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広告会社×AIでどこまでできるか? 電通が挑むAIによるマーケターの能力拡張)

「THE AI 2018」での電通の児玉氏の講演テーマは「AIは顧客体験をどう変えるか」。マーケティング領域でのAI活用事例がたっぷりと語られました。

2018年1月31日、レッジが開催した「今」のAIを語るイベント「THE AI 2018」。総勢500名を超える来場があり、盛況となりました。今回は、株式会社電通の児玉さんによるセッションをお届けします。

『The AI』とは
The AIとは、株式会社レッジ主催の、“今のAIを語る”大規模AIカンファレンスです。AIが世の中をこう変える、ビジネスを進化させるなどの抽象的な未来な話ではなく、具体的なコストは? 具体的に何ができるのか? など、今のAIを知る名だたる企業が登壇する大規模イベントです。
>> The AIの詳細はこちら

「AIは「顧客体験」をどう変えるか」と題した電通の児玉さんの講演では、マーケティング領域でのAI活用事例がたっぷりと語られました。日本最大の広告会社がどのようにAIを活用しているか、レポートします。

株式会社電通 / 事業企画局 チーフ・プランナー 児玉 拓也氏
2007年電通入社。本年より立ち上がった社内横断組織「AI MIRAI」の推進役として、20以上のAI開発案件に関わる。

顧客体験をデザインし、課題を解決する手段としてのAI

なぜ今、広告会社がAI活用に挑むのか。児玉さんは以下のように語ります。

――児玉
「プログラミング不要でAIが作成できるGoogleのAutoMLや、一部が無料で使えるIBMのWatsonなど、いまやさまざまな技術がオープン化していて、技術そのものに価値はなくなりつつあります。代わりにマーケターに求められるのは、徹底的にユーザーの視点に立ち、顧客体験をどうデザインするのかといった視点です。

多様化したユーザーインサイトに応えるためにはAIの活用がむしろ当然であり、我々広告会社も決して無関係ではありません。」

児玉さんによれば、現在のマーケティング領域において、ふたつのパラダイムシフトが起こっているとのこと。

  • プロダクトアウトからマーケットインへ
  • 「顧客体験のデザイン」の論点化

――児玉
「こういう技術ができました、どうマネタイズしましょう」と考えるプロダクトアウト発想では、顧客の課題解決に至りません。むしろ、顧客の課題を、どのような技術で解決できるのかのアイディアの部分が重要になります。」

そのひとつの手段として、AI活用に踏み切ったという児玉さん。プロダクトアウト的発想は、まさにAI実装の現場で問題になっていることです。AIを使って何かしようという企業が多い中、ここまで課題解決の視点でAI活用に切り込んでいる企業、なかなかないですよね。

大量のデータをAIで処理。電通が進める「人」起点のマーケティング

講演では、電通が推進しているAI活用プロジェクト「AI MIRAI」についても話されました。AI活用を以下の領域に切り分け、社内外横断で知見を蓄積しているそう。

中でも、マーケティング領域は広告会社の本業。他分野よりも注力しているようです。

――児玉
「旧来のマーケティングでは、マスを狙った広告をお茶の間に打てば、商品やサービスが売れたので問題はありませんでした。しかし、人の趣味嗜好が多様化した現代においては、個人ベースで細かくパーソナライズして最適なタッチポイントを設計し、メッセージを届けなければいけません。」

その手法として、「人」を起点とした「People Driven Marketing」という概念を電通は提唱しているそう。インターネットで大量のデータが取れるため、それを処理できるAIの活用がキーとなったわけですね。具体的には、下記の業務にAIを活用しているそうです。

  • 流行予測
  • 需要予測
  • 行動予測
  • メッセージ設計

    AIで「バズ」を科学する。AIが可能にする流行予測と広告の最適化

    話は、電通社内のAI活用の実例へと移っていきます。

    ――児玉
    「よくあるクライアントからの要望に、『とにかくバズらせて』『流行そのものを先取りできないか』というものがあります。そこで我々は、流行の事例をデータからモデル化し、予測するツールを開発しました。」

    TV×SNSの流行予測ツール。あるキーワードの露出パターンをTVとSNSを分析して予測する。
    ――児玉
    「あるキーワードがバズるとき、SNSでバズった言葉がテレビに波及するか、あるいはその逆というパターンが存在します。その傾向を、これまでの露出パターンから予測できるのでは?との仮説をもとにできたサービスがこの流行予測ツールです。」

    現在はβ版とのことですが、すでにCMのクリエイティブ制作に一部活用しているそう。この予測精度が高くなれば、クライアントへの提案など、大幅に説得力が増しますね。

    ――児玉
    「また、テレビ広告の課題として、本当に見せたいお客様に最適化されているかが、オンエアされないとわからないという課題がありました。そこで広告指標予測システム『SHAREST』を開発。視聴率の予測に取り組みました。」

    広告枠が埋まるか埋まらないかは、番組の視聴率に左右されます。視聴率が取れるかどうかも、今までは番組制作者の勘と経験に基づくものでしかなかったものが、『SHAREST』によって広告効果の事前予測が可能になったんだとか。

    効果測定が不透明と言われがちだったテレビ広告の裏側を“見える化”でき、マーケターの「この時間帯に出稿したい」という正当性を、感覚値ではなく目に見える根拠を持って提案できるようになったということ。インパクトは大きいですね。

    AIでコピーを「ひねり出す」作業を代行。クリエイティブ領域の働き方を改革

    講演では、以前Ledge.aiでも取材した、AIコピーライター「AICO」の事例も紹介されていました。

    ――児玉
    「『People Driven Marketingでより細分化した広告が打てるなら、今の10倍クリエーティブをつくれれば、今の10倍心を動かせるはず!』と思い、AIコピーライター「AICO」を発表しました。すでに社内で200人以上が発想支援ツールとして活用しています。」

    以下は、児玉さんがAICOに作らせたコピー。「THE AI 2018」ということで、AIをお題として入力したそう。何かの講演タイトルに使えそうなくらい違和感がないですね。

    • 国産が安心なのは、AIも一緒です。
    • 今までのAIは高すぎた。
    • AIに飛び込め。
    • さあ、AIをしようか?
    • あと10年早く出会いたかったAI。
    • 学歴よりAIだ!

    AICOが生まれる以前は、コピーライターが、ひたすら頭をひねって200案以上のコピーを考えていたのが、AICOの登場によって人間は「選ぶ」ことに集中できるようになったそう。コピーで顧客の課題を解決する、本質的な時間の使い方ができるようになったわけですね。

    マーケターの能力をAIで拡張し、多様で精度の高いコミュニケーションを設計

    電通では、ほかにも書類の自動仕分けや、規約違反のロゴを検知するといった、RPAとAIを組み合わせた働き方改革も、順次推進しているとのこと。

    作業的な部分をAIに任せれば、人間は顧客の課題を考え、解決策を考えるという本質的な部分に集中できます。

    大量のデータをうまく活用し、顧客との最適なコミュニケーションを設計する手段としてのAI。電通のAI活用の最終的なゴールは、マーケターの能力を拡張し、精度の高いコミュニケーションを設計することだと児玉さんは語っていました。

    マーケティング×AI。これからまだまだ面白くなりそうです。

    高島 圭介
    前職では、PRコンサルタントとしてBtoB企業を中心に、数々の企業のメディアリレーションを担当。Ledge.aiでは最先端のAIビジネス活用を、技術ではない観点から取材するとともに、レッジ自体のPRも行なっている。

    「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら広告会社×AIでどこまでできるか?電通が挑むAIによるマーケターの能力拡張 | Ledge.ai(レッジエーアイ)

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