ゼロ円でもできる!? 省コストユーザビリティ向上術

インタビュー調査の極意「ユーザに弟子入り」しよう

使いやすいサイト設計のためにユーザーの「本当のニーズ」を探り出す「弟子と師匠」方式のインタビュー方を具体的に紹介する。
ゼロ円でもできる!? 省コストユーザビリティ向上術 ~ディスカウント・ユーザビリティ入門 発想転換、“ディスカウント・ユーザビリティ”のススメ

新しいインタビュー手法「コンテキスト調査法」

事前に用意した質問項目を列挙したメモを片手にユーザーと面談する――そんな従来の「インタビューする人とインタビューされる人」という関係では、インタビュアーがどんなに深堀りしたところで、ユーザーによって要約された情報や断片的な体験しか得られない。そんな情報に基づいてWebサイトを設計しても、結局「これでは使いモノにならない!」とユーザーからダメ出しを受けてしまう。

私たちがWebサイトを設計するために把握すべきなのは、まだ加工されていない生の情報なのだ。すでに分析された情報には、それほど価値はない。なぜなら情報を分析すべきなのはユーザーではなく、設計者であるあなただからだ。

そして設計者は「ユーザーの声」ではなく「ユーザーの体験」を分析するべきだ。ユーザーの声は、すでにユーザー自身が分析した結果なので、もはやあらたな発見はない。一方、ユーザーの具体的な体験や行動はまだ分析されていない生の情報なので、それを慎重に分析すれば、ユーザー本人でさえ気づいていない暗黙の要求まで抽出できるのだ。

そこで登場するのが「師匠と弟子」という新しい関係モデルに基づいたインタビュー手法だ。これがカレン・ホルツブラットによって開発された「コンテキスト調査法(Contextual Inquiry)」だ。この手法ではインタビュアーが弟子、ユーザーが師匠となる。つまり、師匠の体験を弟子に継承するプロセスを模しているのだ。基本プロセスは以下のようになる。

  • インタビュアーはユーザーに弟子入りする。
  • ユーザー(師匠)は仕事を見せながら説明する。
  • インタビュアー(弟子)は、不明な点があればその場でどんどん質問する。
  • インタビュアー(弟子)は、理解した内容をユーザー(師匠)に話して、間違っていないかどうかチェックしてもらう。

もちろん、これは1つのモデルであって、限られたインタビュー時間の中で本当の師匠と弟子の関係を構築できる訳ではない。ポイントは、ユーザーがインタビュアーに教えるつもりになることだ。教えるつもりになれば、ユーザーは結論だけを話すのではなく、自分の体験を始めから終わりまで、順序立てて詳しく説明してくれるのだ。

■ユーザビリティ人名図鑑(その2)

このコーナーでは、ユーザビリティ分野の世界的な先駆者を毎回紹介します。

カレン・ホルツブラット
カレン・ホルツブラット
Contextual Design
「Contextual Design」

カレン・ホルツブラット

エスノグラフィ(文化人類学)の手法をITに取り入れた先駆者。ヒュー・バイヤーとともに開発した設計手法『Contextual Design』(Morgan Kaufmann Series in Interactive Technologies)はあまりにも有名。InContext社を設立してCEOを務めている。

弟子の基本テクニック

繰り返しになるが、私たちは本当にユーザーに弟子入りする訳ではない。もし実際に「弟子入りさせてください」と依頼しても、ユーザーはどう対応すればよいかわからず困惑するだけだ。ユーザーが師匠役を演じられるように、インタビュアーが上手く働きかけないと効率的に話は引き出せないのだ。そんなときに使用する基本テクニックが「教えを請う」「根掘り葉掘り」「確認する」である。

(1)教えを請う

教えを請うとは、この場合「何を教えてほしいのかをユーザーに伝える」ことを意味する。話題を特定のテーマに絞っていくので「フォーカスを当てる」とも言う。インタビューの冒頭部分では「よく使うWebサイト」や「普段の業務内容」など比較的幅広い話題から話を始めてもらう。そして、じょじょに特定のトピックに絞って話を掘り下げていくのだ。

(2)根掘り葉掘り

インタビュアーは、単にユーザーの話を聞いて帰って来るのではない。ユーザーの話の内容を理解できて、初めて「弟子入りした」と言えるのだ。そのためには、ユーザーの行動や説明に少しでも不明な部分があれば、インタビュアーは「根掘り葉掘り」質問しなければならない。曖昧なままだと、インタビュアーは自分の憶測でユーザーの行動を解釈してしまうことになる。師匠と弟子方式のインタビューでは、幅広く話を聞くよりも、完全に内容を理解するほうが重要なのだ。

(3)確認する

インタビュアーは、フォーカスを当てた話題についてユーザーの話がひととおり理解できたと思ったら、その理解した内容をユーザーに話して確認してもらおう。もし誤解している部分があればユーザーはその点を指摘してくれるし、確認作業がきっかけとなって関連情報を追加してくれることもある。

インタビュー会話の例

師匠と弟子方式インタビューの会話例を紹介しておこう。ここでは、「メールマガジンの利用」について尋ねている。インタビュアーは前述の「教えを請う」「根掘り葉掘り」「確認する」といった基本テクニックを使って会話を進めている。

~前略~

○インタビュアー【教えを請う】:今のお話によると、毎日50通以上のメールマガジンに全部目を通してフォルダに分類するということですが、随分時間がかかりそうですね。

●ユーザー:いえ、そんなに時間はかかりません。なぜなら、目を通すといっても、斜め読みしかしないからです。発信者名と件名から、だいたい内容の想像は付いているので、後は本文の見出しだけサッと目を通せばいいんです。どのメールマガジンも、本文の最初のほうと、最後のところに「おいしい」情報が載っていることが多いので、差し当たり一番下まで見てから、もう一度興味があった見出しの部分まで戻って、そこだけはじっくり読みます。

○インタビュアー【根掘り葉掘り】:「おいしい」情報とはどんな情報なんですか?

●ユーザー:「100万円当たる!」とかの懸賞・キャンペーン情報はやっぱり見ますね。それから、私が取っているメールマガジンには、結構人気のコラムがあるのですが、それは最後に載っているんです。

~中略~

○インタビュアー【教えを請う】:気軽に登録していると、メールマガジンの数がどんどん増えていきそうですが、何か対策はあるんですか?

●ユーザー:メールマガジンに登録して最初の5通くらいは、ちゃんと読むようにしています。そうすると、そのメールマガジンがだいたいどんな内容を扱っているのかわかるんです。それで、あまり興味が湧かないようならば解除してしまいます。

○インタビュアー【根掘り葉掘り】:解除は簡単にできるんですか?

●ユーザー:簡単です。普通はメールマガジンの最後のところに解除用のアドレスが書いてあるので、それをクリックして解除メールを送ったり、サイトに飛んで解除手続きをすればいいんです。

○インタビュアー【根掘り葉掘り】:普通でない場合もあるんですか?

●ユーザー:実は結構あります。解除用のアドレスが書いていないんです。そんなときは、そのメールマガジンを発行しているサイトに行って、解除方法が書いていないか探すんですが、それで見つからなければお手上げです。それから、解除しようと思っても、IDとパスワードを忘れてしまっていることもあります。IDやパスワードの付け方の規則がメールマガジンによって違っていることが多いので、つい忘れてしまうのです。生年月日、住所、電話番号など、いろいろ試してみてダメならば、これもお手上げです。面倒なので、いちいちinfoに問い合わせることはしません。そんなメールマガジンは、来ても見ないで、すぐ削除するだけです。

○インタビュアー【確認する】:なるほど。解除用のメールを送るのが一番簡単なんですね。それと、IDやパスワードは、なるべく自由に付けられたほうがいいんですね。

●ユーザー:そう思います。それから、「合い言葉」を入力すれば解除できるサイトがあったのですが、これは便利だなと思いました。

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