運営体制日々来場者と対話する現場スタッフがTwitter運営を担当
運営体制
日々来場者と対話する現場スタッフがTwitter運営を担当
運営メンバーはどのように選出されたのだろうか。
「基本はやりたい人・関心のある人が立候補して選出されていますね。立ち上げのコアメンバーは、はじめに紹介した館内プレゼンテーションを行った情報科学系の科学コミュニケーターと、私を含め展示フロアでの対話を主に担当する科学コミュニケーター3名、プロモーション担当のスタッフ、計5名で開始しました
」(桑子氏)
現在の@miraikanの運営体制については、プロモーション担当の詫摩氏が説明してくれた。
「現在の運営メンバーは立ち上げメンバーから入れ替えがあったため、4名です。桑子は、展示フロアでの解説や実演をしたり、後輩の指導をするのが主な仕事ですが、Twitterについては立ち上げ当初からの運営メンバーとして現在も担当しています。もう1人の創設以来のメンバーは、プロモーション担当の者で、未来館が発行しているフリーペーパーの編集やメールマガジンの執筆業務などを行っています。後の2人は途中からメンバーになった者で、1名は実験工房のリーダー役でして、ノーベル化学賞を受賞された白川英樹さんを招待した子供向けの実験教室の企画立案や講師役なども担当しています。最後の1人が私で、科学コミュニケーターの文章を見たり、ブログの管理などを担当しています
」(詫摩氏)
異なる部署から集まったメンバー4名でTwitterを運営しているというが、業務としてどのぐらいの時間を費やしているのだろうか。
「タイムラインを常に監視しているメンバーがいるわけではないので、各担当者が1日15分程度対応しているくらいだと思います。私は、展示フロアの日常的な出来事のツイートや、メンションへの返信、館内のさまざまなプロジェクトチームから依頼された内容をツイートをしていて、詫摩はブログを更新した際の告知をツイートしています。決まった業務というのはそのぐらいで、あとは特に役割分担もなく各担当者が自分自身でツイートをしたり、面白いメンションが来たときには非公式RTでコメントをしたりしていますね。それぞれがメインの業務の合間を縫って、ゆるいチームワークで運営しています。また、Twitterは組織的に公式の仕事として認められているものですので、基本的には業務時間内に対応するようにしています。ただ、Twitterはナマモノなので、業務時間外でもタイミング重視でツイートすることはありますね
」(桑子氏)
実際に未来館から発信されているツイートを見てみると、時間帯が夕方に集中しているようだが何か理由はあるのだろうか。
「ブログを更新している時間帯が理由だと思います。Twitter運営をしていくうちに、17時30分から19時代がリツイートされやすいように感じたのです。帰りの電車のなかなど帰宅中にTwitterをご覧になっている方が多いと推測していまして、あるときからブログを更新するタイミングを定時に変更しました
」(詫摩氏)
「日中は展示フロアにいたり、打ち合わせに出ていたりする場合が多いので、単純に夕方しかツイートする余裕がないということもあると思います(笑)。未来館の閉館時間が17時になりますので、夕方頃にTwitterをチェックする日は多いと思います
」(桑子氏)
Twitter自体のアクティビティが高い時間帯は、昼間だと12時~13時の昼食の時間帯と帰宅が始まる17時以降。夜間のアクティビティが高いのは言うまでもないが、業務時間のなかでは、一番リツイートを生み出しやすい時間帯として夕方は適切だと言えるかもしれない。
震災をきっかけに事前のチェック体制を廃止
未来館では公式アカウントの運用開始の前にガイドラインを作成している。どのように作成していったのだろうか。
「運営ガイドラインは情報科学系の科学コミュニケーターが骨子をつくり、そこから立ち上げメンバーで細かい仕様を話し合いながら決めていきました。ガイドライン作成の際には、IBMさんのソーシャルメディアポリシーは特に参考になりましたし、その他にも実際にソーシャルメディアを運用している公共機関や他のミュージアムのTwitter担当者に『フォロワーとのコミュニケーションの仕方』や『フォロー返しをすべきかどうか』や『運用を何人でやっているか』など、Twitter運営の疑問点を解消するために電話やメールでヒアリングを行っています。
運営ガイドラインは、運用目的や発言内容のカテゴリ分け、クレーム対応の仕方、メンションのルール、運用体制とメンバーなどをA4で2枚程度にまとめています。たとえば、運用目的としては、『科学コミュニケーションの情報発信』『科学コミュニケーターへの親しみやすさの向上』『未来館の広報』『ウェブサイトへの誘導』『意見収集』『Twitterが科学コミュケーション上役立つものかどうかの評価』といったことを記載しています
」(桑子氏)
準備はしていても、実際に運用を始めてから気づいた苦労もあったようだ。
「まずは、正式運用の開始前に下書き用の非公開アカウントを取得してツイートの練習を始めることにしたんです。5名の立ち上げメンバーが、公式アカウントとしてつぶやきたい内容を運営ガイドラインに沿った形で投稿する練習をしていたのですけれど、立ち上げメンバーの他につぶやき内容の事前チェック役としておかれたマネージャー層から、『その文章では伝わらない』などライティングの基礎的な問題点を含めてかなりの指摘を受けました。スキルの問題ももちろんあったのですが、スタッフの間に『未来館Twitterの運用はこうあるべき』との認識のズレがあったことが、当時スムーズにいかなかった原因だったと思っています
」(桑子氏)
具体的にどのようなズレがあったのだろうか。
「運営開始当初はブログがなかったので、Twitterで発信する情報として『展示やイベントの告知など広報的な内容』『お客さんとこんな対話をしたという日記的な内容』『科学トピックスのニュース的な内容』の主に3つのツイートを検討しました。私たちは、これらの内容をすべて140文字に詰め込み未来館らしくツイートしなければならないと考えていたのですが、そこに無理があったんだと思います。現在はブログを開設したことで順調に運営できていますが、つぶやく内容を運営ガイドラインだけで判断するのは難しくて、なかなかうまくいかなかない状態が続いていました
」(桑子氏)
Twitter運営の悩みが多かった@miraikan。うまく運用できるようになった理由は何だったのだろうか。
「実は東日本大震災が大きなきっかけになりました。震災の影響で3ヶ月間休館をしていたのですが、その間に震災関連の情報を取り扱う専用のサイトを立ち上げて、放射線や原発など今回の震災に関連するユーザーからの疑問に対して科学的知識を発信していくという取り組みを始めることにしたんです。
そのときに、Twitterからも専門サイトへの誘導を目的としてツイートすることになっていたのですが、震災関連の情報を必要としているユーザーの方になるべく早く情報を届けることが重要だと考え、それまでのマネージャー層によるツイート内容の事前チェック体制を廃止することが決まり、現場の判断でツイートすることになりました。その後は、記事作成後のツイートもスピーディーになりましたし、他サイトに掲載されている有用なコンテンツについても現場の判断でツイートできるようになりました。現在もこの体制は続いていまして、2011年の6月からはブログの運営も開始しました
」(桑子氏)
公式Twitterアカウントの運営開始後に公式ブログを設立するというのはあまり見かけない例だ。
「そうですね。ツイートによる情報発信では、140字という限られた文字数のなかに思いを詰めきれないことが悩ましかったのですが、ブログという新しい媒体が使えるようになったことで、科学コミュニケーターによる情報発信はブログで行い、Twitterはブログの更新情報やリアルタイムの軽やかなコミュニケーションを担うといったように、絞って対応できるようになりました。ツイートの悩みが解消されたこともあり、現在は当初よりはうまく運営できているように感じています
」(桑子氏)
震災時にソーシャルメディアが情報発信ツールとして大きな力を発揮したのは言うまでもない。未来館では、震災をきっかけにTwitterの運営体制を見直していたようだが、ただガイドラインを守るだけでなく、ユーザーにとって本当に必要なことは何かという、ユーザー視点に立った姿勢が導き出した結果だと言えるのではないだろうか。
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