5分でわかるWeb担当者のためのAR、基本のキ(第1回)
最近、「AR」(拡張現実)という言葉をよく聞くようになった。iPhoneやAndroid端末対応のARアプリが数多く登場してきているが、そもそも「AR」とは何なのか、何が楽しいのか、Web担当者にはどんなメリットがあるのだろうか。ARの基本や応用例を全3回に分けて解説していく。
現実に情報を追加するAR(拡張現実)
まず「AR」とは英語の「Augmented Reality」の短縮形、日本語に訳すと「拡張現実」なのだが(「拡張現実感」とする場合もある)、「拡張」とか「現実」とか言われてもよくわからない。何の「現実」をどう「拡張」するのか疑問に思うかもしれないが、ARは「現実のものに何らかの情報を追加して表示することによって、現実の世界を拡張する技術」だ。たとえば、次のようなARの使用法が例として挙げられる。
- マンションにスマートフォンをかざす。その上に空き室情報が表示される。
- お店にスマートフォンをかざす。クチコミサイトの情報やクーポンが表示される。
- CDのジャケット写真にスマートフォンをかざすとプロモーションビデオが流れる。
最近のスマートフォン用のARアプリは、次のように使用する。実に簡単である。
- まずはアプリをインストールして
- タップしてアプリを起動する
- カメラが立ち上がる
- 対象物にかざす
- ビデオが出てくる
- タップすると、指定したスマートフォンサイトが表示される
プロの世界から一般生活の中へ
実はARは決して新しい技術というわけではない。1960年代には理論化され、1990年代から医療やアートの世界で使われてきた(前述のスマートフォンの場合とは異なる形でだが)。
たとえば、医療の現場では、脳外科手術を患者に説明するための頭の模型上に、脳のコンピュータグラフィックスを表示して説明をすることが試みられた。
アートの世界では、プロジェクタやスクリーンを介して複数のアーティストが離れた場所にいながら共同でインスタレーションを行うような試みがなされた。
テレビの世界では、もっと身近だ。2012年のロンドン五輪の水泳の中継で、実際の選手の泳ぎの映像に「世界記録」の線がオーバーラップして表示されていたのは見ただろうか。サッカー中継では、選手とともに移動するオフサイドラインが実際の画面に重ね合わされて表示されたりする。野球中継では、選手の通常の守備位置が画面に重ねあわせて表示され、実際の守備位置がライト寄りなのかレフト寄りなのか、前進守備をしているのかなどがわかる。
これまでARは一般的に広まるようなものではなかった。コンピュータグラフィックスの1つの領域のような扱われ方だったのだ。つまり「映像のプロのもの」。これが急にクローズアップされるようになったのは、スマートフォンが普及したためだ。
2009年に「セカイカメラ」というアプリが発表された。これが日本でARが注目されるようになったきっかけだ。セカイカメラは、iPhoneとAndroid端末の内蔵カメラによって目の前の景色が画面上に映し出され、画面に映る場所や対象物(建物・看板など)に関連する「エアタグ」と呼ばれる付加情報(文字・画像・音声)が重ねて表示されるものだ。
エアタグはユーザーが自由に付加することができ、ユーザー間で共有される。ユーザーがラーメン屋に「ここで食べるなら担々麺」なんていうことを自由に書き込んで共有できるのがセカイカメラである。セカイカメラの登場以来、日本ではARに注目が集まった。
スマートフォンがARの普及を牽引
いま、ARが注目されるのは、スマートフォンが普及してきたからだ。スマートフォンに付いている、「カメラ」と「GPS」機能を生かしてスマートフォンのARアプリは動いている。
PCにもカメラ付きの機種もあるが全機種ではない。GPS機能が付いているPCはほとんどない。しかし、スマートフォンにはカメラもGPSも付いており、それが気軽に使えるということが、ARの大きな普及要因となった。
コンピュータとインターネットは世界を変えた。いつでもどこでも、ほしい情報を手に入れることができるばかりか、自ら情報発信ができるようになった。しかし、コンピュータの主なインプットの手段はキーボードだ。使いこなすのにはキーボードを扱うスキルが要る。
特に日本人のような、幼い頃からキーボードに馴染んでいない人たちは、キーボードで入力することがコンピュータ普及の大きな壁になってきた。いまひとつ高齢者にPCが普及しない大きな原因にもキーボードの問題がある。また今後、後進国にもコンピュータを普及させていきたいわけだが、こういった国では日本以上にキーボードを使うようにするのは大変だ。
そこで最近は、アップルの「Siri」やNTTドコモが提供する「しゃべってコンシェル」のような「音声によるインプット」がクローズアップされてきた。スマートフォンに向かって「あしたの京都のお天気は?」などと話してインプットするというものだ。
筆者の所属するオートノミー社では、画像をスマートフォンのカメラにかざすことを、キーボードと音声に続く「第三のインプット方法」と位置づけている。ただスマートフォンのカメラをかざすだけなら、キーボードが苦手でも、文字入力がめんどうでも、ボタン操作が苦手でも、風邪で声が出ない時でも、情報を得られて便利だ。
医者にもらった薬にスマートフォンをかざすだけで、どんな薬なのかわかる。レストランでワインが出てきた時に、スマートフォンをかざしてその場でそのワインに関するうんちく話を手に入れる。ARを利用すると、このようなことが可能になる。
そうはいっても、注目されるのはおもしろいコンテンツだ。広告にスマートフォンをかざしただけでビデオがビュッと出てくるのはたしかにおもしろいが、それはそれだけ。何回も見たい、友だちにも教えたいというコンテンツでなければなかなか継続はしない。スマートフォンの普及とおもしろいコンテンツの両輪で、ここ最近ARへの注目が進んできているのだ。
ARを使うと実際にどんなことができるのだろうか。次回から実際の活用事例とともに紹介していく。
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