熱意あるオリエンはプロジェクトの推進力に、開発会社の実力を引き出し“姿勢・本気度”を見極める/第4回
Webシステム開発の受託側と発注側の両方に長年携わってきた筆者が、本当にあった失敗事例やつまづきやすいポイントを紹介しながら、Webシステム開発の知識や経験が浅い担当者が、自社に最も適したシステム開発会社を見つけ出すための正しい道筋を、全5回に分けて解説する。
オリエンで感じる違和感は見逃せないシグナル
生花のネット販売「花々ファクトリー」は、サイトリニューアルの目玉として、自由に組み合わせた花束のイメージをWeb上で確認できる新機能「バーチャル花束」を開発することになった。
担当の金子さんは慣れないながらも何とかRFPを作成し、3社のシステム開発会社に1社ずつオリエンテーションを実施した。
- A社はRFPがあれば大丈夫と、ほとんど質問はなく30分で終わった。
- B社はシステムの専門知識があまりない営業担当だけの出席だった。
- C社はオリエン実施日が金子さんの都合で提案の提出期日ギリギリになった。
オリエンテーションを終えて、金子さんはこれで大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚えたが、追加で他の開発会社に声をかけることはしなかった。しかし、出揃った提案は、どれもイメージと相違があったり、実現性に疑問が付く内容で、候補の3社から発注先を決めることはできなかった。結局、別の開発会社に声をかけることになり、スケジュールに遅れが出てしまった……。
システム開発の発注先選定で行われる「オリエンテーション(以下オリエン)」とは、発注元の企業がシステム開発会社にどのような提案がほしいのか、RFP(提案依頼書)を用いながら説明する場である。オリエンは、RFPの内容を詰めたり、プロジェクトの進め方について議論を交わしたりもする重要な場だ。
ただし、中小企業が発注元としてオリエンを行う際は、大手企業とは異なった部分に意識をして臨む必要がある。第4回では、中小企業だからこそ押さえておきたい、オリエンのポイントを解説する。
中小企業と大手企業では、オリエンの目的や位置づけが異なる
オリエンの主な目的は、RFPをもとにシステム開発会社に正確な情報を伝え、開発会社の疑問点、不明点を取り除くことである。しかし、大小さまざまな規模のシステム開発に携わった著者の経験からいうと、大手企業と中小企業の場合では、オリエンの意義がかなり異なってくる。
発注側が大手企業や公的団体の場合、オリエンは提案に必要な情報を偏りなく公平に伝えることに重きが置かれている。RFPが経験者の手によってしっかりと作り込まれていることが前提で、オリエンにはそこまでウェイトが置かれない。開催形態も複数社合同の一斉開催であったり、書面のみで対応する場合もある。
しかし、中小企業の場合は違う。中小企業の場合だと、発注企業の担当者の知識や経験不足な部分を、システム開発会社がどれだけ積極的にサポートしてくれるかが、プロジェクトの成否を握るといってもよい。そのためには、時間を惜しまずにオリエンを1社ずつ開催し、開発会社のやる気やサポート姿勢をチェックしながら、提案を引き出す必要がある。
また、オリエンには開発側の営業担当者だけではなく、実際に提案書を作成する人、開発フェーズでリーダーになる人が参加していることが望ましい。発注企業が求めるシステムの全体像を描ける人が参加していないと、提案内容に実現性を欠いたり、重要な要件が抜けていたりして、満足のいく提案をもらえない可能性が高まるからだ。
オリエンの日程はバラツキなく、集中して実施
複数社とオリエンの実施するときには、日程を2~3日の間にまとめることが望ましい。開発会社に与えられた提案期日が3日だったり、3週間だったりすると、提案作りにかけられる時間にも差が出てしまい、実力を正しく比較できなくなる恐れがあるからだ。
システムの規模にもよるが、オリエンから提案期日まで2週間程度を目安の1つとして考え、2~3日の間にオリエンを集中して実施できるよう調整しよう。
ここまでに説明したポイントを押さえたうえで、冒頭の「花々ファクトリー」の事例を見直すと、次のような問題点が見えてくる。
A社RFPがあれば大丈夫と、ほとんど質問はなく30分で終わった
中小企業の慣れない担当者が完璧なRFPを作成するのは難しい。
受け身な姿勢の開発会社だと、検討が必要な要素が漏れたまま設計に進んでしまう可能性が高い。B社システムの専門知識があまりない営業担当だけの出席だった
オリエンには提案を作成する人物、システムやプロジェクトマネジメントに詳しい人物の参加が不可欠。
キーマンが来ないのは、やる気がない、もしくは質の高い提案がもらえない可能性が高い。C社オリエン実施日が金子さんの都合で提案の提出期日ギリギリになった
よい提案を考えるためには、ある程度の時間が必要。
ギリギリのスケジュールで提案を準備してもらっても、満足がいくものが出てこない可能性が高い。
オリエンテーションの望ましい開催形式と
システム開発会社のチェックポイント
〇好ましい状況 | ×要注意な状況 | |
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開催形態 |
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開催時間 |
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開催スケジュール |
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開発会社の参加者 |
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開発会社の姿勢や意欲 |
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オリエンは実施順番によって公平さが欠くことも
オリエンは実施する順番によって、開発会社への情報伝達の量や質に差が出ることがある。その理由の1つは、始めは慣れていなかった発注側の担当者の説明が、回数をこなすごとに上達するからだ。つまり、プレゼンテーションの習熟度の問題である。
2つ目の理由は、さまざまな開発会社とオリエンを重ねることによって、担当者自身が不明瞭に考えていた部分がクリアになったり、検討が不足している点が判明したりするためだ。それをRFPに追記することで、伝えるべき情報がブラッシュアップされ、結果として、オリエンを後に実施する開発会社の方が、より良い情報を得やすい傾向になってしまう。
情報不足がわかったら、追加で伝えることも重要
しっかりとオリエンを準備したつもりでも、人間が実施することなので、内容に多少の差が出てしまうことは避けがたい。しかし、提案を依頼するうえで、致命的な検討事項の漏れや情報の齟齬など、提案の内容に大きな差異が出ると思われることは、オリエン実施後でも構わないので、他の開発会社にも必ず伝えよう。開発会社を同じスタートラインに立たせることは、開発会社の提案内容を正しく比較するために非常に重要だからだ。
そのためには、受けた質問と回答を記録しておくことが大切だ。発注企業の担当者は、オリエン時にどういった質問を受けたか、それに対してどう答えたか、メモをしておくことも重要である。記録があると、情報提供が公平にできたかどうか見直しがしやすくなるし、どんなレベルのどういった内容の質問があったかどうかは、後々、開発会社の姿勢や情報収集意欲などをチェックするうえでも有用である。
- 開発会社によって、提供する情報の質や量に差異が出ないよう気をつける。
- 開発会社から受けた質問は記録しておく。
オリエンはプロジェクトの推進力、100%以上の心構えで臨む
この連載では前回のRFPの作成、そして今回のオリエンと、いろいろな説明をしてきたが、そもそも中小企業のシステム開発の担当者で、ここまでのプロセスの目的を把握して、きちんとやれている会社は非常に少ない(だからこそ失敗が多いともいえる)。
しかし、多少の過不足があっても、システム開発会社に正確な情報を伝えるために手間をかけて書面を作成し、熱心に説明してくれると、真っ当な開発会社であれば、俄然やる気が出るものだ。
オリエンは慣れないと、1回でかかる2~3時間の説明と質疑応答でクタクタになってしまうほど、多くのエネルギーを使う。だが、ここで伝えた内容が、システム開発プロジェクトの関係者にとっての目指すべきゴールであり、その時の熱意がこの後長く続くプロジェクトの推進力になっていく。プロジェクトに魂を入れ、100%以上の力を発揮するつもりで臨んでほしい。
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