企業ホームページ運営の心得

企業の生存本能はウイルスを越える。Facebookは消滅するのか

企業は座して死を待つことなどせず、自らの変異して危機を乗り越えるものです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の347

SNSの衰退

日本時間の1月28日未明、米国市場でFacebook株が暴落しました。

Facebookは3年以内に事実上消滅する

とした論文が米国プリンストン大学から発表され、動揺売りがでたのです。論文は、感染症の流行から収束へと向かう発症件数の曲線(SIRモデル)がSNSの流行と重なり、2008年に最盛期を迎えたSNS「MySpace」が2011年には見る影もなくなった事例を引き、Facebookが消滅するというものです。

しかし、その2日後に発表された決算は市場予想を上回り、株価も急伸しました。Facebookの広報担当者は、この論文を「くだらない」と吐き捨てた、と米国の経済誌ウォール・ストリート・ジャーナルは報じています。

果たしてFacebookの3年後はどうなるか。この論文はネットサービスの真実の一部をついておりますが、そもそも論のレベルで致命的欠陥があります。

モバゲーとグリー

Facebookは2017年までに大きく衰退すると予測
出典:Epidemiological modeling of online social network dynamics

論文が指摘するヒトコブラクダの背のような曲線は、日本国内のネットプレイヤーの栄枯盛衰と重なります。代表例が「モバゲー」と「グリー」です。「ケータイゲーム」で一世を風靡し、以前にも紹介した、

俺たち、任天堂の倒し方知っているから

と嘯(うそぶ)いていたころが、我が世の春を迎えたパンデミック期で、ラクダのこぶの頂点です。

さらにカードゲームがヒットしてマネタイズが加速し、成功は永遠に加速しつづけるかと思われたときに「コンプガチャ問題」が顕在化します。当初は海外進出を豪語し、影響は軽微と吹聴していましたが、数多く作った海外拠点は整理され、国内でもリストラの嵐が吹き荒れたと報じられます。成功から凋落へのカーブは、論文が指摘する「MySpace状態」で、これは真実の1つです。

わかりやすい凋落

しかし、論文が「感染症=ウイルス」をモデルとするなら「ワクチン」の存在は無視できません。

ガラケーのケータイゲームは、スマホの普及により脇に追いやられ、ガンホー(パズドラ)や、コロプラ(魔法使いと黒猫のウィズ)が主役に躍り出ます。彼らはモバゲーやグリーから見たときの市場に対するワクチンです。

いま、もっとも鼻息が荒いワクチンはコロプラの馬場功淳社長。

どのタイミングで販促やイベントを打てば、どんな属性の顧客がどのくらい流入してくるか。どんなイベントを開くと、どう継続率が伸び、課金額が上がるかといったことが把握可能になった(日経新聞2013年12月5日朝刊)

コロプラとグリーの相似形

さらに、

テレビCMを使って効率的にゲームのユーザーを獲得する手法を確立した(同2014年1月30日朝刊)

と馬場社長は語り、2014年9月期の営業利益を前期比3.1倍に修正して絶好調。しかし、すべて「コンプガチャ」が社会問題となる前に、当時グリーの関係者が自慢げに語っていた話と重なります。

グリーの実施したリストラに応じた社員が、そのノウハウを持ってコロプラに移籍したのではないかと思うほど、両社の「成功法則」は重なります。ゲーム性は違えど、課金というビジネスモデルは共通します。歴史は繰り返すとすれば、グリーのたどった轍をコロプラはなぞることになりますが、これいかに。

MySpaceの事例では、Facebookがワクチンとなり駆逐しました。しかし、現時点においてFacebookの繁殖を妨げるワクチンの存在は確認されていません。国内にはLINEがその立場になるという論もありますが、世界市場におけるプレゼンスは残念ながら、まだローカルプレイヤーです。

致命的欠陥を指摘

Facebookが未来永劫反映を続けると礼賛するものではありませんが、なにより「本論文」には致命的な欠陥があり、その欠陥が現時点におけるFacebookの強さであり、なによりメイドインジャパンのネット企業がすでに体現していることです。その欠陥とは、

営利企業の生存本能はウイルスを越える

ということ。上場直後、Facebookは「スマホ対応」が弱いとされていましたが、キャッチアップして好業績へとつなげています。企業、特に上場企業は株主により利益追求を常に求められ、ウイルスのようにワクチンの攻撃に対して座して死を待つことなどせず、ワクチンを解析し、自らの変異を試みるしたたかさを備えているのです。

そしてモバゲーもグリーも、凋落したのは今回が初めてではありません。モバゲー(DeNA)は携帯電話向けのオークションサービスで注目され、グリーは「mixi」と並ぶSNSとして世に出ましたが、栄華は短くラクダのコブから転がり落ち、ケータイゲームのヒットにより、再びコブを昇ったのです。

企業の生存本能

FacebookやTwitter、そしてLINEの躍進によって影は薄くなってはいるものの、国内SNSの雄「mixi」の株価は、昨年末に連日のストップ高となりました。スマホ向けゲーム「モンスターストライク」のヒットによります。グリーやモバゲー、そしてガンホーやコロプラといった、自らを脅かしたワクチンと同じ型のウイルスへと変異を遂げようとしています。

論文のような考えは、マーケティングの世界では「ライフサイクル説」と呼ばれます。ブームには一定のサイクルがあるというものです。端的に言えば「流行り廃り」。一気に普及したものは、陳腐化するのも早いという経験則などが有名で、「一発屋芸人」のギャグに顕著です。しかしこの説はブームの解説には役立ちますが、総合力が試される企業の寿命を語るには不十分なのです。

そもそもプリンストン大学の論文は、博士課程に在籍中のいわば「学生」によるもので、「査読」の途中にある論文です。「査読」とは研究者や専門家の評価を指し、「STAP細胞」を発表した小保方晴子博士が「生物細胞学の歴史を愚弄している」と英国科学誌ネイチャーに論文を突き返されたのも査読によります。そして査読を経ていないという事実は、論文にとって致命的な欠陥です。

今回のポイント

栄枯盛衰は世の常なれど、企業の生存本能はウイルスを越える

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