Webサイト制作の現場でオープンソースCMSを導入するケースが増えてきています。オープンソースCMSには、商用CMS製品にはないメリットがある反面、注意しなければならない点もあります。CMSを導入するディレクター視点で、オープンソースCMS利用のポイントをお伝えします。
導入企業から見たオープンソースCMSとは
CMSを必要とする案件では、普段商用CMSを使うことが多いのですが、最近になってクライアントからの要望でオープンソースCMSを利用するケースも出てきました。
では、どういうケースでクライアントからオープンソースCMSの要望が出るのでしょうか。よくあるのは次のような要望です。
- 開発費用を抑えたい(低コストでログイン機能やフォーラム機能などを実装したい)
- ライセンス費用を抑えたい
- 多言語環境で利用したい
- 自社で今後カスタマイズしていきたい
なかでも、費用を抑えたいという要望が最も多いのですが、費用は大きく分けて2つ開発費と運用費があります。開発費についてはケースバイケースですが、カスタマイズをあまり考えずに機能を実装するということを優先すれば、必要なエクステンション(拡張機能)を無料で利用できるオープンソースCMSの方がコストを落とせると言えます。また、今回は運用費としていますがライセンスコストは0円ですから、コストを落とせるポイントとして一番わかりやすいでしょう。これらはまさにオープンソースのメリットとも言えますが、開発を行う場合にはここが落とし穴となってプロジェクトが難航するケースもあります。それについては後ほど。
次に多いのは、海外クライアントからの英語環境で利用したいという要望です。商用CMSは大規模なものは多言語対応がなされていますが、小規模、中規模のものは日本語のインターフェイスのみというCMSも少なくありません。オープンソースは基本的に海外で開発されたソフトが多いため、英語を含めた複数言語のインターフェイスを持っていることがメリットです。また、構築したサイトにおいても、マルチリンガルマネージャなどがエクステンションなどで利用可能で、各国の言語ファイルがすでに用意されているため、グローバル対応サイトの構築が可能であることがメリットではないでしょうか。
選定段階における注意点
クライアントへの説明責任と理解を得る大切さ
次に実際のプロジェクトとしてオープンソースCMSを利用するケースを考え、ディレクターとして注意すべき点について触れたいと思います。
今後は開発側の提案として費用や期間、機能面などからオープンソースを提案していくことも増えていくと考えられます。実際に、ログイン機能やコミュニケーション機能などを持ったサイトの構築や、多言語展開するサイトではオープンソースCMSを使うことで期間、費用、開発難易度などが押さえられるケースもあるでしょう。
では、オープンソースをCMS利用する場合、ディレクターはどのような点を商用CMS利用時と比較して注意すべきでしょうか。
まず、選定段階における注意点です。私は大きく2つ、クライアントへの説明責任とクライアントの理解を得ることだと考えています。
メーカーやベンダーから情報を得られる商用CMSですらクライアントはどのパッケージにするかをかなり悩まれます。オープンソースはまだまだ情報が不足している状態ですし、特に海外ソフトは日本での事例が少ないということもあり、商用CMS以上にクライアントは情報を得ることが難しくなります。
確かにライセンスコストがかからないというメリットはありますが、ビジネスで利用するサイトの構築において、クライアントが納得できる信頼性があるかどうかをしっかり説明する必要があるでしょう。その中でも、次のポイントは押さえておきたいところです。
アップデートへの対応
オープンソースCMSは頻繁にアップデートされるためその対応をどうするのか。これはベースになるオープンソースCMSとエクステンション両方に発生します
バージョンアップ、拡張機能対応
開発タイミングですでに次のバージョンが予定されていたり、拡張機能の導入を今後検討していたりする場合にその対応をどうするか
サポート契約
メーカーサポートがないため、保証期間や保証内容をどう設定するか
開発側としてもオープンソースCMSはタダでお得ですよというのは確かに売りにつながるポイントですが、逆にサポートが自社責任になるという点もしっかり理解しておくべきでしょう。
また、オープンソースCMS導入の理解を得るポイントは、クライアントにオープンソースCMSを利用するという意味をしっかり認識してもらうということです。上記の通り、オープンソースCMSを使うことはメリットもある反面デメリットも生じます。クライアントは商用CMSを使っているとき同じ保証を求め、そのデメリットを開発側だけで吸収してしまうような関係性になってしまうと、リスクばかりが増し、もはやオープンソースCMSを使うメリットがなくなってしまう可能性もあります。
ですので、オープンソースCMSとしてこういったメリットが安価に得られることの代償に、「こういった部分は商用CMSと異なります。こういった使い方をしていきましょう」ということを、しっかりと事前に共有し理解してもらうための、関係性の構築が大切です。そのあたりは次の設計・開発段階における注意点でも触れていきます。
設計・開発段階における注意点
実際に開発に入ったときの注意点を見ていきましょう。主な注意点は次の3つです。
- Scope(作業範囲)の設定
- 機能設計とワークフロー設計
- エンジニアのコミュニケーションスキル
どのCMSの導入においても同様ですが、制作会社が開発に慣れていないCMSは注意が必要です。オープンソースCMSの場合、特に注意が必要なのがエクステンションの活用です。
Scope(作業範囲)の設定
オープンソースCMSはエクステンションと呼ばれる追加プログラムでどんどん拡張が可能ですし、そもそもベースのプログラムすらオープンソースですから変更が可能です。かといってプロジェクト設計時になんでもできますよでは、開発期間、コストともにかなり膨らんでしまいます。結果的に商用CMSのライセンス費用を大きく上回るコストがかかってしまうことも実際に発生しがちです。
オープンソースCMSを使っている背景には、それなりに前提条件に制約があるはずです。要件定義の段階からその前提条件をしっかりと押さえたコミュニケーションを心がけScope設定していきましょう。
機能設計とワークフロー設計
先に述べたように、オープンソースCMSはエクステンションなどの拡張機能が豊富です。Joomla!やWordPress、Drupalなどはコミュニティがとても賑わっており、エクステンションの数もかなり膨大です。これがオープンソースCMSを利用するメリットでもありますが、その反面どれが信用できるものなのかという選定がとても難しくなってきます。実際に構築しようとすると、各エクステンションの制限や連携問題、クセなどがわかってきてなかなか上手くマージできないという問題も出てきます。ユーザーインターフェイスにおいても、エクステンションごとにメニューの場所や使い方が異なるものもあるため、機能設計とワークフロー設計はある程度期間をとり、1つの機能に複数候補のエクステンションを用意しながら機能を検討し、設計段階である程度柔軟性と選択肢を持った設計をクライアント側と開発側両方で共有し進める必要があります。
ただ、私はオープンソースCMSだからこそ、モジュールの組み合わせを楽しむという姿勢を持ち、機能を取捨選択することが大事になってくると思います。つまり、エクステンションレベルでのカスタマイズは極力行わず基本的にデフォルト機能のまま利用し、それらをどのように組み合わせ使いやすい環境を構築するかに注力すべきだと思っています。このあたりの姿勢についてもクライアントと開発側双方で共有し、協力することがスムーズな開発には欠かせません。
エンジニアのコミュニケーションスキル
先に述べたように、オープンソースCMSでは情報にムラがあり、責任者がいないため、実際に構築してみないとわからない点も多くあります。それらに対応していくには、エンジニアがいかにそれらのノウハウを取得していくかがポイントとなってきます。最近は随分と本などでも紹介されていますが、基本的にはWeb上のコミュニティやブログから情報を得ていくという方法が主流となります。しかしながら、海外で生まれたCMSであれば、情報のほとんどは英語になってきますし、開発者に直接問い合わせるといった方法も必要になってきます。これはエンジニアの探求心とコミュニケーションスキルが問われるポイントでもあります。また、制作側や開発側とのコミュニケーションでも、クライアント自らがある程度情報を集めて提案していき、一緒に実現方法を考えるという姿勢でないと、多くの情報と選択肢と責任・品質のバランスに埋もれてしまうので注意が必要です。
最後に
さて、オープンソースCMS利用にあたっての注意点をいろいろ書いてきましたが、ディレクターの皆さんの参考になりましたでしょうか? 具体的な各ソフトの機能や特徴については、ちょっと記事が古めですがWeb担当者Forumにいい記事がありますのでそちらをご覧ください。
企業で使えるオープンソースCMS一挙12種類解説
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2008/07/04/3283
オープンソースCMSは世界でも開発が盛んですし、日本でも島根県CMSが登場するなど主流になってくるでしょう。また最近ではほとんどの作業をフロントエンドから行えたり、Ajaxを取り入れて感覚的な操作を実現したりするなど、面白いソフトが沢山出てきている楽しみな分野でもあります。ユーザビリティやユーザーインターフェイスの視点からもWebサービスと同様に注目しておくべきではないでしょうか。オープンソースCMSのほとんどが、オンラインデモを利用でき、実際に管理画面などを見て触れられるものが多いのもメリットです。Open Source CMS Awardなどをチェックしてみると、受賞はできなかったものにも面白いものが沢山ありますよ。
Open Source CMS Award
http://www.packtpub.com/award
コメント
なるほど。
オープンソースは初期コストが抑えやすいので、魅力的ですよね。でも確かに保障とかは気をつけないと構築後のコストは逆に高くなってしまいそうですね。これは注意すべき点だと思いました。
いずれにしても、製品情報や作りこみ方を熟知している制作パートナーに出会えるかが、CMSサイトの構築には大事だなぁと思っています。
サポートの有無もポイントに
CMSは導入してからずっと使い続けるわけですから、初期コストだけでなく運用コストも検証しなくてはてはいけませんね。運営を自社でするにしろ外部に委託するにしろ、その分のコストは必要です。バグや脆弱性が見つかった場合など、トラブルにどのように対応するかも注意が必要ですね。
企業によっては、特に公式サポートの有無という点がハードルになり、オープンソースが選択肢に入らないこともあるようです。
記事でも紹介されている、「企業で使えるオープンソースCMS一挙12種類解説」前半部分でも、メリットやデメリットについて解説しているので、参考にしてみてください。
オープンソースCMSを賢く使う勘所と選び方