小売業がオムニチャネルで成果を上げるために知っておくべき3つのこと 先端の米国企業の事例から学ぶオムニ戦略

EC企業や小売業で「オムニチャネルマーケティング」を成功に導くためのヒントを知りたい方へ
瀧川 正実(ネットショップ担当者フォーラム) 2014/5/27 9:00 |
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「オムニチャネルマーケティング」で実店舗とネットでの顧客コミュニケーションを融合させ、売り上げを伸ばす――ネットと実店舗などリアルの世界をシームレスにつなぎ、顧客を購買に導こうとするマーケティング手法への挑戦は、日本ではまだ始まったばかりだ。しかし、米国に目を向けると、たくさんの成功事例が転がっている。

「オムニチャネルマーケティング」を成功に導くためのヒントを、米国EC企業の実例から解説する。

EC企業や小売業で「オムニチャネルマーケティング」を成功に導くためのヒントを知りたい経営者やマーケティング担当者などは、先端を走る米国企業の取り組みを参考にすることで、競合企業と大きく差別化するためのアクションのヒントを得られるはずだ。

オムニチャネルやマルチチャネルの顧客は、ベストなお客さま。単一チャネルの顧客に比べて3倍も購入してくれる。

2013年6月、米国で開かれた世界最大のEコマースカンファレンス「IRCE(アイアールシーイー)」。オムニチャネルをテーマにしたセッションで、このような言葉が米国企業の責任者から発せられた。

IRCEで発表された資料では、複数の小売業者が「単一チャネルよりもマルチチャネルの顧客は3倍も購入する」と回答していることが示されている。

IRCEとは、Eコマースに関するマーケティングや技術などの情報を学ぶ場として2005年から開催しているカンファレンスイベントだ。2014年で10周年を迎え、今では40か国以上から1万人以上のEコマースに携わる人々が参加する。2013年には楽天の三木谷浩史社長などが講演している。

IRCEには、毎回多数の参加者が集まる

日本でも開かれるようになった米国初の大規模カンファレンスというと、デジタルマーケティング系の「ad:tech(アドテック)」があるが、「IRCEは、米国ではad:techよりも有名なネット系のイベント」だという(複数の大手旅行代理店担当者)。今年は香港でも「IRCEアジア」を開催する予定で、世界中で開催されるカンファレンスに成長している。

「IRCE」の知名度は日本にも広がっているのだが、そこで披露された米国ECの最新事例はこのイベント時での公開にとどまっており、日本に情報が届くことは、ほぼ皆無だった。そのため、情報を得たい人は参加するしかなく、ここ数年は情報感度の高いEC関連の経営者が開催地に足を運ぶケースが増えている。

しかし、今年からは日本でもIRCEからの最新情報を得られるようになった

というのも、Eコマースの総合支援を手掛ける株式会社いつも.が、「IRCE」を主催する米国の大手イベント企業と提携し、「IRCE」で開かれた講演内容を日本で展開する契約を締結し、DVDとして販売を開始したのだ。

ついに、米国のEC企業が行う最新事例を収録したコンテンツが、「IRCEお墨付き」のDVDとして日本市場で初披露されることになったということだ。

「オムニチャネル」という言葉が先行し、成功事例が少ない日本。オムニチャネルに取り組む背景にあるものは何なのか、実際の取り組み内容にはどんなものがあるのか、浮かび上がった課題をどのように解決しているのか。米国のEC企業が取り組む最新事例を収録した「IRCE」のDVDから、米国企業が取り組むオムニチャネル戦略の講演内容について取り上げる。

米国企業の事例から見えるオムニチャネルに取り組むべき6つの理由

消費者は、「いつでも」「どこでも」「簡単に」、買い物や遊びを楽しみたい。それが今の世の中では当り前になっている。企業は、そうした状況を理解し、さらにそうした傾向が今後も進んでいくということに、目を向けなければいけない。

消費者はブランド(求めている商品)だけを見る。それがどんな状況にあるのか、企業がその状況にどう対応しているのかといった都合は、消費者には関係ない。

そこで企業に問われているのは、消費者がその企業との接点において体験できることが、さまざまなチャネルにおいて統一されているかということ。つまり、消費者からみた企業の姿が、あらゆるチャネルで同様に好ましいものになっているかということだ。

米国の「エプソン」「ディオール」「リーバイス」といった大手企業などのEコマース戦略をサポートするEコマース向けコンサルティングのFitForCommerce(フィットフォーコマース)社でCEOを務めるバーナディン・ウー氏は、米国企業がオムニチャネルに取り組む背景や理由などを、このように説明している。

バーナディン・ウーCEOは、ネットや実店舗、カタログなどさまざまな消費チャネルにおいても、企業は消費者に対し、「異なったチャネルにおいても統一した顧客体験(エクスペリエンス)を提供しなければならない」と説明する。それは、ネットやEコマースの技術、デバイスの進歩などにより、消費者が企業に求める購入方法や利便性がより高まっているからだという。

そのためにも、マルチチャネルで事業を展開することが重要だと説明する。つまり、オンライン企業は実店舗やカタログなどリアルの世界へと展開し、逆に実店舗企業はネットの世界へ足を踏み入れることが、当然の流れなのだ。

多くの人がウェブやモバイルを使っており、そこで思ったことができるのを当然だと思っている。そのため、そういった場において、商品購入や申し込みができるようにしておくことが、非常に重要になる。

実店舗を持つ小売業者のいくつかは、実店舗での売上とEコマースでの売上がほぼ同じ程度になるまでの成長を達成している例もある。

オンラインに特化していたEコマース事業者が実店舗を開店する動きが、次々と起こっている。リアル店舗を出すと、実際に自社のお客さまについて見て学べるようになる。これが、Eコマースにも大きな意味をなすのだ。

バーナディン・ウーCEOは調査データをもとに、オムニチャネル経由で商品を購入する消費者の顧客単価の高さなどを解説し、ウェブを通じて実店舗で商品を購入したり、申し込みしたりすることが重要になると説明。オムニチャネルで新しいチャネルでの売り上げが既存チャネルの事業規模と同様になった事例や、Eコマース専業企業が実際に店舗を次々と開いている理由を解説する。

オムニチャネルに挑む米国企業が成功を成し遂げたワケ

実店舗約100店とECを巧みに連動できたヒントは在庫連動にあり――靴&アパレル小売りスティーブ・マデンの場合

在庫情報が常に更新され、それが全国の店舗で確認できるようにすること。オンラインだろうが店頭であろうが、探している商品を簡単に見つけられるようにすること。

ウェブサイトはマルチチャネル戦略の1つに過ぎない。すべてのチャネルで、一貫した体験をできるようにすること。しかも単一チャネルよりも良い体験にすること。

それが、我が社が約100店の実店舗とネットを巧みに連動できた秘訣だ。

マーク・フリードマン氏(スティーブ・マデン)

米国・カナダで約100店舗を展開し、Eコマースも約50か国で展開する靴・服飾製造・小売店企業のスティーブ・マデン。Eコマース社長のマーク・フリードマン氏は、Eコマースと実店舗を連携しオムニチャネルを早くから実施しているが、オムニチャネルを成功させる秘訣として、このように語っている。

この目的を実現するために同社では、ECサイトで販売している商品には、必ず「実店舗でこの商品をみつける」というリンクを設置。iPhoneアプリでも、モバイルサイトにアクセスすると「リアル店舗でみつける」というボタンを設置している。そうすることで、店頭においてもネットからのスムーズな流れで商品を見つけやすくしているのだ。

そして、約100の店舗、5つの倉庫といった異なる場所にあるすべての場所から商品を発送できる体制を整えた。

PCサイトのほか、モバイルのECサイトでも、実店舗の在庫を確認できるようにしている

こうした戦略をEC部門、店舗部門含めて成し遂げることができた背景にあるのは、同氏の「私たちのビジネスは靴を売ること。何より重要なことはお、客さまが履いているサイズの靴の在庫があるかどうかを確認できるようにすること」という考え方だ。

またオムニチャネルの副次的効果を次のようにも説明している。

マルチチャネルは、お客さまがお店に戻ってくる動線になる。オンラインによる購入は、実際にはネットを介したお店への再訪問だ。

これが意味するのは、オンラインに力を入れることが、お店のスタッフが売り上げを伸ばすチャンスにもなるということだ。

ただ、このようにオンラインと実際の店舗のスタッフが足並みを揃え、1つの成果に向けて力をあわせることは難しいのが実情。というのも、店舗とネットでの売り上げの喰い合い(「カニバリゼーション」と呼ばれる)が発生することが多く、それぞれの部門同士が協力し合うことが難しくなるためだ。

こうしたことを踏まえ、フリードマン氏は次のように指摘する。

オムニチャネルを実現していくには、「お店にある商品だけを売るのではない」という認識を持たせるなど、店員の訓練をしなければいけない。会社のチームに対して、全員が同じ方向・同じ戦略を持つことがいかに重要なことかを伝えることが大切なのだ。

そうした意識の摺り合わせをせずにオムニチャネルを進めようとしても、時間の浪費となる。

「差別化の鍵は店舗にある」と考えるアパレル企業のECサイト活用方法――ジョーンズ・グループの場合

実店舗から出荷するならば、どこの店舗から商品を出荷するか決める。納期が早く、最もコストが安く、早い、最も効果的な方法でお客さまに商品を届けられようにすることを肝に銘じるのが重要だ。

実店舗の中にオンライン用の在庫を抱え、店舗から出荷したり、店舗でECの商品を受け取ったりできるようにするには、いろいろな調整が必要となる。

ウェブサイトの目的が何であるかを考えなければならない。たとえば、ウェブサイトに存在しない商品は、店舗に訪問しても在庫はないだろうとお客さまは思ってしまう。「サイト上の商品の在庫」という意味をしっかり考える必要がある

ミルトン・パパス氏(ジョーンズ・グループ)

「Jones New York」などの有名アパレルブランドを持つ大手アパレルブランド企業であるジョーンズ・グループの、ミルトン・パパス Eコマース社長も、オムニチャネルを進めるための重要事項として、在庫や組織体制の必要性を、このように訴える。

実店舗も運営するEC実施企業にとって、オムニチャネルを進めるうえで課題となるのが在庫の問題なのだ。

ジョーンズ・グループでは、EC経由で購入された商品を店舗で受け取るといった仕組みも採用している。配送状況を店舗内検索端末などシステム経由で確認することもできる。配送に関するネットワーク、ウェブサイトや実店舗間の在庫管理、POSなどのあらゆるツールが、オムニチャネル戦略を中心に統合されているという。

パパス氏は、消費者動向の変化などに触れ、オムニチャネルを進めるうえでのヒントを次のように指摘している。

世界は変わり、消費者も変わった。多くの人々がこれをデジタル革命などと呼び、消費者がこれをリードしている。しかしそれでも、差別化の鍵は、実際には店舗にある

オムニチャネルで成功を成功に導くために欠かせない「トップの方針」「組織作り」

バーナディン・ウーCEO、マーク・フリードマン・Eコマース社長、ミルトン・パパス・Eコマース社長の講演で共通課題として取り上げているのが、オムニチャネルを成功に導くためには「トップの方針」「組織作り」がポイントとなることだ。

たとえばECの場合。店頭販売部門とEC部門の縦割り組織が弊害となり、双方の連携が取れなかったり、カニバリゼーションを恐れて部門間の協調が取れなかったりするケースが多々見受けられる。こうした課題について、登壇した経営者は次のような組織論のヒントを挙げる。

Eコマース担当者、技術者、オペレーション、フルフィルメント担当者、店舗スタッフ……全員が同じ方向を向いていない限り、ビジネスをやり遂げることはできない。

マーク・フリードマン・Eコマース社長

オムニチャネルを成功させるための組織作りは、トップから始まる。「組織にとってオムニチャネルが最優先事項である」という共通方針が必要なのだ。オムニチャネルを、店頭販売やオンラインセールスと同じように、ビジネスにとってキーになることだと考えることが重要。

ミルトン・パパス・Eコマース社長

何年も前から、クロスチャネルやオムニチャネルの副社長を雇うようにいくつかの会社に推薦し始めている。特殊な責任と役割があるために、それに見合う肩書を付ける価値がある。オムニチャネルを推進する役割を、公式な役職としてCEOや経営幹部レベルの重役に認めてもらうべきだろう。

その役割を果たす人を、単に調整役として扱ったり、調整のために走り回る若手のポジションにしたりするのは、よくない。責任者に権限を与えれば、成功する可能性が高い。なぜなら、オムニチャネルを進めるには部門間協力が必要だからだ。

バーナディン・ウーCEO
◇◇◇

価格競争力や資本力のある大手企業の参入、メーカー企業のEC参入など、EC業界は成長を続けているものの、淘汰の時代が始まっている。実店舗を構える企業においても、ウェブの活用は大きな経営課題として挙げられている状況だ。

我先にと競合企業との差別化などを図るため、新たなマーケティング手法を採用したり、先端のマーケティングを学ぶ機会を作ろうとする企業が増えているのは、こうした背景があるからだろう。

テクノロジーの進化や革新は、米国が先を行き、遅れて日本にも届くケースが多い。ECにおいても同様だ。ただ、日本企業にとって幸いなことは、米国の事例を学び、それを日本式に応用できることができる環境にあるということだろう。

米国の最新EC事例を学ぶ、EC実施企業やコンサルタント、ネットマーケティング担当者はほんの一握り。それをいち早く日本市場に、自社に取り入れることは、競合企業に大きなアドバンテージを取ることができるチャンスにもなる。米国のEC事情に目を向けることは、自社のECマーケティングを見つめ直し、将来の戦略を立てる絶好の機会にもなるはずだ。

本記事で紹介したのは、「IRCE」で行われた講演内容を収録したDVDの一部だ。

DVDには、いつも.が日本のEC市場に適したものとして選んだ6コンテンツを収録している。本記事で紹介した「オムニチャネル」のほかには、「アマゾン」「ソーシャルメディア」「プラットフォーム」「モバイル」「SEO」をテーマにした講演DVDが含まれており、すべて日本語翻訳され、講演内容が全文翻訳されたテキストとプレゼンテーション資料を記載した冊子のセットになっている。

海外のマーケティング事例を学ぼうと、ここ数年、「IRCE」といったカンファレンスに出向くEC関連の事業者が増えてきている。それは、米国で主流となっているマーケティング手法や技術が数年後に日本のEC市場で展開されるケースが多いためだ。

海外への渡航費、イベント参加費、そして時間がないといったEC関係者にとって、時間やコストを節約して最新のECマーケティングを学べる機会はそう多くはない。最新のECマーケティング事例を学び、競合企業と差別化を図るための一つの方法として、「IRCE」が活用できるだろう。

■IRCEの販売サイト→ http://irce.jp/

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