稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

ICUの学長が語る、ユーザー視点のサイトリニューアル成功のカギは全教職員対象の説明会?

8か月で成功したサイトリニューアルのカギは全職員を対象にした「学内説明会」。ICUの魅力を伝えるWebサイトリニューアルまでの道のりを聞いた。

ユーザー視点でサイトリニューアルを実施した国際基督教大学(以後:ICU)。今回は、リニューアルプロジェクトを現場で行ったWeb担当の橋本氏と佐藤氏と学長の日比谷氏から大学としてWebサイトをどのように活用し、ICUの魅力を伝えるサイトにするためにどのようなことを行ったのかお話しを伺うことができました。

Webサイトを大学経営にどう活かすか、現場の担当者と経営者の立場から話を聞いた

国際基督教大学 学長 日比谷 潤子氏

そもそも大学に入って、学生自身が「教育を受けたら自分の中で何かが変わる」と実感できなければ意味がありません

「学生本人が持っている資質」と「大学で得られること」がうまくマッチすることによって、本人の能力が伸びていくと思います。そのような体験ができることをWebで伝えられるかが重要だと思います。

入学案内、受験生向けパンフレットなども作っていますが、今の時代、Webへ依存するところが大きいと感じています。どこでもいつでも情報が得られる時代に「わざわざ請求しないと手に取れない」紙媒体と「場所や時間を選ばずどこでも情報が得られる」Webでは大きな差があります。

結果的にそこに参画していないと、大学そのものを知ってもらえないことにもなってしまいます。

大学経営で一番重要なことは、「良い学生」に来てもらうことです。「良い学生」の定義は難しいですが、学校には建学の精神やミッションがあって、それぞれ求めていることが違います。ですから「その大学にふさわしい学生」が「良い学生」でしょう。

その「ふさわしい学生」にこちらを振り向いてもらうにはどうすればいいかを常に考えています。そのためにもWebは大変重要なツールだと考えています。

記事の主な内容は、次の通り。

  • 8か月で実施したサイトリニューアルのカギは「学内説明会」
  • サイトリニューアルの3つの指針
  • 50万PVを超えるアクセス数を獲得したリニューアル結果

リニューアル決定! 最初に行ったことは「全教職員向けの学内説明会」

左:国際基督教大学 行政事務部長 橋本 明子氏 右:パブリックリレーションズ・オフィス 佐藤 健二氏

最初にサイトを立ち上げて以来これまで3度リニューアルを実施し、2015年度入試から科目や制度が変更するのに併せて、4度目のサイトリニューアルを実施することが決まりました。

入試の時期から逆算すると2014年7月にはリニューアルしたサイトが稼働している必要があり、2013年10月から約8か月でサイト全面リニューアルを実施するとスケジュールが決定しました。

リニューアルした国際基督教大学のサイト

Webのリニューアル実施が決まって、プロジェクト開始前にまず行ったのが全教職員向けの学内説明会でした。

これまで何回か行ってきたリニューアルプロジェクトの経験から、主導する広報だけでなく、プロジェクトの正式開始前に、全学の関係者を巻き込んで意見を吸い上げながら進めるという方法が採用されました。

「今まで別々のサイトだった入試情報や大学院情報をすべて1つのサイトで運用することが今回のプロジェクトの大きな目的でした。そのためには、全体としての意識統一が必要なので、プロジェクト開始に先立ち、リニューアルの方針を全学に説明する場を設けました」と佐藤さん。

ICUは、英語と日本語のバイリンガルを理念の1つに掲げ、全教員の30%超が外国籍です。したがって説明会は、同じ会の中で英語と日本語を使用して実施したそうです。実際のところ、今回のリニューアルを最初に喜んで賛成し、積極的にコメントをくれたのもこうした外国籍の教員の皆さんでした。

また、説明会に出席できなかった教職員のために、説明会の様子を動画で確認できる環境も作ったそうです。その説明会では、リニューアルを開始するにあたっての大きな方針を3つ提示し、これを学長の日比谷氏が自ら全教職員に伝え、理解を求めたのです。

稲富レクチャー

教員に限らず、外国籍の方々にとって「日本で暮らすにはWebの情報が欠かせません」。Webコンテンツの充実度や、使いやすいかどうかということは切実な体験から生まれた貴重な意見なのです。こうした外国籍の教職員の皆さんからはビジュアルやデザインについてもたくさんの要望があったとうかがいました。勤務先のWebのリニューアルに参画してその意見が反映されるのは嬉しいことに違いありません。

8か月で実施! サイトリニューアルのポイントは3つ

①ターゲットを絞ってICUの価値をわかりやすく伝えるサイトにする

一般的な大学サイトにとってステークホルダーは、高校生・受験生はもちろん、在校生、教職員、地域、同窓生、企業や官公庁などさまざまです。

しかし、今回のリニューアルではまず、入試制度が大きく変更されることで最も影響を受ける「高校生・受験生」、そしてそのご父母や高校の進路担当の先生方にターゲットを絞り込みました。優先順位を明確にし、ユーザー調査を十分に行い、ICUの価値をわかりやすく届けることに注力をすることしたそうです。

②3クリックで目標の情報へたどり着く

それまでのサイトはターゲットの絞り込みが曖昧で、トップページの情報量も多くスクロールが長かったり、情報の格納箇所が重複したり、と必ずしも使い手の立場に立ったサイトではありませんでした。

大学も学生に選ばれる時代です。利用者にとって、必要な情報に3クリック以内でたどり着くようサイトの情報構造やコンテンツの見せ方に注力しました。8か月のプロジェクト期間のうち約3か月をこうした要件定義とサイト構造設計に充てたそうです。

③すぐに改善すべきことの優先順位を決めて、限られた時間と予算のなかで結果を出す

限られた予算と時間のなかでリニューアルを完成させるためには、すぐに改善すべきことを明確にし、優先順位を付けて進めなければいけません。今回のリニューアルでは「一緒に○○も改善してほしい」「自部署のサイトもリニューアルしてほしい」など、さまざまな要望が挙がったそうです。

しかし、1つひとつの要望に対して、今回のリニューアルの目的を丁寧に繰り返し説明し、さらに学長自身の口から「今回実現できない情報、コンテンツは今後必ず追加します!」と説明会で言っていただければ納得できるでしょう。こうした会話を何度も繰り返して最終合意にいたったそうです。

稲富レクチャー

なんでもオープンに議論するICUの土壌が背景にあるのかもしれませんが、私は寡聞にして「Webリニューアル」1つにこれほどが熱心に話し合うという前例を知りません。また、企業でいえば社長にあたる学長から、教職員(専任教員だけでも150名ほど)へ自ら説明を行うということはサイトリニューアルを成功させるという確固たる思いを職員も感じたことでしょう。

説明会を実施する場合でも、主管部門から一方的に、他部門でたまたま時間が空いていて集まった少数の人たちに儀礼に近い形で行われる方が一般的かもしれません。

全学のWebリニューアル実施前に、全教職員を対象とした説明会を実施し、要望・提案をオープンに聞き取りをすることで一体感が生まれたのでしょう。

それまでいわば「広報の持ち物」であったWebがにわかに「自分たちのもの」になった瞬間です。働く人にとって自分たちが作ったサイトという意識が高まり職場のWebに愛着を持ち、これを良くして行こうという気持ちになったサイトほど強いものはありません。今後いくつかのサブサイトなど一体化に向けたプロジェクトが残っているそうですが、この気持ちがあれば仕組みは後からどうにでもなることです。

リベラルアーツという「強み」をターゲットにどのように伝えるか

ICUの特長の1つとして「リベラルアーツ」という教育があります。これは、文系、理系の区別なく幅広い知識を得た後に、深める専門分野を選択できる制度の下、豊富な知識に裏打ちされた創造的な発想を可能とする教育のことです。

そのため、この特長を幅広く高校生・受験生に知ってもらい、「リベラルアーツカレッジを受験してみようかな?!」「ICUに行きたい!」と思ってもらうためにはWebでどう伝えればいいかが課題でした。

そこで解決の糸口を見つけるために、高校生や受験生を対象としたユーザーインタビューを実施しました。

高校生・受験生20人にユーザーインタビュー調査を実施

インタビューを行った人数は20人、この調査1つ1つに橋本さんと佐藤さんを含めたWebリニューアルメンバーが直接出向いて行いました

どうやって、20人も高校生や受験生を集めたの? と疑問に思いますが、意識してこれまで入学実績の少ない地域の一般高校生を含め、次のような人を対象として被験者を選んだそうです。

  • ICU高等学校の生徒
  • 地域的に隣接しているのに入学実績の少ない高校の生徒
  • アルバイト登録をしているICUの新入生

一般的な企業ではこうした調査に関しては外部の調査会社に委託することが多いかもしれません。しかし、リニューアルメンバーが直接話を聞きに行くことでリアルな声やバイアスのかかっていない生の情報を手にできるという点で価値が大きいでしょう。

「リベラルアーツ」を高校生・受験生に伝える

インタビュー調査でわかったことは、学内だけで考えていることと、高校生の感覚のギャップです。たとえば、ICUの最大の特長である「リベラルアーツ」の説明はこれまでも教職員含めて検討を重ね、わかりやすい記述に変更したつもりでいましたが、それでも高校生・受験生の反応は芳しくなかったり、さらによい提案が出たりして、リニューアルメンバーを驚かせたといいます。

高校生・受験生にとって「言葉の意味としてのリベラルアーツ」はわかっても「それが自分の進路将来にどんな意味があるのか」というあたりがわかりにくかったのかもしれません。インタビュー調査を通じて次のような点をよりわかりやすく伝えなければならないという課題を抽出できました。

  • ICUのリベラルアーツの学びで身に付く力や、リベラルアーツで学ぶ楽しさ
  • さらに他の大学の学びや環境とは何がどう違うのか
  • なぜICUでなければならないのか
  • それが高校生・受験生の人生にとってどう関係するのか
  • ICUのどこが良いのかなど

インタビュー調査を通じてこういった課題を抽出でき、その課題を解決するために作り直されたのが「リベラルアーツを伝えるコンテンツ」でした。

リベラルアーツのコンテンツのなかには次のようなものが用意されています。

  • リベラルアーツと一般の大学教育との違い
  • ICUのリベラルアーツ7つの特徴
  • 著名人が語るリベラルアーツ

「著名人が語るリベラルアーツ」のコンテンツでは、アインシュタインとスティーブ・ジョブズの「リベラルアーツ」に関する発言を掲載しています。このコンテンツを見て「リベラルアーツ」の魅力がわかったという新入生が多くいたことが、後に実施したアンケート結果で判明しました。

この他にも、「インタビューで知るICU」や「○○について知りたい」といったターゲットである高校生や受験生が感じた疑問を解決するコンテンツを数多く用意して、ICUの魅力を伝えています。

利用者視点のコンテンツ
ICUの利用者視点のコンテンツ
稲富レクチャー

「利用者視点」の姿勢を保つためには自分たちで考えることはもちろん重要なことですが「本物」の利用者の意見を直接聞くこと、しかもそれを1回きりではなく定期的に続けることが大切です。幸い大学にはつい先日まで高校生・受験生だった学生が多勢いますので彼らの意見も取り入れて、継続的に見直して行ってもらいたいですね。

リニューアル結果:アクセス数1.6倍、月間50万PVのサイトに!

リニューアルの数値目標としては、アクセス数の30%増を狙っていたそうですが、実際にはアクセス数が60%増加し、月間PVも約50万と順調に訪問者数を伸ばすことができました。以前は受験のタイミングでアクセス数が一時的に増加した後の3月になると落ちていましたが、今年は3月以降もアクセス数が落ちていないとのことです。

また、今回のリニューアルに際して採用した制作会社の選定条件もお話しいただきました。次のような条件を出し、採点方式で数社のコンペを行って制作パートナー企業を選んだそうです。

  • グローバルなウェブサイトの制作実績
  • 教育分野での実績
  • 英語力、それもただの英語ではなくNativeの英語力
  • デザイン力
  • プロジェクト管理能力
  • 価格

今後の予定・課題データの活用

サイトはリニューアルしたら終わりではありませんので、アクセス解析などを活用して訪問者が検索するキーワードを見て、該当コンテンツの表示方法の変更などに活用しています。

また、高校生や受験者を対象にさまざまな地域で説明会をすることがあるそうですが、説明会後にその地域からどのくらいアクセスがあったのかといった情報を得て、「説明会が効果的だったのか」といったことの検証にも使ったりしているそうです。

Webへの期待と運用で心掛けていることは?

橋本さんと佐藤さんにICUのWebや今後の課題について聞きました。

ICUのWebサイトを見やすく楽しく、きちんとリベラルアーツを理解してもらうサイトにする。そのうえでICUの教育をどう伝えられるかがWebにとっての課題だと考えています。

これは単に教育を理解してもらうだけでなく、教育の「質」の部分をどうわかってもらえるかということです。私たちが自負しているのは「丁寧な教育」をしていることです。

ICUは教員と学生の比率が1:18と手厚い教育をしていますが、単に少人数教育というだけではなく、ICUでは教員と学生の関係の「密度が違う」「コンタクト時間が長い」という点です。現在寮に住む学生は全体の25%程度ですが、教員用の住宅が50戸ほど同じキャンパスの中にあります、教員が広く自然豊かなキャンパスや自宅での読書会を行うなど課外時間での教員と生徒のコンタクト量は他大学に比べても圧倒的に多いです。そういったICUの魅力をWebで伝えていければと考えています(橋本さん)。

ICUサイト利用者はタブレットやスマホからの利用がすでに50%を超えています。1年前は30%程度の利用率でしたから大きな変化の年だったといえるでしょう。これからは一層タブレットやスマホの利用を意識したコンテンツ提供を考えていかなければいけません。

キャンパス内の図書館内に用意されているPC/LANのスペースを使う学生の数が減ったというのも印象的です。

また、ICUでは1年前にアジアの学生を集めたキャンプを実施しました。このキャンプは、学生が1週間近く環境問題について議論して、その結果をプレゼンテーションしていくというものです。アジアの学生がPCやタブレットなどを使って、どんどんプレゼン資料を作成し、ウェブにアップしていることに驚きました。世界のスピード感に乗り遅れることなくICUでも情報を提供していければと思っています(佐藤さん)。

左:橋本さん 中:稲富 左:佐藤さん
◇◇◇

週刊ダイアモンド「大学評価ランキング」(2014年10月18日号)ビジネスマンから見た大学ランキングで、「使えるグローバル人材輩出大学」で一位になるなど脚光を浴びるICU。

大学や授業のパンフレット、広報誌などの紙媒体も含め、少数精鋭で頑張る広報の皆さんの活躍を祈ります。

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