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「記者なしで報道機関を再現する」AIによる“爆速報道”は、メディア関係者の働き方を変えるか?

SNS上の情報をもとに、爆速で事件・事故をAIが知らせるツール「FASTALERT」を提供するJX通信社に話を聞いた。

ニュース報道における「速さ」の価値とはなんだろう?

速く読者に伝えることよりも、深く伝えることのほうが重要ではないのか?報道に携わる人なら、誰もが一度は感じたことがあるだろう。

今、報道における速さは、少なくとも人間が時間と労働力を割いて提供するものではなくなっているかもしれない。AIを活用して、どんな通信社、新聞社よりも「爆速」で情報を伝える会社がある。

記者のいない通信社」であるJX通信社だ。今回、代表の米重克洋氏に話を聞いた。

報道機関がこぞって導入する、爆速で事件、事故を知らせるツール

JX通信社のサービスのひとつである「FASTALERT」は、報道前の災害、事故情報をSNSから収集、検知し配信するSaas(Software as a Service)だ。

具体的には、自然言語処理、画像解析などを駆使し、SNSで投稿されるテキストや画像を検知し、それらから今何が起こっているかを割り出す。

たとえば投稿された画像に黒々とした煙が写っていたり、「煙がすごい」などのテキストなどであれば、直接的に火事と明言されていなくとも火事と判断する。

あくまで投稿をもとに判断し配信するので、情報の裏取りはユーザー企業となる報道機関などが行う必要がある。しかし、注目なのは配信するまでの「速さ」だ。

――米重
「FASTALERTはとにかく『速さ』を極める部分に社内のリソースをつぎ込んでいます。災害や事件であれば、投稿されてから最短20秒ほどで管理画面に表示されます」

2018年、東海道新幹線内で殺傷事件が発生した。

その際、FASTALERTは発生からわずか5分ほどでSNS上の投稿を検知し、報道機関へ情報を配信。配信を受けた報道各社が裏取りに動き、事件の第一報を報じた。神奈川県警の発表があったのは大きく後だったという。

このことからも、いかにFASTALERTの情報が「速い」かがわかる。すでに公共放送や、在京のキー局すべてに導入されているという。

導入側の労働力削減の観点でも魅力がある。これまでは、上述の共同通信と同じく、たいていの報道機関にはSNS監視チームが存在し、数10人単位で5分に1回、SNSでの投稿を監視している状態だった。

FASTALERTを使えば、管理画面を見張る人間が1、2人で済む。数10人分の労働力が削減されることになる。

――米重
「FASTALERTはSaasとしては価格が高い方ではありますが、同じことを人がやるよりは安いと自負します」

事件の際にも、FASTALERTが発信する情報は警察などの公式発表よりも速い。SNSの情報を拾うからだ。しかし、公式しか知りえない情報(警察であれば事件現場の状況や犯人のペルソナなど)があるため、棲み分けはできていると米重氏は語る。

現在はNHKほか、民法キー局のすべてがFASTALERTを導入済みだという。

航空と報道は業界構造が似ている

「子供のころから航空会社を作りたかった」という米重氏。米重氏は、「航空と報道は似ている側面がある」と話す。

――米重
「最初は航空会社を作りたかったんですが、航空産業は初期の設備投資が膨大なうえ、国による規制があり、すぐに参入するのは難しい。そこで自分が関心を持てて、かつ解決できそうな課題がある領域はどこだろうと考えた結果、報道業界に行き着きました。もともとニュースが好きだったというのもありますが」

大規模な設備投資が必要な航空事業と比べると、報道事業の参入障壁はいくらか低い。一見まったくの畑違いだが、似ている側面もあるという。

報道業界に着目した米重氏は、起業した当初、記事の売買サービスを立ち上げたが、うまくいかなかった。

そんな折、共同通信のSNS監視チームが、数10人という体制で5分に1回SNSを監視していたのを目にした。そのとき、SNS監視と情報収集、配信などの作業をAIに代替させる策を思い立った。

――米重
「これって機械化できるんじゃないか? と思いました。報道は労働集約型の産業です。記者は取材でさまざまな場所に出向き、足で情報を稼ぎます。

どんなテクノロジーが出てきても、基本的には人間が取材して、記事を書くことは変わりません。

そうした環境で速さを求めるなら、他社より速くネタを取るか、他社より速く書くほかない。すると、現場の記者は疲弊していきます」

報道機関は記者が取材し記事を書くという労働集約型モデルのため、収益が下がってコスト削減を迫られれば、人を減らすしか方法はない。

かといって仕事が減るわけではないため、現場の記者の仕事は増え続ける一方だ。

少しでも自動化を進め記者の負担を減らさなければ、報道はどんどん窮地に追い込まれる。その状況をなんとかしたかったという。

バーチャル通信社として、記者なしで報道機関を再現する

――米重
「報道機関は数百人、数千人と記者を抱えています。JX通信社は、記者のいない『バーチャルな通信社』として、既存報道機関の存在を、日本国民全員のスマートフォンとFASTALERTで、どこまで再現できるかを目指しています」

ただ効率化、省人化することを目的にするのではなく、大きなビジョンがある。

もし報道機関に大規模に記者を抱えるのが不要なことが証明できれば、今後「小さな報道機関」が増えるかもしれない。そうすれば、報道機関同士の競争も活発化する。

FASTALERTは、報道機関だけでなく、公共セクターやインフラ企業など、広範囲かつリアルタイムに情報を把握する必要がある組織にニーズがあるサービスであり、今後ますますシェアを伸ばすだろう。

情報の「速さ」に、人間の時間と労働力を必要としない時代が来ることを祈りたい。

高島 圭介
by 高島 圭介    Twitter  Facebook
前職では、PRコンサルタントとしてBtoB企業を中心に、数々の企業のメディアリレーションを担当。Ledge.aiでは最先端のAIビジネス活用を取材するとともに、レッジ自体の広報活動も行なっている。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら「記者なしで報道機関を再現する」AIを使った“爆速”報道はメディアの働き方を変えるか?

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