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「若者の年収が200万円上がれば世の中が大きく変わる」18歳でさくらインターネットを創業した社長が、日本社会に思うこと

特集「それ私が作りました!」最終回では、さくらインターネット創業者の田中邦裕氏に、日本社会の課題や若者たちへのアドバイスを聞いた。

(写真は本人提供)

「デジタル後進国」「AI後進国」と言われて久しい日本。しかし、これから社会で活躍するZ世代には10代や20代でAIやスマホアプリを生み出した若者たちがいる。特集『それ私が作りました!〜AIやスマホアプリを開発したZ世代に聞いた』の最終回では、1996年に国立舞鶴高等専門学校4年生(18歳)の若さでさくらインターネットを創業した田中邦裕氏に、日本社会の課題や若者たちへのアドバイスを聞いた。

田中邦裕氏がさくらインターネットを創業したのは、「インターネット元年」と言われる1995年の翌年である1996年。田中氏は舞鶴工業高等専門学校(舞鶴高専)4年生で18歳の若さだった。

田中氏は当時、秋葉原のパソコンショップで遠く離れた舞鶴高専にある自身のWebサーバーにアクセスできたことに感動を覚えたことをきっかけに、寮の一室でレンタルサーバーサービスを始めた。

2005年、さくらインターネットは東京証券取引所マザーズ市場に上場。債務超過に陥るなどの逆境を経たものの、2015年には東証一部に上場を果たした。現在、同社ではグループ企業と連結で700名以上の社員を抱え、年商は200億円を超える。

「若者の年収が今よりも200万円上がれば、世の中が大きく変わる」──。若くして創業・起業し、現在は東証一部上場企業にまで成長させた彼は今、日本社会に対してどのような思いを抱えているのか。現在、43歳の田中氏に話を聞いた。

さくらインターネット株式会社 代表取締役 田中邦裕氏

大阪府出身、沖縄在住。舞鶴高専在学中の18歳の時にさくらインターネットを起業。自らの起業経験やエンジニアというバックグラウンドを生かし、若手起業家やITエンジニアの育成に取り組んでおり、現在は、複数の企業の社外取締役やIPA未踏PMも務める。さらに、業界発展のため、SAJ筆頭副会長・JAIPA常任理事・JDCC理事長・BCCC副代表理事など多数参画。最近は、多拠点生活を実践するなど、自ら積極的に新しい働き方を模索している。

デジタル化が進まなかった理由は「困る会社が多いから」

Unsplashより

──さくらインターネットが成長してきたこの二十数年の間、日本社会はデジタル化に大きな遅れを取ったと言われています。日本のデジタル化が進まなかった理由は何だと考えられていますか?

デジタル化が進まなかった理由はデジタル化が進んだら困る会社が多いからでしょう。僕らのようにインターネット上でビジネスをする立場からすると、儲かるからクラウド化したほうが良いです。

でも、コンピューターを1回1回組んで売っているような納品ありきなビジネスを展開してきた人たちにとっては、納品を必要としないデジタル化への変化はたまったものではありません。

たとえば、これまでみんなで給与システムを開発して納品していたけれど、今後は「SmartHRなどのクラウド型の給与システムにします」と言った時点で、従来の仕事が不要になってしまいます。

以前、「はんこ議員連盟(日本の印章制度・文化を守る議員連盟)」の会長(竹本直一氏氏)がIT政策担当大臣になるという、とんでもないことが起きました。日本はいわゆる法治国家なので、みんなが民主主義で選んだ人がITの責任者をはんこ議員連盟の会長にすると言ったら、その程度にしかなりません(※)。

(※)竹本直一氏は2019年9月、第4次安倍第2次改造内閣においてIT政策担当大臣に初入閣した。当時、竹本氏は「はんこ議員連盟」の会長を務めており、IT政策担当大臣にもかかわらず、IT化を阻害する原因の1つともされる「はんこ文化」を守るという立場が問題視された。2020年5月下旬には「はんこ議員連盟」の会長を辞任していたことが明らかになったと報じられた。

──単にデジタル化に乗り遅れただけではなく、20世紀の工業社会から21世紀の情報社会への大きな産業構造の転換に失敗したという側面もあると思います。

日本は歴史的にも自動車産業など「モノづくり」で経済成長をしてきました。その成功体験から、ソフトウェアに関してもまるで工業製品のように「納品」「生産工程」「要件定義」という言葉を使い、請負で外注して下請けが作って納品しています。「ソフトウェアが育たなかった」と言われることもありますが、「ソフトウェアを工業製品のように取り扱ってきた」結果に過ぎないと思います。

──近年、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響もあり、デジタル庁が発足され、民間でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が注目を浴びています。

ここ1年〜2年で新型コロナの影響でデジタル化が急激に進みました。最近、デジタル庁ができてエンジニアが大量に採用され、政府の共通クラウド基盤「ガバメント・クラウド」がAWS(Amazon Web Services)とGCP(Google Cloud Platform)になりました。これはすごく革新的なことだと思います。

たとえば、(厚生労働省が提供する新型コロナウイルス接触確認アプリの略称)「COCOA(ココア)」は最初はオープンソースの有志で作っていたから、運用中のアップデートも含めて対応できていました。ですが、いつしか受発注の関係になり、納品したものが4カ月以上放置されて問題を起こしてしました。

丸投げの多重請負納品が原因のひとつです。内部にエンジニアがいればデジタル庁が自分たちでアプリを作ったり、クラウドを利用したりできるようになり、常にアップデートしていけるはずです。

今後、デジタル庁のように組織内に直接エンジニアを雇用するシステムが民間企業にまで浸透したら、丸投げの多重請負納品がなくなり、元請けの人が100万〜200万で得た案件を下請け企業の人が10万円〜20万で再発注を受けて働くという構造自体がなくなります。極めてディスラプティブですが、IT業界にとって良いことが起こり始めていると感じます。

「小学生の時にプログラミングで見いだされる人がいて良い」

Unsplashより

──今後、日本が「デジタル後進国」「AI後進国」と言われるような現状から脱却するためには教育が1つの鍵になり得ると思います。さくらインターネットは北海道石狩市の小学校などを対象にプログラミング教育支援などを手がけられています。

僕は運動が苦手なのですが、小学生の時にプログラミングで見いだされる人がいて良いのではないかと思います。たとえば、「テニスがうまい」「サッカーがうまい」「野球がうまい」「音楽がうまい」「絵がうまい」「勉強ができる」などで見いだされた子どもには、進学するとかサッカークラブに行くとか、多様な選択肢を与えられます。

ソフトウェアが得意な子どもは「オタクの子」「パソコンが趣味の暗い子」のように思われてしまうことが多く、選択肢が限定されがちでした。小学生の頃にプログラミング能力が高く、「すごいな」と言われる存在になると、自己肯定感が高まります。小学生の頃から多くの人に認められ、地元のプログラムスクールで活躍したり、将来の進路が決まったりする人も生まれるかもしれません。

──以前、田中さんはnoteで教育分野でのDX推進には「ITに関する授業」だけではなく「教育現場のDX」も必要不可欠だと書かれていました。

教育現場のDXは待ったなしだと思います。教育委員会も校長先生もITやデジタルがわからず、「スマホを持っていない保護者もいるから」という言い訳を盾に、現状のまま放置されやすい印象です。

でも、学校の先生は忙しいです。先生の生産性が上がっても困る人はいないでしょう。IT化は手段なので、DXというより先生の働き方やあり方を見直すことが重要かもしれません。

──私立はまだしも、公立はなかなか変わらないかもしれません。

日本の文化的な側面かもしれませんが、人件費は雇っている分には固定制だと思っている人が多いです。だから、長時間の残業が問題化しやすいし、働き方に対する改善意欲が向上しにくいのかもしれません。一部の私立の学校はすごくIT化されていると聞きます。実際に公立で変わり始めている学校もあるので、公立も変わって良いと思います。

「若者の年収が200万円上がれば世の中が大きく変わる」

写真ACより

──日本が現状から脱却するためには教育だけではなく、社会そのものが変わる必要があると思います。日本は若者がなかなか活躍しづらい状況だと言われます。何を変えるべきだと思われますか?

シンプルに「若い人が活躍できるようにしよう」と方針を打ち立てるので良いと思います。そもそも、みんな若者に活躍してもらおうと思っていないから、今のような若者が活躍しづらい状況に陥っています。若者はそのまま30歳まで大企業にいたら「使えない人」になってしまうし、活躍するフィールドがなければ3年以内にできる人から辞めてしまいます。

多くの人は入社したばかりの人は「ひよっこ」だと思っています。確かに、若者はマネジメントの能力やフットワークなどは限られるので、すべての分野で能力は高くないと思います。しかし、若者のほうが能力の高い人もいます。企業にとっては優秀な人はすぐに活用したほうが得なはずです。サイバーエージェントでは20代で社長になっている人も少なくありません(※)。

(※)サイバーエージェントの公式オウンドメディアFEATUReSによると、2019年1月末時点、サイバーエージェントは孫会社を除く子会社(56社)のうち、新卒社長は38名、そのうち20代が20名。就任時の平均年齢は26歳である。

──若者に活躍できるフィールドを与えると、必然的にそれ相当の報酬も必要になると思います。

僕は関西経済同友会の企業経営委員会に入っていますが、「若者を活躍させたほうが良い」「若者のモチベーションを上げるために給与をアップしよう」とずっと主張しています。

僕が本当に声を大にして言いたいというか、いつも言っているのは「若者の年収が今よりも200万円上がれば、世の中が大きく変わる」ということです。

──若者の給与アップは上の世代から反発を招きそうです。

僕自身の22歳〜23歳の頃を俯瞰して見ると、論理的思考やファイナンスの知識は欠けていたし、人脈も少なかったです。当時より今のほうが高められた能力はたくさんあると思います。しかし、当時のほうが勢いもあり、プログラミング能力は高かったと思います。

年齢だけで判断するのではなく、若者のほうが高い能力を持っているところは素直に認めて活用し、給料を上げることが重要です。上の年代の人で若者が持っている能力を持たず、若者より優れている能力も少なければ、若者より給料が低くなっても仕方がないでしょう。そのことを素直に受け止めるところから始まると思います。

当社でも実際に新卒入社した社員で、20代のうちに執行役員になった人がいます。入社から1年半後の24歳で就任してもらいました。今後とも能力のある若者には、しかるべき役割と報酬で活躍してもらいたいと思っています(※)。

(※)さくらインターネットの新卒初任給は、2014年には月給19万円/年収266万円、2021年には月給23万94円/年収334万9128円と、26%上昇している。20代平均年収は2014年から2021年で22%上昇した。以前は「即戦力としての中途採用」「契約社員雇用」としての採用が中心だったが、2014年以降は「新卒採用」「正社員を中心とした雇用」に変化している。また、同社は年功序列ではない給与体系のため、早期からの抜擢もあり得る。抜擢にあたってはスキルはもとより、周囲へのポジティブな影響力など、本人の能力がよりスケールしていく要素も勘案しているという。

日本企業は「アメとムチ」から脱却すべき

Unsplashより

──若者の視点から見ても、さくらインターネットは副業可だったり、リモートワークを推進していたり、働きやすい会社という印象があります。

会社のワークショップで「これからの人材獲得のために、どのような人事の基本ポリシーにするか」というディスカッションをした時に「X理論」から「Y理論」へ転換しましょうという話になりました。1950年代後半に(アメリカの心理・経営学者であるダグラス・)マクレガーが考えたモチベーション理論です。

X理論は「人間は本来仕事をするのが嫌いであり、強制や命令がないと働かない」という性悪説です。マネジメント手法は「アメとムチ」です。一方で、Y理論は「仕事をするのは人間の本性であり、自ら設定した目標に対しては、その報酬により積極的に働く」という性善説です。マネジメント手法は機会を与えることです。多くの日本企業がX理論を選んでいるのは明らかでしょう。

──さくらインターネットは現代社会に不可欠な「多様性」も重視している印象です。

昔は時間や数に応じて生産性が決まっていました。工場をはじめとした定型的な仕事はラインや労働者を倍にしたら、売り上げも倍になります。でも、困ったことに1人だけすごく頑張っても、ラインの流れ作業は同じだから能力の差が現れにくいです。最低限の動きをするほうが大事で、多様性を出されても困ります。

現代の多くの人の仕事はアップデートを求められるものが多く、みんなが同じようにしたら同じような成果が出るわけではありません。一般的には音楽を作る人や歌う人などがクリエイターとされていますが、同じような能力を要求されます。クリエイティビティには多様性は不可欠だと思います。

──アメリカの社会学者であるリチャード・フロリダ氏が『クリエイティブ都市論』などで展開している議論ですね。

会社経営の観点では、今はダイバーシティよりインクルージョンのほうが重要になりつつあると感じます。それぞれがバラバラなだけだと仲間意識がなくなってきて、会社として1つになれないし、離職する人が絶対に増えるはずです。ただの働きやすいだけの会社になってしまうので、そこには危機感を持っています。

もちろん、上からすべて決めて抑える高圧的なやり方が良いとは思いません。チャレンジする人がいなくなるから、あっと驚くような新しいものも登場しにくいでしょう。たとえば、音楽でもずっと同じようなものばかり聞かされても面白くありません。

──この特集では10代や20代でAIやスマホアプリを生み出した若者たちに話を聞いてきました。特集の締めくくりとして若い頃に起業して、現在はIT系のコンテストのメンターなど若者たちを応援する立場としても活躍されている田中さんにお話を伺いたいと思っていました。最後に若者たちに何かアドバイスをいただけるとうれしいです。

僕は成功の秘訣は3つあると思います。「人とのつながり」「熱量」「運」です。この3つは検索しても出てこないし、人に真似られることもありません。

人とのつながりは知り合いを紹介してもらうことはできますが、その人のネットワークすべては手に入れられません。今これをやりたいという内発的動機は誰にも侵されないし、バレるものでもありません。何かの出来事を運が良いと捉えるか、運が悪かったと捉えるかは自分次第です。

人に取られないものを充実させるという意味で言うと、この3つを大切に過ごしてほしいと思います。

上代 瑠偉
1997年生まれ。ASCII.jp編集部に所属し、編集者・ライターとして2年半活動。2020年8月からLedge.ai編集部に。人気記事は『源氏物語が好きすぎてAIくずし字認識に挑戦でグーグル入社 タイ出身女性が語る「前人未到の人生」』など。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら「若者の年収が200万円上がれば世の中が大きく変わる」18歳で創業した社長が43歳になった今、日本社会に思うこと

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