Marketing Native特選記事

「大事なのは『ターゲット』と『指標』を変えていくこと」アドテクの第一人者・菅原健一氏が語るBtoBマーケティングに必要な思考法

BtoCに比べて語られることが比較的少ないBtoBマーケティングで成果を上げる方法について、ムーンショット代表取締役CEOの菅原健一さんに話を聞いた。

「#20代マーケピザ」という若手マーケター向けのイベントが話題を呼んでいます。不定期に開催されているこのイベントを主宰しているのが、アドバイザリー会社・ムーンショット代表取締役CEOの菅原健一さんです。

菅原さんは31歳でエンジニアからアドテクノロジーの世界に入り、ブランド広告責任者やCMOなどを歴任してきました。現在では、BtoB、BtoCを問わず、多くの企業のアドバイザーを務めています。

消費者と向き合い自社商品を選んでもらうために多様な施策を繰り出すBtoCと、企業同士の取引を通じて取引先企業の事業価値の最大化を目指すBtoB。菅原さんはいずれのマーケティングについても経験が豊富ですが、「BtoCよりもBtoBのほうが簡単に感じる」と言います。それはなぜでしょうか。今回は菅原さんに、BtoCに比べて語られることが比較的少ないBtoBマーケティングで成果を上げる方法について話を聞きました。

(聞き手:駒宮直樹、構成:Marketing Native編集部・岩崎多、人物撮影:花井智子)

    

BtoBマーケティングで重要な2つのポイント

――菅原さんは現在、企業の「10倍成長」を支援するムーンショットの代表として、BtoB、BtoCを問わず、ベンチャーから大手まで多くの企業アドバイザーを担当されています。BtoB、BtoCの両方に携わるマーケターの中には、どちらかというと、BtoBのほうに苦手意識を感じる人が多いようですが、菅原さんはどのように感じていらっしゃいますか?

私は個人的にはBtoBのほうが簡単に思います。数千万人の消費者を相手にすることもあるBtoCと違って、BtoBの場合、例えば広告業界なら対象者は数千人から数万人です。この人数であれば、お客様全員と直接お会いしてヒアリングすることができ、対策を立てやすいためです。

――そのように考えていらっしゃる菅原さんに、BtoBマーケティングを行うマーケターに役立つお話を詳しくお聞きできればと思います。いきなりで恐縮なのですが、BtoBマーケティングで重要なことは一体何でしょうか?

大きく2つあると思います。1点目はBtoCマーケティングと同じように、「ターゲットを決めること」です。言い換えると「誰がいくらで買ってくれそうかを見極めること」になるでしょう。

例えば売上目標を100億円と設定した場合、1億円の商品であれば100個売れば良いわけです。ところが、1000万円の商品であれば1000個、100万円であれば1万個売らないと100億円には到達しません。マーケターの中には、難易度が低いと考えて「安い値段で多く売る」作戦を選ぶ人も多いですが、そうなると会社は多くの商品を売るために営業の人材を多数確保しなければならず、人件費がかさみ、結果的に利益率は上がりにくくなります。

そう考えると、「いかに高額で価値に見合うプロダクトを開発して、お客様に買っていただけるか」が重要だということです。これはBtoB だけでなくBtoCにも当てはまります。

――菅原さんの経験談から、より具体的に教えていただいてもよろしいですか?

当初100万円の単価で販売していたネット広告のプロダクトがありましたが、受注率は5%くらいでした。1つ売るために20回提案しないと売れないわけですから、100億円への道のりは遠く感じます。

100億円を到達すべき「距離」と考えるならば、案件単価は、いわば「歩幅」です。ネット広告において歩幅を上げる必要性を感じたので、単価を100万円から10倍の1000万円に設計し直しました。このときに2倍の200万円の設計に変更したのでは、それまでと同じ担当者の方に「2倍の予算で買ってください」とお願いすることになるのが一般的です。それでは、担当者が動かせる金額を上回ってしまうから、難易度が上がるだけです。

ところが、単価を1000万円にすると、多くの場合、提案先がそれまでの担当者から担当者の上司に変わります。この上司の方に1000万円を上回る額の決裁権限があれば、意思決定に対する難易度はかえって低くなるかもしれません。相手がどれくらいの予算を決裁できるかによって難易度は変わるからです。

しかし、実際にはお客様の予算が1000万円を超えていることは少なかったため、難易度は低くなりませんでした。次に単価が100倍となる1億円のプロダクトに挑戦したのですが、この価格帯ではテレビCMとの比較になるため、ネット広告が対抗するには金額が高く、難易度も上がりました。

最終的に1000倍の10億円のプロダクトを設計しましたが、これが一番売れました。ターゲットは複数のブランドを持っている大企業の経営者です。各ブランドにはすでに広告代理店が付いており、各々が独自の広告展開を行っていましたが、全ブランドのネット広告のみ一括して管理したいという、経営者のニーズが高かったのです。当時はGoogleでさえ広告を見ているターゲットの男女別を確定できなかった頃でしたが、私の所属していたアドテク企業は広告を見ている人の男女をはっきりと区別できるプラットフォームを持ち、ネット広告の配信システムにおけるターゲティングの正確性を強みとしていました。そこで、ネット広告のみ切り替えていただくというご提案をお客様に行ったところ、最終的に受注率は30%に到達しました。100万円のプロダクトを販売していたときの受注率5%を大幅に上回る結果となったわけです。

BtoBの場合、プライス戦略がとても大事です。なぜなら、プライスを変えることは、「売り場が変わる」=「売る相手が変わる」ことに直結するからです。売る相手が担当者の上位者や、より大きな予算を持つ部署や企業になるほど、高額な商品を提案しやすくなっていきます。高額商品を提案できれば、目標金額を早く達成できる可能性が高まります。自分たちの目標に対して、歩幅をできるだけ広くとり、より早く目標に近づくようターゲットを変えていくことが重要なのです。

――もう1点は何でしょうか?

2点目は「市場で習慣化している指標を疑うこと」です。マーケティングの基本は、それまでの指標やプロセスを疑うことだと思います。お客様のビジネスがうまくいっていない場合、設定したゴールや数値目標に関する指標選びが間違っている可能性があります。会社は指標に向かって努力していくものですが、間違った方向に努力しても成果は出ませんので、採用している指標が本当に適切なのかを疑うことから始めたほうが良いでしょう。

10億円のプロダクトを販売したときの例で言えば、それほどの高額案件を契約できるのは基本的に大企業の経営者や上場企業の役員です。その方たちの感じている課題は「株価を上げたい」「人を育てたい」「広告は掛け捨てでもったいないと思っている」の3つに大体集約されます。したがって、プロダクトを売るBtoBマーケターは、お客様企業の経営者や役員の課題をどうすれば解決できるようになるかを考えて、その課題を解決できる「指標」を新たに導き出すことが重要なのです。既存の指標を疑ってみる姿勢は常に持っておきましょう。

10億円のプロダクトを売るときに私の中で新たに決めた指標は2つです。

  • お客様の意識が広告の効果を算出する方向に変わること
  • 「次のキャンペーンに過去のナレッジが活かせる」とお客様に理解していただくこと

当時私のいた会社には、データを活用できる広告配信システムがありました。そこで、まずお客様に、広告は掛け捨てではなく「次のキャンペーンのためにデータを貯める行為」であると説明しました。お客様が広告を掛け捨てでもったいないと思っているままでは、効果を算出できないと考えていたからです。したがって、データが貯まれば次回以降の広告戦略に活かせるという、データドリブンの重要性を理解してもらう必要がありました。データドリブンで会社の変革が進めば、社内にデータ分析のできる有能な人材も育ちますし、効果的な広告運用が実現すれば、会社の業績を向上させることも可能です。そうすれば株価も自然と上昇していきます。このように3つの課題をカバーする提案をした結果、10億円のプロダクトを売ることができました。

――BtoBでは、現場から決済者、経営者へと、ターゲットをより上位レイヤーの方へと変えていくことが重要なのですね。

そうですね。そのためには、経営者の課題を常に意識することが重要です。例えば、広告というプロダクトだけの話にしてしまうと、経営者は「それは広告の話なのでCMOが決済します」と、交渉の場から降りてしまいます。それを防ぐためには、経営者の悩みを解決するものを提案しなければなりません。これは忘れがちですが重要ポイントだと思います。私たちが売りたいものを売りたい文脈で売るという方向性では限界があります。相手が欲しい文脈で相手が欲しいものを見つけて、「それは私たちの商品です」とする提案の仕方が大切です。

指標を変えることで市場のリーダーになる

――これまでの菅原さんのキャリアの中で、市場の指標を変えた具体的なエピソードがございましたら、教えてください。

私がスマートニュースにいたときはニュースアプリの戦国時代でした。私たちよりも広告収入を得ている会社は多数あり、広告主であるお客様がCPCやCPAなどの指標をもとにニュースアプリ各社を比較していることも十分把握していました。結局、PVを増やすと売り上げが上がる構造になっていると、アプリを使うユーザーに、必要以上にプッシュ通知を送るニュースアプリの企業が出てきます。ほかにも1つの記事に「次へ」を入れて何ページにも分けたり、広告を上下から表示したりして、広告の表面的なPVを稼ごうとする傾向が見られます。

しかし、これでは広告によって記事が読みにくくなり、ユーザーの利用時間は次第に減少していきます。記事の場合、読みにくかったり、面白くなかったりすると、ユーザーは2~3秒で立ち去ります。しかし、広告のインプレッション課金は2秒でカウントするため、ユーザーが満足せずにすぐ離脱した記事でも、広告料金は支払われることになります。これはお客様にとってもユーザーにとっても良いことではありません。

私はアプリ側がビジネスモデルを利用してインプレッションやPVをひたすら稼ぐという状況を変えたいと思っていました。一方で、私がいたスマートニュースは読者のことを考え、記事の読みやすさを重視する方向でプロダクトを作っていたため、ユーザーに煩わしさを感じさせるようなPV稼ぎをしていませんでした。しかし、これではいくらユーザーの満足度は高くても、PVを重視する広告主様からは選ばれにくくなってしまいます。

そこで私たちがビジネスに勝つために行ったのは、「指標を疑う」ということです。利用するユーザーのことを考えると、「1人あたりの利用時間が長いこと」は良いニュースアプリの新たな指標となり得ます。なぜなら、ユーザーにとって有益な記事は自然と離脱率も低くなり、ニュースアプリとしての本質的な価値を生み出しているからです。テクニックに走って表面的なPV数を稼ぐようなことをしないからこそ、ユーザーから信頼され、長時間の利用につながるはずであり、お客様が広告を出したいと考えるだろうと気づきました。

当時ビジネスとして成功していたニュースアプリの会社は、ユーザー1人あたりの利用時間が1日3分でした。ほかのニュースアプリの利用時間も6分や、長くて9分ほどでしたが、スマートニュースは12分もありました。3分の会社と比べたら4倍の利用時間です。さらに月間利用者数も2倍獲得していました。

つまり、PV数ではなく、1人あたりの利用時間で広告を評価する時代になれば、スマートニュースは4×2=8倍の経営資源を手に入れられることになります。こうなると、後発でも市場のリーダーになれます。指標が変わるだけで経営資源の捉え方も変わるわけです。

――そのように指標を変えるために、広告主様にはどのように説明したのでしょうか?

例えば、ニュースアプリ上で流れる動画広告の長さや、ユーザーがランディングページを読み終えるのにかかる時間はどちらも30秒~1分ほどです。言い換えると、ユーザーが広告主様の広告と向き合う時間は1分間ほど必要になるといえます。このユーザーが広告と接する1分間という時間は、ニュースアプリの場合、1人あたりの利用時間に含まれているものです。1人あたり利用時間が3分の場合の1分間と、12分の場合の1分間、どちらが広告を最後まで見続ける確率が高いかと考えたら、分母の多い12分のほうが確率は高くなります。

つまり、広告を読んでもらう確率は1人あたりの利用時間の長さで変わってくるわけです。ここまで理屈が進めば、私の仕事は「インプレッション単価自体はいずれの会社も大差ありません。しかし、広告を読んでもらう確率は1人あたりの利用時間の長いニュースアプリが最も高いでしょう」ということをお客様にお伝えするだけです。

このようにして、広告主様の選考基準となる指標をPVから「1人あたりの利用時間」へと変えることに成功したのです。市場の指標を変えることで、自分たちが一番良い状態を作り出すことがBtoBマーケティングでは重要です。ムーンショットは企業の「10倍成長」を打ち出しているコンサルティング会社ですが、お客様が自分の強みを活かせる状態を維持できる仕組みを作れば10倍成長の達成は決して難しくないと考えています。

▲菅原さんの特徴を活かしたイラストと、ツイッターアカウントが記載されたオリジナルパーカー。

――指標を変えることの重要性はよくわかりました。では次に、指標を変えた後に運用面で重視すべきことはありますか?

部署を横断して「すべての社員に同じ指標を持たせること」が重要です。ニュースアプリの広告の話で申し上げると、たいていの営業などのBtoBチームは、編集・制作のBtoCチームに「もっと広告枠を増やしてほしい」と要望します。広告をより多く売って売り上げを立てることがBtoBチームの指標だからです。そうすると今度は、ユーザーにとって読みにくく使い勝手の悪いサービスとなり、BtoCチームが不満を募らせる結果となってしまいます。これはすべて、社内の各部署の指標が違うことから生じています。

BtoBもBtoCも指標を「1人あたりの利用時間」に統一できたら、BtoC側は利用時間を伸ばそうと使いやすさを求めますし、BtoB側も利用時間が増えれば売り上げが上がるようなセールス設計にしていきます。同じ会社なのに部署をまたぐだけで別の方向に進んでいる状態はリスクが大きいので、社員全員が会社の経営資源に貢献できるような仕組みを設計すべきです。

Amazonは「時価総額経営」で有名ですが、社員や経営陣に支払う給料・ボーナスはそこまで高くなくて、代わりに株式を付与しています。そうすることで、すべての社員が株価を下げないように気にしながら働くため、時価総額も上がるわけです。こういう仕組みを会社として設計することが大事だと思います。

お客様がリスクを持ちすぎない設計が重要

――自社の強みが活かせるような指標を新たに提示しても、理解してもらえずコンペで勝ち抜けないこともあるかと思います。そのように、BtoBマーケティングで契約を得るまでに、苦労しがちな点、注意すべき点はありますか?

プロダクトの設計がしっかりしていないと成約に苦労します。特にお客様側に「契約後にしなければならないこと」を多く持たせすぎると、契約が決まらないことが多いものです。

例えば契約後に、お客様が社内の組織を変えて部署を新設し、適した人材を配置し、システム部と相談して……とタスクが山積みになる場合です。お客様が1つでもやり損ねたときには失敗するわけですから、プロジェクトの成否に関わる変動要因の大半をお客様が持つことになります。これではせっかく他社からプロダクトを購入しているのに、お客様が「自分たちの責任となるタスクが多く、リスクが多い」と感じて契約に至らない可能性は高いですね。金額が高い案件で、経営者が聡明であればなおさらです。

10億円の案件がなぜ受注率30%を獲得できたかというと、お客様は契約後、すべての広告のうち、ネット広告の代理店のみうちに切り替えるだけで済み、追加でタスクが発生したりコストがかかったりといったリスクがほぼなかったからです。契約にあたっては、お客様が極力デメリットを感じないようにプロダクトを設計しないと、なかなか決めることができません。マーケティングとは基本的にプロダクトづくりであり、プロダクトの設計がきちんとできていない会社は売り上げを立てていけなくなります。

また、お客様に成功・失敗の変動要因の大半を持たせてしまう状態は、プロダクトを提供する側のBtoB企業にとって、契約が決まりにくいだけでなく、解約されやすくなるというリスクを抱えることにもなります。お客様の状況次第で失敗してしまう可能性が高くなればなるほど、プロダクト提供側でコントロールできない部分が大きくなります。言い換えれば自社努力で改善できる範囲が少ないため、PDCAを回すことが難しいのです。

今、サービスがパッケージソフト型からサブスクリプション型へと移行している状況で、重要なのは「解約されずに良い関係を続ける」ことです。特にBtoB企業においてセールスは簡単ではありませんから、LTV(ライフタイムバリュー)を向上させることが大切です。単価の高いプロダクトを1回購入していただいて終わりにするのではなく、高く買ってもらえる企業にいかに長く使っていただけるかを目指すべきです。もちろん、商品を売ってしまえば、後はお客様が勝手に作業すればよく、自分たちは関係ないという考え方では長く愛用していただくことは難しいでしょう。

契約途中で解約されないためには、カスタマーサクセスに責任を持つことが大切です。そのためには、どうすればお客様のビジネス上の目標を達成できるかを、真剣に考える必要があります。お客様のカスタマーサクセスに責任を持つという思想が自社プロダクトに内包されるようになれば、お客様のタスクの進捗状況にかかわらず目標を達成できるように商品設計をしていくことになるでしょう。これにより、他社に比べて再現確率や成功確率の高いソリューションを作り上げることができます。カスタマーサクセスに責任を持つことは自社にとって負担ではなく、良いこと尽くしなのです。

自分の価値は「相手の変化量」

――BtoB企業が、プロダクトの設計以外でも注意すべき点はありますか?

お客様の現状をしっかりと分析し、自社のプロダクトを活用すると、どのような変化が起きるのかを的確に伝えることが重要です。

私は、自分の価値とは「相手の変化量」であると定義しています。このことを上手に行っていたのがライザップです。ライザップはBtoCですが、BtoB企業も参考にすべきところがあります。それは、ライザップが最初に提示していることは徹底して「あなたはこう変わります」というメッセージであり、トレーニング方法の説明ではありません。

ライザップには人生を変えたい人が集まります。トレーニング方法の内容は、変わりたい人があとで聞けばいい話です。しかし、これをBtoBマーケターに置き換えてみると、最初から具体的なトレーニング方法の説明ばかりしている人が多いのです。まだ「痩せたい」とも「ムキムキになりたい」とも言っていない人たちに、いきなりトレーニングの話から始めても心に響きません。BtoBマーケターなら、まず「お客様、あなたの企業はこう変わります」と的確に伝えることが大事です。

ニュースアプリの場合も、広告を「多く見てもらえます」から「読んでもらえる確率が上がります」に変化することを伝えたわけです。広告主様はユーザーに対して、メッセージである広告を読んでほしいのであって、何度も広告を見せたいわけではありません。10億円の商品単価だったネット広告の配信システムにしても、「株価を上げたい」「人を育てたい」「広告は掛け捨てでもったいないと思っている」という、お客様の抱える課題が解決することを的確に伝えられたから、高額商品でも成約を勝ち取ることができました。

「私のKPIはあなたの出世です」

――確かに経営者の方は結果から逆算しますから、先にどういう結果が得られるかを伝えることが大事ですね。それ以外の点で、お客様と接する際に心がけていることはありますか?

私がアドテクの会社にいた頃、お客様企業の担当者の方には「私のKPIはあなたの出世です」と語りかけていました。そのくらいのつもりで向き合うことが成果創出のためには必要だと思います。

マーケティングはお客様に振り向いてもらう行為です。「あなたに振り向いてほしい」と語りかけなければいけないのに、振り向いてもらう相手を決めずに、「振り向いてさえくれれば、誰でもいいです」というのは、失礼な話だと思いませんか。振り向こうとした相手であっても振り向きたくなくなるでしょう。単価の安い商品の場合、往々にしてその傾向に陥りがちです。なぜなら、単価が安いと大量に売らなければならず、お客様を観察したり支援したりする余裕がなくなることが多いからです。

BtoCよりもBtoBのほうが容易に感じると言いましたが、BtoBは観察したり支援したりする対象のお客様が限られているからです。BtoCの場合、数千万人いる消費者に語りかける選択肢はテレビCMくらいしかありません。TwitterなどのSNSもありますが、テレビCMのほうが圧倒的に多くの人にリーチできます。一方、BtoBであれば、イベントやセミナーなどで、お客様である担当者と直接コミュニケーションが取れます。冒頭でも申し上げましたが、仮に広告業界であればおよそ数万人ですから、マーケティングのチームで各人が毎日10人に会うと決めてしまえば、短期間でもある程度多くの人数に会えてしまいます。その上で、実際の面会時には、相手の仕事内容や抱えている課題点などをよく考え、「あなただからこの話をしている」という姿勢で語れば、きっと契約はうまくいくと思います。

――BtoBのほうが、直接お客様と触れ合うチャンスが多く、具体的な課題点を見つけ出しやすいということですね。

さらに相手のことを突き詰めて考えていけば、不要なミーティングを一切しなくなります。広告業界の場合、ミーティングが1時間あればすべてを使って広告成果や市場分析について報告を行うことがありますが、私は10分ほどしかレポートしません。もちろん結果を出した上でのことです。残りの50分で何をするかというと、さらに何を仕掛けていくべきか次の一手を考える企画会議を行うのです。もっと結果を出すためにはどうすればよいのか、お客様とワクワク楽しみながら次の作戦を立てています。

お客様にスケジュール表を見せてもらったことがあるのですが、皆さん代理店などさまざまな会社との打ち合わせで1日が終わってしまいます。つまり、知的生産時間を使えていないわけです。お客様企業の担当者の出世を担うBtoBのパートナーとしては、その時間を確保して差し上げる必要があります。お客様にしても、ミーティングで空いた50分を知的生産時間に投資できるほうが喜ばれるものです。このように相手の立場に立って考えて行動しない限り、お客様の出世を手伝うことは難しいと言えます。

▲趣味でスニーカーを集めている菅原さん。この日は今お気に入りの一足を履いてきてくれました。

お金を使うべきは、新規顧客ではなく既存顧客

――BtoB企業のマーケターにとって重要なことをいくつかお聞きしましたが、さらに上の立場となるCMOが意識すべきことは何でしょうか?

BtoB企業のCMOが意識しないといけないのは、既存顧客にお金を使うことです。CMOは経営メンバーなので、会社からマーケティング予算を預かって、有効と思われる施策にお金を投資します。プロダクトの性質にもよりますが、多くのCMOは新規顧客獲得にお金を使うものです。しかし、私は既存顧客にお金をかけることのほうが重要であると考えています。

例えば、あるプロダクトの購入率が10%として、そこに新規顧客向けにマーケティング費用を1億円かけたとしたら、9000万円分の費用は顧客獲得につながらなかったことになります。一方で、既存顧客にお金を使う例として考えられるのは、例えばイベントにご登壇いただいて、成功事例をケーススタディとして話していただくことが挙げられます。

この場合、成功者としてイベントに出ていただくことにより、お客様の社内外における立場の向上につながります。さらに私もお客様に感謝されますし、来場者の方も役に立つ話を聞くことができて、関わるすべての人がWin-Winになるのです。

――既存顧客にお金を使うためにはアドテック(※世界の主要都市で開催されているマーケティングに関するカンファレンスイベント)などで、お客様に話していただくのが良いということですか?

そうです。そういう形で既存顧客にお金を使えば、自分にもチャンスが訪れます。

例えば、私がBtoB企業のCMOをしている時も、お客様が弊社のイベントに登壇した場合でも、弊社や私がサポートしたことは特に宣伝いただいておりません。それでも毎回、イベントにかけた費用を大きく上回る金額のお仕事を頂いています。なぜかと言うと、イベントの来場者もマーケターの方たちなので、成功した企業の話は興味がありますし、調べてみれば、弊社が成功事例に関与していることはわかるからです。いたずらに宣伝をしなくても、「あの人に協力してもらえば大丈夫」という認識がマーケターの間で広がるため、自然とビジネスの話が自分のところに来るわけです。

▲菅原さんが最近お気に入りの2冊。『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)と『ムーンショット!』(パブラボ)。

自分の時間を経営することがCMOへの第一歩

――最後にCMOを目指す若きマーケターへアドバイスをお願いします。

アドバイスの前にまず、CMOの役割に関してよくある勘違いから説明します。CTOを例に挙げますが、CTOとはテクノロジーに一番詳しくて良いコードが書ける人ではありません。同様に、CMOもマーケティングの理論と実務が一番上手な人であるという解釈は正しくありません。CMOはマーケティング戦略の観点から、何をすべきかについて経営者に進言でき、経営判断に参加する素質を持つ人のことであり、同様にCTOはテクノロジーの観点から経営判断できる素質のある人を指します。

チーフが名称についている役職者は経営判断ができないと意味がありません。そのことを踏まえた上でアドバイスするなら、CMOになるためにすべきことは2つあります。1つ目は「徹底的にお客様の成功を考えること」です。相手の出世やビジネスに貢献できない人に、自分の出世や成功の順番は巡ってきません。特にBtoBは、カスタマーサクセスに注力することで自己の価値を高めていき、業界内での評判を得る状態を作るべきです。

では、どうすればそのような状態を作り出せるかというと、「自分自身を経営すること」が大切です。これがCMOになるためにすべき2つ目の項目にあたります。これまで会社の経営経験のない人が経営視点を持つためには、自分自身を1つの会社と捉えて経営することで鍛えるしかありません。

会社の資源はカネ・ヒト・モノですが、これを自分に置き換えて、どのように投資すれば成長できるかを考えでみましょう。カネは自分のお金のこと、ヒトは自分1人しかいないため、自分の時間と同義です。モノに当てはまる項目は厳密にはないのですが、例えば自分の所属する会社の商品と捉えてみます。商品を多く売るという実績を作るため、自分はどう成長すべきかを考えながら、自己のお金と時間を投資して自分自身という会社を成長させていきましょう。これが自分自身を経営するということです。

お金がない人でも時間は平等にありますから、まずは時間を経営する感覚を持つことから始めると良いでしょう。日々の時間を「今の仕事」にかけるのか、「未来の自分」に投資するか、いずれかに振り分けることが重要です。もちろん健康は大切ですから、睡眠時間は十分に取るべきです。そのうえで、毎月1日から31日、毎日0時から24時まで、どの時間に何をしているかをしっかりと管理することです。

今「副業」を認める会社が増えていますが、私は副業自体には半分賛成で、半分反対の立場です。というのも、多くの副業が、現在の自分の実力や時間単価をもとにお金を増やそうとする行為であり、投資の視点が抜けているからです。時間は誰もが1日最大で24時間しか使えず、時間という経営資源を増やすことはできません。その限られた時間を、成長していない現状の能力のままで切り売りするというのは得策ではないと思います。もし副業できる時間があるとするなら、時給1000円から3000円、3万円、30万円と、自分の時間単価を上げるべく、未来の自分に投資することに使うべきで、そのための副業ならば良いと思います。

――本日は具体的な事例までご説明いただき、ありがとうございました。

Interview Points

  • BtoBマーケティングでは「目標に合わせてターゲットを決める」ことと「市場で習慣化している指標を疑う」ことが重要
  • 売る相手を変えていき、目標額に到達するまでの歩幅=案件単価を上げていく
  • 自社の強みを最も活かせる指標を作り、その指標を社内全部署で共有したら、企業は急成長できる
  • お客様に「契約後にしなければならないタスク」を多く持たせる契約は決まりにくい
  • まず先に、相手をどれくらい変わるかという「変化量」を伝える
  • 不要なミーティングはせず、相手の知的生産時間を確保することが大切
  • BtoBのCMOは「既存顧客にお金を使う」ことを考えるべき
  • CMOになるためには「徹底的にお客様のことを考える」ことと「自分自身を経営する」ことが必要

Profile
菅原健一(すがわら・けんいち)
アドテクノロジー企業のスケールアウト、KDDI子会社のmediba、SupershipのCMOを歴任し、2016年にスマートニュースのブランド広告責任者とBtoBマーケティング責任者を務める。18年に独立し、企業の10倍成長を支援するアドバイザリー会社・ムーンショットを創業し代表取締役CEOとなる。「#20代マーケピザ」など、若手育成に力を入れている。
Twitter:@xxkenai https://moonsh.jp/

聞き手
駒宮直樹(こまみや・なおき)
広告代理店からキャリアを始め、SHOP LISTのWebマーケティング責任者、EC事業立ち上げを経て、ANAP子会社CMOとフリーコンサルタントを兼業。2019年3月に株式会社ナルシストを設立して代表取締役CEOに就任。ナルシストマーケターを名乗っている。
Twitter:@KomamyDX

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