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「デイリーポータルZ」林さんが読み込むマンガとは? ひとひねりした企画を生む発想はここから…⁉

デイリーポータルZの編集長 林雄司さんが読んでいるマンガって何だろう? 聞いてみたら、発想の源がみえてきた!

業界の最前線で活躍する方にオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回は少し趣向を変えて、マンガ本を中心に紹介してもらった。お話を聞いたのは、デイリーポータルZ株式会社の林雄司さん。林さんが所属していた会社から独立して自分の会社を設立したことは、ネットでも話題になったこともあり、最初にキャリアの変遷についても伺った。

デイリーポータルZ株式会社 代表 林雄司さん

デイリーポータルZ株式会社 代表 林雄司さん

林さんは1993年に新卒で富士通子会社のジー・サーチに入社。新聞記事のデータベースを販売する事業の営業を担当していた。翌年会社がインターネット事業を開始し、林さんもインターネットに触れるようになる。1996年には個人サイトである「東京トイレマップ」を作成した。

1999年にはインターネット事業をニフティに集約することになり、林さんもニフティに異動。2002年にWebメディア「デイリーポータルZ」を立ち上げた。その後、2017年デイリーポータルZが東急グループのイッツ・コミュニケーションズに事業譲渡されたのにあわせて、林さんも会社を転籍。さらに2021年に東急メディア・コミュニケーションズに事業譲渡されたのち、2024年に会社を設立し、デイリーポータルZを引き継いでいる。

30年以上働いている割に、キャリアの変遷は少ないです。インターネットに触れて30年、デイリーポータルZを初めて22年になります。30年間インターネットの世界を見てきて、さまざまな流行り廃りを目の当たりにしました。ただ、技術的なことは変わるけれど、上に載るコンテンツそのものは廃れないと感じています。
デイリーポータルZの場合は、外に出て見つけてきたおもしろいものをインターネットに発信するというスタンスでやっています。最近のメディアはネットの話をネットの中でする傾向があるので、僕だけ外に出ることにこだわりすぎているのかなと思うこともあります(林さん)

マンガをメタ的に捉えた名作。ネタ出しに通じる考え方が盛りだくさん

では、早速1冊目を紹介しよう。

1冊目
『サルでも描けるまんが教室』(相原コージ、竹熊健太郎:著 小学館:刊)

「サルまん」の愛称で知られている本書は、スピリッツの連載をまとめたもの。1990年~92年にかけて3巻が出版されたが、特に1巻はメタな話が多くておもしろい。マンガの入門書であり、笑えるギャグマンガでもある。作者である相原コージさんと編集者の竹熊健太郎さんがマンガに登場し、ヒットするマンガについて追究・解説しているのだが、その追究具合がすごい。

どうすればウケるマンガが描けるのかというメタな話をしていて、ジャンルごとのマンガの「型」について研究しています。例えば、「少年マンガには、ヒーローとヒロインとメガネくんというように、登場人物たちに型がある!」「麻雀のルールを知らなくても、麻雀マンガの型にならえば麻雀マンガが描ける!」などのように、型があれば人に伝わることがわかってきます(林さん)

「型」という考え方は、デイリーポータルZでも応用しているという。

「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら」という記事では、自分がペリー提督になったつもりで日本に開国を促す提案書を作ってみました。これも、よくある提案資料というフォーマット(型)を、別のことに転用した例です(林さん)

「サルまん」のマンガのネタを考えるという章もおもしろい。ネタのアイデアを並べてみて、ポピュラーかマイナーか、時事ネタか昔から知られているか、すでに使われているかいないかなど、項目ごとに◯×をつけてアイデアを整理している。

この項目ごとに〇×を付けることは、Webコンテンツのネタ(企画)の整理にも応用できますよね。それから、「食欲、性欲、金銭欲に関するマンガはすでにあるので、睡眠欲に関するマンガを描いてみよう」という話も出てくるんですが、これも企画の立て方に通じると思います(林さん)

なお、2006年には、『サルでも描けるまんが教室 サルまん 21世紀愛蔵版』として、全2巻で新しい章も追加されて出版されている。

世の中を俯瞰した目で見ると発見がある! 企画のアイデアが見つかることも

2冊目
『ムーたち』(榎本俊二:著 講談社:刊)

エログロ系のマンガ家の榎本俊二さんだが、このマンガはかわいい絵柄で誰でも読みやすい。子どもが世の中のことで気づいたことをお父さんに話す、というスタイルで構成されている。このマンガも「メタ的な視点がおもしろい」と林さんはオススメ理由を語る。

例えば、<「人と同じことをしたくない」と言った人が、この瞬間◯◯人いる>というように、この瞬間に自分と同じことをしている人が何人いるかわかる機械を作りたい、という話が出てきます。こうした話も、俯瞰した目で見ているからこその発想ですよね。
「自分が思うほど他人は自分のことを気にしていない」はよく聞く言葉ですが、『ムーたち』では逆に「人のことを気にして、気になったことを書き出してみよう」という話がありました。これもコンテンツ企画のアイデアの出し方に似ているなと感じます(林さん)

『ムーたち』では、こうした発想の転換を促す話がいろいろ出てくる。

食べ物の好き嫌いはしない方がいいというのが、一般的な考え方です。でも、ピーマンが嫌いな人は小さな切れ端でも細かく除けて食べているし、玉ねぎが嫌いな人は匂いだけでそれと気づくってすごいですよね。このマンガでは、好き嫌いがある人は食事のたびに五感を総動員している、選ばれたものだけに与えられた天賦の才能をもっているんだから楽しめ!と言うんです。こういう発想の転換をしたいなって、憧れますね(林さん)

『ムーたち』を読みながら、デイリーポータルZの企画を考えついたりもするそうだ。

「何もないところで変わったポーズをとると記憶に残る」という話も出てきますが、デイリーポータルZのネタにつながりそうな話だなと思いました。
コンテンツを1つ上のレイヤーから見たり、自分を俯瞰して見てみたり、そういったところがおもしろくてすごいマンガだと思います(林さん)

確かに、「新しいiPhoneが20万するので代わりに20万を持ち歩く」も、林さんの発想の転換から生まれた記事だろう。

装丁をギャグにしてもいい! 世の中を席巻したベストセラーマンガ

3冊目は1995年に出版されて、ベストセラーとなった吉田戦車さんのマンガ。「このマンガでは祖父江慎さんによる装丁も楽しんでほしい」と林さん。

3冊目
『伝染(うつ)るんです。』(吉田戦車:著 小学館:刊)

まずは装丁に注目してほしい。帯に「75年は吉田のものだ」とあるけれど、出版されたのは95年。途中で白紙ページが入っていたり、本の価格を示す980円という印刷がずれていたりと、わざと間違いを忍び込ませた装丁になっている。

表現として、これくらい自由度を上げてもいいんだなと感動します。マンガの内容も今の説明過剰なコンテンツに比べると突き放しているところがあります。吉田戦車はナンセンスマンガの旗手と言われますが、ナンセンスとは感じないですね。むしろ、読者に意味を考えさせるマンガだと思います。
「タンバリンでタクシーをつかまえる」という話が出てきますが、デイリーポータルZはここまではやらないものの近いコンテンツがあります。例えば、「影だけ悪魔の人になりたい」がそうです。『伝染るんです。』と同じようなことを生でやるのがデイリーポータルZなのかなと思います(林さん)

どこからでも読める、辞書や辞典の類を読むのが好き

せっかくの機会なので、マンガ以外の書籍についてもオススメを聞いてみた。

4冊目
アシモフの雑学コレクション(アイザック・アシモフ:著 星新一:訳 新潮社:刊)

SF作家のアシモフの雑学を星新一が翻訳した1冊だ。1行から数行の雑学が淡々と記載されているが、その一つひとつに発見がある。

この本が好きすぎて、人に3回くらいプレゼントしています。「恐竜の中には、今の鶏くらいの大きさのものもいた」「古代エジプトでは、王や王子が死ぬと大量の金を埋葬した。しかし、墓泥棒たちがそれを社会へ戻し、金の消失が防げた」「一人っ子で大統領になったものは、いない」とか、ポツンと雑学が書いてあって、翻訳も余韻があって、事実が書いてあるだけなのに、詩みたいだなと感じます(林さん)

本書には、アシモフがSF小説を書くにあたって調べたことも載っていて、普通なら解説がつきそうだが、そういうものが一切ない。さらに、“驚きの新事実!”、“絶対にためになる”といった、煽るようなタイトルもなく、「淡々としているところが好き」だという林さん。無人島に持っていくならこの本を選ぶそうだ。

5冊目
『当った予言、外れた予言』(ジョン・マローン:著 古賀林幸:訳 文藝春秋:刊)

1999年に出版された書籍で、予言された年と、それが当たったのか、外れたのかがまとまっている。

当たった予言は注目されますが、はずれた予言はめったに目にしない。そうした「はずれ」もまとめられているのがおもしろいですね(林さん)

6冊目
『罵詈雑言辞典』(奥山益朗:編 東京堂出版:刊)

「辞典が好きだ」という林さん。これは人を罵倒する言葉の辞典だ。

方言や昔の言葉も載っていて、知らない言葉がたくさんあります。あじゃらしい、おひゃらかす、ぞろっぺぇ、とっちりとんまなど、ランダムにページを開いて読んでいます(林さん)

7冊目
『捜査・公判のための実務用語・略語・隠語辞典』(城裕一郎:著 立花書房:刊)

こちらも辞典で、警察や検察が使う言葉が載っている。

天ぷらは、偽物のナンバープレートのこと。しけばりは見張りのこと。この言葉にこういう意味があるんだなと思うと楽しいですね(林さん)

◇◇◇

今回は、マンガを中心に選書してもらったが、すべて企画のネタになる、アイデアが生まれるという発想で選んでいた林さん。メディアを22年続けて、コンテンツを作り続けている発想の源が見えた気がした。マンガ以外の本も、読み物というよりも、発想がひろがりそうな辞典や雑学で、根っからの企画人間だと感じるリストになった。

林 雄司(はやし ゆうじ)

デイリーポータルZ株式会社 代表

1971年東京生まれ。1996年からサイト制作をはじめて2002年にデイリーポータルZ開始。 それ以来ずっと編集長。
編著書は『死ぬかと思った』シリーズ(アスペクト)など。

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