EC、SNS、ソーシャル……Webシステム開発の失敗原因9割はスタートラインで決まっている/第1回
Webシステム開発の受託側と発注側の両方に長年携わってきた筆者が、本当にあった失敗事例やつまづきやすいポイントを紹介しながら、Webシステム開発の知識や経験が浅い担当者が、自社に最も適したシステム開発会社を見つけ出すための正しい道筋を、全5回に分けて解説する。
社内決裁のための提案・見積がもらえないのはなぜ?
ECサイト立ち上げを検討することになった健康食品製造販売のマイクロヘルシー社。プロジェクトリーダーの大村さんは、知人の紹介やネットで探したシステム開発会社3社に相談を持ちかける。3社の営業担当から、「ECの目的や目標数字はあるか?」「納期は?」「予算規模は?」といくつかの質問を受けるも、大村さんは「具体的には何も決まっていないが、社内で議論するために提案が欲しい」と答える。
すると、数日して3社のうち1社は提案どころか連絡すらつかなくなった。もう1社は一式いくらの大雑把な見積を出してきただけ。最後の1社は、コンサルティングフィーをもらわないと提案ができないと返答してきた。社内で決裁をとり、プロジェクトを前に進めるためには提案や見積もりが必要であるのに……、大村さんは困ってしまった。
ほとんどの企業は、開発プロジェクトが社内で決裁が下りる前から、システム開発会社にコンタクトを始める。ただし、正式に決まっていない案件に対して、開発会社に真剣に取り組んでもらうためには、発注者として押さえるべきポイントがある。
第1回では、Webシステム開発の発注スタートラインとなる「開発プロジェクトの立ち上げ」で、発注企業が最低限取り組むべきポイントを解説する。
発注企業の社内事情とシステム開発会社側の本音
著者は立場上、中小企業の発注担当者から、システム開発会社の選定や付き合い方などについて、さまざまな相談を受けることがあるのだが、冒頭の事例のように、
社内でシステム開発の方向性を検討したいのに、
開発会社に本気で向き合ってもらえない
という話は非常に多い。なぜそのようなことが起こるのだろうか。その背景には、発注企業の社内事情とシステム開発会社の本音がかみ合わないことにある。
検討を前に進めるためにシステム開発会社の助力が欲しい。
中小企業の発注担当者は、システム開発の経験がないことがほとんどだ。そのため、プロジェクトの進め方、予算やスケジュールだけでなく、おおまかな方向性すらイメージできていない場合は少なくない。しかし、開発プロジェクトの詳細を詰めていき、社内決裁を取るためには開発会社からの見積り書や提案書が必要になる。まだ十分に社内で検討しきれていない段階から、システム開発会社の助力が不可欠になるのだ。
決裁の目途も立っていないような案件には極力関わりたくない。
一方で、中小企業の発注先となるシステム開発会社も、当然、従業員数名から数十名程度の中小・零細の会社が多い。営業や顧客対応に割ける人数は少なく(新規顧客の営業を担当するのは社長だけ、という会社も少なくない)、発注までに時間がかかりそうな案件、あるいはそもそも発注に至らない確度の低い案件に手間をかけられないというのが本音だ。
それぞれの立場と事情を理解する
経験のない発注企業からすると、「社内の担当者だけで検討をするには時間がかかり過ぎてしまうし、時間をかけたからといって正しい方向性に着地するとは限らない」という問題が生じがちだ。
ここで相談ベースから話を持ちかけることも1つの手ではあるが、マイクロヘルシー社のように、あまりにも何も決まっていない状況で、社内向けの企画書・稟議書づくりの無償代行を求めてしまうと、開発会社から、「それとなくフェードアウトする」「やっつけ、できあいの資料でお茶を濁す」「コンサルフィーを要求する」といった行動にでられてしまうのも無理はないだろう。
しかし、発注企業からすると、企業ごとにタイミングや回数は異なるものの、社内決裁の手続き上、オリエンテーションやRFP(提案依頼書)作成よりも早い段階で、概算の見積書や提案書が社内稟議の規定として必要になる場合が多い。
この発注企業とシステム開発会社の間のギャップを埋めるためには、どうすればよいのだろうか。
相談はOKでも、開発会社のやる気を削ぐ「丸投げ」はNG
著者は、「まだ正式にやることが決まっていない段階で、開発会社に相談したり、概算の見積もりを依頼してしまってもいいのだろうか?」という質問も、開発会社がまともに取り合ってくれないという相談と同じくらいよく受ける。著者個人の意見としては、「開発会社に積極的にお願いするべき」だと考えている。
というのも、システム開発会社にとっても、早い段階から関わっていくことで、プロジェクト発足の経緯や互いの仕事の進め方の理解が深まり、信頼関係も構築できるなど、十分なメリットがあるからだ。
ただし、前述のように「何も決まっていない」と一方的に丸投げするのはNGだ。マイクロヘルシー社のように、「ECサイトをつくる、それ以外はまっさらだ」と言われれば、どんな開発会社でも「本当に開発をする気があるのか?」と一歩引いてしまうだろう。システム開発会社に真剣に協力してもらい、実力を引き出すためにも、相談する際には可能な限り検討を具体化させ、必須要素だけでも最低限まとめるべきだ。
発注に必須の「予算規模」「スケジュール」「成果」
中小企業に限らず、どんな規模の開発プロジェクトでも、まず最低限決めておかなければならないことは、「予算規模」「スケジュール」「成果」の3点だ。この3点はトレードオフの関係にあり、何を優先するかでプロジェクトの方針は変わってくる。
一般的に求める成果が高く、開発期間が短いほど必要な予算は大きくなるが、逆にスケジュールに余裕があれば、予算をある程度抑えられる場合もあるし、段階的にシステムを開発していくという手もある。
予算規模:300万円から上限500万円くらい
スケジュール:社内での正式決定は201X年X月、システムのリリースは201X年X月を目途とする
成果:ECサイト立ち上げで初年度売上5%アップ(約5,000万円増)を目指したい
※その他:ターゲット層や商材数など決まっている情報も追記する
早い段階からプロジェクトに巻き込む
開発会社としても、最低限、上記のようなレベルの情報があると、過去に扱った類似案件などから概算見積などが出しやすくなる。また、求める成果が売上アップと決まっていると、サイト立ち上げ後の集客やプロモーションなど、全体を見据えたアドバイスができるようになる。そして、このような情報を出すことが、
発注企業の本気度(本気でシステム開発をするつもりがあるという思い)
を示すことにつながる。未確定なフェーズでも開発会社に真剣になって取り組んでもらうためには、この本気度を示すことが極めて重要なのである。
大手企業などでシステム開発の発注に慣れた人からすると、「上記レベルの内容すら社内で決めないまま、動き始めるなんてありえない!」と思うかもしれないが、中小企業の現場では本当によくある話なので、今回、あえてこの連載の第1回で取り上げた。
次回は、発注に必須の3要素を押さえたうえで、開発会社を探して声をかける際のポイント「開発会社のリサーチ・ヒアリング」について解説する。
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