Marketing Native特選記事

ECエバンジェリスト川添隆が実践する「マーケターが一歩抜きん出るための考え方と行動」

メガネスーパーなどを傘下に収めるビジョナリーHDで執行役員を務める川添隆氏は、「アウトプットが成長の鍵」だと語る。

圧倒的な行動力と向上心に接し、感動しました。ECやオムニチャネルの推進で高い成果を上げ続け、「ECエバンジェリスト」と呼ばれる川添隆さんです。現在はメガネスーパーで有名な株式会社ビジョナリーホールディングスで執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を務めています。

川添さんが高い評価を獲得した背景には、キャリアを積み重ねる中で身に付けたアウトプットに対する考え方と、向上心に裏打ちされた旺盛な行動力がありました。その方法論は、他のマーケターも見習って実践できる内容です。

今回はECエバンジェリストの川添隆さんに「マーケターが一歩抜きん出るための考え方と行動」について話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:稲垣 純也)

    

消費者の心を捉える「非合理性」の魅力

――これまでさまざまな企業のCMOやマーケティング責任者の方々をインタビューしてきました。その中で感じたのは、テクノロジーの進化を追求しつつも、デジタル万能思考ではなく、顧客ニーズ・インサイトの理解や3C分析といった旧来型のマーケティング施策についても同様に深めていくのが重要だという視点です。その辺りどのようにお感じですか。

異論はありません。デジタルシフトに後れを取っていた店舗側、オフライン側がデジタルマーケティングやテクノロジーの活用を加速して、業務効率化を図っていこうとしているのは間違いないところです。

一方、デジタルだけでは捉えきれないものもあります。例えば、アプリを活用したレコメンドや集客、来店計測など顧客の行動・購買データの分析についてはデジタルが得意ですが、お客さまと対面し、表情から察して応対をしたり、接客によって得られた知見を深掘りして、関連業務に活かしていくことはまだできません。デジタルは合理的な判断ができますが、合理的だからお客さまが来店してファンになってくれるかというと、必ずしもそうではなく、オフラインの特徴はむしろ非合理性にあると考えています。

――非合理性ですか。

例えば、最寄り品を中心に取り扱う業態でAIを活用した商品棚のレイアウトや店舗内の最適化を行うことは、エリアマーケティングとしては効果的かもしれませんが、他の店舗も実行しだすと同じような棚割になり、コンビニ化、自動販売機化していく気がします。もちろん、現時点で先行者利益があることは間違いありませんが。

では、「お店らしさ」「ブランドらしさ」とは何かを考えたとき、思い浮かぶのは東京・中目黒のロースタリー(スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京)のような超非合理なお店です。店内中央にキャスク(焙煎したコーヒー豆の貯蔵庫)がタワーのようにそびえ立っていますが、採算だけを考えたら、店内にそのような存在は不要ですし、むしろ同様の機能を最小化することを考えます。しかし、建物の4階まで突き抜けるキャスクと開放的でぜいたくな空間があることで、「凄いブランドだ」という圧倒的な存在感を見せつけています。

非合理性については、メガネの修理のときにも言えます。お客さまがフレームの調整でご来店された際、その場の手作業ですぐに直すことが、お客様の意に沿わないケースがあると聞いています。そのため、工具や機器を使い、多少の時間を頂きながら、他の箇所までチェックするといった「配慮」やある種の「演出」は必要だと思います。それはそのほうが「丁寧に直してくれた」と納得されやすいからです。

もちろん、商材やブランドに求められるニーズによって、合理的な部分と非合理的な部分のバランスは変わってきますが、「このお店、面白いからまた行きたい」とか「なんか感じのいいお店だな」とお客さまが感じるのは、非合理的な要素による影響のほうが強く、その点はまだ人間のほうが得意だと思います。特にマーケターの方々は、ムダを省く合理性だけではなく、お客さまの心を動かす非合理性とは何か、想像することが大切です。

――難しいですね。非合理性がウケるからといって、狙って顧客に支持される非合理的なものをつくることはなかなかできないと思います。そこは勘や経験に基づくのでしょうか。

もちろん、「こういう非合理性がウケる」と言うことはできませんが、私の場合は勘や経験に頼るよりも、お客さまの気持ちを汲み取ることを意識しています。例えば、私は今、月1回くらいのペースで「ZOE BAR」というバーを開いています。バーを営業しているわけではなく、お金を払って場所を借りて、交流の場をつくっているのですが、毎回100人くらいの方が集まります。精算はキャッシュオンにしているので、私は主に会計のほか、ハイボールと生ビール担当のバーテンダーをしています。

ところが、「ハイボールと生ビール以外は、バーデンダースタッフが対応しますね」と言っているのに、数人のお客さまから言われるのは「ゾエさんがカクテルを作ってよ」という言葉です。私の隣にはプロのバーテンダーがいるにもかかわらずです。普通に考えればプロが作ったほうがおいしいに決まっています。それなのになぜわざわざ「ゾエさんが作ったカクテルを飲みたい」と言うのか。それで私が作り始めると、写真や動画を撮影して、それをネタにSNSなどにアップしているんです。そういうところも非合理性の一種であり、「なぜ素人の私が!?」と考えるのではなく、相手の気持ちを汲み取って期待に応えていくことが大事だと思います。

――確かに「ゾエさんが作ってよ」という感覚は何となくわかる気がします。

ただし、これは親しいから言ってくれるのであって、一見さんのケースでは注意が必要です。「私が手伝うからゾエさんはフロアで話してなよ」と言ってくださる方もいらっしゃるのですが、この場合は「ZOE BAR」なのにただの飲み会の幹事になってしまうので、サイレントクレーマーが生まれる可能性があります。

ビジネスに話を戻すと、我々メガネスーパーでは、お客さまのインサイトを汲み取り、即時サービス改善に反映させるために、お店で買っていただいた方にはがき形式の「CS(Customer Service)アンケート」をお渡ししています。これは社長宛てに届くようになっていて、クレームがあった場合は即座に応対するようにしています。そうしたスピード面を含めて、営業面での数字に現れにくい定性的なところを汲み取って定量化していくことが重要です。

現状に満足せず、常に感覚を研ぎ澄ます

――なるほど、定性的なデータをためて定量化し、そこから得られた知見から、顧客に支持される非合理的な存在を探るということですね。それにしても、「ZOE祭」や「日刊ZOE NEWS」だけでなく、「ZOE BAR」まで手掛けているとは驚きです。そもそもバーはどういう経緯で始められたのですか。

「ZOE BAR」を始めた理由は、人と人とをつなげる交流の場をつくりたかったのと、実験をしたかったからです。私のキャリアは最初アパレルの店舗から始まっていますが、今はデジタル側にいますので、店舗で起きていることをど真ん中でリアルに体験することから少し遠のいています。もちろん、メガネスーパーの店舗に手伝いに行くことはできますが、当社の接客では専門性やスキルが求められますから。

――つまり、現状に満足するのではなく、店舗勤務時代の感覚が錆びないようにしておきたいということですか。

そうですね。「オンラインとオフラインの融合」とよく言われますが、融合した結果、何がどのように変わって、どんなことをお客さまに提供できるようになるのか、まだはっきりとした解があるわけではないと思います。それを確かめたいという気持ちはあります。

実験をする場合、ある程度の規模がある企業の中で行うのはリスクが大きいですが、私個人の範囲での「ZOE BAR」なら、私のお小遣いで場所を借りればリスクは解決できます。本当に実験場としては小さいレベルですが、それでも意思決定者であり、プレイヤーとしてど真ん中の体感があります。オンラインの集客はFacebookのイベントページなどを活用して、反応した人が来たか来ていないか、もともと知っている人か一見さんかなどのデータを分析しつつ、オフラインではバーの体験を通して感情や反応を汲み取る感覚を磨いています。

「現状満足時代」打開の鍵となる「ちょっとの差」の改善

――さすがですね。もう1つ、小売、ECの大きな課題として、「低欲望社会」などと呼ばれる顧客の現状満足の問題があります。もはや「優れたプロダクトの開発」とか「競合との差別化」以上の深刻な問題だと思うのですが、どのようにお考えでしょうか。

「低欲望」というよりも、「あまり感動しない」ということだと認識しています。もっとも、すべてに対して感動しないわけではありません。先日、ファッション専攻の学生相手に授業をしていたとき、「最近何か、うわーっと思ったことはありますか?」と聞いてみたんです。そうしたら、ある女性が「好きなバンドのTシャツを買ったらクリアファイルが付いてきて、それがすごい嬉しかった」と言うんですね。「えっ、そんなことで嬉しいの?」と驚きました(笑)。この場合はクリアファイルという物ですが、「バンドが好き」という熱が大前提にあります。そういうふうに、熱を持つポイントというのは、現状満足の時代であっても多くの人が何かしら持っているはずです。今はその対象がコトのほうが多いため、コトに注目が集まっているんでしょうね。

――クリアファイルが付いていたから嬉しいという感覚も何となくわかる気がします(笑)

物を買うという行為に消費者の心が大きく動かされることは、確かに少なくなっていると思います。ですから、マーケターがブランド目線で理想的なカスタマージャーニーを作ったところで、生活者がその通りに動いてくれて、最終的にブランドを好きになってもらうということは容易ではないでしょう。では、どうすれば良いのか。私の考えは「ちょっとの差」を生むことです。

――「ちょっとの差」ですか。

そうです。メガネスーパーに転職したとき、ECの売り上げの大半を占めていたコンタクトレンズという商材の特性として、「どうしてもコンタクトレンズはこの店でないとダメだ」と決めているお客さまの数は多くないことがすぐにわかりました。それなのに、「メガネスーパーのファンになってください」というアプローチをしても効果的ではありません。そうではなく、メガネスーパーは全国に約380店舗あり、創業から約40年の実績とノウハウがあることを土台とした上で、「決済手段が多くて、ちょっと買いやすい」「他のサイトと比べて、2回目の注文がカンタン」「LINEのIDでログインできて、ちょっと買いやすい」など、ほんのちょっとの差を積み重ねることが大事だと考えています。結果的に大差にはならないかもしれませんが、生活者も「ちょっと買いやすいからメガネスーパーで買おう」という感覚くらいが自然なのではないでしょうか。特に生活必需品や最寄り品のような商材は、買い物自体がストレスになると捉えています。そのストレスを極力取り除けるように、「ちょっとの差」を生むために力を注ぐべきであり、それができていなければ支持は得られないでしょう。

「ちょっとの差」はたくさんあると思います。低欲望というか、あまり感動しない人であっても、クリアファイルのような物に心を動かされることもありますし、メガネスーパーの店舗であれば、「こんなに複数の検査を丁寧にしてもらったのは初めてです」と感動されるお客さまもいらっしゃいます。ご購入後にお礼のお手紙を頂くこともあるんです。心が動くポイントは年代によって違うかもしれませんが、各業界の「当たり前」や「常識」にあぐらをかくのではなく、消費者の潜在的・顕在的な課題を見つけて解決していくことによって、ファンやリピーターを獲得していくのは可能だと思います。

その際、見過ごされやすいのは、マイナスの体験です。例えば、都会のオフィス街はランチタイムになると、コンビニやファストフード店はどこも満員で、しばらく並ばないとレジまでたどり着けません。一方、ECならクリックすればすぐ注文できますし、Amazon Prime Nowなら2~3時間で商品が届きます。「すぐ買える」という印象の強いコンビニやファストフード店で時間がかかるのは、消費者にとってマイナスな体験であり、以前ならイライラしなかったところにイラ立ちを覚える構図が生じている気がします。この点は小売業界全体の課題です。ロイヤルティに直結するかどうかは別として、マイナスの体験の排除も、「ちょっとの差」を生み出すポイントの1つになるでしょう。

積極的なアウトプットが魅力的な人を引き寄せる

――ちょっとの差を見つけて、改善していくことが大事ということですね。それにしても、川添さんほど旺盛かつ幅広く活動されていらっしゃる方はそんなにいないと思います。ご自身は新卒のときから人より抜きん出ていたのですか。

いやいや、とんでもない。

――どんな勉強をしてきたんでしょうか。

最初は私もベンチャー企業在籍時代に提案書やメルマガ・プレスリリースを作成したり、商談のやり方を見よう見まねで覚えたり、システム関連でわからないことは相談したりしながら、ビジネスに関する一般的なスキルを磨いていました。さらに、書籍で多少の知識を得たり、インターネット検索でトレンドを把握したり、セミナーに出かけたりもしています。

これは特段変わっているわけではなく、一般的なことだと思います。ただし、一部芸能や版権に関わっていたので、表には出ない情報の存在には気づいていました。

その後、前職の「クレッジ」というガールズアパレル企業に移ったときは、営業に来てくださる人たちに自社が保有する情報をぶつけて反応を見ることで、付加価値の高い情報が何か、篩(ふるい)にかけていました。その情報を武器やお土産にして、また別の第三者にアウトプットをしたり、私が欲しい情報を持っている人にこちらから出向いて情報交換をしているうちに、「興味深い情報を持っている人がいる」との認識が広がり、ネットワークが少しずつ拡大していったんです。

ネットワークは「待ち」の姿勢では広がらないので、自分から足を使って積極的に広げていくことが大切です。私も「情報交換しましょう」という話を頂くこともありますし、よく出るキーワードだと思いますが、その際に注意したいのは、「ちゃんと“交換”できているか」ということです。私の場合は、もらうこと以上に相手にしっかりと提供することを意識しています。単なる情報だけではうさん臭くなりますが、情報と実績(成果)をセットにすれば、情報のわらしべ長者になれると思います。

有力な情報というのは、人から聞くことが多いものです。自分が昔と違うところは、ネットワークの広さと情報価値の判断力です。生の情報は人が持っています。だから、何かを始めるときに誰に聞けばいいか、すぐわかるくらいに活きたネットワークを張り巡らせている人が強いのです。例えば、「わが社もAIを始めよう」と言われたときに、誰に聞けばいいか、すぐにわかる状態にしておくことが大事です。

――有益なインプットのためにはネットワークの構築が重要であり、ネットワークを拡大するためには、実績を伴った積極的なアウトプットが大事なんですね。

そうですね。私は自社の成果や、新しい発見などがあると意識的にアウトプットをしています。アウトプットの話をすると、リーチが必要ではないかと思われる方もいますが、結果や情報を自分の脳にインストールすることにも役立つと捉えています。

本格的なアウトプットは前職の「クレッジ」に勤務していた時代に、PRという形で始めました。EC事業の責任者というポジションに就き、結果を出すたびに考え方と成果情報をセットで出すようにしたんです。例えば、2012年にLINE@が日本でローンチしたとき、ローンチ日に申し込みを行い、結果的にアパレルでは1番目に友だち数1万人を達成しました。それについてリリースを打ったところ、取材の問い合わせが来たり、LINE側から「事例として使いたいのでテレビ番組の取材を受けてほしい」という依頼が来まして、「これは凄い」とアウトプットの効果を実感した経験の1つになりました。

そもそもの前提として、インプットをしたがる人は多いのに、アウトプットで情報を出す人・企業は圧倒的に少ないと感じます。さらに、実績の数値レベルまで開示するとなると、よりハードルが高くなります。そのことに気づいてからは、アウトプットを繰り返し、情報開示に積極的に努めました。それは、メディア側には、より濃厚なコンテンツを読者に届けたい意図があり、読者は自分に役立つ情報が欲しいという原理原則があるので、正しい情報を出すことは両者に対して価値を提供できると考えたからです。それをチリツモで継続していった結果、「新しいサービスの情報があれば、川添さんのところへ持っていったほうがいい」「EC運営やファッションECのことはとりあえず川添さんに聞いてみよう」「セミナーのスピーカーやモデレーターで依頼をしてみよう」というふうに周りから評価されるようになりました。今では新しい情報がどんどん入ってきますし、ネットワークも拡大できるサイクルに入っていると実感しています。そのサイクルを作れているのは、成果を上げ続け、情報を収集し、積極的なアウトプットに努めている結果であることは間違いありません。

――なるほど。そのアウトプットですが、「ZOE祭」や「日刊ZOE NEWS」「ZOE BAR」、NewsPicksのプロピッカーなど幅広く手掛けている印象があります。アウトプットの場数を増やす際に意識していることはありますか。

戦略的にやっていると思われがちですが、実は結構ノリで決めています(笑)。将来的にメディアにしたいから毎日ニュースを更新しているわけではなく、単純に「この情報を知ってほしい」「川添の考え方に触れたい人には帰ってこられる場所を用意したほうが良い」と考えているだけです。

常に情報のインプットとアウトプットの最前線に身を置いていないと発見がなくて、自分が活性化しません。非合理性の話も他の人がそういう話をしていて、自分の経験知としても思い当たるところがあったから、ニュースなどでアウトプットをしました。その結果、知識と経験が紐づいて血肉化したわけです。インプットするだけでなく、アウトプットもしないと、単なる表面的な知識で終わってしまいます。

結果を出せた人と出せなかった人の違い

――では、「自分は人よりもここが優れていた」という点はありますか。

優れていたかどうかはわかりませんが、キャリアの中でターニングポイントになったのは、前職での星﨑(尚彦・株式会社ビジョナリーホールディングス、株式会社メガネスーパー代表取締役社長)との出会いです。実は当時、私と同じように星﨑から抜擢された人がいました。その人は別の部門の責任者になり、私はEC部門の責任者に抜擢されたのです。オーダーはどちらも「売り上げを2倍にしてくれ」というものです。単純な相対比較ですが、そのとき私は結果を出し、その人は結果を出すことができませんでした。

――それは気になりますね。2人は何が違ったんでしょうか。

確かに「売り上げを2倍にしてくれ」と言われたときは、「えっ!」と驚いたのですが、ルールに納得感があれば、私は基本的に受け入れる性格です。

星﨑が全社メンバーに発信したのは「会社全体の売り上げとEBITDA(※1)で目標数字を達成しない限り、1円も給料を上げません。ただし、達成したら必ず結果を出した人にプラス分をシェアします」ということです。これが1つ。ほかには「ルールを変えたいなら、まず結果を出しなさい。どんなに良いことを言っても、現状のルールの中で結果を出さない限り、誰もあなたを信頼しません。ルールの中で変えたいことがあれば、まず結果を出してから新しいルールを提案しなさい」「とにかく矢を放ちなさい。失敗することは咎めませんが、矢を放たないことに対しては咎めます」「売り上げを2倍にしてください。そのための武器は渡します。ただし、いきなり1000万円投資したいと言われても出せません。10万円を投資して20万円稼いだら、次は50万円を出すことはできます。少しずつやって、少しずつ結果を積み重ねていってください」と言われました。

売り上げ2倍の目標は大変ではありますが、そのとき私はラッキーだと思いました。なぜかと言うと、初めて大きな権限を持たせてくれたからです。給料などは気にならなくて、やるからには業界№1のEC事業を作り上げようと考えました。

結果的に私は売り上げ2倍の目標を達成でき、びっくりするような見返りを得ることができました。すごい、星﨑は言ったことを本当に実行してくれるんだと思って、今も信頼につながっています。メガネスーパーを再生させる間は、そのことを他のスタッフに信じてもらえるように伝えてきたつもりです。

――もう1人はどうだったんですか。

その人は期待される結果には届きませんでした。与えられた領域における「残された打ち手」が多そうか少なそうかも、もちろん影響すると思います。他の人と比較してもしょうがないですが、私とECチームのメンバーはひたすら新しいことに取り組み、失敗したら軌道修正を繰り返して、どうしたら売り上げを上げられるか、どうすればお客様の期待に応えられるかに集中していました。

――素直に実行できるかどうかが成否の分岐点になったということですか。

自分が納得できるのであれば、素直に聞き入れて、最善を尽くすというか、とにかくやりまくるしかないということです。

――言われたことに対して斜に構えたり、結果を出す前にあれこれ言うような人は仕事もできないということですね。

真に受けず疑うということも大切なのは間違いないです。ただし、言われたことに対して「ノー」から入る人は、上司・同僚・部下としても一緒に仕事をするのはやりにくいと思います。

もう1つ、星﨑はよく「ゼロベース」という言葉を口にします。成功体験でも失敗体験でも同じです。時代は目まぐるしく変化しているわけですから、常に今の時点でゼロから最善策を考えようということです。過去の成功体験が強すぎる人はそこに引っ張られがちなので、注意したほうがいいですね。

私自身も、売り上げ2倍の指示が出たときに、最初は流入が必要だと思ったんです。CVRが一定で、サイトの訪問者数がもっと増えれば売り上げも上がるはず。そのためには相性の良い媒体と組むのがいいだろうと考えて、企画を2つ走らせたのですが、2つともトラフィックはそれなりに来ていたものの、ECの売り上げにはなかなか直結しませんでした。

その後、企画の1つだった「100人のスタッフブログランキング」で1位になった女性スタッフに、縁あってEC部門に異動してもらうことになりました。その子はブログで月間200万~300万PVくらい持っていて、個人ブログでEC情報を発信してくれるようになったんです。そうしたら、その子がハブになってお客さまとリレーションを作り、売り上げをどんどん上げてくれました。「ほう、そんなことで売り上げが上がるのか」と驚いたことを覚えています。

また、こんなこともありました。実際に売り上げが爆発したのは、自社ECの商品画像のモデルに店舗スタッフを起用し、さらに店頭と商品販売のタイミングを同じにしてからです。そのために、EC部門のささげ業務(※2)チームがかなり慌ただしくなっていました。ある日、チームメンバーが「すみません、ミスをしました。1つのカラーの画像を掲載せずに商品をアップしてしまいました」と報告に来たんです。なるほどと聞いていたら、「でも売れました」と言うんですね。「は?」と思って管理画面を見ると、確かに数枚売れている。このとき、もう自分はダメだと確信しました(笑)。つまり、いずれの場合も企業目線の自分がマーケティングとして考えていることが正しいのではなく、お客さまが求めていることがすべてであると気づいたんです。その結果、お客さまが直接触れるようなことは、お客さまの年齢に近いスタッフに意見を求めたり、店頭のお客さまの反応をブランド側のメンバーに聞いたり、アンケートや展示会で直接お客さまに話を伺ったりして、得られた知見を自分なりに解釈し、施策に反映させようと考えを改めました。結果を出せるようになったのは、そのように思考を変えてからです。過去の成功体験から導き出した方法論に縛られる人は、時代の流れに付いていきにくいですし、1つの業界で結果を出せたとしても、他の業界では結果を出しにくいと思います。

徹底的に武器を磨き、レアなポジションを見つけよう

――最後の質問です。今回のテーマなのですが、マーケターとして一歩抜きん出るためにはどうすれば良いかという点で、川添さんの実体験やお考えを教えてください。

別に一歩抜きん出ようと思っていないのですが(笑)。ただ、あえて考えると2つあって、自分なりの武器を持って、磨き続けてきた点はその1つだと思います。それは結果を出し続ける+PR、アウトプットです。仕事なので「アウトプットするのは恥ずかしい」などと言っている場合ではありません。とにかく武器を持つことが大切です。

そもそもメガネスーパーのEC化率は高くないですし、ECの売り上げ規模も大きくありません。それなのに今のポジションにいられるのは、私が少しずつ結果を出しながら、積極的にアウトプットをしたり、いろいろなところに出張って興味深い人たちと交流の機会を持っているからです。そうしないと規模の大小で足元を見られて対等な交渉ができなくなります。「一歩抜きん出ている」と評価していただけるとすれば、私の場合は結果を出しながらのPR、アウトプットという武器を徹底的に磨き続けたのが良かったと思います。

――もう1つは何でしょうか?

レアな存在を目指したことです。これもいろいろな方々にお会いする中で気づいたのですが、小売業界は店舗とデジタルの両方をわかる人はあまりいません。どうしても「店舗はわかるけど、Webは苦手」「デジタルは得意だが、オフラインのことはわからない」という人が多いんです。私は実家が旅館で、原体験に客商売がありますし、ECで成果を出すのも楽しい。もし今の日本に両方できる人が少ないのであれば、自分がなろうと考えました。

確かにオンラインとオフライン、それぞれの分野で専門性が高い人には負けるでしょう。しかし、今は両方とも必要とされていますし、2つをどのように融合させれば良い成果を得られるか、解があるわけではありません。だからこそ両方ができるとレアな存在として頭角を現すことができるわけです。また、その際は両方の分野を完璧にカバーする必要はなく、専門性の高い人たちを味方につけて、会社全体の課題を俯瞰しながらバランサーとして解決へ向けた行動を取るのが良いでしょう。

――なるほど。1つは結果を出しながら自分の武器を徹底的に磨いたこと、もう1つは業界の中で需要が高く、かつレアなポジションを獲得して、そこで存在感を示したことが川添さんにとっての一歩抜きん出る方法だったということですね。わかりました。本日はありがとうございました。

※1
EBITDA:Earnings before Interest, Taxes ,Depreciation and Amortizationの略で、「イービットディーエー」などと呼ばれる。税引前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を加算した数値で、企業の利益指標の1つ。

※2
ささげ業務:「ささげ」とは、「撮影」「採寸」「原稿」の頭文字を取ったもの。ファッションを中心にECに掲載する商品情報を作成する業務。

Interview Points
・教科書通りのマーケティングではなく、顧客インサイトを汲み取った「ちょっとの差」を生む施策が大切
・価値ある情報は人からもたらされる。積極的なアウトプットでネットワークの構築を
・結果を出せる人と出せない人の違いは、課題を素直に受け止め、徹底した努力ができること
・自分の武器を見定め、磨き続けることが一歩抜きん出るためのポイント
・レアなポジションを獲得できれば、規模の大小に関係なく、存在感を示せる

Profile
川添 隆(かわぞえ・たかし)
株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長/ECエバンジェリスト
1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。千葉大学デザイン工学科卒。総合アパレル企業のサンエー・インターナショナル入社後、ネットビジネスを志しサイバーエージェントグループのクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。2010年ガールズ系アパレルブランドのクレッジに転じ、EC事業を2年で2倍に拡大。2013年メガネスーパー入社。EC事業は6年で約6倍、自社ECは約9倍に拡大。スマホアプリによるオムニチャネル推進を図り、他社のコンサルティングにも従事。2017年ビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年執行役員。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

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