“良質なWebクリエイティブ”作りに効くデータ収集とモデル化の手法とは?
データとクリエイティブを繋ぎ、ユーザー体験の強化を図る
「実践!クリエイティブをつくるためのデータドリブン手法」と題し、データドリブン・マーケティング&ADフォーラムに登壇した博報堂アイ・スタジオは、データドリブンを利用し、社内データをクリエイティブに結び付ける手法について、事例を交えながら紹介した。
博報堂アイ・スタジオが考えるデータ活用方法は、データとクリエイティブを掛け合わせるというものだ。博報堂アイ・スタジオ データドリブンクリエイティブ部の佐々木学氏は、「当社は設立当初から培ってきた“クリエイティブ力”に、“データドリブン”というコミュニケーションのシナリオを掛け合わせることで、企業と生活者とのより深いエンゲージメントの実現を目指してきた。当社の強みはデータを活用したクリエイティブ力にある」と訴える。
UXを最適化するためのHCDのアプローチ
では、いかにしてデータとクリエイティブを繋げていくのか。データドリブンクリエイティブ部 UXデザイナーの白石葵氏は、ユーザーエクスペリエンス(UX)の視点から事例を交えて解説した。
UXとは「ユーザーの利用体験」であり、製品やサービスを利用するプロセス全体を、使う人の視点でデザインすることで、利用体験の価値を上げることを目指すものだ。UXを最適化するには「人間中心設計(HCD)のアプローチ」が必要となる。
HCDとは、下記の4プロセスを回すことで改善活動を行っていくものである。
- 誰が、どんな状況で利用するのか、ユーザーデータを収集する
- 1を分析し、モデル化することで、ユーザーに何を提供すべきか明らかにする
- 2に基づき、企画・設計・デザインなどを実施する
- 完成したものが想定通り利用されているかテストして改善課題を抽出する
Web制作においても、UXを最適化するためにHCDが用いられつつあるが、「中でも最も重要なのが、1のユーザーデータ収集、2の分析とモデル化であり、これらをクリエイティブにつなげていくのが、“データドリブンクリエイティブ”の一つの形ではないかと考えている
」と白石氏は強調する。
ユーザーデータの収集は、「行動データ」「心理データ」の2つの側面から考える必要がある。前者は年齢や性別、住所、年収、関心のあるカテゴリーなど、ユーザー属性や利用行動を把握するもので、収集する有効な手段として、アクセスログ解析がある。白石氏は「Webコンテンツはユーザーの行動ログが容易に取得できるという点で、他の製品やサービスよりもアドバンテージがある
」と補足する。
一方、ユーザーの行動の「理由」にあたるものが「心理データ」だ。例えば、あるサイトで直帰率が高いページがあったとしよう。その改善をはかるに当たっては、「なぜ直帰率が高いのか」を探る必要がある。下記のような理由が存在するはずだ。
- 期待していたものと異なっていた
- サイトの利便性が低かった
- すぐに満足して立ち去った
どれが本当の理由なのか、行動データからだけではわからない。クリエイティブの方向性や具体策を検討するためには、属性や行動だけでなく、個別の人物像や行動の理由を理解する必要があるのだ。
そうした心理データを取得する方法として、従来、アンケートやグループインタビュー等が用いられていたが、コストや時間を要するのが課題となっていた。しかし、白石氏は「近年ではネット環境やスマートデバイスの普及により、調査の手法も変わってきている。セルフアンケートやオンラインテストといった、新しいデバイスとネット環境を活用した手法によって、手軽に心理データを取得できるようになった」と話す。
データをモデル化することでクリエイティブな“閃き”を喚起する
続いて、データの取得後に必要なプロセスが、データ分析とモデル化だ。白石氏は、「データの数字やグラフだけではクリエイティブに繋がらない。分析したデータをわかりやすくモデル化することで、“閃き”を喚起することが重要だ」と強調する。
モデル化の例として白石氏は、次のような手法を上げる。
簡易ペルソナ : 来訪者属性などの定量データに心理データの情報を加味してユーザーパターンを検討し、ペルソナを実像化する
カスタマージャーニー : 経路分析などの定量データに個別の行動フローを加味して検討することで、カスタマージャーニーを設計する。仮説ではあるが、ユーザーニーズを含んだリアルな行動を浮かび上がらせる
白石氏は、あるWebサイトのリニューアル案件において、オンラインユーザーテストを実施、テスト結果をモデル化することで、ハイレベル設計へとつなげた事例を紹介した。
そのWebサイトは会員登録を必要とするサービスを提供しているが、分析の結果、すべての年代・性別において会員登録フローに根本的なユーザビリティ課題があると実証された。
そこで、新規/既存ユーザーと大まかに分けただけのユーザーイメージを仮説。テスト結果から得られた情報ニーズやタスク達成に向けた改善ポイントを組み込んだ一覧表、すなわちユーザー視点によるステップごとの達成目標を定めた「カスタマージャーニー」を設計した。それをさらにユーザー成長フローに概念化し、成長フローモデルからハイレベル設計へとつなげていくことで、サイトUIの改善を図ることができたという。
広告コミュニケーションの「HOW」にデータドリブンクリエイティブを活用する
ここまでは戦略を作る実践方法の話であったが、最後に、実際にデータを活用し、クリエイティブをアウトプットするためのする実践方法について、山田智久氏が解説した。
近年、コミュニケーションにおける課題として、最近では、次のような声が多くの顧客から寄せられているという。
- きちんと成果を出すサイトをつくりたい
- 自分たちが持っているデータを活用したい
- ソーシャルのデータを活用したい
これらの課題を解決する手段としてデータドリブンが有効となるのだ。
それでは、いかにしてクリエイティブを着想していくのか。ポイントは「これまで広告クリエイティブをつくるために語られてきたことからは逸脱しないこと
」(山田氏)だ。
つまり、「だれに」「いつ」「どんなメッセージや体験を与えるのか」という基本的な考え方は変わらない。しかし、広告コミュニケーションを考える「HOW(どのように)」という部分に、データを活用する視点が加わることに、データドリブンクリエイティブの発想のヒントがあるのだ。
そのための具体的な視点として、山田氏は次の3つを挙げる。
- データを直観的に表現する
- 持っているデータをリアルタイムに表現する
- データを体感的に表現する
山田氏は、それぞれの視点に基づき、同社が手掛けたクリエイティブの事例を提示した。
1の事例では、「花粉くん.com」という、千葉県の花粉飛散データを利用して、一般的な花粉注意報とは異なるコミュニケーションを実現したケースを紹介した。
「KTP(花粉つらいポイント)」という独自の概念を作るとともに、花粉の飛散度合をデータをキャラクターで可視化、さらにダッシュボードで表示させた。これらの施策により、サイトへの再来訪率は70%にも達しているという。
また、2では、エンジニア向けイベントでイベント用アプリサイトを制作した事例を紹介。イベントの参加者のツイートを取得し、その盛り上がりを可視化。イベントを盛り上げる空気感を醸成させることを実現し、総来場者数が数百人であるにも関わらず、期間中のツイートは約1万件に達したという。
そして3では、ウェアラブル技術にデータを組み合わせることで可能となるクリエイティブ表現の事例を提示。店頭でのスポーツシューズの試し履きに際し、Googleストリートビューの映像を表示させる仕組みと、圧力センサーを搭載したウォーキングマシンを用い、実際に外を走っているかのような体験を提供。商品のコンセプトや特性をいち早く理解させることが可能になったという。
山田氏は最後に下記のように述べて講演を締めくくった。
データドリブンクリエイティブはまだまだ世の中に普及していない。直感に訴えたり、臨場感をもたせたり、実際に体感させることは、コミュニケーションとして非常に明快であり、マーケティング効果としても認知拡大のフェーズや販売促進に直結するはずだ(山田氏)
ソーシャルもやってます!