Webで働く“個人”にフォーカスし続け10周年、Webクリエーション・アウォード歴代受賞者が語る舞台裏
10周年を迎えたWebクリエーション・アウォードだが、受賞によって環境の変化などはあったのだろうか。第二部では、歴代受賞者が受賞の背景から仕事にプラスはあったのかなど、体験談とともにアウォードの今後を語った。
Webクリエーション・アウォード受賞者から聞く
受賞時の状況とビジネスの変化
第二部は「Webクリエーション・アウォード受賞者が語る、この賞の価値と今後への期待」と題し、第2回Web人 of the yearを受賞した株式会社ニューズ・ツー・ユーの平田大治氏と、第8回Web人賞を受賞したグレートワークス株式会社の鈴木曜氏を迎え、Webクリエーション・アウォードプロジェクトリーダーである日本電気株式会社の朝火英樹氏がモデレーターとなってトークセッションが行われた。
2004年に受賞した平田氏は、当時はシックス・アパート株式会社に在籍しており、ブログの普及に貢献したことで受賞している。また、2010年に受賞した鈴木氏は、当時は富士重工業株式会社に在籍しており、mixiとコラボレーションしたゲームを使ったコミュニケーションを35万人が利用したことが受賞のキッカケとなっている。
過去の受賞者リストを見ながら、当時は無名でも今は著名となっている受賞者もいることを示す朝火氏は、Webクリエーション・アウォードは、人を発掘してきた賞でもあることを説明する。
その朝火氏から「だれから推薦されたのか
」と聞かれた平田氏は、笑いを交えながら次のように話す。
第2回の頃はまだ推薦の制度がなかったと思う。まったく知らない団体(Web広告研究会)から、ある日突然メールが来て、あなたに賞をあげるから話を聞かせてほしいと言われ、非常に驚いた。疑ったりもしたが、広告関係の人に聞くと、広告主が集まるきちんとした団体が最近始めた権威のある賞だと説明され、食いっぱぐれがなくなるかも知れないから貰ったほうがいいと言われた(平田氏)。
当時を振り返りながら、鈴木氏は次のように話している。
自分もWeb広告研究会やWebクリエーション・アウォードのことは知らなかった。3名くらいから推薦を受けていて、広告代理店の人や一緒に働いていたmixiのスタッフから推薦していただいた。過去の受賞者を見ると、有名な人が結構含まれていたので、最終的な受賞は無理だろうなと思っていた(鈴木氏)。
続いて、当時の業務環境を朝火氏から聞かれた平田氏は次のように答えている。
2004年のシックス・アパートは、できたばかりのベンチャー企業で、窓のない部屋しか借りられず、皆で黙々とプログラミングをしていた。そのような状況で1人発狂しそうになったので、窓の絵を壁に貼った。でもその絵が3日くらいで剥がれてしまったことなどを思い出す(平田氏)。
一方、その6年後に受賞した鈴木氏に朝火氏が「2年前のWebの位置づけなどはどうだったか
」とたずねると、鈴木氏は次のように答えている。
2006年くらいからようやくWebの重要性が認識されてきて、マーケティング推進部に所属しデジタル担当となっていた。2010年当時は、オウンドメディアを重要視してリニューアルしていた時期。リニューアルは2回やったが、最初は全面的にFlashを取り入れてしまい、Flashをインストールしていないユーザーや当時の回線状況では見られないユーザーから苦情が殺到した。そこからいろいろ考えて、ソーシャルサイトに出て行った(鈴木氏)。
また、朝火氏から「富士重工業はモバイルを早くからやっていたという印象がある
」と問いかけられた鈴木氏は、「Web担当者はアクセス解析から何から1人でやらされることが多い。デジタルは何でも担当しなければならない中で、モバイルも1人でやってきた。逆に一気通貫でできたことがよかったと思う
」と話している。
続いて朝火氏は2人に「広告業界としては権威のある賞だと思うが、実際に受賞して職場の反応やその後の環境は変わったのか」と質問する。
まず、平田氏は「受賞してもだれも興味を持ってくれなかった
」と話しながらも、少しずつ影響がでてきたと説明する。
その後、宣伝会議に取材され、カラーの見開きで掲載され職場の認知度も上がり、実家からも電話が来た。また、Web広告研究会で講演させてもらう機会もあって集客力の高さを認識したり、さまざまなところで話が通りやすいと感じるようになった(平田氏)。
鈴木氏は、「文句を言う人が減って、仕事が増えた
」と笑いながら話す。
社内はインターネットやデジタル社会に詳しい人ばかりではないので、上に通そうとしてもわかってもらえないことが多い。それらの人に提案するときに、社外の評価として賞をいただけたのはよかったと思う。詳しいならやれ、と言われて仕事が増えてしまったのは副産物だが、社内の風通しはよくなった(鈴木氏)。
個人にフォーカスする賞を続けて行くことに意味がある
ここで朝火氏は、「Webクリエーション・アウォードは人にフォーカスした賞だが、今は個人が目立たなくなっている。組織で施策を行っていることが多い中で、その中の1人への賞でいいのか
」と話し、今後の賞のあり方として運営側が検討し、悩んでいることを打ち明ける。
それに対して平田氏は、「個人的な意見だが」と前置きし、「自分が賞をいただいたときも、個人に対する賞であることを強く言われたことを思い出す。人にフォーカスすることはとても良いことだと感じている
」と話す。また、次のようにも話している。
自分と同じ時期に賞をもらった人は、1人、またはわずかな人数で立ち上げて新しいことを行い、その後会社が大きくなっている人が多く、すでに成長している会社は大賞を獲っていない。また、最近の受賞者も個人で頑張っている人が多い。エンジニアの立場から言えば、エンジニアが1人で新しいサービスを立ち上げるのは決して不可能ではない。もちろん、そのサービスが流行るまでは多くの人が係らなければならない。しかし、その最初の1人に踏み込んでいくという姿勢は持ち続けてほしい(平田氏)。
続けて鈴木氏も、続けてほしいと話す。
個人にスポットを当てることはいいことだと思う。プロジェクトの原動力となった人ならチームからの応援ももらえるはずだし、応援してもらえない人は賞を獲れないので変えなくてもよい。Webクリエーション・アウォードは10年目だが、10年くらいではブランドは育たないのに日本の会社はすぐに変えようとする傾向がある。ここは耐えて、いろんな人に光を当て続けてほしい(鈴木氏)。
続いて「今後、どのような人に賞を獲ってもらいたいか、どんな賞になったほしいか、などの意見はあるか
」と朝火氏に求められた平田氏は、次のように話す。
自分はエンジニアで、普通に仕事をしているだけでは広告の人と話すことも知り合いになることもなかったと思う。賞をいただいたことで光を当ててもらい、このような場所で講演することもでき、世界が広がったと実感している。
このような機会をもらって、エンジニアとしては非常にありがたいが、皆さんにとってもエンジニアを引っ張り出して話を聞くよい機会が生まれていると思う。その意味では、広告業界以外の人たちでも積極的に取り上げるようにしてほしい。ここ2~3年、また起業が流行っているが、中にいるだけでは拡がりがないため、飛び出していく機会として賞があるといいと思う(平田氏)。
また、鈴木氏は次のように話す。
自分はエージェンシー側の人間となってしまったが、広告主の方を推薦してあげてほしいと思う。ノミネートされるだけでもいい。予算が増えたとはいえ、広告主側の担当者はまだまだ肩身が狭い思いをしている方が多く、現実に心が折れないように頑張ってもらいたい。また、一方で媒体の人や広告主は受賞しているが、エージェンシー側の受賞が少ないようにも感じる。いろんなタイプの人が受賞することで、より交流が進む場となってほしい(鈴木氏)。
気になる点として、平田氏は「もらえるタイミングがあると思う」と話す。
GREEやmixiも受賞しているが、大賞ではなかった。はてなは大賞をもらっているが、偶然とタイミングがあると思う。大賞をもらっているのは比較的早い段階の人が多く、うまくいってしまった後に推薦されることはほとんどない。大きくなれば貢献賞などをもらえるが、間に入ってしまった人はもらうタイミングがないと感じる(平田氏)。
一方で鈴木氏は、それはチャンスでもあると話す。
逆に言えば、だれにでもチャンスがあるということ。自分が受賞したときも回りは有名な人ばかりで、なぜ自分が獲れたのかと思うことがある。どんどんいろんな人を推薦してほしいし、特にそこについて深く考える必要はないと思う(鈴木氏)。
多くの人や仲間とのつながりが強く、受賞のビジネスメリット
ここで、会場Web広告研究会 代表幹事 本間氏から「賞を獲ったことは社内のどこまで伝わったのか。また、受賞後のビジネスにメリットは生まれたか
」という質問が出された。
社内のどこまで伝わったかについて答えた鈴木氏は次のように話す。
ノミネートされたことを知ったときは、賞を獲れるわけがないと思っていたので報告しなかった。しかし、賞を獲ってしまったので、会社を休んで授賞式に出席する必要があり、報告する必要が出てきた。当時の上司は寛容度の高い、いい人だったので、すごいことだと喜んでくれて、国内の営業本部にも展開してくれた(鈴木氏)。
また、元々投資元の会社からシックス・アパートに入ることになった経歴を持つ平田氏は、ブログ普及のキッカケになったのではないかと、ビジネス上のメリットについて話す。
投資金額が増えたということはなかった。シックス・アパートは、最初は日本のベンチャーキャピタルなどを利用したが、米国側の投資が多くなり、日本の割合は少なくなっていたので、賞がグローバルで何か貢献できたということはない。しかし、日本国内では明らかに賞の効果はあったと思っていて、いろんな人のお話を聞けて、お話しする機会も増えるいいキッカケになった。
自分がブログで賞をもらったのはこれだけだし、他の人ももらっていないと思う。しっかりとした効果測定をしたわけではないが、ブログという言葉が普及するキッカケになっていると思う(平田氏)。
最後に朝火氏は、今後のWebクリエーション・アウォードへの期待について受賞者の2人に話を聞く。
第2回で受賞させていただいたときに、自分の周りの人が賞の存在を知らなかったのは残念だったと思う。この賞がどんどん発展してくれれば、自分の箔も上がるので、皆さんにもっと賞を盛り上げてもらいたい(笑)。
2002年から10年間ブログをやってきたが、子供が小学生になり、国語辞書を見たら“ブログ”という言葉がちゃんと載っていた。10年前にはなかったブログに仕事で貢献できたことを、子供は辞書を見て説明しても納得してくれなかったが、トロフィーを見て納得してくれたということもあるので、いい仕事をしている人をしっかりと発掘していい賞にしていってほしい(平田氏)。
携わった広告はそれなりに賞をもらったりしているが、人にフォーカスした賞はWebクリエーション・アウォードだけで、一番うれしかった賞。一緒に仕事をしてきた仲間が推薦してくれたことがうれしく、プロジェクト自体も非常によかったと思える。個人の名前が書いてあるメダルはそんなにもらったことがないが、みんなの力で獲った賞だと思う。メダルを見るたびに、推薦してくれた人や投票してくれた人に背中を押されている気持ちになり、頑張らなければいけないと思う(鈴木氏)。
Webの仕事をしている人に光を当てる趣旨で始まり、10周年を迎えるWebクリエーション・アウォード。2人の言葉を受け、朝火氏は「みなさんの投票で“人”に光を当てていただきたい
」と話し、講演を終えた。
オリジナル記事はこちら:「Webクリエーション・アウォード受賞者から聞く~受賞時の状況とビジネスの変化」第二部 2012年5月14日開催
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