貴社の「データドリブン成熟度」は5レベルのどれぐらい?
デジタルメディアの浸透で未曽有の変革期を迎えたマーケティング活動
「データドリブンな組織を育む~デジタルマーケティングの成熟度を高めるには?~」と題して、データドリブン・マーケティング&ADフォーラムの基調講演で登壇したアドビ システムズの祖谷考克氏は、データドリブンマーケティングの成熟度に基づき、あるべき組織の姿へと進化していくための方策について言及した。
76%ものマーケターが、この2年で過去50年間のマーケティングにおける変化よりも、大きな変化が起きていると感じている――。祖谷氏は、「Adobe Marketing Discovery 消費者行動調査2014」の結果を紹介しながら、こう訴える。
この調査は、Webサイトなどのデジタルメディアが消費者の購買行動にどのような影響を与えているのか、1,000人の消費者へのWebアンケートを行い、その結果をまとめたもの。
調査結果によれば、テレビや新聞、雑誌を見て興味を持った商品情報をWebサイトで調べる消費者は88.3%、さらに、店頭で気になった商品についてその場で店員に聞く人は47.7%であったが、Webで調べる消費者は52.3%に達しているという。店頭にいるにも関わらず、商品について知りたいことを店員に聞くよりもWebで調べる人の方が多いという結果になっているのだ。
また、今や消費者との重要な接点であるWebサイトが、来訪者の期待に応えていない場合、商品の購入や情報収集を中断する消費者が62.6%にのぼることも報告されている。
この結果からも、商品の認知や検討、購入判断といった各場面において、デジタルメディアの及ぼす影響が大きいことは明白だ。祖谷氏は、「そうしたことから、マーケターが主導し、顧客のWeb体験をコントロールして推進していくことが不可欠になっている
」と強調する。
“顔の見えない顧客像”を把握するパーソナライゼーションが不可欠
このような変革期を迎え、今後、的確なデジタルマーケティングを実施していくためには何が必要か。祖谷氏は、1つのキーワードとして、「パーソナライゼーション」を挙げる。
デジタルマーケティングにおけるパーソナライゼーションとは、あらゆるタッチポイントから集約した顧客情報を基に、顧客一人ひとりへの適切なコミュニケーションを全チャネルで一貫して展開することをいう。そのための第一歩として、スクリーンの向こう側に存在する、“顔の見えない顧客像”を把握することが不可欠となる。
祖谷氏は、「オフラインのデータに加え、顧客のオンラインでの行動を計測/可視化し、さまざまなプロファイルデータを取得することで、ある程度まで“顧客の顔”を知ることができるようになる」と説明。そのために必要なデータとして、次の5つを挙げる。
プロファイルデータ(一例)
- 環境 : IPアドレス、発信国、デバイス、ブラウザタイプ
- 行動 : オンラインでの購入履歴をはじめとした、サイトでのユーザーの行動履歴
- オフライン : CRMやロイヤリティ、コールセンター等からのオフラインデータ
- リファラー : リファラードメインやキャンペーンID、アフェリエイト
- 時間 : 1日のうちの時間帯、曜日などのアクセス履歴
これらのデータを取得することで、ユーザープロファイルが把握できるようになり、ひいてはマーケティング施策へのパーソナライゼーションの適用が可能となる。
例えば、過去、アドビのWebサイトにアクセスし、学生向けの広告をクリックしてAdobe Creative Cloudのページへとランディングしたものの、まだ購入実績がない顧客がいたとする。その顧客が再度Webサイトを訪問した場合、トップページにはAdobe Creative Cloudの商品情報だけでなく、学生向けキャンペーンの広告を表示させる。このようなパーソナライズされたコミュニケーションを提供することで、CVRを向上させられるようになるのだ。
祖谷氏は、こうした施策を実施していくためには、データドリブンな意思決定が行える組織を実現していくことが重要だと強く訴える。
自社はどこまでデータに基づく意思決定ができているのか
では、データドリブンマーケティングを推進していくためには、具体的に組織がどのように成熟していかなければならないのか。まず、祖谷氏は、組織におけるデータドリブンの成熟度について、次の5つの区分を例示した。
- レベル1(黎明期) : データはあるが、主観的な意見や過去の慣例に基づいて意思決定がされている
- レベル2(揺籃期) : 意思決定において、データが大切な要素の1つとして認識され始めている
- レベル3(確立期) : ほとんどの意思決定にデータを利用しているが、まだデータを正しく取り扱うことができていない
- レベル4(発展期) : 意思決定時にデータを重視し、分析やレポートも信頼できるレベルに達している
- レベル5(成熟期) : データこそがすべての意思決定のキードライバーとなっており、施策、判断もデータに基づいた厳密な優先順位プロセスによって仕組み化されている。
さらに、パーソナライゼーションの実施に際して、この成熟度モデルを当てはめた場合、下記のような段階を踏む。
- レベル1 : 計測基盤の構築
- レベル2 : データの可視化
- レベル3 : 分析の活用
- レベル4 : サイトの改善
- レベル5 : パーソナライゼーション
各レベルにおいて上位層へとステップアップしていくためには、どのような取り組みが必要となるのか。
例えば、レベル1から2へとうまく移行できない場合には、KPIに基づくワークショップを行い、自分たちのビジネスのオブジェクトがどうなっているのか整理し直すことが重要である。
レベル2から3にレベルアップする場合には、社内トレーニングを実施し、チーム全体の底上げを図ることが鍵になる。
さらにレベル3からレベル4への移行、すなわち、分析から改善へとつなげる行動を起こしてくにあたり、良いアイデアが生まれなかったり、改善施策の比較検証がうまくいかない、あるいは正しく実施できていない、といったことが多々発生する。その場合にはもう一度、自社のデータを深堀分析して、その内容を洗い直してみることが有効だ。
なお、レベル4から5への移行には、「テスト戦略の策定が効果的となる
」と祖谷氏は補足する。
データドリブンな組織を実現するためにはデジタルCoEの存在が不可欠
レベル5にまで達すれば、あとはマーケティング施策を実行するだけだが、それでも、上手くいかないケースもある。企業の社風や文化、習慣が妨げとなることが多々あるからだ。そうした組織の障壁を乗り越え、データドリブンマーケティングを推進するためのフレームワークとして、祖谷氏は、「L3PS(Leadership、Product、Process、People、Strategy)」を挙げる。
これは、デジタルマーケティングを推進していくためには下記の3つのPをバランスよく整備することが重要であり、
- People(人)
- Process(プロセス・組織)
- Product(製品)
さらにこの3つのPに、
- Leadership(リーダーシップ)
- Strategy(戦略)
を加えた「L3PS」を推進しなければならないという考え方だ。
強いリーダーシップと一貫した戦略を通じて、3つのPをバランスよく成長させることで、データドリブンな組織が実現される(祖谷氏)
このL3PSを全社的に推し進めるためには、「組織を横断的に活動する、Digital CoE(Center of Excellence)と呼ばれる中央組織をつくっていくことが重要だ
」と祖谷氏は訴える。
Digital CoEとは、デジタルマーケティングを推進するために必要な戦略、ナレッジの集約、トレーニング(人の育成)を担うチームであり、データドリブンなデジタルマーケティングを組織横断で展開する専門集団である。
最後に祖谷氏は、現場との軋轢を回避しながら、このような組織を横断する専門チームを立ち上げ、その活動を軌道に乗せるために最も重要なこととして下記の通り強調した。
データドリブンな組織を作っていくための最初の第1歩は、役員などエグゼクティブスポンサーのバックアップを得ることに尽きる。その上で、小さな成功を積み重ね、少しずつ協力者を増やしていくことが、結果として成功への近道となる(祖谷氏)
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