ロッテがコンテンツビジネスに参入、キャラクターの魅力を活かして日本市場で売上高100億円を狙う。事業責任者に聞いた“勝ち筋”は
2024年7月、ロッテホールディングス(以下、ロッテ)は「コンテンツビジネス」への参入を発表した。韓国において日本の約20倍の事業規模を誇る同社は、日韓が持つ「IP」と韓国ロッテが強みとするコンビニやホテル、テーマパークなどの「アセット」を掛け合わせ、事業拡大を目指す。
同社でIP事業を担当するグループ経営戦略室 事業開発担当 部長の山田裕介氏とグループ経営戦略室 ライフスタイル&エンターテイメント課 課長 堀江かほり氏に、コンテンツビジネスの“勝ち筋”を聞いた。
“ワンロッテ”の成長戦略を軸に「IP事業」へ参入
1948年に重光武雄氏によって創業したロッテ。チューインガム事業から始まり、その後、チョコレートやアイスクリームなどの食品事業を拡大し、日本事業の基盤を作っていった。日本市場での売上は菓子とアイスの事業が大半を占めており、多くの日本人は「菓子を作っている企業」という印象を持っているはずだ。
一方、1967年に進出した韓国では、今や日本の約30倍の事業規模に成長。日本市場の売上高が約3000億円に対して、韓国市場の売上高は約8兆円にものぼる(いずれも2023年実績)。
同国では製菓にとどまらず、流通・小売、観光、建設・レンタル・インフラ・化学まで幅広い事業に携わり、2023年の事業会社における総資産ランキングでは韓国内で6位にランクインする財閥となる。
長年、日本と韓国で独立した体制を貫いてきた同社だが、2020年に創業者が亡くなり現会長が現職に就任して以降、日韓両国の協力を築き、グループ全体での成長を目指す方針を定め体制を刷新。その一環で2021年にファーストリテイリングやローソンで社長を務めた玉塚元一氏が新社長に就任し、新たな成長戦略を打ち立てた
日韓の連携を強める“ワンロッテ”をスローガンに、日本ロッテグループの成長戦略として掲げたのは、「食品」「先端素材」「ライフスタイル&エンターテインメント」の3つ。IPを活用したコンテンツ事業は、このうち、ライフスタイル&エンターテインメントに含まれる。
日本市場における売上高の目標は、2030年までに現在の2倍となる6000億円です。当社の売上は食品が大部分を占めていますが、食品以外の事業で2030年までに500億円、コンテンツビジネス事業においては100億円の到達を目指しています(山田氏)
ポケモンやぼのぼのポップストアなどを展開。IPを活用した成功事例
ロッテでは以下の3つのパターンでコンテンツビジネスに取り組んでいくという。
1. 韓国のIPを日本で展開する
2. 日本のIPを韓国で展開する
3. 日韓共同でIPを開発する
参入したばかりのコンテンツビジネス事業だが、すでに成功事例が生まれているという。
たとえば、第一弾として2024年4月26日〜5月19日に韓国で実施した「Pokémon Town with LOTTE」は、期間中に約400万人(1日平均17万人)が訪れるなど、想定以上の反響があった。
ロッテの本社や同社が運営するテーマパーク「ロッテワールド」などがある蚕室(チャムシル)というエリアでポップストアを開設したほか、ゲームなど体験型のコンテンツを多数用意、着ぐるみのピカチュウのパレードも実施した。
イベント期間中のロッテ所有の蚕室一帯のショッピングモール全体の売上が、10億ウォン(約1億円)を突破するほど大盛況でした。ポップアップストアには家族連れをはじめ、幅広い層の方が来店されました(堀江氏)
韓国のIPを日本で展開する事例においては、今夏から「BELLYGOM(ベリゴム)」の事業を開始。ロッテホールディングスがマスターライセンシーとなって活動を展開し、こちらも好調だという。ベリゴムは韓国にあるグループ会社のロッテホームショッピングが保持するクマのキャラクターで、韓国で若年女性を中心に人気を集める。
ベリゴムは韓国ロッテグループの企業「ホームショッピング」にて、2018年に若手社員によるプロジェクトから誕生しました。タイや台湾でも活動しており、韓国ではK-POPアーティストとのコラボ実績もあります。公式SNSのフォロワーはグローバルで180万人を超えています(堀江氏)
日本デビューにあたり、ベリゴムの公式サイトや公式アカウントを開設したほか、8月20日〜9月2日に西武渋谷店でポップアップストアを開催した。韓国のガールズグループ「MADEIN(メイディン)」のマシロさんをアンバサダーに起用し、インスタグラムなどを中心に発信を強化したところ、多くの来場者が集まったそうだ。
10代〜30代の女性客が多数来場され、想定よりも大人層の方が多い印象でした。Tシャツと缶バッジを除いて韓国で販売しているグッズを扱ったところ、文房具類やキーホルダー、フィギュアの売れ行きが好調でした。今後は日本発のグッズも取りそろえる予定です(堀江氏)
その他、9月11日〜22日まで、いがらしみきお氏のコミックスを原作にした日本の人気テレビアニメ「ぼのぼの」のポップアップストア「Pop-up EP.1 : アンニョン! ぼのぼの 貝をさがしてね」を、韓国のロッテワールドモールにオープン。描き下ろしのイラストデザインを活用し、グッズやコラボカフェメニューなどを展開した。
日韓の共同開発においては、韓国で映画・ドラマの制作、配給及び映画館の運営を行うロッテカルチャーワークスにて、カンヌ国際シリーズフェスティバル招待作である日本の小説「紙の月」(原作:角田光代)を2023年にドラマ化、Netflixで配信されている。
韓国ロッテが持つ「アセット」は日本企業にとって魅力
まだ具体的な名称は出せないが、すでに複数のビッグプロジェクトが進行中であると山田氏は明かした。特にIPを保持する日本企業からの引き合いは強く、ロッテが持つ韓国のアセットが魅力的に映っているようだ。
日本側からは、韓国で漫画を実写化したい、韓国のモールなどでプロモーションをしたいといったご要望を多くいただいています。現状は韓国でのポップアップの開催にとどまっていますが、日本のIPを扱う常設店をオープンする可能性もあります。2025年は日韓国交正常化60周年の節目でもありますし、日韓のハイブリッド企業であるロッテが、事業を通して両国の文化の橋渡し役となれたら嬉しいです(山田氏)
日本においてK-POPやドラマをはじめとした韓国カルチャーは若年層を中心に人気を集める一方、韓国でも日本のアニメやキャラクターは人気が高い。
日本でも大人気の『鬼滅の刃』や『SPY×FAMILY』、『クレヨンしんちゃん』などは韓国でもファンが非常に多いです。ただ、日本とは受け止められ方が若干異なる印象があり、私の個人的な感覚では、『ぼのぼの』や『クレヨンしんちゃん』はお子さんより大人の方に好まれている印象があります(堀江氏)
日本の「IP」と韓国の「アセット」、それぞれの強みを活かす
「コンテンツビジネス事業」に参入した理由について、山田氏は以下の5つを挙げた。
1. ハードとソフトのバランスの良い事業展開
ロッテは韓国でホテルや百貨店、コンビニなどリアルでの顧客とのタッチポイントを多く持っており、これが強みとなっている。一方で、投資規模が大きい事業であり、ソフト面も含めたバランスの良い事業展開が課題となっていたことから、コンテンツ事業に参入した。
2. 短期で成果を出しやすい
バイオ医薬等の先端素材事業は成果が出るまでに長い年月を要し、長期戦で取り組まなければならない。コンテンツ事業では、既存アセットを活かして相対的に短期で成果を出すような挑戦ができる。
3. ロッテのイメージを転換したい
日韓共に歴史がある企業ゆえに、ロッテに対して「古めかしい」「伝統的だ」といったイメージを持つ人が多く、日本では菓子・アイスのイメージが強い。コンテンツ事業を通して、新たな挑戦をするイメージへ転換していきたい。
4. 国際情勢への耐性強化
パンデミックや政治外交等の国際情勢に大きく左右されない事業基盤の強化の一環としてコンテンツ事業は有望と考えている。日韓関係は隣国が故にさまざま難しい局面もあるが、人々に心から両国のコンテンツを楽しみ、親しむ機会を提供することで日韓を結ぶ役割を果たしたい。
5. 日韓の両市場で優位性を出せる
日韓のハイブリッド企業であり、両国で高いブランド認知度を有するロッテであれば、マーケティングやコミュニケーションにおいて両市場で優位性を出しやすい。
好調なすべり出しを切ったロッテのコンテンツビジネス事業。日韓のシナジーを生かしたワンロッテ戦略から、新たなカルチャーが生まれてくるかもしれない。
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