「DXって何から始めればいいの?」DX先駆者アドビに聞いた ― 必要なのは“デザインシンキング”

DXが注目を集める前の2012年からサブスクビジネスを実施していたアドビに、DX推進に必要な人材やスキルについて聞いた。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が注目を浴びる前の2012年、アドビはパッケージ販売から、クラウドベースのサブスクリプション型へビジネスモデルを転換させ、DXに成功した。その経験から現在はDX支援事業も手がけている。

DXを進めていくのに必要な人材やスキルは何か? アドビのCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)西山正一氏に話を聞いた。

アドビ株式会社 Chief Digital Officer 西山正一氏

ビジネスモデルの転換でDXが必然に

そもそも、アドビというと「Adobe Photoshop」や「Adobe Acrobat」といったソフトウェアメーカーのイメージが強く、マーケティングやコンサルティングのイメージにぴんとこない人もいるかもしれない。

しかし、最近ではDX支援に力をいれており、他企業からの相談を受けることが増えている。その背景には、10年ほど前の事業モデルの転換が大きく関係している。当時のアドビは従来のビジネスモデルに危機感を抱いていた。

「それまでは個別のソフトウェアをパッケージ型で販売する永続版ライセンスモデルでした。しかし、スマホの台頭とそれに伴うテクノロジーの進化により、リリースまでに数年かかる従来の開発サイクルを続けていては、ツールベンダーとして先がありません。お客様に最新の機能をリアルタイムに提供できる仕組みを構築しなければならなかったんです」と西山氏は振り返る。

そうして2012年にアドビは「Adobe Creative Cloud」の提供を開始し、クラウドベースのサブスクリプション型へビジネスモデルを転換させた。まだ「サブスク」といった言葉が一般的ではなかった時代だ。

しかし、その変更にあたって各プロセスのデジタル化への壁が立ちはだかった。販売場所を店頭からECにシフトするため、認知や興味を引くために行っていた施策もWebに置き換える必要があった。また、広告やパフォーマンスの計測のやり方もすべて変えざるをえなかったという。

当時はWeb広告を出しても、ページビューなどの原始的なデータしか取れません。それを広告代理店のレポートや自社のアナリティクスツールなどを使い分析し、試行錯誤で改善を重ねました。ただひたすら小さな成功体験を積み上げて、どうすればビジネスを伸ばせるのかに必死でしたね(西山氏)

生き残りをかけた改革によって、アドビは他社に先がけてDXを実現させた。その経験が、現在展開しているDX支援事業につながることになる。

アドビがCDOを設置した理由

西山氏はこうした転換期においてビジネスプロセスのデジタル化を担当し、2022年に日本支社初となるCDO(最高デジタル責任者)に就任した。ミッションの1つは、アドビ社内のデジタル業務フローをさらに高度化することである。

日本ではまだ馴染みが薄い役職だが、企業内のDXにCDOはどのような影響を与えているのか? この問いに対し、西山氏は次のように答える。

DXは想像以上に労力がかかります。それまでに築き上げてきた成功体験を壊し、色々なテクノロジーアプローチを導入して文字通り変革していくことですからね。また、単にシステムをデジタル化するのではなく、目的は経営課題をデジタルで解決することなので、一部門が動けば実現できるというものでもありません。ある程度の権限と経営層のサポートがセットでないと上手く進まないのです。

なので、CDOのようなポジションが設置されるのは当然の流れで、この動きは今後日本でも増えていくと思っています(西山氏)

DX時代に必要なスキルとは?

ではCDOに限らず、DXをリードするにはどんなスキルが必要なのか。

これに対し西山氏は、「デザインシンキング」をポイントにあげる。デザインシンキングとは、ユーザーのニーズを軸にビジネス上の課題を見つけ、解決策を見出すマインドセットのことである。

私がやっているのは、データから想像力を働かせて仮説をつくり、その仮説を解決するためのアクションに結びつけること。データアナリストのようなスペシャリストである必要はありません。データの結果を見て一喜一憂するのではなく、その背景に起こっているお客様のストーリーを見極めるのが肝で、それこそがデザインシンキングなのだと思います(西山氏)

アドビが提唱する「DDOM(Data Driven Operating Model)」というフレームワークに基づいてビジネスの実践と検証をくり返しているうちに、デザインシンキングが身についたのかもしれないと西山氏は言う。

簡単に説明すると、DDOMとはビジネスをカスタマージャーニーで捉え、そのジャーニーのステップごとにKPIを設定するメソッドのこと。DDOMを実践するには、ビジネスの流れを俯瞰的に見る力が必要になる。そのため、デザインシンキングのトレーニングにもなっていることが考えられるのだ。

アドビが提唱するフレームワーク「DDOM」

ただし、最近は「DX人材」や「リスキリング」が話題にのぼることが増えたが、「DX人材になること、リスキリングすることが目的ではない」と西山氏は忠告する。

アドビの場合は、会社存続の危機から脱するためにビジネスモデルの転換を決めました。大事なのは、経営課題を解決するために自分たちがどういうトランスフォーメーションをするかを考えることです(西山氏)

経験に基づいたDX支援を提供していく

10年にわたってDXに取り組んできた経験と知見を生かし、“DXに悩む企業をトータルで支援できる企業”としてのアドビの認知を高めていきたいと、西山氏は語る。

最後に「DXって何から始めればいいの?」という企業に対し、第一歩としてまずは次の2つをはじめてはどうかと話す:

  1. 経営層の賛同をもらうこと ―― プロジェクトを始動するのであれば、社長や経営層のお墨付きを得ておくことで、全社的な取り組みであることを示すことが大事になる。

  2. 得意な事業領域で片っ端からデータを集めること ―― データを集めるだけでも、今まで見えなかったインサイトが必ず見えてくる。データから因果関係が読み解けるようになっていくにつれて、そこからある時ひらめきが生まれることもある。

「データをこれまで集めていなかったのであれば、それをするだけでも全く違う道筋が見えてきます。まずはデータを集め、色々なストーリーを見つけることからやってみてはどうでしょうか」と、西山氏はアドバイスを送ってくれた。

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