WAA(Web解析協会)とCertified Web Analyst認定試験
Web解析の世界的組織として、「Web Analytics Association」(ウェブ解析協会、略称は「WAA」)という非営利団体がある。本部は米国にあるが、40か国に1,500人以上の会員がいる世界的な組織だ。
WAAの主な活動は、教育、認定試験、メンバーシップ、マーケティング、リサーチ、標準化などの委員会を通じて行われている。
運営の中心となっているボードメンバーはWeb解析を利用する企業のアナリスト、Webマーケティング分野のコンサルタント、ソフトウェアやサービスのベンダーで利害が偏らないように人数のバランスをとって構成されている。
このコーナーでは、WAAのメンバーである筆者が、WAAの活動と世界のアクセス解析の動向をお届けしていく。第1回は、私自身が委員会メンバーとなっている、WAAの認定試験について紹介する。
Webアナリストの認定試験
WAAでは、世界のWebアナリストのスキル向上を目的とした施策として、まず教育プログラムのカリキュラムを作成し、2005年からカナダのブリティッシュコロンビア大学を通じて教育コースの提供を開始した。
そして、翌2006年からWebアナリストのための認定試験の準備に本格的にとりかかった。私は2006年から教育委員会(Education Committee)の下部組織としてスタートした認定試験準備の小委員会(Certification Subcommittee)のメンバーとして加わり、試験の体系や問題の作成に携わってきた。そして2010年にようやく第1回の試験を実施するに至った。
試験が開始されてからは小委員会から試験委員会(Exam Committee)へと名称が変わったが、継続的に問題作成を行っている。
ビジネスを導くスキルが対象
試験はWebビジネス全般の観点から出題され、技術よりもマーケティング寄りの内容が問われる傾向が強い。また、Web解析ツールを使った経験があることを前提としているものの、特定のツールに依存する問題が出題されることはない。ツールでどう数値を出すかよりも、ツールから出てきたデータをどうビジネス的に読み解くかやどのような対応が有効かに重きがおかれている。
出題は以下の3分野の範囲から行われる。
サイト最適化のためのWeb解析
ペルソナの設定、ユーザビリティ、効果的なコンテンツ、サイト内検索の利用などサイトをどのように良くするかというテーマに関しての考え方や手法が問われる。オンラインキャンペーンの計測
リスティング広告(PPC広告)、ディスプレー広告、SEO、メールマーケティングなどサイトへの集客手段やその効果について扱う。分析を役立てるビジネスカルチャーの醸成
Webアナリストとしての役割やWebデータをもとにした意思決定をどうやって組織として取り入れていくかなど業務や組織運営についてがテーマとなる。
詳細は「Knowledge Required for Certification(認定試験に必要な知識体系)」がPDFファイルで提供されているので、受験を予定している人はもちろん、自分のWeb解析のスキルを向上させるために何を勉強すればいいかを知りたい人は以下のページを参照されたい。
- 認定試験に必要な知識体系(PDF)
試験問題は4択、事例ベースの設問も
この原稿を書いている時点(2010年12月末)では試験問題の種類は大きく2つに分かれる。
前半は2~3行の質問に対して四者択一で正解を選択する問題、後半は紙に印刷すれば2ページ程度の長さになる事例(ケース)を読み、それをもとに設問に解答する問題である(事例ベースの質問も四者択一の形式)。
前半の短文形式の問題はWebマーケティングの用語、手法の知識や指標などについて聞かれることが多いが、後半のケースベースの問題は、実務で直面する課題の解決方法や論理的思考が問われるような内容が多い。どちらも、単にデータを抽出する作業をしているだけの人にとっては少し難しいと感じられるかもしれないが、実務でWebデータをもとにビジネス上の改善を日々検討している人であれば、正しい解答が得られるように作られていると思う。
試験は日本(東京)を含めて30か国で受験できるが、残念ながら、今のところ出題は英語のみ。そのため、あまり英語に慣れていない人は時間が足らなくなる可能性があるため、前半の短文形式はできるだけスピードを保って解答していき、後半のケース問題に余裕をもって臨むような時間配分を心がけたほうがいいかもしれない。
WAAのサイトで少しではあるがサンプル問題が提供されているので参考にされたい。
- サンプル問題(ページ下のほうの「Sample Questions」)
かなり練られて作られている試験問題
ちなみにこの試験問題は、かなり時間をかけて作成されており、複数名のチェックを受けて完成されている。「質問が客観的に理解されるか」「場合によっては他の選択肢も正解になることがないか」など、誰かが作成した原案を他のメンバーと議論を重ねて完成度を上げ、さらに委員会全体に提示されて改善が加えられるというプロセスを経ている。そのため、短文形式の問題でも1問完成するまでに2か月以上かかることも珍しくない。
また一方では、試験問題としての情報管理を厳格に行うために試験の運営自体は試験委員会ではなく認定制度の運営会議(Certification Board)を別に作って実行しており、試験問題作成を担当しているメンバーでも最終的にどの問題が組み合わされて試験として出題されているかは知らされない。
試験の開始は2010年8月なので、まだ始まってあまり期間が経っていないが、Web解析のコミュニティ内では試験の評判は概ね良いようである。
いくつかのソーシャルメディアなどで意見が交わされているが、経営者や採用担当者からは、「Webアナリストの採用にあたって、履歴書にWAAの認定資格者とあれば書類審査はパスして面談に通す」という声も聞かれている。
私は、日本企業はますます海外市場との連携を高めなければならなくなってきていると思っており、Webデータを扱う担当者やその管理者のかたたちが標準的なスキルを身につけ世界で活躍されることを願ってWAAでの活動を続けてきた。そして、WAA Certified Analystの試験をきっかけに世界のWeb解析業界を牽引するWebアナリストが日本から1人でも多く輩出されるようになればいいと願っている。
多くの人に受験していただければ本望である。
なお、試験要項は以下のPDFを参照願いたい。
※試験は会場に行って受けるコンピュータベースの試験。試験の取り扱いはApplied Measurement Professional社(AMP)で、WAAに申し込み後、受験者が任意の受験希望日をいくつか提示する手順となっている。
※日本での試験場所は次のとおり:テンプル大学ジャパンキャンパス 3F テストセンター(東京都港区南麻布2-8-12)
※受験料は795ドル(WAAメンバーは635ドル)で、再受験は99ドル(申し込み承認から2年間で4回まで受験可能)。
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