KPIを組織へ統合して関心をもってもらう方法 | KPI大全 第5章
KPIは、アクセス解析データの使い方を激変させる可能性を秘めている。あなたがすべきことは、まさにKPIを使い始めるということである。KPIベースのレポートを使用している企業のほとんどすべてが、データへのアクセスがいかに改善したか、組織がWebサイトの問題に対していかにすばく反応するようになったか、マネジメントの変革に必要なコミュニケーションのためにKPIがいかに役立ったか、といった輝かしい成功ストーリーを持っている。あなたがすべきことは、どのKPIがあなたにとって適切であるかを理解し、それを組織に適用し、組織のメンバーの注意を集めることである。本書の第4章でどのKPIがあなたに適切かを記述したので、ここからは最後に少し、組織での統合と関心の喚起のさせかたについて書きたいと思う。
KPIをどのようにして組織に適用するか
アクセス解析ベンダーがよく言うことの1つに「アクセス解析ツールは簡単に使えるので、組織の誰もが殺到して使うだろう」というのがある。こうなればすばらしいことだが、これは本当ではない。ほとんどの人は新しいツールの使い方、特に膨大な量の専門知識の理解を必要とするものを習うことは嫌がる。とはいえ、アクセス解析を現在展開しているビジネスにどう適用していくか、というのは価値ある挑戦である。ここに、KPIの存在意義がある。KPIなら新しいツールの使い方を覚える必要は一切なく、ビジネスのゴールが直接示され、組織内で通じる言葉で表現される。ただ、単にKPIレポートを送るだけではまだ足りない。オンラインビジネスの構造に、レポートとデータをどう織り込んでいくか、データを日々のビジネスにどう生かしていくかを理解する必要がある。
ビジネスは一つひとつ異なるものだが、KPIの組織への適用に関して、私の知っている成功例をもとに、いくつかの戦略を提示しておきたい。
アクセス解析のアナリストを雇う。KPIを制度化しようと試みる企業にとって最もお勧めする方法が、アクセス解析のアナリストを雇うことである。KPIの選定と指標の算出、注釈付けとKPIレポートの配布までをアナリスト(1人またはチーム)に委ねることで、確実に仕事は動き出す。
KPIに関して何でも答えてくれる担当者が誰かを、組織の全員に知らせる。KPIレポートの担当者を明確に伝えておくことで、データに関して誰に聞けばいいのかを全員が把握できる。特に、前章で述べた階層モデルに従ってレポートを配布していれば、それぞれの指標の隣に、組織内の担当者が誰かと、その担当者の連絡先を書いておくのも良いだろう。
データに関して議論する定例会議を設定する。KPIを用いる上で最もやってはいけない失敗は、レポートの配布を自動的に行い、あとは見る人がデータを理解して適切に使ってくれるという淡い期待をしてしまうことである。ほとんどの人にとって、これらのデータは目新しく、なじみのないものなので、KPIが共有知になるまでは、時間をとって繰り返し指標と指標の使い方を再検討する必要がある。
KPIの選定は、他のメンバーを巻き込みながら行う。本書には、誰向けにどのKPIを用いるべきかについて、賢い助言がぎっしり詰まっているが、私よりあなたの組織のメンバーの方が、あなたのビジネスについてははるかに良く知っているだろう。したがって、KPIレポートを作成する際には、それを受け取るべき人に相談し、仕事上本当に必要なデータを指標化するようにすべきである。彼らをKPIのプロセスに巻き込むことで、彼ら自身が解析結果により高い関心をもつようになり、解析の内容と意義について、長々と説明する手間が省ける。
KPIの選定に関して、硬直した考えを持たない。KPIの目的は、組織がアクセス解析データに親近感を持ち、オンラインビジネスの追跡をしたいと思わせることなので、データを追加してほしいと言われても驚いてはいけない。理想的な状況としては、KPIレポートを受け取ったある人が、レポートを手にやって来て、「このレポートは非常に役に立つんだが、私の仕事には「X」というデータがどうしても必要なんだ。これを私へのKPIレポートに加えてもらえないだろうか?」と言ってくれることである。これを聞けば、レポートを見る人が十分な興味を持ち、さらなる情報を欲していることがわかるだろう。
社内でメールを使ってKPIの議論をするときは、BLUFメソッドを使う。何か問題が起こったときに、「問題発生、詳しくはKPIレポートを見てください」というメールを単に送っても効果がない。変わりに、「まず結論を書く(Bottom Line Up Front)」方法をとり、問題の核心をメールの1、2行にまとめて書いておくのである。本質的な効果的として、問題に関連するいくつかの事実を短くまとめ、それを補足する背景や状況のサマリーを、レポート及びデータとともに提示する。この戦略は、レポート配布の階層モデルにもよく適合するし、それぞれのメンバーに適切なレベルで情報を提供できる(Doug SundahlがOverstock.comに書いた、BLUFメソッドの記述を参考にした)。
残念ながら、KPIレポートにどの指標を盛り込むか、というのは、まだ闘いの前半に過ぎない。最終的には人々にKPIレポートを読んでもらい、反応してもらわなければ、レポート作りは使われないデータを他人のメールボックスに押し込んでしまう、ただの時間の無駄で終わる。KPIレポートを組織に深く根付かせるために十分な時間をとり、人々にデータへの注意を向けさせるという、最後の困難な挑戦に立ち向かおう。
人々をKPIに振り向かせる
人々がKPIに本気で向き合ってくれない限り、あなたのどんな働きも、無に帰してしまう。そして、必要なのはKPIレポートを手に入れようとする努力ではなく、KPIレポートのデータを使って、ビジネスの改善をする努力である。KPIレポートを、ただの簡略化された報告形式だと思うのではなく、行動を促すものとして扱う必要がある。ここでは、社員がこれらのデータ・レポートとの関係を深めるために検討すべき5つの助言をしよう。
データをわかりやすくすること
この見出しを読むと、「それはこの本全体のポイントではないか」と思うかもしれない。確かにそうだが、それでも繰り返して言うだけの価値があるのだ。あなたから送られてくるKPIレポートがひどく冗長で、見た目もわかりにくいものであれば、データがどれほど的確にまとめられていたとしても、受け取る人は読んでくれないだろう。本書の「表現形式」の項目を何度も繰り返し読み、「適切なデータを適切な人に」というアドバイスについてじっくり考えることを強く勧める。さらに、プレゼンテーションや文書、Eメール、それぞれにおける表現方法に関しては、本当に熟慮する必要がある。このようなタイプのデータを扱う際は、「この表現は、レポートを見る人を巻き込めるようになっているだろうか?」を自問するようにしよう。
データではなく、ビジネスにおける問題を議論すること
これも「前に書いてあった気がする」かもしれないが、もう一度繰り返して言おう。KPIは、生データと実際の問題のギャップを解決する、橋渡し役・通訳として機能するものである。レポートすべきKPIの選定に迷ったときにお勧めする方法は、ビジネスのゴールを紙に書き出し、そのリストに常に立ち返ることである。選ばれたすべてのKPIに対し、それぞれの指標が直接関係するゴールがどれかを確認しよう。それがよくわからなければ、そのKPIは除外してしまおう。
人々を巻き込むこと
いくつかの企業がKPIを使用する際に犯しがちなミスは、KPIレポートの配布範囲が狭すぎて、組織の潜在能力を活かせないということである。適切なレポートを、より多くの人に届け、指標に関して誰からのフィードバックも受けるようにすれば、それらのKPIは適切な行動につながるようになる。特にそれぞれの指標の目標値が明らかであれば、より多くの頭脳を問題について結集させることはほとんど常にいい結果を生むことになる(図21)。
訪問者が生身の人間であることを常に頭に置くこと
いくつかの企業がKPIを使用する際に犯しがちなミスは、データにピントを合わせるのではなく、データを生み出している人の行動の方にピントを合わせなければならないことを忘れてしまうことである。特にKPIについてプレゼンテーションをするとき、可能ならば問題を人間のものとして捉えて、ビジネスのゴールと、そのゴールを達成する助けとなる訪問者とをうまく関係付けよう。この注意を思い出させる方法として最も巧みな例はおそらく、元Dell ComputersのSam Deckerであろう。彼は観客で一杯の、テキサス州のサッカー球場の写真を見せる。「これは、レッドリバー・スタジアムで、テキサス・レッドホーンズを応援している5万人の観客です」と言う。観客一人ひとりの顔を見せ、プレゼンテーションの聞き手と、スタジアムの観客とを関係付ける。次に、同じ球場の絵に戻るが、1枚のスライドに球場の写真が10枚入るように写真を縮小する。そしてこう言うのである。「50万人という人数は、昨日1日のうちに私たちのサイトを訪れ、コンバージョンをしなかった人の人数です。このミーティングの議題は、どうすればこの50万人の人とより良い関係を築くことができるか、です。」
すばらしいやり方ではないか。
ビジネスの問題を、ビットとバイトのレベルに縮めてしまってはいけない。KPIに関するプレゼンテーションをする際は、可能な限り、人間化する方法を模索しよう。
実行に対してお金を払うこと
最後に、そして最も議論を呼ぶアドバイスだが、KPIの目標値を達成したら金銭的なインセンティブを渡すことを検討することだ。あなたのミッションに照らして必要なKPI(注文コンバージョン率、1訪問あたり平均ページビュー、問い合わせに対する平均反応時間など)に、現実的かつより高い目標を設定し、その目標を組織が達成したらボーナスが出るということを知らせよう。こうするや否や、人々が目の色を変えてKPIの改善努力をすることに驚くだろう。このアイデアにあまり共感がもてないとしても、ビジネスのために超えるべき値と、それぞれのKPIの意味や変化の仕方について十分理解している限り、このように動機を後押しする施策を打って、組織をビジネスの改善に向かわせることは必要なのである。
次のステップ
幅広いビジネスについてKPIレポートを作成し、それぞれの指標がビジネスの状況をどのように反映しているかを、人々に一度でも納得させられたら、あなたの行動は賞賛に値すると言っていいだろう。仕事でうまくいっているなら、オンラインでビジネスをしている他の企業の90%よりは先を行っているだろう。少なくとも、アクセス解析データのレポートと活用に関してはそう言える。残っていることは、これらの指標を引き続き活用し、ビジネスにとってさらに有益なKPIを定期的に検討し、そしてあなたのオンラインビジネスを華麗に展開することである。
本書は、KPIの活用に関する、あなたの意見や経験の共有を歓迎する。あなたからのベストプラクティスや洞察が、将来本書の新版に載ることがあるかもしれない。
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