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使いづらくてもいい!? インパクト重視の攻めUIを選んだAWAが目指す音楽体験とは AWA × UX侍

定額制音楽配信アプリが続々登場するなかで、チャレンジングなUIで勝負に出ているAWA。リリースから約6か月、現状とAWA目指す音楽体験を聞いた。
森田雄+深津貴之+深谷歩 2015/11/19 7:00 |
左から、深津貴之、AWA:室橋秀俊氏、森田雄

2015年5月末にリリースされた定額制音楽配信アプリAWA(以下、AWA)。アプリ開発、運営は株式会社サイバーエージェントが手がけ、配信楽曲の調達はエイベックス・デジタル株式会社が行う。LINE、Apple、Googleなど大手プラットフォームも音楽アプリに続々参入するなかで、AWAはチャレンジングなUIで勝負に出ている。リリースから約6か月で新機能や改善を繰り返すAWAはどんな音楽体験を提供するのか。

森田雄
森田雄

ながら聴きのような使い方がメインになりがちなアプリだけに、そのUXをAWAがもたらしているという認識をユーザーが明確に持てているかが肝ですね。

深津貴之
深津貴之

「音楽を聴く体験」そのものは、どんどんとBGMへとシフトしているように思えます。蛇口をひねれば水が出る的な世界観のなかで、どう特別な体験を設計すればいいのかは、音楽業界全体のチャレンジに思えます。

AWAは新しい音楽との出会いを提供する

――まずはAWAの開発経緯を教えてください。

室橋:2014年6月に、社長の藤田から「音楽アプリを作る」と言われてスタートしました。そこから、現在のプロデューサーが2か月ほどかけてプロジェクト管理とマーケット調査を行い、ビジネスモデルを考えました。

8月に入ってから、エンジニアがチームに加わり実際の開発が始まりました。エンジニアは、プロダクトマネージャ、サーバーサイド、フロントエンドあわせて7人です。僕自身は、プロダクトの形が見え始めた10月からチームにジョインして、デザインを手がけました。

室橋 秀俊氏
AWA株式会社 アートディレクター/デザイナー

――AWAのコンセプトはどこにありますか?

室橋:音楽をサブスクリプションで配信するというビジネスモデルは最初からありました。単にたくさんの曲を定額で聴けるだけではおもしろくないので、音楽との出会いを軸にしています。たとえば、自分が過去に好きだった曲との再会、自分が好きな曲に似た新しい音楽との出会いですね。

※一定期間の利用に対して、料金を支払うこと

AWAの画面

――2015年5月末にリリースして6か月ほどですが、ダウンロード数はいかがですか?

室橋:600万ダウンロードくらいですね。ダウンロード数はそれほど意識していません。というのも、LINE MUSICやApple Music、Google Musicなど競合プラットフォームがありますし、ダウンロード数は広告などを使えばどうにかできてしまうものでもあるからです。

評価しているのはDAU(Daily Active Users)で、毎日聴いてもらう、飽きさせないということは大事にしたいと思っています。

――3か月の無料期間があって、今ちょうど4か月目なので課金率も気になりますが……。

室橋:課金率は非公開ですが、概ね好調とだけいっておきます(笑)。

競合のアプリは大歓迎! 音楽業界をもう一度盛り上げたい

深津:音楽にお金を払わないという風潮があるなかで、どういう体験を提供すれば、ユーザーは課金するのかというのは難しい課題ですよね。

深津貴之

室橋:ええ、AWAはアーティストが作品からフィーを得られるような仕組みを作りたいという考えがあります。サブスクリプションの音楽配信が普及することで音楽業界を盛り上げていきたいんです。

その点では、他の定額制音楽配信アプリが出てくるのはウェルカムです。逆に、無料で音楽が聴けるような違法のアプリには反対で、音楽を聴くのは「無料ではない」という風潮にしたいです。

深津:一方で、やはり無料がいいというユーザーも一定数いますが、その人達を課金に向かわせる工夫はありますか?

室橋:難しいのですが、ユーザー自身のマインドの問題かと思います。AWAの場合は、プレイリストの曲のつなぎなども意識していて、今後ギャップレス再生ができるようにしていきたいですし、音楽にこだわりのあるユーザーにも、満足してもらえるようなサービスにしていきたいですね。

ターゲットとしては音楽を聴くすべての年代ではありますが、メインでいうと20代半ばから30代です。もちろん、かつて音楽を楽しんでいたその上の世代にも需要はあると思っていて、あの頃の気持ちを思い出して、音楽と再会してほしいですね。

森田:競合と比べて、楽曲の違いはありますか?

室橋:配信数としては、年明けにはSpotify、Apple Music、Google Play Musicなどと同じレベルを目指しています。また、大物アーティストは、今どのプラットフォームにもいませんが、一度どこかに入ればどこでも入るようになり垣根はなくなるでしょう。ですからコンテンツに差はないのです。どちらかというと、コンテンツの数よりも、アプリで得られる体験を重視したいです。

森田:音楽アプリは、バックグラウンドで再生する人が多いので、体験の提供の難しさがありますよね。再生を始めたら聴くだけで、画面を見ないので、違いは金額の差、あるいはUIではなくてリコメンドの解析エンジンの違いになりそうですね

AWAの出会いは、DISCOVERYにある

深津:AWAのコアになる音楽体験は?

室橋:DISCOVERY」ですね。ここからプレイリストを見つけて再生して楽しむというのが一番理想です。アプリ内を回遊するよりも、DISCOVERYで満足してもらいたいですね。

DISCOVERYに出るプレイリストは、ユーザーが作った公開のプレイリストですが、ここに表示されるプレイリストは、ユーザーがお気に入りに登録した曲、アーティスト、再生履歴、再生時間、ジャンルなどを分析しているので、使うほどユーザーに合った曲が表示されます。このエンジンのロジックなどはまだ課題も多く、定期的に変更しながら調整しています。

「TRENDING」には、運営側のキュレーターが作成したプレイリストやジャンル別ランキングなどがあります。リリース直後は、ここからの再生が最も多かったのですが、1週間くらい経ったところでDISCOVERYからの再生が最も多くなりました。

他に「RADIO」の機能もありますが、これは曲やアーティストを選択するとそれを軸にして、それに近い曲を流す機能です。プログラムで、音楽の波形、ジャンル、アーティストなどを見て、アプリを使っているユーザーが好きそうな曲を自動的に再生します。

左:DISCOVERY(ユーザーが作成したプレイリスト) 中央:TRENDING(AWAが集めた音楽) 右:RADIO(曲/アーティストに近い曲を流す)

森田:DISCOVERYは変わるんですね。僕の場合は西野カナばかり出るんですけど。

深津:それは森田さんが西野カナばかり聴くからですよ(笑)。

室橋:表示のアルゴリズムはいろいろ検討していて、直近に聴いたものばかりでなく、お気に入りに登録したもの、過去の再生履歴なども見ています。これからリリースするバージョンでは、AWAにログインしたばかりでも、ユーザーにマッチする音楽が提供できるように、ユーザーのスマートフォンにダウンロードされている音源からユーザーの趣味嗜好を解析できる仕組みを検討しています

また、アプリを始めて起動したときに、アンケートではなくUIのなんらかの工夫で、ユーザーの好きなジャンルやアーティストが簡単にわかって、そのデータからDISCOVERYに表示されるプレイリストがユーザーの好みに合ったものが表示されるようにもしていきたいです

森田雄、深津貴之

ステータスをブランディングに全振りした攻めのUI

深津:UIでいうと、ハイリスクハイリターンの攻めのデザインですよね。パラメーターを全部ブランディングに振っているという印象です。

室橋:UIは突き詰めると、シンプルでわかりやすいに行きつくと思うんですが、AWAではビジュアルコンセプトにインパクトがほしかったんです。もともと、いろいろな音楽アプリがリリースされることがわかっていましたし、Appleはシンプルなデザインにするだろうという予測もあったので、AWAは「なにこれ、こんなアプリあるんだ!」とシェアしたくなるような、使いづらいと言われるかもしれないけれど、話題になるような賛否両論のあるUIにしたいという気持ちでデザインしました。ですから、ブランディングに全振りといわれるのは嬉しいです。

見慣れないUIなので一見使いづらそうに感じますが、もちろん使いやすくする工夫は随所にあります。たとえば、iOS、Android両方のアプリがありますが、インターフェイスのレギュレーションは、それぞれのOSに準拠しています。また、OSごとの標準動作にすべて合わせて開発しており、エッジングスワイプは、iOSでは「戻る」の動作をし、Androidでは「ドロワーメニューの表示」の動作をします。Androidだけでいうと、アイコンは独自のものを一切使わず、OS標準のアイコンをすべて利用して、ユーザーに迷わせないようにしています。

室橋秀俊

深津:あと、音楽業界ではアーティスト写真を加工するのは禁じ手と言われていましたが、そこを加工しているのも驚きました。

室橋:AWAではユーザーの写真、アーティスト写真、ジャケット写真という3つのパターンがありますが、ユーザーの写真は円形で表示していて、ジャケット写真は四角にしています。では、アーティスト写真はどうするのかという議論がありました。

ユーザーと同じように円形にするという話もありましたが、アーティストも一般のユーザーになりえるので、同じ形だと区別がつかなくなってしまいます。そこで、現在の六角形になりました。アーティストが新曲を配信したら六角形で表示され、アーティストがユーザーとしてプレイリストを公開したら円形になる、という感じですね。

シェアボタンは、ユーザーのカリスマ化のキャリアパスがないと使われない

深津:コンテンツのコア部分にユーザーのプレイリストがあるのに、プレイリストを作るモチベーション設計が無機質なのがおもしろいですよね。ユーザーが自分の音楽の趣味を自慢したくして作るというのはわかりますが、反応がわからないので公開するモチベーションがどこにあるんでしょう。

室橋:プレイリストを作るユーザーのモチベーションを維持させることは課題ですね。たとえば、Facebookのシェアボタンを付けて友達にシェアしてコミュニケーションをとるということが考えられますが、仲が良いからといって音楽の趣味が合うとは限らないんですよね。だから、リリースしたときはシェア機能がなかったんです。でも今は、プレイリストを作ったことを知らせる機能がないということで、ソーシャルでシェアできるようにしました。

今後はDISCOVERYをもっとうまく使って、プレイリストを作るユーザーにも、聴くユーザーにも満足してもらう仕組みを提供したいです。そのために、プレイリストの出現率を高め、表示する箇所を増やすなどして、プレイリストを作るユーザーのモチベーションを高めていきたいですね。

深津:そうですね、作り手の承認欲求、さらにはカリスマ化のキャリアパスまで作らないといいプレイリストが出てこないことになってしまいますよね。

森田:プレイリストも似たようなものがあったりするので、数あるプレイリストのなかで優位のものがわかるといいですよね。リストのタイトルの付け方などもセンスが問われますし。プレイリストを全部聴いて評価するのは時間がかかるので、せめてリストに含まれる音楽のジャンルの割合などがわかるといいですよね。

森田雄

室橋:ジャンルの考えも難しいんですよね。ロックもヒップホップもどちらも歌っているアーティストも存在していてジャンルが混在しているので。

自分の好きな音楽だけでは、あるとき飽きる。だからこそ、出会いが必要になる

深津:UXの視点でいくと、ユーザーには2種類いると思います。一つは、フェスなどに行くような音楽を収集することに積極的な人。もう一つは流していればいいという人です。

室橋:音楽好きで収集する人はプレイリストを作る人で、アプリの画面をよく見る人だと思います。ライトユーザーは曲が流れていればいいというような人で、画面は起動するときくらいしか見ないですよね。ライトユーザーには、ぱっと音楽をかけられるような設計にしたいですね。

森田:「MOOD」の分け方が今は曲軸でジャンル分けされているんですが、朝、作業、就寝などユーザーのシチュエーション、行動軸に合わせた切り口でもいいのでは?

あとは、使い込んでお気に入りが増えていったとき、マイプレイリストに、タグもしくはカテゴリなどで、「風呂」「ご飯」といった、自分でシチュエーションをカスタマイズできるようになると、自分のお気に入りの曲が好きなシチュエーションですぐに聴けますよね。究極には、車に乗ったらドライブの曲が自動的に流れたら、すごいですよね。

室橋:Android Autoに関しては対応が完了していて、今後もさまざまな車載端末への対応を予定しています。

※Android端末と車を連動させるシステム

深津:AWAに限らず音楽アプリ全体の問題だと思うのですが、ユーザーのなかには音楽と出会うのはどうでもよくて、自分が好きな曲を聴いていたい人もいますよね。

室橋:ヘビーユーザーがプレイリストを200個作っても、聴いているのは3個だったりしますよね。そんなときに、ふとDISCOVERYで聴いた曲がよかったときに、そのアーティストで新しくプレイリストを作るということがあると思います。ピタッと聴かなくなることがあるので、出会わなくてもいいと思っている人にも、出会いを用意しておくことが継続利用のために重要だと考えています。

森田:能動的にプレイリストを作ることに飽きたときに、似た曲の自動再生で受動的な出会いにつながるということですね。

アーティストのクリエイティブに正しい対価が払われる世界に戻したい

森田雄、深津貴之、室橋秀俊

――3か月の無料期間後は、どんな有料プランが用意されていますか?

室橋:有料プランは2種類あります。無料期間に利用できたすべての機能と同等のStandard プラン(月額 税込960円)とプレイリスト作成公開ができないなどの一部機能制限があるLite プラン(月額 税込360円)です。

どちらのプランにも入っていなくても、月1時間はLite プランを無料で利用できるFreeプランがあります。

森田:Freeプランの1時間は少なっ! でも、再生時間を増やしたら、音楽の利用料、アーティストに支払うフィーとのバランスが崩れてしまいますもんね。フリーになったら、青空文庫的な著作権の切れた曲が聴けたり、1曲だけ購入できたりするといいですよね。

深津:いったんフリープランになった人を呼び戻す手段が必要ですよね。YouTubeも有料化するといった動きもありますし。AWAは今後どういう立ち位置を目指すのですか?

室橋:目標としている立ち位置はないのですが、違法な無料アプリには反対なので、音楽は無料で聴けるものだという世の中の風潮は変えていきたいと思っています。

競合との差別化としては、プレイリストがありますが、そこは競合も取り入れられる機能なので、アプリを気に入ってもらうためのUIを工夫していきたいです

AWA Music
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