顧客の心を動かす“刺さる言葉”の作り方とは? 売上アップのための実践的文章術
デジタルでのコミュニケーションが中心となっている現代。画面の向こうにリアルな人がいることを忘れ、独りよがりな販促を行ってはいないだろうか。お金を払って商品を買ってくれるのは、感情を持った人間だ。
『プリンセス・マーケティング』『ライティングは「宝探し」』の著者であり、セールスコピーライターの谷本理恵子氏が「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」に登壇し、顧客の解像度を上げるための具体的な方法と、購買意欲を高める効果的な文章の書き方を解説した。
セールスコピーライティングには種と仕掛けがある。テクニックだけマネしてもうまくいかない
谷本氏はメーカーのインターネット通販の運営責任者の経験を持ち、ダイレクト出版認定セールスライターに合格したことで、セールスコピーライターとして独立。女性向け商材のCRM文章の作成を得意としている。コピーライターの経験を通じ、文章を提供するだけでなく、文章が書ける人を増やしたいという思いから、現在は企業研修やセミナーも積極的に行っている。
とはいえ、文章を書くのが苦手という方も多いだろう。だが、谷本氏は「誰でも書けるようになる」と言う。売れる文章を書くのは小・中学校で書いた作文とは質が違う。きれいな文章だから売れるのかというと、そうではない。拙い文章でも、思わず買ってしまったという経験がある方も多いのではないだろうか?
これまでセールスコピーライティングはブラックボックスの部分が多かったと思います。セールスコピーライティングには、種と仕掛けがあります。種と仕掛けを理解せずにテクニックだけをマネしてもうまくいきません(谷本氏)
文章が書けないのは顧客のことをよく知らないから
はじめのテーマは「認識のズレを自覚しよう」だ。文章を書くのに時間がかかったり、書いてもお客様から反応がなかったり、どこから手をつけたらいいかわからない……と困ったことはないだろうか? その原因は「自分のことばかり考えているから」だと谷本氏。
うちの商品の売りはなんだろう、これを売るにはどうすればいいのだろうなど、自分たちのことばかり考えているからうまくいかないんです。ビジネスには必ず相手がいます。誰かがお金を払ってくれるから取引は成立する。それはデジタルマーケティングも一緒です(谷本氏)
「売れる」かどうかは、画面の先には生身の人間がいることを認識し、未来のお客様と良いコミュニケーションがとれるかどうかにかかっている。では、良いコミュニケーションはどうしたらとれるのか。谷本氏は日常のコミュニケーションに例え、「LINEで考えてみましょう。家族や友人などよく知っている人と、知らない人とLINEするのはどちらが大変で、どちらが簡単ですか?」と問いかけた。
知らない人とLINEで文章をやりとりするのは、相手がどのようなニュアンス・意味でその文章を送っているのかがわからず、こちらも何を送ってよいか迷い、時間がかかることが多いだろう。一方、関係性のよい家族や友人とのLINEは、それほど時間はかからない。つまり、コミュニケーションは、よく知っている相手であれば、何をどう伝えればよいかがわかるということだ。
「今、文章を書くのに時間がかかっている、何を書いていいかわからないのであれば、相手のことをよく知らないのかもしれません」と谷本氏。家族や友人のように、顧客をよく知ると、よいコミュニケーションがとれるようになる。
顧客を知るのにおすすめの方法は“インタビュー”
では、顧客を知るにはどうすればよいのだろうか。さまざまな方法があるが、おすすめはインタビューだという。知りたいのは、「その人が今どういう気持ちなのか、何を考えているのか、何を伝えれば商品が欲しいという気持ちになり、行動してくれるのか」というお客様の内面だ。顧客理解にはデータを使った分析方法もあるが、データを活用する場合、人を集合としてみているので、内面が深く理解できるかというとそうではない。データは役に立つが、お客様一人一人の顔がイメージできていないとデータを読み間違えてしまうこともある。
やりたいことは、お客様と同じ世界を、お客様の中に入って見ることです。外から観察するのではなく、お客様の着ぐるみを着て世界を見たら、何が見えるのかということです。だからこそ、最近、特定の一人の顧客を深く理解しようと、N1分析や定性調査、インタビューの重要性が見直されているのかなと思います(谷本氏)
顧客インタビューは、顧客理解を深めるためには欠かせない手法だ。しかし、正しいやり方がわからなかったり、やってみて失敗して心が折れた経験があったりして、ハードルの高さを感じる方が多い手法でもある。典型的なダメなやり方は、質問攻めだという。
うちの商品を買った理由は?うちの何がいいんですか?と聞かれて、みなさん答えられますか? ちょっと厳しくないですか?(笑)みんな親切なので、考えて、後付けの理由を答えてくださるのですが、それは本当の理由ではないのでセールスコピーとしては使えません。本当に必要なのは、相手がどんな人かを知ることです(谷本氏)
インタビューのポイントは「事実を追う」。自社にたどり着くまでの経緯・嫌だったことを聞こう
谷本氏がインタビューを行う際、ほとんど質問はせず、世間話や雑談の中から聞き取っているという。インタビューのポイントは、「事実を追う」ことだ。買うかどうかを決めたタイミング、その瞬間何が起こったのか、また過去、つまり買うまでのプロセスを聞いているという。
特に、買うまでのプロセスは自社と、競合他社の顧客では大きく異なるという。ダイエットのサプリを例にすると、サプリを購入する前にダイエットの器具を買ったり、YouTubeを見たり、雑誌やテレビで何かを見ているかもしれない。けれど、うまくいかず、ダイエット器具は面倒だからサプリにたどり着いたといった具合だ。また、自社商品にたどり着くまでに、嫌だったことを聞くのも重要だという。
同じような商品でも、インタビューをすると自社と競合の客層は確実に違います。また、自社商品やサービスのいいところを聞きだすのは難しいですが、過去の嫌だった経験はみんな喋りやすい。嫌だったことは、裏返しで自社に期待していることなんです(谷本氏)
お客様が大事にしている価値観や感情は、特定の場面を深掘りすることで明らかにできる
過去の嫌な経験を聞くには、単に悪口を聞くのではなく、特定の場面について聞くことが重要だという。嫌だったことを聞いたときに、「たとえば?」「具体的には?」と掘り下げて聞こう。さらに、「そう思ったのはいつか」を問いかけ、いつどこで誰に誰がという5W1Hを聞いていくと、その時に顧客がどういう気持ちだったのかが聞き出せるという。
お客様が買い物をするときに何を大事にしているのかは、特定の場面の話を深掘りすることで明らかにできます。お客様にインタビューするときは一問一答ではなく、問いかけて返ってきた答えに対して深掘りしたり、相手が話したくなるように「そうですね」と同意したりします。そういったやり取りの先に、お客様の価値観や感情があるんです(谷本氏)
インタビューは実際にやってみると、思ってもいなかった話が聞けて、とてもおもしろいと谷本氏。ただ、いきなりお客様に聞くのはハードルが高いと思う場合は、家族や友人など身近な人で練習してみるのがおすすめだという。
お客様に刺さる言葉は、作るのではなくお客様の言葉から見つけ出す
続いてのテーマは「刺さる言葉の見つけ方」だ。デジタルマーケティングはほぼ全ての場面で言葉が必要となる。ただ、説明文を書いただけでは売れない。感情を動かす言葉が必要だ。
谷本氏はまず、文章を作る際、10歳の子どもに伝わるかを基準に言葉を選ぶことを提案した。できるだけ専門用語を避け、日常的な言葉を使用すること、そしてお客様が普段使っている言葉に翻訳することがポイントだ。たとえば、企業視点で考えると「安心の日本製」といった表現になりがちだが、「ガンガン洗濯してもヘタレない。さすが国産」といった、お客様が使う言葉で、具体的にイメージしやすい表現にすることが重要だ。
このような言葉は考えるのではなく、お客様が言っている言葉から見つけ出すのがポイントだという。具体的には以下の5ステップで言葉を作っていく。
ステップ1:大絶賛の声だけのテキストファイルを作る
インタビューやアンケートなどから得られたお客様の声のなかから、絶賛された声だけを抽出する。
ステップ2:共通する単語で並べ替えをする
絶賛された声のなかで共通する単語や、似た意味の単語に着目し、グループ化を行う。
ステップ3:周辺から本当の意味を知る
グループ化するとその言葉の周辺に説明の言葉がある。その言葉に文脈があるので、文脈を紐解くと、その言葉がどういう意味で使われているかがだんだんわかってくる。芋づる式に言葉を集め、20個くらいあったグループを最後は3つや5つくらいにまとめていく。以下の図はダイエットの例だ。
なぜ痩せたいのかというと、伸びないデニムが履きたい、服を選ぶのが楽しくなった、などの言葉の先に「ファッションに興味があって、ダイエットしたんだ」と本当の意味がわかってくるという流れです。
具体的であることが非常に重要です。抽象的な言葉は他社でも使えるので、お客様からしたら違いがわからない。自社にしか言えない言葉を、見つけたいんです(谷本氏)
ステップ4:グループごとに見出しをつける
なるべくお客様の言葉を変えずにグループごとに見出しをつけると、選ばれる理由が完成する。
ステップ5:響くフレーズを見つけ出す
お客様の声を読んでいると、「この声を他の人が読んだら、商品を買っちゃうんじゃないかというすごくいい声を書いてくれる人がいる」と谷本氏。そういった声を見つけたら、星マークをつけておこう。このフレーズがそのままキャッチコピーとして使える。
せっかくアンケートを取っているのに、活用しておらず、宝の持ち腐れになっているケースも多いという。ぜひ自社のお客様の声やアンケート、レビューを活用して、取り組んでみてほしい。
お客様を知り、お客様の視点になって文章を書こう
最後のテーマは「狙って当てる文章の作り方」だ。売れる文章にするためには、ゴール(商品)から逆算して構成を考えることが重要だと話す。
売れる文章を書くには、最終的に顧客に求める感情を起点に、論理的に文章を組み立てる必要があります。全く興味がない状態から、今すぐ行動したいという気持ちにするまで、どう感情を変化させるか。その過程で最も重要な一行、つまりコンセプトが見えてきます。この一行さえ言えば、顧客の心を動かせる、そんなコンセプトを見つけることが大切です(谷本氏)
コンセプトは「適当に作るのではなく、論理的に詰めて作る」ことがポイントだ。顧客の行動を促すためには買うべき理由(言い訳)を作ることと、買わない理由(ブレーキ)を解除することの両面からアプローチすることが必要だ。今買わないと損する、見逃すと損するといった理由を作る一方で、時間がない、お金がない、自信がないといった買わない理由を論理的に潰していく。
重要なのはお客様の視点になること。お客様視点で文章を書くための方法として、谷本氏は物理的に椅子を座り替えるという方法を紹介した。まず自分の椅子で書いた文章を読み上げる。次に顧客の立場を想定し、別の椅子に顧客の格好・姿勢をマネして座る。
その上で、自分が書いた文章を顧客の視点になって読む。「くだらないことだと思われるかもしれないが、とても効果的なので、ぜひやってみてください」と谷本氏。最後に「相手を知ることが、良好なコミュニケーションを築く大前提です」と述べ、顧客理解の重要性を改めて伝え、講演を締めくくった。
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