Web担当者のためのAR(拡張現実)

ARを企画に取り入れるためのプラットフォームサービス一覧(最終回)

ARを活用する際のヒントとなる、ARのサービス事業者を紹介
Web担当者のためのAR

前回までにARの基本やさまざまな応用事例を紹介してきた。最終回では、Web担当者がARを企画に取り入れるために役立つ、ARのプラットフォームサービスやツールを紹介する。これらを参考に企画に役立ててもらいたい。

Aurasma(オーラズマ)
1万社以上が利用するARプラットフォーム
http://www.aurasma.com

手前みそだが、筆者が所属するオートノミー社でも、無料で使用できるスマートフォン専用のARプラットフォーム「オーラズマ」を提供している。オーラズマは、画像認識型のARだ。写真やイラスト、ブランドロゴなど、印刷物に普通に使われる自然な画像をトリガーに使用できる反面、QRコードなどの繰り返しの多い画像はトリガーに使用できない。

オーラズマは、iOSとAndroidの無料アプリ単体でも簡単にARコンテンツ制作の体験できるが、Webサイトの管理画面「オーラズマ・スタジオ」なら、もっと高度なこともできる。オーラズマのWebサイトから申し込むと管理画面のURLとID、パスワードが送られてくる。ここに「トリガーとなる画像」「重ねあわせたいビデオ」「リンク先URL」の3点セット(これを「オーラ」という)を自分のPCからアップロードするだけである。

オーラズマで閲覧できるようにするのは無料だが、そればかりではなく、スマートフォンアプリにAR機能を組み込むカーネルも、機能はオーラズマそのものでスキンを企業のものに変更するスキンドアプリ制作のいずれも無料であり、オーラズマ・スタジオから申し込める。YouTubeとかFacebookと同じようにすべて無料なので、このしくみがピッタリくる企業にとっては使い得だ。一方、自社の顧客データベースと連動させたりとか、アクセスログを取得したりすることはできない。

2013年中盤には日本では課金化が計画されており、詳細は未定だが、先行して2013年1月から有料化したヨーロッパでは、管理画面「オーラズマ・スタジオ」の利用料が課金される。一番シンプルなレベルで月額19ドル、フルオプションで月額499ドルだ。日本でも、この金額に準じた課金になると思われる。

Total Immersion(トータルイマージョン)
専用ソフトで独自のARアプリを開発
http://t-immersion.jp/

これまでに日本で実施されてきたARの商用利用事例のうち、最も有名なのは、メガネ店のZoffのECサイトで実施している「Zoff Mirror」だろう。

Zoff Mirror

Zoff MirrorではPCのカメラを使ったバーチャルフィッティングを体験でき、その画像をFacebookやTwitterにも投稿できる。店舗に行かずして試着ができるというARを使った好例といえる。

これを実現したのがTotal Immersion社の技術である。フランス企業だが日本にもオフィスがあり、特許技術であるD'Fusionソフトウェアソリューションを使用して、ライブビデオストリームに双方向3Dグラフィックスをリアルタイムに重ね合わせることで、仮想世界と現実世界を融合するものだ。QRコードなどのマーカーやオーラズマと同じような自然な画像、GPSをトリガーとして利用できる。

ARコンテンツの制作や配信は「D'Fusion」というパッケージを購入して行う。自社のサーバーにインストールして配信できるので、自社の顧客データベースと連動させたりとか、アクセスログを取得したりといったことも可能だ。

「D'Fusion Mobile」というスマートフォン向けのソフトウェアもあるが、スマートフォンの性能に大きく依存するので、機種によっては動きが悪いという評判もある。

Layer(レイヤー)
世界で5000万以上ダウンロードされている代表的ARアプリ
http://layar.jp/

オランダのLayer社が提供しているARコンテンツの利用環境が「Layer」だ。日本では、株式会社システム・ケイがパートナーとなって提供している。

GPSと電子コンパスを利用して位置を特定して、位置情報に基づくARを提供するのがLayerの元々の機能である。基本的に屋外での利用を想定しているが、屋内や高い建物と建物の間などではGPSによる位置測位が正常に作動しない場合、誤差情報を参考にして利用できるという。

Layerの利用イメージ

たとえば、新潟県十日町市でLayarを起動すると、歴史情報や観光情報など、十日町市に関するさまざまな情報が表示される「とおかまちナビ」であるとか、国内最大級の野外ロックフェスティバル「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2011 in EZO」で利用されている。ロックフェスでは、開催期間中に会場内でLayarを起動すると、出演アーティスト情報や会場内施設情報が表示された。

最近は、パンフレットなどの紙媒体をトリガーにしたケースもあり、北海道内のJTBの店舗で配布されている「北海道からハワイにいこう!」というパンフレットにカメラをかざすと、飛行機の3Dオブジェクトが浮かび上がって表示されるコンテンツを実施している。

Layerを起動してパンフレットにかざすと3Dオブジェクトが浮かび上がる
Layerを起動してパンフレットにかざすと3Dオブジェクトが浮かび上がる

junaio(ジュナイオ)
自作のARコンテンツを世界中で共有
http://www.junaio.com/

ドイツのmetaio社がスマートフォン用に提供しているARブラウザが「junaio」である。こちらは室内でも使用可能で、デベロッパ登録をすると「metaio Creator」を使って自作のARコンテンツを公開し、junaioアプリで楽しむことができる。制作できるコンテンツは2種類。

  1. GPSや磁気コンパスをセンシングに用いるLocation Based Chennel

    Location Based Chennelでは、特定の場所(緯度、経度、高度)にコンテンツを配置できる。この場合、GPSが届きにくい室内などの場所でも位置が特定できるように「LLAマーカー」という画像も、位置情報として利用できる。

  2. 任意のイメージ画像上にコンテンツを表示する用事するGLUE Channel

    GLUE Channelでは、任意のイメージ画像を登録して、その画像上にコンテンツを表示する。どちらも、3Dモデルを重ね合わせることもできる。

ARToolKit(エーアールツールキット)
日本生まれの開発者向けライブラリ
http://www.hitl.washington.edu/artoolkit/

前述のような、ARプラットフォーム製品やサービスが登場するまで、ARは技術者が自分で作っていた。そこで彼らが使ってきたのが「ARToolKit」だ。技術者のコミュニティを中心にしてきたから基本的に使用は無料だが、商用利用には商用ライセンスの販売もしている。

ARのトリガーとしては、次の図のようなマーカーを用いるのが普通だが、開発者コミュニティでは、自然な画像の認識やGPSの併用などの研究も進んでいるようだ。上記の各種製品では飽き足らない場合には、試してみてはどうだろうか。

黒い太枠の中に線対称でない文字が描かれた描かれたAR専用マーカー
黒い太枠の中に線対称でない文字が描かれた描かれたAR専用マーカー

また今回は紹介しきれなかったが、上記以外にも多数のARサービス・プラットフォームがあるのでチェックしておこう。

◇◇◇

これまでにさまざまな活用例を示してきたが、ARの可能性はまだまだある。最後に、ARに関する情報を得られるサイトや書籍を紹介しておくので、参考にしてもらいたい。

  • development memo for ourselves | Augmented Reality World | 拡張現実

    ナレッジワークス社で数多くのARコンテンツを制作している、亀山悦治氏のブログだ。筆者も時々のぞいており、製品提供者の銘柄に関係なく、世界中のARの利用例や業界ニュースが書かれている。

    ※記事初出時点で亀山氏のお名前を誤って記載しておりました。現在掲載されているお名前が正しいものです。亀山さまならびに読者のみなさまにはご迷惑をおかけして申し訳ありません。
  • AR三兄弟@ar3bros(Twitter)

    AR普及当初から活動するAR3兄弟のTwitterアカウント。

  • YouTubeで「Augumented Reality」と検索

    世界中でARに取り組んでいる人たちは、盛んにYouTubeにビデオをアップロードしており、多くの動画が見つかる。

  • 書籍

    ARにブームが訪れた2010年には何冊もARに関する本が出版されたが、その後はほとんど出ていない。したがって少し古い本になるが、ARの基本や楽しさを学ぶにはこの2冊がおすすめだ。

    • AR入門―身近になった拡張現実』(著:佐野彰、2010年、工学社)
      ARの歴史から概念、使用例などを説明した本。ARに関する用語などもわかりやすく解説している。
    • AR(拡張現実)で何が変わるのか?』(著:川田十夢/佐々木博、2010年、技術評論社)
      セミナーの速記録をまとめた本。簡単にわかりやすく、ARの楽しさを解説している。
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