顧客データの活用は今後どうなる? クレディセゾン・大和ハウスの事例に見る改正個人情報保護法への対応
改正個人情報保護法の施行は、企業のマーケティング活動にどのような影響を及ぼすのか。セミナー第二部では、すでに会員データなどの個人情報を利活用する、クレディセゾンと大和ハウス工業をゲストに、現状のデータ活用と今後の展開について、ディスカッションが行われた。
クレジットカード会員の情報を活用したサービスを展開
パネルディスカッションを始めるにあたり、まずクレディセゾンと大和ハウス工業がどのような取り組みを行っているかが話された。
クレディセゾンは、グループ3,500万会員のクレジットカード顧客情報やそれにともなうショッピング情報を持ち、ブランドプリペイドカードやスマートフォン決済、経費決済システムなどで他社との協業を行っている。また、クレジットカードで溜まるポイント残高は約830億円あり、これらのポイントを使った他社との協業も活発だ。
ポイントを活用したネット施策としては、「永久不滅.com」があり、1,121万会員に対してアフィリエイトを展開することで、531億円の売上を上げている。
CLO(Card Linked Offer)サービスもいち早く展開しており、ネット明細を見に来る顧客に対してクーポン情報などを配信する。了承を得たモニター会員27万人のWebの行動履歴の収集なども行い、企業の課題解決に役立てる取り組みも行われていると根岸氏は説明する。
これらの情報をクレディセゾンでは、次のように活用しているという。
続いて根岸氏は、事例として自動車会社とのコラボレーションした、新車の顧客開拓プロモーションを紹介する。カード会員の中からその自動車会社と重複する顧客を除外し、ETCやガソリンスタンドの利用履歴を分析して見込み客をターゲティングすることで、販売店への送客と試乗会への誘導を行い、来店率を2.5倍に向上させたという。
また、カーテン会社に提供したサービスでは、オーダーカーテンの訴求を行った。カーテンの購入タイミングは、引っ越しをするタイミングという仮説を立て、永久不滅.comの引っ越し比較サイトを閲覧している会員を抽出し、メール配信などを行っている。
カード会社として、データの利活用に関して、守らなければならないところはしっかりと守っていかなければならない。一方、大きな資産を持っているので、それらをいかに有効に使っていくかも前向きに考えていきたい。政府の日本再興戦略でもキャッシュレス化の推進がうたわれており、経済産業省もビッグデータビジネスに関心を示している。我々も意見を出して、情報も収集しながら、よい方向へ向かうようにしていきたい(根岸氏)
これらの説明に対して、本間氏が「これまでは、クレジットカード番号は個人情報ではなかったが、改正個人情報保護法では識別符号となる(詳細は第一部参照)。社内でそれらの議論は始まっているのか
」と質問すると、根岸氏は次のように答えている。
大きな議論には至っていない。何らかの悪い影響となる可能性がある一方で、グレーだったものがハッキリすることで、これまでやらなかったことができるようになる可能性もあると思う。後者の可能性のほうを追及していきたいと考えている(根岸氏)
One to Oneのパーソナライズド動画を配信
続いて、小林氏から大和ハウス工業のメールマガジンとパーソナライズド動画を組み合わせた取り組みが紹介された。
大和ハウス工業では、コンテンツマーケティングによるブランド価値向上、顧客との密接なコミュニケーション、優良顧客化と現場への送客、受注の拡大を目標にデジタルマーケティング施策を立てており、その一環として、戸建て住宅の顧客向けに動画付きのメールマガジンを配信している。
このメールマガジン会員を集めるため、住まい選びの情報を掲載した「WebコラムTRY家コラム」を運営しており、会員情報としてメールアドレス、名前、郵便番号を登録するようになっている。だが、動画配信では次のような課題があったという。
- クリエイティブのA/Bテストを行っても開封率やPVなどが上がらない
- One to Oneコミュニケーションで顧客とのエンゲージメントを高めたい
- メールマガジンで育成した顧客を営業現場に還元したい
住宅メーカー選びの理由で最も多いのは、「営業マンのよさ」であるため、特に営業現場でのリアルなコミュニケーションを実現することが重要だと小林氏は説明する。そこで導入されたのがパーソナライズド動画だ。大和ハウス工業では、2015年初頭にlivepass社の動画プラットフォーム「livepass Catch」の存在を知り、livepass Catchを利用したメールマガジンの目的を次の4つに定めた。
- One to Oneコミュニケーションの促進
- GW期間中の住宅展示場への来場促進
- 営業現場への落とし込み
- パーソナライズド動画の可能性模索
パーソナライズド動画では、CRMをはじめとした顧客情報を活用し、顧客の名前を呼びかけたり、表札に顧客の名前を表示したり、顧客が住んでいる地域の住宅展示場の案内などをパーソナライズ化した動画を使い案内している。
6割の人がパーソナライズ動画に好感
動画配信後のアンケート調査では、動画を受け取った人のうち約91%が動画のパーソナライズ化に気づいており、約60%の人が面白いと感じ、約58%の人が展示場に行ってみたいと考えていたという。
また、フリーアンサーでは次のような感想が寄せられている。
- 動画内の表札が自分の姓でビックリした
- 個別に対応してもらえるイメージを持てた
- 温かみがあって大和ハウス工業を身近に感じた
- 自分の名前を呼ばれたので特別な感じでしっかりと見ようという気分になった
メールの配信結果を見ると、「○○様への動画」というタイトルの効果か従来よりもメール開封率が1.92倍になり、メールコンテンツのクリック率は動画を除いた部分で従来施策の7倍、動画の再生完了率(56秒以上の視聴)は約80%、平均視聴回数1.4回、平均再生秒数52秒(動画は60秒)だった。
また、住宅展示場への来場率は、メール配信成功者の0.21%で、動画視聴者の1.7%が来場したという。動画には住宅展示場案内の地図ページへのリンクが貼られており、このページのPV数も30%向上している。
パーソナライズド動画はOne to Oneコミュニケーションの効果が高く、伝えたい内容を最後まで見ていただく確率を高め、エンゲージメントを高める効果もある。また、個別の対応を行うことで、接客や対応への期待を顧客が高めてくれることができ、予想以上に住宅展示場への来場があり、費用対効果も非常に高かった(小林氏)
また、本間氏の「個人情報の活用はもっと進めたいと考えているのか
」という質問に対して、小林氏は「常々、個別の対応ができるコミュニケーションを模索していたなかで、パーソナライズド動画に取り組むことができたので、今後も続けていきたいと考えている
」と答えている。
現時点における改正個人情報保護法への対応
第二部の終盤では、本間氏が質問する形でディスカッションが行われた。
本間氏 改正個人情報保護法の背景には、政府として利活用を進めたいという立場があった。本来は、企業側がこういう活用があると言わなければならない立場にある。クレディセゾンでは、多くの情報を持ち、改正がビジネスにプラスになる部分もあると考えているようだが、その他に改正に対する議論はあったのか。
根岸氏 具体的にはあまりないが、後ろ向きには考えていない。第三者提供についても、これまでは最初からできなかったことができるようになる可能性もあるので、そこに活路を見出したい。
本間氏 CPO(Chief Privacy Officer)についての議論は、社内で行われているのか。
根岸氏 具体的には出てきておらず、そのような役割を明確に持たせるか決まっていない。基本的には、コンプライアンス部門の取締役がその役割を担うことになると思う。
本間氏 CPOは、取締役が就かなければならず、トラブルの場合は責任を取ってスムーズな説明を行わなければならないが、取締役がCLO(Card Linked Offer)サービスなどの仕組みを説明できるものだろうか。
根岸氏 去年や今年の営業スタイルのテーマは、全社員が法人営業することとなっているので、各商材の知識は末端の一般スタッフから取締役まで把握しており、問題はないと思う。
本間氏 改正によって、個人情報保護方針に書かなければならない項目が増え、確認などのプロセスも増える。すべてのサイトの個人情報保護方針を書き換えなければならず、2016年中にやるべき仕事になる。根岸さんは、会社全体のデータを見ており、教育も行わなければならない立場だと思うが、1年間で教育していくための作戦はあるのか。
根岸氏 特に作戦は立てていない。我々は、さまざまな法律で規制される事業を行っているので、各社員は資格を取得するなどのプロセスに慣れていると思う。正しく理解させることは、一定期間があれば行えると考えている。
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「顧客データの活用は今後どうなる? クレディセゾン・大和ハウスの事例に見る改正個人情報保護法への対応 」2015年7月28日開催 月例セミナー 第2部(2015/10/16)
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