと落とし込んでいったという。
松谷氏と加納氏の所属するSEOチームでは、ジャーニーの「Discover(見つけてもらう)」と「Try(試してもらう)」のフェーズについて、それぞれ「必要なコンテンツは揃っているか」「どのような検索キーワードでコンテンツにたどり着けるか」「現状の順位は何位か」という視点で整理を行った。
この取り組みを行うきっかけとなったのは、特にDiscoverなどの興味関心・情報収集の段階において、アドビ公式の情報があまり目立っておらず、第三者の解説本やWebコンテンツが多いことでした。そういった解説コンテンツが豊富にあることは喜ばしいことですが、情報鮮度の観点でも、公式からの情報発信を強化する必要がありました。改めて、顧客のフェーズに合わせてわかりやすく噛み砕いたコンテンツを作らなければならないという課題を感じました(松谷氏)
加納氏も、「公式に出す情報には正確さが求められ、ブランドガイドラインなどの制約もあります。全力で取り組まなければ中途半端なものになってしまう恐れがありました」とコンテンツ作成の難しさを語った。
たとえば、履歴書ひとつをとってみても、日本と米国では書く内容もフォーマットも異なる。商習慣や文化が異なるなかで、イチからコンテンツをつくる必要性を、本国の担当者に理解してもらうため、頻繁にコミュニケーションを取った。日本市場向けに作成したコンテンツは大きく分けて下記の2点だ。
Discover(見つけてもらう)コンテンツ
Discoverコンテンツは、顧客のニーズをフックにアドビのサイトに誘導することを目的とするコンテンツだ。そこで、「PDFとは?」「電子サインとは?」「電子帳簿保存法とは?」という基礎的な内容から、「どのようなことができるのか」まで具体的に紹介するコンテンツを作成した。
「PDF」はアドビが開発した拡張子であるにもかかわらず、「PDFとは」の検索で1位を取れていなかったんです。そこで、大至急1位を取れるような内容のコンテンツを考えました(松谷氏)
Try(試してもらう)コンテンツ
Tryコンテンツは、実際にアドビ製品を使ってなんらかの作業を行うハウツーものコンテンツをメインに作成した。たとえば「2つのPDFファイルを複合して1つのファイルにする方法」などだ。もともと翻訳物などで存在していたコンテンツであるが、検索順位が低かったことから、実際に使う場面を想定し、キーワード選定から行った。
ユーザージャーニーを整理した後だったため、社内の製品を熟知しているが故のバイアスがかからず、基礎的な機能などの情報が必要だと理解した上で考えることができました(加納氏)
SEOツールを活用しキーワードを洗い出す
これらのコンテンツのキーワード分析や検索意図調査を効率的に行うために活用したのが、Faber Companyの提供するSEOツール「ミエルカSEO」だった。
ミエルカSEOの「検索ニーズ分析」機能を使えば、検索流入キーワードの傾向やニーズを分析でき、狙うべきキーワードの発見に役立つ。キーワードを打ち込むと、検索数が円の大きさで、ニーズの近さが円の距離で表示される。これを距離の近さでグルーピングし、ニーズを系統立てて整理したという。
たとえば、「PDF」というキーワードをミエルカSEOで分析したところ、おおまかに、「変換したい」「まとめたい」「圧縮したい」という3つのニーズに分類できることがわかり、そこからキーワードを洗い出した。
こうして抽出したキーワードと、それに即したコンテンツ作成によって、Discoverコンテンツの「PDFとは」のキーワードと、Tryコンテンツの「PDF まとめる」のキーワードで、ともに1位を取るなどの成果をあげられたという。
施策② 部門横断のプロジェクトを増やす
関係部署の連携を強化するためにも、コミュニケーションは重要な課題だ。松谷氏と加納氏は、コンテンツのテーマ選定においてもSEOデータを起点とし、ここでもミエルカSEOを活用してデータを分析、キーワードの人気度合いなどを確認しながら、関係部署との議論を深めていった。
その他にも、マーケティング部門に一緒に施策をしようと持ちかけたり、プロダクト開発部門に開発中の機能のニーズを共有したり、さまざまな場面でミエルカSEOの分析結果を介してコミュニケーションを行ったという。
さらに松谷氏、加納氏は、SEOに関するオープンな情報交換の場「SEO Office Hour」を隔週金曜日に開催。SEOについて、誰からでも相談・質問を受け付ける場所とした。
私の仕事の一つとして大切なことは、「SEOに対する社内の期待値を揃えること」です。SEOの売上貢献を可視化するには何が必要なのか、SEOで何ができるのか、また何ができないのかを理解してもらう機会として、こうした場を設けました(松谷氏)
Faber Companyの村尾氏は、「コンテンツマーケティングは、コンテンツが直接コンバージョンにつながるわけではないため、会社に対してSEOの有効性を説明するのは難しいです。丁寧に説明し理解を深めて、協力者を見つけていくことが大切です。松谷さん、加納さんは力を合わせてよく工夫しておられます」と評した。
施策③ 製品横断のプロジェクトを増やす
コンテンツ作成において、膨大な製品数と機能を網羅しようとすると、どうしても内容が複雑になりがちだ。初心者にも理解できるよう、情報を噛み砕いて説明する必要がある。また、デザイン系のコンテンツをテキストだけで紹介するのは限界がある。そこで、製品横断の動画コンテンツを多数作成し、該当記事内とYouTubeに掲載することにした。
また、異なる製品が、同じことができる機能を持っていることもあるが、そのレベルが異なる場合、比較しつつ簡単に紹介するのは容易ではない。部署と役割が製品ごとに存在するため、詳細な情報を得ながらコンテンツを作成するには、部門横断で協力し合う必要がある。製品横断のプロジェクトを増やすと同時に、製品横断でのコンテンツ作成も進めていった。
なお、松谷氏と加納氏は、同じSEOに取り組む立場ではあるが、松谷氏はコーポレートマーケティング部門、加納氏はPLGチーム Adobe Express担当と、実はまったくの別部署である。社内調整にも工夫が必要で、多くの時間を費やしたという。
信頼できる外部パートナーの存在も重要
ここまで、アドビ社内で行った3つの取り組みについて紹介してきたが、松谷氏は、大きな成果を得るためには、社内の取り組みだけでなく、外部のパートナー選びも重要事項だと述べる。
日本でのSEO施策担当は私と加納の2人だけです。実施すべきことが多いため、外部の方と協力しないと仕事が回っていきません。そこで、私たちが入社して最初に行ったのは、「信頼できるパートナーさんの拡充」でした(松谷氏)
その信頼できるパートナーの一社が、Faber Companyというわけだ。
ツールとリソースという2つの軸でアドビ社のデジタルマーケティングを支援させていただいております。特に、アドビさんでご活用いただいている「ミエルカSEO」は、ユーザー理解を効率化・自動化するツールであり、社内の理解を促進する「ユーザーニーズ分析」や「自動レポーティング」などの機能が充実しています。また、伴走サポートなども併せて提供しています(村尾氏)
Faber Companyは他にも、Webマーケティングに課題を持つ企業と、即戦力となるWebマーケターをつなぐ業務委託型マッチングサービス「ミエルカコネクト」や、ノーコードでWeb接客を設計できる「コンバージョンミエルカ」なども提供している。そうした外部サービス・リソースの活用も有効だろう。
加納氏は最後に、こうしたアドビのコンテンツ・SEO施策を振り返り、「アドビのツールは自由度がとても高く、さらにソフトを組み合わせるとできることは無限にあります。その膨大な情報を噛み砕いて、わかりやすく正確な公式コンテンツを作るには、広く関係者を巻き込むことが必須になります」と、改めて部門横断、製品横断の重要性を強調した。
松谷氏も、「SEO施策は実施すべきことが多いが、自分ができることに集中することが大事です。それ以外のことは、社内でも社外でも信頼できる人に任せたほうがいい。本来の使命である『成果を出すこと』に注力していきます」と語り、セッションを終えた。
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