ゼロ円でもできる!? 省コストユーザビリティ向上術

ディスカウント・ユーザビリティ、3つのポイント 〜アナログ思考・人脈・臨機応変〜

いかにお金と時間をかけずにユーザビリティ向上を図るか、節約型・省コスト型の「ディスカウント・ユーザビリティ」の手法を紹介していく。
ゼロ円でもできる!? 省コストユーザビリティ向上術 ~ディスカウント・ユーザビリティ入門 発想転換、“ディスカウント・ユーザビリティ”のススメ

ディスカウント・ユーザビリティのススメ

Webユーザビリティのグルとも呼ばれるヤコブ・ニールセン氏は、「インターネット経済を左右するのは、ユーザビリティである」と高らかに宣言している。確かに、ショッピングサイトで商品が見つからなかったり、旅行サイトで予約プロセスを完了できなかったりすれば、それらのサイトの命運は早晩尽きるだろう。そのため、現在ではWeb担当者やWeb開発者にとって“サイトのユーザビリティ”は、基本的な検討項目となっている。

しかし、「ユーザビリティは重要」だとわかっていても、本格的なユーザビリティ活動を経験した人は意外と少ないのではないだろうか?

図1 ヤコブ・ニールセン
図1 ヤコブ・ニールセン
■ユーザビリティ人名録(その1)

このコーナーでは、ユーザビリティ分野の世界的な先駆者を毎回紹介します。

ヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)

ユーザビリティ工学の開拓者。彼のオンラインコラム『Alertbox』はWebユーザビリティのバイブルとして世界中で関係者に読み継がれている。ドン・ノーマンとともにNielsen Norman Groupを設立して代表を務めている。

ハウマッチ・ユーザビリティ?

どんなプロジェクトでも「予算」と「納期」は至上命題だ。当然ながら予算が無ければ、ユーザビリティに投資することができない。現実論として、あなたが100万円のプロジェクトを担当する場合は、残念ながらユーザビリティの予算は取れないだろう。

もう少し予算が潤沢なプロジェクトならば、ユーザビリティ面でアドバイスを受けるために、専門のコンサルティング会社をWebで検索してみてもいいだろう。ただ、あなたの一番の関心事である料金については、具体的な金額はわからないことが多い。

価格表がない」というのはコンサルティング業界の長年の悪習ではあるが、業務内容が具体的に決まらないと料金も決められないというのも事実だ。ユーザーテストを例にあげると、被験者数や評価対象によってコストが大きく異なってしまうのだ。

しかし、ここではあえて金額を明らかにしてみよう。もし私が料金表を掲げるとすれば以下のようになる。

図2 コンサルティング会社のユーザビリティ料金例
図2 コンサルティング会社のユーザビリティ料金例
多くのメニューに「おまかせ」と但し書きが付いているのは、業務内容を必要十分なレベルに制限しているからだ。クライアントの要望に従うのならば、もっと高額になることもある。

ひと目見て「高い!」と感じるのは自然だろう。さらに言えば、ペルソナやユーザーテストを単体で実施しても効果は限定的なので、本当ならば、このメニューをひととおり実施する必要があるのだ。つまり1,000万円前後の費用がかかることになる。これは大多数のWeb開発プロジェクトにとって不可能な金額だろう。

ぜいたく vs. ディスカウント?

ところで、高級料理店のスタッフは毎日、高価な食事をしているだろうか? もちろん高価な食材を食べる機会も少なくないだろうが、普段は安くあげるために「賄い料理」を食べているだろう。だが、この「賄い」が意外においしかったりするのだ。

コンサルティング会社にも似たような面がある。先述のメニュー例は、あくまでお客様向けのもので、いってみれば「ぜいたくユーザビリティ」だ。しかし、ユーザビリティ活動の本質は、クライアントを満足させるための見た目の良さや付加サービスを取り除けば、実はシンプルなものになるはずだ。そして、これこそがディスカウント・ユーザビリティの根本なのだ。必要なものをシンプルに実行する、それがディスカウント・ユーザビリティの眼目なのである。

ぜいたくユーザビリティディスカウント・ユーザビリティ
活動の主体専門のコンサルタントあなたと同僚
調査協力者調査会社の登録モニタ友人や知人
活動の場所マジックミラー付きの専用ラボ会議室や空きスペース
成果物立派なレポートメモ書き程度のレポート
その他調査見学時には豪華弁当付き特典なし
図3 ぜいたくユーザビリティとディスカウント・ユーザビリティの比較

こう書くと、コンサルティング会社の存在価値が低いように思うかもしれない。しかしもし、会社の命運を左右するようなプロジェクトをあなたが担当する場合などでは、ディスカウント・ユーザビリティのアプローチをいきなり採るのはお勧めできない。コンサルティング会社の専門家は、ユーザビリティの技能だけではなく、ステークホルダーを説得し、プロジェクトを正しい方向に導くという経験も積んでおり、そのスキルが役に立つことが多いはずだからだ。

ユーザビリティ活動、成功の3要素

ユーザビリティ活動の段取りは、コンサルティング会社に依頼すれば、すべて彼らがやってくれる。しかし、ディスカウント・ユーザビリティでは、すべての段取りはあなたに降りかかってくる。そうなると、あなたは頭も体もフル回転させなければ目的を達成できないのは当然だ。しかし、その他に、以下のようなちょっとした資質があれば、ユーザビリティ活動はよりスムーズに行える。

  1. アナログ思考

    ディスカウント・ユーザビリティで扱うのは、ほとんどが定性的なデータで件数も少ない。大サンプルの定量データを統計的に分析して結論を導くという手法は使えない。数値ではなく、ユーザーの言動を丹念に分析して、小さな仮説検証を積み重ねる以外に道はない。

  2. 人脈

    ユーザーの協力が無ければユーザビリティ活動は一歩も前に進まない。しかし、ディスカウント・ユーザビリティでは、あなたの人脈を駆使してユーザーを集めることになる。「知り合いを6人たどれば、世界中の人につながる」と言われているのだから、あまり心配することはないが、やはり友達は多いほうがいいだろう。

  3. 臨機応変

    正確に目標に到達するには2つ方法がある。1つは、そのものずばり「正確にねらいを付ける」こと。もう1つは、「こまめに方向転換を図る」ことだ。正確を期するにはコストがかかる。ディスカウント・ユーザビリティでは、後者のアプローチのほうが有効なのだ。

◇◇◇

ディスカウント・ユーザビリティを実現するための具体的手法は、さまざまなものが考えられる。

この連載では、今後は具体的な作業をさまざまな角度から段階的に紹介して解説していく予定だ。

◇◇◇
連載内容
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